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Smarter Business

管理部門に求められる「攻めの姿勢」。SoftBank×IBM対談

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記事の内容は2016年10月21日時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。

UberやAirbnbに代表される、新ビジネスの台頭は、既存の企業に大きな示唆と脅威を与えている。国内企業もデジタルの影響力が無視できない段階に来ていることに気づき始めているものの、その多くは現状を脱却できていない。こうした「情報革命」の波は、事業における顧客接点だけでなく、事業を支える「管理部門」にも押し寄せている。革命に飲まれるか。あるいは、革命をリードするか。「デジタル・エンタープライズ」への移行に注目が集まっている。

今回、ソフトバンク株式会社 財務経理本部 企画管理統括部 システム企画室 室長の木村勝彦氏を招き、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)グローバル・ビジネス・サービス事業本部 (GBS) エンタープライズ・アプリケーションズ事業 事業部長 村澤賢一との対談を開催。「情報革命時代を生き抜く」と題し、「攻め」のエンタープライズ・アプリケーションのあり方について、ユーザーとベンダー、両者の立場から議論を交わしてもらった。

木村勝彦(写真右)
ソフトバンク株式会社 財務経理本部 企画管理統括部 システム企画室 室長

財務経理部門で社内業務プロセスの構築・改善、グループ再編時の経営基盤システム導入・改修など、各種社内プロジェクトの企画立案と共にPMとしてプロジェクトを多数リード。2015年4月より現職。

 

村澤賢一(写真左)
日本アイ・ビー・エム株式会社 GBS エンタープライズ・アプリケーションズ事業 事業部長

ERPを活用した連結経営管理基盤整備プロジェクトをはじめとして、M&AにおけるPMO、またシェアード・サービス/ビジネス・プロセス・アウトソーシングなど、バック・オフィス業務変革を通じてのホワイト・カラー生産性向上プロジェクトを推進。通信・メディア・公益事業、Cloud事業、IoT (Internet of Things)事業を担当し、2016年4月から現職。

 

既存の概念とは異なるERPとは?

──本日は「情報革命時代を生き抜く」をテーマに、ソフトバンク・木村さんにはエンタープライズ・アプリケーション・ユーザーの立場から、IBM・村澤さんにはエンタープライズ・アプリケーション・ベンダーの立場から忌憚ないご意見を交わしていただきたいと思います。

村澤 木村さん、よろしくお願いします。私にとって木村さんは日頃のビジネス上のパートナーでもありますが、本日はあらためてお話を伺わせてください。

まず「情報革命」について、御社にとっても経営理念『情報革命で人々を幸せに』に刻まれるほど重要なキーワードだと思います。この言葉をどのようにとらえていますか?

木村 そうですね。我々経理部門に流れてくる情報(データ)も、年々増大してきていると感じています。かつての経理システムといえば、仕訳を入力して、勘定ごとに記帳する「総勘定元帳」をつくって、それから「財務諸表」を作成する……というものでした。その頃からすれば、明らかに記帳すること自体が少なくなってきています。自動的にデータを収集し、財務諸表まで作成できるようになった。こうした世界がますます加速していけば、経理部門の作業としての仕事もやりやすくなるでしょう。

しかし、これだけ大量のデータが収集されるようになると、細分化しても理解が難しくなります。財務データ、さらには非財務データを組み合わせ、統計的な分析からデータへのアプローチを探る、そんな「データ・サイエンティスト」的な観点も必要になってきています。しかも、同じ経理でも「投資家」「経営陣」「従業員」と対峙する相手ごとに要求されるアウトプットが異なり、それぞれの立場に有益な情報を提供しなければいけません。そうした環境下で、10年後のソフトバンクの経理はどうなるか、村澤さんにご相談をしているところです。

木村勝彦氏

村澤 企業における構造化データと非構造化データ双方の活用や、業務プロセス運用の柔軟性が強く求められるこれからの時代を見据えると、経理業務はもちろんのこと、企業活動全体を支えるエンタープライズ・アプリケーションのあり方も大きく変わって行くと考えています。次世代のエンタープライズ・アプリケーションとして実現されるべき環境は、企業活動全体としての価値を高め、企業が提供できる顧客体験の向上に寄与するべきものであると思います。

──具体的に、今後のエンタープライズ・アプリケーションの方向性は?

