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りそな×FinBASEが挑む「金融デジタルプラットフォーム」による共創の促進

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大田 大二郎氏

大田 大二郎氏
FinBASE株式会社 代表取締役 兼
株式会社りそなホールディングス 株式会社りそな銀行
DX企画部 グループリーダー

1998年、りそな銀行の前身であるあさひ銀行に入社。主として法人営業業務に従事。2016年、りそなホールディングスグループ戦略部金融法人室にて、地域金融機関様との関係構築に尽力。2020年りそな銀行目黒駅前支店長、2021年りそなホールディングスDX企画部グループリーダーを経て、2022年4月より現職。「金融デジタルプラットフォーム」提供の最前線に立つ。

 

塩山 容太郎

塩山 容太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部 営業部長

2006年、日本IBM入社。入社後、営業として金融機関様を担当。2011年、チームリーダーとして上位地域金融機関様における基幹系共同化プロジェクトの立ち上げに従事。その後デジタル領域への取り組みを加速し、基幹系とDXの「両翼戦略」「共創」および「内製化」モデルによるデジタル・パートナーシップ構築に取り組む。2023年1月より株式会社りそなホールディングス様を担当。IBM銀行業界におけるトップランナーの1人として、りそなホールディングス様との戦略的パートナーシップの深化を推進中。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)がビジネス変革の重要要素として認知され、多くの企業で取り組みが進む中、組織や企業の垣根を越えた協業が競争力向上のために求められています。「金融デジタルプラットフォーム」の提供を目的に、株式会社りそなホールディングス(以下、りそなHD)、株式会社NTTデータ、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の3社は2022年4月にFinBASE株式会社(以下、FinBASE)を設立しました。FinBASEは日本IBMの「金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」と、りそなグループの豊富なノウハウを組み合わせてオープンな共創基盤を構築し、地域金融機関にさまざまなバンキング機能を提供しています。
この共創基盤を通じてFinBASEが目指すもの、利用企業にとっての価値、今後の展開などについて、FinBASE 代表取締役の大田 大二郎氏とIBMコンサルティング事業本部の塩山 容太郎に話を聞きました。

価値創造の源となるオープン・エコシステムとデジタルの掛け合わせ

FinBASEの母体の一つであるりそなグループは、中期経営計画に「『リテールNo.1』の実現への加速」を掲げ、価値創造力の強化や経営基盤の次世代化に取り組んでいます。中でも、価値創造力の強化のために注力しているのが「金融デジタルプラットフォーム」構想です。

同プラットフォームは、自社開発が難しい機能の利用を望む企業・団体と、それらの技術を有し、機能を提供する企業をつなぐハブとなる存在です。FinBASEが参画者の開拓や情報収集等を行い、りそなグループでプラットフォームを準備することで、接続する地域金融機関や地方自治体などはバンキング業務において実績ある多様な機能やサービスを安価でスピーディーに利用できます。一方、機能を提供する企業は、個社で活動するよりもビジネス・チャンスを拡大できます。

図:金融デジタルプラットフォーム構想

大田氏は、その狙いを次のように話します。
「金融業界にはプラットフォーム各社やFinTech企業など異業種からの参入が加速しており、従来以上に競争が激化しています。また、個人のお客様のニーズや嗜好は大きく変化しており、従来と同じビジネスの進め方では、お客様に選ばれなくなっています。商品・サービスの提供スピードもコスト効率も求められる環境下で競争に打ち勝ち成長していくためには、『オープン化』と『エコシステムの形成』が極めて重要であると考えます。金融デジタルプラットフォームは、それらにデジタルを掛け合わせて取り組んだ仕組みです。より多くの皆様に利用いただくことでオープン・イノベーションが促進され、競争力ある商品・サービスが持続的に生まれるエコシステムを実現させていきたいと考えています」

改善済みの最新の機能を利用でき、業務効率化も期待できる

具体的に、金融デジタルプラットフォーム上で提供しているサービスとして代表的なものが、2018年2月から取り扱いを開始した「りそなグループアプリ」です。これは口座の残高照会や振込をはじめ、各種取引がスマートフォンで完結するフルバンキングアプリで、現在約160の機能を提供しています。「グッドデザイン賞」を受賞するなど外部機関からの評価も高く、2023年9月末時点で700万ダウンロードと、りそなグループの最大の顧客接点チャネルへと成長しています。実際に地域金融機関との連携例としては、めぶきフィナンシャルグループ(常陽銀行・足利銀行)や百十四銀行に、自社ブランドで展開可能な「ホワイトラベル形式」で提供しています。

高い評価を得ている「りそなグループアプリ」図:高い評価を得ている「りそなグループアプリ」出典:FinBASE株式会社資料をもとに作成

アプリが評価されている要因について、大田氏はまず「お客様ニーズを徹底的に取り入れて、アジャイルに改善を繰り返し、常に最新の機能を提供することでお客様の満足度向上に努めている」点を挙げます。

