サプライチェーンの柔軟性が再生可能燃料の生産増につながる
ネステ社は世界有数の再生可能燃料と循環型ソリューションの製造会社となるため、グローバルなERPプラットフォームを構築しています。
ネステ社は世界有数の再生可能燃料と循環型ソリューションの製造会社となるため、グローバルなERPプラットフォームを構築しています。
フィンランドのエスポ―に本社を構えるネステ社は、再生可能ディーゼル、サステナブルな航空燃料、再生可能なポリマーと化学物質の市場でのリーダーであり、グローバル企業の中でも再生可能燃料を一元的に取り扱う数少ない企業です。しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
2015年当時、ネステ社の社名は「ネステオイル」でした。しかし検討に検討を重ねた結果、同社は「オイル」を社名から外すことを決定しました。これは同社のアイデンティティーに関わる決断ではありましたが、同社の将来を見据えた高い志からの改名でした。同社はまず最初に、次世代のため気候変動に立ち向かい、地球をより健康にするというビジネス方針を世界に発信しました。
それ以降、同社はその目標の達成に向けて継続的に取り組んでいます。川下企業であるネステ社が最大限にサステナビリティーを高めるには、ソーシング戦略に工夫を凝らさなければなりません。つまり、精製事業に利用する資源の調達先を吟味することが重要になります。今までの精製モデルは、従来式の上流工程で採取した石油・ガスから燃料製品を生産するというものでした。すなわち、掘削です。技術的な問題を除けば、サプライチェーンにおけるインプット、つまり原料をどこから得るかは、精製業者にとってはさして重要ではありません。調達された原料は、化石燃料を燃焼させる自動車や飛行機など様々な機関・装置の燃料となり、その燃焼行程から発生する膨大な量の二酸化炭素が次々に地球環境に排出されます。
ネステ社の強みは、レストランの廃油や動物油脂などの幅広い廃棄物残渣である再生可能原料から、再生可能燃料を生成している点です。再生可能燃料を再生可能資源から得られるため、従来の原料から製造された燃料のような炭素排出量にはなりません。また再生可能燃料は通常の燃料と同等の熱効率を持つため、航空会社や運送会社など航空機を保有する企業にとって、二酸化炭素排出量を迅速かつ大幅に削減する方法として注目度が高まっています。
ネステ社はこうした研究やイノベーションに真摯に取り組むと同時に、高度な再生可能製油所と再生可能テクノロジーのグローバル・ネットワークを活かして優れた特性を持つ製品の製造につなげることで、再生可能燃料の分野におけるリーダーとしての地位を築いてきました。しかし同社の成功の理由は、それだけではありません。真にグローバルなサプライチェーン戦略に基づいて構築された新しいビジネス・モデルもまた、同社の成功の重要な要素です。ネステ社は世界中で新しい再生可能な原料を求め続け、同社のサプライチェーンの広範性と多様性は着実に拡大しています。事業の拡大に伴い、その管理も複雑さを増しています。
680万
トン(2026年末時点)
90%
ネステ社の再生可能原料のうち
再生可能製品のサプライチェーンは、従来の石油事業とはかなり異なります。当社は様々な形のビジネスを創出したことで、新しい基盤の構築を必要としていました。
Marko Mäki-Ullakko氏
ネステ社統合ERP責任者
ネステ社の統合ERP責任者のMarko Mäki-Ullakko氏は、SAP S/4HANA®ソリューションの実装を含め、ネステ社のERPシステムとプロセスの継続的な変革において大きな役割を果たしてきました。同氏の見解では、再生燃料への戦略的ピボットを実現するためには、統合されたSAPのグローバル運用を標準化するというネステ社の決定が不可欠でした。「プロセス・レベルとデータ・レベルでは、再生可能製品のサプライチェーンは、従来の石油ビジネスとはかなり異なります」とMäki-Ullakko氏は述べています。「様々な形のビジネスを創出したことで、新しい基盤の構築を必要としていました」