村澤 企業である以上、「取引そのものの必要性」、「ひとつひとつの取引の経済的合理性」、また「税務・財務の観点から、法制度上、問題がないものなのかどうか」—— そういった観点での検証と運用管理の徹底は、引続き必須事項として位置づけられます。しかし同時に、企業が提供しうる『顧客体験の良し悪し』が、企業ブランドや競争優位性を高める源泉として重要性を増していくことが強く認識されている現在、エンタープライズ・アプリケーションは、企業における業務プロセスの運用を一層柔軟、且つ即時性の高いものとし、より広範な情報活用を可能とする環境として具現化されるべきです。

別の言い方をすると、企業として、良い意味でそれぞれの現場の社員に裁量を戻し、現場の社員はその裁量を活かし、今まさに対面している『 顧客 』の『 体験 』を最大化することに注力し、そのために必要となる業務手続きを提供する機能実装が求められる訳です。それは単にエンタープライズ・アプリケーションにつながる入り口、即ちフロント・エンドでのモバイル活用に留まらず、バック・エンドの基幹システム上での柔軟なプロセス運営を可能とするビジネス・プロセス・マネジメントの実装にポイントがあります。最新のICTを活用し、エンタープライズ・アプリケーションのあり方を劇的に変えて行きたいと考えている多くの企業においては、エンタープライズ・アプリケーション、およびそれを支えるアーキテクチャを如何にデザインするかがとても重要になってくると思います。

あとは、コグニティブの活用ですね。IBM Watsonはさまざまな情報を理解・推論・学習し、構造化データ・非構造化データを活用できるようにします。まさに、企業活動における情報活用の幅を広げ、採りうる可能性をデザインし、個々の可能性の確信度を評価します。財務データ、非財務データ、ソーシャルに加え、IoTなどを活かしたダーク・データなど、社内外の情報を積極的に活用し、コグニティブによってどんな可能性が見出せるのかを今、模索しているところです。

村澤賢一氏

木村 企業の中で「基幹業務システム×Watson」の実現には、私も大きな期待を寄せています。

村澤 Watsonが木村さんのもとで働く日が来るかもしれませんね。

木村 経理部門でWatsonを採用するなら、簿記1級を覚えておいてほしい(笑)。Watsonを採用するにしても、基本的には人材採用と同じです。幼稚園児のレベルではだめで、大学卒業レベルなら採用できる。採用したら会社の歴史や取引記録を教え込み、あとは制度的な判断ができるようになれば、ビジネスとしてジャッジメントできるレベルになるでしょう。Watsonを採用してから簿記を覚えさせるにしても、正しい答えを導くためのオペレーションが必要になりますから、部門内の仕事の面にも変化があるかもしれません。

 

ソフトバンクが取り組む「Half & Twice」というミッション

──日本IBMでは先般、SAPジャパンとのパートナーシップ強化を発表しました。IBM のコグニティブ・コンピューティングとSAP社の最新技術を融合し、次世代エンタープライズ・アプリケーションの実現に向けて推進中です。これにより、いわゆる「デジタル・トランスフォーメーション」に期待が高まっています。

村澤 普段、木村さんとお話をしている中で「もうデジタルなんて当たり前だよ」とお叱りを受けるので、「デジタル」って言葉も既に古いのかもしれませんが(笑)、「デジタル・トランスフォーメーション」の概念自体は、IBMだけではなくベンダー、メーカーの各社が世界レベルで進めようとしていることです。

──その背景には、どういった事情があるのでしょうか?

村澤 UberやAirbnbの成功の正体は、ビジネス・アプリケーションと言って良いと思います。共に、シェアリング・サービスの発想を軸に、全く新しい発想でビジネスを成立させ、事業を急成長させました。そこから生まれる顧客体験やビジネスに対し、世界的な評価が追いついた結果でしょう。

既存ビジネスに取り組んでいた企業からすれば、こうした新ビジネス・モデルは足音もなく近づいてきたわけですから、相当な脅威でしょう。こうした流れに取り残されないためにも、企業が最新の技術をうまく活かしながら、いかに効率よくデジタル化を果たしていくのか、その議論が活発になっており、IBMもそうした企業を支援しています。

ところで、ソフトバンクの親会社のソフトバンクグループが今年7月、イギリスの半導体設計会社「ARMホールディングス」の買収を発表されましたね。

木村 はい。9月に買収手続も既に完了しております。

村澤 これからソフトバンクグループがどんなことを実現させようとしているのかとても楽しみですが、私が驚いたのはニュースで取りざたされるような大きな海外買収案件がかなりのスピード感で完了したことです。こうしたことが実現したことを見ても、ソフトバンクグループの孫正義代表取締役社長の存在を含め、通信事業をはじめとする大規模な既存事業を運営しながら、一方で次の時代、更にその先を見据え、劇的、かつ大規模なビジネス・アクションをとられる。ソフトバンクグループはとても希有な企業だと思うのです。

