3分で読める|ここまで来た、Hyper Automation!#2「強靭な線へ」

12 December 2022

#2「強靭な線へ」 請求書業務をすべてつないだデジタルレイバー

“ここまで来た、ハイパーオートメーション!”の連載第2回目。
請求書電子化によって業務自動化を容易にし、デジタルレイバーによる業務の標準化と効率化を実現した事例を紹介します。

請求書電子化の背景と目的

請求書電子化の取り組みは下記の背景と目的を実現するため、2019年夏ごろから検討が開始され、2020年にIT部門を中心にパイロット運用を実施、2021年から2022年に全社展開を開始しました。

背景
  • 昨今のデジタル化・在宅等リモート業務への対応の流れを受け、当社のみならず取引先様から、紙ではなくデータで請求書を送受信したいというニーズが増加している。
  • 紙の請求書を管理するための管理・保管コストが課題視されている。
    将来的に電子帳簿保存法への対応も可能になる。
 
目的
  • 電子データによる請求書の発行・受領業務において、クラウド型サービスを活用し実現することで、当社及び取引先様の請求書のデータ送受信を実現する。
  • 請求書の電子化により、従来の紙の請求書の管理業務を最小化し、請求書の支払と請求・精算の関連業務のペーパーレス化・効率化を実現する。

AI-OCRの活用やBPO併用による効率化も検討しましたが、受領する請求書は書式を統一することが不可能であり投資対効果の観点から不採用となり、自社システムを保有せずにSaaSを積極活用することで柔軟性を確保するという方針に基づき、電子取引プラットフォームの「Tradeshift」を活用することとなりました。
これによって得られると考えたメリットは以下の通り。

  • 作業場所と時間の制限を緩和
    • 在宅勤務やシェア・オフィス活用であっても業務遂行が可能となり、働き方の柔軟性が増し、コロナ罹患リスクも低減できる。
    • 紙の請求書の場合は、同一のオフィスに出社し、ワークフロー上の次の担当者に手渡しする必要があった。また、取引先へ差し戻し、あるいは、取引先から差し戻しがあった場合にも原本である紙の請求書の取り扱いが煩雑であった。

受領側は、1請求書当たり20分の業務量削減とした場合、月間1,033時間の業務時間低減。
発行側は、 1請求書当たり20分の業務量削減とした場合、月間867時間の業務時間低減。

  • 検索容易性を確保
    • 電子帳簿保管法などの法制度として求められている検索要件を充足しつつ、社内外での協働作業において、電子的な検索を行うことが出来、迅速な業務処理を実現できる。
    • 紙の請求書の場合は、オフィスもしくは倉庫に保管されている紙の請求書原本を取り寄せるなど、物理的な移動に時間がかかるだけではなく、該当請求書の物理的な捜索・確認には大変な時間がかかっていた。監査対応として大量のデータ確認が必要になった場合は通常業務へ影響するピーク性の問題もある。

受領側は、 1請求書当たり10分の業務量削減とした場合、月間517時間の業務時間低減。
発行側は変化なし。

  • 転記ミス・照合ミスを低減
    • 請求書の費目や額面をOBIC支払予定に転記する際、電子的なデータをコピー&ペーストするだけとなり、転記ミスや照合ミスを低減できる。
    • 紙の請求書の場合は、必要に応じて一度、Excel等への転記作業を行う必要があり、OBIC支払予定を登録・変更する際に転記ミスがある場合、支払確定(承認)処理で気付いたり、支払処理を締めた後(翌月以降)のオーナー精算業務などで気付いて遡及処理が必要であった。

受領側は、請求書50件につき1件のミスがあるとして、1請求書当たり20分の業務量削減とした場合、月間21時間の業務時間低減。
発行側は変化なし。

  • データ利活用を促進
    • 請求書受領および発行に関わる業務プロセスの進捗状況や滞留・やり直し作業の発生頻度など、デジタル・データによる業務分析が可能になる。
    • 紙の請求書の場合は、過去にどのように対応したか、どのタイミングに、どの程度の業務量が発生していたかを分析し、対応策の検討やコントロールすることが困難。

改善前後の業務を整理、仮説と検証の繰り返し

事業部門ごとの商習慣の違いを標準化しつつ、SaaS製品の機能特性や制約を考慮した上で最適な業務プロセスとルールを定義し、小規模なパイロット運用を経てそれらを改善するという流れを、事業部門ごとに段階的に展開していきました。
請求書は着実に電子化され、電子化された請求書を回付するためのワークフローは徐々に定着化されました。関係会社間での請求データは会計処理に必要な各種コード値を自動変換することで、自動的に会計システムまで流れるようになりました。電子化前に慣習として残されていた押印業務は削減され、書式が統一されたことで確認作業も簡略化が図れました。

そして何よりも、支払業務においては毎月の期日までに発注部門での確認が終えられなかった請求書が3〜5割存在していたものが、請求書の受領や承認の状況をデータで簡便に確認することが可能となり、期日前に全ての支払承認を終えることができるようになったという業務サイクルと品質の改善が図れたそうです。

取引先にとっても同様の効果が得られています。請求書の授受だけに何日も要し、進捗の確認もままならなかった状況から脱し、Tradeshiftを活用することで迅速で正確なデータ連携を企業間で実現し、自動化による業務効率化やプロセス変革の機会を提供しています。

この過程でTo Be像は繰り返し見直されることによって、当該プロジェクトに参画していたメンバーの方々のITリテラシーも向上し、取り組みマインドも抵抗勢力ではなく、推進者へと変化していきました。

テクノロジー、データ、業務プロセス、人材

本請求書電子化の取り組みは、開始当初から業務プロセスの改善・改革を意識した取り組みとすることで、単なるデジタイゼーションに止まらず、社内外の業務プロセスに変革をもたらした真のデジタル・トランスフォーメーションへと進めている事例であると思います。
有効なテクノロジーを見極め、データを有効活用し、それによって業務プロセスを継続的に改善する。それらを実践する人材を今まで培った経験を通して育成しています。

採用した電子取引プラットフォームは、自社に限定せず、取引先もWeb APIを活用した自動化システムを独自に構築することができ、拡張性の高いプラットフォームです。実際にその機能を活用して関連会社からのデータ連携を実現したり、社内ワークフローを効率的に運用するための集計処理やデータ転記を自動化したり、進捗状況を迅速に把握できるようにすることでエラー率の低減やサイクルタイムの短縮を図っています。

このようにしてエコシステム全体の業務プロセス変革へとつながる仕組みを構築しています。

シリーズ 3分で読める|ここまで来た、Hyper Automation!
次回は、#3「線を伸ばす」デジタルレイバーの運用も自動化です。