同氏は、この違いを明らかにする最善の方法は、再生可能な原料をどこから得るのか、その上流工程を遡ることだと述べています。「従来の製油所のインバウンド・サプライチェーンでは、タンカーやパイプラインのような一か所の供給源から大量に原料が供給されます。それに対して再生可能燃料の原料は各地のレストランから集められる廃油であるために、タンク・ローリーがそれを求めて次から次へと移動していきます。このようにフットプリントが全く異なることから、全く別のデータ・フローが生成されるのです」
当社は、原料の供給源、生産物、生産物の提供先を明らかにする必要があります。そのため今では、データの透明性とエンドツーエンドでの可視化が、当社のビジネスの中核要素になっています。
Juuso Pusa氏
ネステ社サプライチェーン管理、再生可能製品担当副社長
こうしたデータ・フローを追跡する機能は、2つの理由でネステ社のビジネス・モデルにとって不可欠です。運用レベルでの理由として、生産計画を効率的に進めるため、高水準の細分度でのインバウンド原料の在庫を追跡する能力が必要です。ネステ社はこのような多様な原料を使用することで、このデータを追跡するだけでなく、プロセス最適化に必要な透過性を提供するERPシステムを必要としていました。これは「新しい基盤」の代表的な例で、Mäki-Ullakko氏は非常に重要なものであると捉えています。
次に、サステナビリティーの面について見ていきましょう。ネステ社の製品は二酸化炭素の削減目標とカーボンニュートラルの目標の達成を目指す顧客に大きくアピールしており、同社の顧客基盤は成長を続けています。航空機のジェット燃料などが良い例で、航空機には「電化」という選択肢がありませんので、航空機を保有する企業から注目を集めています。時代が求める「再生可能」の指標をクリアし維持するため、ネステ社とサステナブルな航空燃料の製造業者は、レストランや製油所にとどまらないあらゆる原料の流れを追跡しています。
同社のサプライチェーン管理と再生可能製品担当の副社長を務めるJuuso Pusa氏にとって、原料の動きをシームレスに追跡して監査可能な形でその記録を集める(つまり再生可能製品の来歴を明らかにする)ことの重要性は、どれだけ強調してもし足りないと述べます。「世界中の再生可能製品を管理するさまざまな規制に対応するために、当社は、原料の供給源、生産物、生産物の提供先を明らかにする必要があります」と同氏は述べています。「そのため今では、データの透明性とエンドツーエンドでの可視化が、当社のビジネスの中核要素になっています」
ネステ社のビジネス・モデルと同様に、IBM Consulting™ for SAPと同社との協力関係も、進化と適応におけるケース・スタディーといえるでしょう。プロジェクトのごく初期段階に相当する2015年当時、ネステ社の統合されたSAPデプロイメントが主に重視していたのは、プロセスの効率を維持していた古いERPシステムを置き換え、その上に新しいプロセス・フレームワークを構築することでした。しかしその当時、このプロジェクトの内容は同社の旧来型のビジネス(つまり石油関連事業)にかなり寄ったものでした。
2018年になるとネステ社の再生可能事業が急速に成長して同社の中核事業となり、統合されたSAPプロジェクトの利害関係者は、この事業の目標を再調整して範囲を拡大する必要性を認識しました。プロジェクトの進捗過程で、ネステ社とIBMのチームはシームレスな協力関係に発展し、お互いを高く信頼するようになっていました。そのため、プロジェクトの方針変更の必要性が明らかになったとき、Mäki-Ullakko氏とネステ社のチームは、IBMが計画を策定するうえで重要な役割を果たしました。「IBMは、ビジネスの再生可能面を拡大するための当社のビジョンを完全に理解・共有し、実装ロードマップに必要なものを提供してくれました」と同氏は述べています。「当社が臨機応変にプロジェクトをスケールアップして適合できたのは、当社とIBMの関係の緊密さに加えて、IBMがこのプロジェクトに優秀な人材と豊富な業界経験を惜しみなく投入してくれたことを証明しています」