対談風景

木村 2015年4月1日の通信事業子会社の合併に伴い、宮内謙がソフトバンクの代表取締役社長兼CEOに就いてからは、全事業部門を対象に“Half & Twice”というミッションが掲げられ、組織力強化と効率化を図っています。

村澤 「Half & Twice」。つまり「工数やコストを半分にして、かつ、生産性を倍増しよう」ということですよね。結果的には4倍の生産性向上を求めているわけですから、実はものすごいハイ・レベルなことを要求されています。

木村 半分の手間で倍の成果を出す。これを財務セクションであればどうやって実現できるのか、一生懸命考えていくわけですね。収集している情報の面積・深さが広がっているため、手作業ではとても追いつきません。他部門の協力も念頭に置きながら、どうやって考えていくのか、今、社内ではその動きが加速しています。何もせず「流れに任せる」のが一番怖いですね。

一般論として、私はこうしたスピード感を生み出すためには「経営者が“やれ”ということ」が大事なんだと思います。言われた側はそこからいい刺激を受け、何か方法はないか考えるようになる。言われたときにやり方がわからなくても、いざ動き出せばいくつかの方策を見つけることができるし、その中からこれと思えるものをプレゼンテーションするようになるでしょう。はじめの一歩を踏み出せるようにするため、社長の一声はとても重要だと思います。

木村勝彦氏

 

「要件定義」から「体験定義」への移行実現に向けて

──そうした効率化にも、デジタル・エンタープライズは欠かせないものになりそうですね。

村澤 デジタル・エンタープライズの実現に向けてITが寄り添える部分があるとするならば、自社の事業をやっている組織・チーム・個々の社員と対面できるような情報実装を、経営者の皆様に持ってもらう。そういうところがコグニティブでサポートできる領域なのかもしれません。

木村 私はデジタル・エンタープライズの実現ということでいえば、「モダナイゼーション」が必要だと思います。つまり、自社の既存資産を活用しながら、ソフトウェアやハードウェアを最新のものに置き換えていく、ということ。活用できるところは活用し、再構築すべきところは再構築していくんです。

対談風景

村澤 これまでにも業務システムの構築を何度も経験されていますよね。

木村 はい。何度も経験していますが、ゼロからの導入となると何回も同じことを繰り返します。毎回「何をつくりたいのか」から始まってしまい、違うベンダーさんが来たら、また同じ話をするわけです。これが10年前から何も変わっていない(笑)。私はこの現状が変わればいいのに、と思います。

そうした無駄な時間は排除して、バリューのあるところをしっかり手当てし、機能アップを図りたい。新たにシステムを構築するたび「要件定義からお願いします」では、時間もない中で問題も起こりやすいでしょう。

村澤 では、デジタル・エンタープライズは今後、どう変わっていくべきだと思いますか?

木村 これからのシステム再構築は、ユーザー側でできるようになるのではないか、と思っています。ある意味、プログラミングというハードルが下がっていますから、ユーザー側がそれをチューニングできるソフトウェアの文化が来るのではないかと。

村澤 なるほど。今クラウド上では、SaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)のようなサービスが提供されていますし、要求される機能をマイクロ化していけば、機能としての一貫性を追求するための要件定義の時間はもっと局所化されていくかもしれませんね。その分、全体統合・オーケストレーションの腕前が要求されるわけですが。当社とパートナー関係にあるエンタープライズ・ソフトウェアのメーカーの方も、木村さんがおっしゃるような世界を柔軟かつスピード感をもって実現するためにはどうしたらいいのか、製品・サービス自体を進化させてきていると思います。

村澤賢一氏

──ベンダーとして、そうした世界の実現のために、どうあるべきだと考えますか?

村澤 システム・インテグレーターの仕事自体が大きく様変わりしていくでしょう。「最終顧客にどういう体験を提供しよう」だとか、はたまた「体験を提供する活動の中で社員側がどう使いこなしていくのがよいのか」といったことを考えるようになる。つまりは「要件定義」から「体験定義」へ移行するのです。そんな世界の実現に向けて、IBMも企業経営者の皆様をサポートしていきたいです。木村さん、本日はどうもありがとうございました。

 


情報革命の波が押し寄せる中、今後の管理部門はどうあるべきなのか。ユーザーとベンダーという異なる立場からの意見は、企業経営者にとっても多くの示唆を与えてくれます。「革命に飲まれるか。あるいは、革命をリードするか」。どちらの立場になるのかを決めるのは、経営者の決断次第です。詳しくは、下記をご覧ください。