また、金融機関における顧客接点がアプリに移行することで、行内の業務効率化にもつながっています。りそなグループアプリでの実績では、積立定期口座開設においては約9割、外貨普通口座開設においては約8割がアプリなどの非対面チャネルに移行しています。取引がアプリで完結することで窓口対応などにかかる事務作業が不要となり、行員が空いた時間をコンサルティング業務に充てるような業務変革も期待できます。

さらに、金融デジタルプラットフォーム上で今後提供する新たな機能も検討されています。

1点目は海外送金機能です。個人向け海外送金は書類による店頭受付が中心で、顧客利便性と金融機関の事務負担は業界共通の課題となっています。また、世界の金融機関で利用されている外国送金フォーマット(SWIFT:国際銀行間通信協会メッセージ書式)は、2025年11月までに国際標準フォーマット(ISO20022書式)への切り替えが制度上求められています。大田氏は、「プラットフォーム上にISO20022に完全対応した非対面での海外送金サービス機能を構築中で、これにより、非対面完結の送金スキームによるローコストな運営と、行員のスキルに依存しない均質なAML(マネー・ローンダリング防止対策)統制の整備が期待できます」と話します。

2点目は、マーケティング・オートメーション(MA)サービスです。プラットフォーム上に構築した共同利用型のサービスのため、利用側は自前でMA環境を構築する必要がなく、スピーディーかつ低コストで利用を始められます。ターゲット顧客の分析と抽出、メッセージ発信等を最適なタイミングで管理できるため、「プラットフォームに参加する金融機関は自らが保有するデータを活用し、個客一人ひとりに合わせたマーケティングのアプローチが可能になる」と大田氏は抱負を語ります。

成功要因は卓越したITスキルと金融業務知識、アジャイル開発へのマインド

日本IBMは、りそなグループとデジタル・パートナーシップを結び、金融デジタルプラットフォーム構想や「りそなグループアプリ」の構築をサポートしてきました。FinBASEに対しても、最新のテクノロジーを活用した共創モデルの実践の場として、「金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」や「りそなグループアプリ提携基盤」をはじめとした各種サービスを提供しています。

大田氏は、共創パートナーとしてIBMを選んだ理由に、「柔軟性」と「発展性」を挙げます。
「金融領域での確固たる実績に加え、海外のトレンドにも精通しており、国内外の金融機関との太いパイプなどを通じて金融ビジネス全体で幅広い情報が得られる部分に魅力を感じました」(大田氏)

一方、「りそなグループアプリ」開発の成功要因について、「IBMはお客様の業務要件を最適なシステムに落とし込む観点から最先端のテクノロジーを提供しています」と塩山は話します。さらに、開発に際して重要な役割を果たしたのが、りそなグループと日本IBMが共同で設立したりそなデジタル・アイ株式会社です。同社では、アジャイル開発手法を取り入れながら、アプリの機能改善、拡張にスピーディーに取り組みました。塩山は株式会社りそなホールディングス、りそなデジタル・アイ株式会社、IBMによる「開発メンバーの卓越したITスキルと金融業務知識、アジャイル開発へのマインドなくして今回の成功はなかったと思います」と振り返ります。

図:りそなグループとIBMによる「共創」の取り組み

機能提供事業者、利用企業、お客様の“三方よし”を実現させたい

今後の展望について、FinBASEは金融デジタルプラットフォーム上で利用可能な機能・サービスを増やし、より幅広い企業に利用してもらえるよう、さらなるアップデート、拡張に取り組んでいく考えです。そして、「機能提供事業者、プラットフォーム利用企業・団体、そのお客様のすべてがベネフィットを享受できる“三方よし”を実現させていきたい」と大田氏は話します。また、IBMからは最新テクノロジーの提供とともに、新しいソリューションや価値の創出への協力を期待しています。

これに対し、塩山も「地域金融機関様のDXを通じた地方創生の実現に向けて、戦略とITの両面から引き続きサポートしていきます」と話します。そして、IBMとしても、国内外の知見や経験、最先端のテクノロジーを提供し、FinBASEの共創パートナーとして、イノベーション共創に取り組んでいきたいと締めくくりました。


※ りそなデジタル・アイ株式会社:1998年に日本IBMとりそなグループが共同で設立した会社。情報システムの開発、保守、運営に関わるコンサルティングおよび受託を行う。「デジタルテクノロジーを活用して世の中をより良く変えるサービスをりそな・IBMとともに実現する」ことをパーパスとし、ハイレベルな金融知識を持った IT精鋭部隊のりそなデジタル・アイだからこそできる新たな価値をお客様に提供している。