その後の数年で、両社の関係はさらに強まり、共同チームのアプローチも成長の一途をたどりました。IBMがその豊富なSAPデプロイメントの経験でネステ社を支援することで、同社は再生可能エネルギーのサプライチェーンを含むほとんどの事業において、Microsoft Azureクラウド上のSAP S/4HANAソリューションの展開を成功させています。クラウド導入の一環として、IBM企業の1つであるNordcloud(ibm.com外部へのリンク)が重要な役割を担う一方で、IBMコンサルティング・クラウド・マイグレーション・サービスのチームは、オンプレミス・インフラストラクチャーからAzureプラットフォームへのSAPのマイグレーションを支援しました。
IBMコンサルティングは既存のSAP環境を拡張するだけでなく、ネステ社がERPへの投資から最大の価値を得るために必要なプロセス・デザイン・サポートを同社に引き続き提供しています。またIBM® Organizational Change Management Servicesのチームはこの変革プロジェクトを通じて、ネステ社全体で調和の取れた様々な業務プロセスを定義し、ビジネス変革の過程全体で従業員の参加とトレーニングを促すことで、幅広く同社をサポートしました。
ネステ社の新しいERPプラットフォームは、所期の設計どおりにサプライチェーン・プロセスの効率を向上させ、データの透明性を高めています。Mäki-Ullakko氏は、このプラットフォームの最も影響力のある利点として、プロセスの非効率性を発見して解決する能力を挙げています。「当社はSAPのプロセス・ディスカバリー機能を使用して、サプライチェーンと本番環境のボトルネックを検出できました」と彼は述べています。「このように、統合されたSAPは、これまでも、そしてこれからも、当社のプロセス最適化の取り組みにとって不可欠なツールです」
統合されたSAPが提供するエンドツーエンドの可視性は、新しい原料を見つけて精製プロセスに取り込むという観点から、同社の俊敏性の向上に貢献しました。その結果、ネステ社の再生可能燃料の生産能力は、2026年末までに680 万トンに達すると予想されています。現在、ネステ社の再生可能原料全体の90%以上が廃棄物と残留物によるものであり、同社の再生可能燃料のすべての精製所は、廃棄物と残留物だけで稼働できます。
Mäki-Ullakko氏は、自身を含む拡大チームがERPの変革によって達成したこと、そしてネステ社にとってこれがビジネスとしてどんなに意義深いかを誇りにしています。同時に、同氏が率いるプロジェクトがより大きな影響を及ぼす可能性や、このプロジェクトがネステ社のより広範なミッションにどのように適合するかについても高い意識を持っています。「当社は気候変動に立ち向かうビジネスを展開しており、子どもたちのためにより健康な地球を作りたいと考えています」と、最近祖父になったばかりのMäki-Uakko氏は語ります。「当社はその約束を果たすため、IBMとの統合SAPプロジェクトで様々なミッションに真摯に取り組んでいます」
製品・サービス
ネステ社について
ネステ社(ibm.com外部へのリンク)は 、気候変動に立ち向かい、循環経済への移行を加速させるソリューションを作成しています。同社は、廃棄物、残留物、革新的な原料から、再生可能燃料と、プラスチックなどの材料のための持続可能な原料を生産します。持続可能な航空燃料、再生可能ディーゼルの世界有数の製造会社であり、化学リサイクル開発の先進企業であるネステ社は、2030年までに年間2,000万トン以上の温室効果ガス排出量を削減することを目標としています。同社はまた、フィンランドにあるポルヴォー石油精製工場を2030年までに欧州で最も持続可能な製油所にすることを目指しています。カーボンニュートラル生産に到達するコミットメントの一環として、2035年までに、販売される製品の二酸化炭素排出量を2040年までに50%削減することを計画しています。2022年のネステ社の売上高は257億ユーロでした。
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2023年4月
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