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FFGバンキングアプリのキーマンが語る、内製開発を通じた個人ビジネスDXへの挑戦|ふくおかフィナンシャルグループのDX最前線 第二弾

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白木 悠一郎氏

白木 悠一郎氏
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ・株式会社福岡銀行 兼務 DX推進本部 副調査役
 

 

横山 賢一氏

横山 賢一氏
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ・株式会社福岡銀行 兼務 DX推進本部 エキスパート
 

 

都築 瞭

都築 瞭
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社
西日本金融事業部 ソリューション統括第二部
 

九州に根ざした地域金融グループ、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)が進めるDX。鍵を握るのは新たに組成したDX推進本部の企画・開発チームだ。

2023年7月に福岡銀行アプリ、同年10月に熊本銀行アプリ・十八親和銀行アプリと、立て続けにリリースされたバンキングアプリは、同年12月に3行累計で30万ダウンロード(口座登録ユーザー)を突破(IBM外のWebサイトへ)し、足元では40万を超えている。

日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)は、FFGの共創パートナーとしてDX推進の中核を担うプロダクトの開発を支援している。今回、福岡にあるFFG本社で、DX推進本部の白木悠一郎氏と横山賢一氏に、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IJDS)のITスペシャリスト・都築瞭が、DXの進捗やFFGにおけるキャリア、そしてIBMとの共創について聞いた。

新組織DX推進本部 〜社内外から人材が集まる〜

白木 悠一郎氏、対談時の様子

都築 本日はFFGのバンキングアプリのキーマンである白木さん、横山さんにお話しいただきます。さっそくですが、これまでのお二人のキャリアについて教えてください。

白木 FFGは、九州を地盤とする4つの地方銀行(福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行)や日本初のデジタルバンクである、みんなの銀行などからなる広域展開型の地域金融グループで、九州で金融を中心としたさまざまなサービスを提供しています。

私は2014年に新卒で福岡銀行に入行後、営業店に配属になり、法人営業部門での融資業務や個人のお客様を対象とした資産運用のコンサルティング業務に携わっていました。お客様と向き合う中で、今後の銀行の在り方を考えていきたいと思うようになり、社内公募制度を利用してDX推進本部の前身であるビジネス開発部に異動しました。

DX推進本部に所属後は、中小企業向けバックオフィス効率化システムの企画・分析・営業などを担当し、その後に現在の個人向けバンキングアプリの企画を担うプロダクト・オーナーとして活動しています。

都築 営業店からDX推進本部へ異動されてきたとのことですが、2つの異なる業務を体験され、その違いについてはどのように感じていらっしゃいますか?

白木 営業店の業務では、お客様に直接接して、お客様のニーズにあったサービスを提案し、そのサービスによってお客様に貢献できるところにやりがいを感じていました。一方、DX推進本部では、これまで営業店で培った経験を活かして新しい企画を考え、サービス導入を推進できるところにやりがいを感じています。お客様の課題解決に繋がる新しい取組みを考えて実行できることはとても面白いです。

都築 現在担当されているバンキングアプリの企画業務は、いかがでしょうか?

白木 バンキングアプリは、2022年4月からの第七次中期経営計画の柱の一つである「業務改革および営業改革を支えるデジタルチャネルの構築」に基づき企画・開発・運用を行っています。

FFGに口座をお持ちの個人のお客様が、誰でも・いつでも・どこでも、安心・安全にサービスを利用できるよう、「お客様が何を一番必要としているのか」といった視点を大切にして、FFG内製開発およびIBMのエンジニアたちと日々議論を重ねながらアジリティ高く新機能の企画・開発を進めています。

都築 私もプロダクト開発の一員として開発に携わっており、企画からリリースまでの一連のサイクルにスピード感を感じています。アプリストアのコメントに「こういう機能が欲しい」などのご意見が入ると、「次のバージョンで実装する?」という感覚で検討が進むことが多いですよね。

続いて、横山さんのキャリアについてもお聞かせください。Iターンで福岡に来られ、キャリア採用でFFGに入社されたとお聞きしました。

横山 はい。もともとは山口県の出身ですが、福岡県の高校に通っていました。大学卒業後、東京のIT企業に就職し、転職や起業でキャリアを積みながら、直近の数年間はモバイルアプリの開発に携わってきました。

2022年にFFGにエンジニアとして入社して現在に至ります。白木さんと同じくバンキングアプリを担当していますが、私自身はプロダクトの設計・開発を行うエンジニア・チームをリードしています。

FFG入社にあたっては、福岡は実家のある山口に近いことや、中国・九州地方でITに携わるなら、「IT先進県である福岡で」という考えがありました。

都築 FFGに入社されて、入社前後ではどのような違いを感じられましたか?

横山 FFGは金融グループですので、保守的でお堅い職場を想像していました。一昔前の日本企業のイメージというか……。また、金融機関の社内で、内製開発チームとしてモバイルアプリを開発するイメージが沸かず、「社内にエンジニアがいるの?」と、正直不安に感じていました。

実際は、いい意味で裏切られました。たとえば、服装はオフィス・カジュアルが基本で、堅苦しい空気もありません。DX推進本部は、20から30代のメンバーが中心でスタートアップ企業に近い文化の職場ではないでしょうか。

都築 普段の業務内容や開発体制について、具体的に教えてください。

横山 白木さんと私が担当しているバンキングアプリは、企画と開発が一体となってプロダクトの実装機能や改善項目の仕様を検討し、IBMのエンジニアとFFG内製開発のエンジニアがOne Teamとなって開発を進めています。

SIerと内製開発エンジニアの違いは?

横山 賢一氏、対談時の様子

都築 横山さんは、これまでのキャリアにおいてSIerのエンジニアとして活動された経験をお持ちとお聞きしました。両者の違いについて教えてください。

横山 SIerのエンジニアとしての業務は、お客様先に常駐した開発が中心で、現場の変更が頻繁にあります。そこが内製開発との一番の違いではないでしょうか。短い現場では1カ月、長いと3年とか。勤務地も日本全国になります。報酬面では魅力的なものの、頻繁な職場環境の変化は、メンタル・フィジカルの両面で大きな負担を感じていました。

一方、内製開発のエンジニアは、一つのプロジェクトに長期的に携わることができます。そのため、プロダクトの開発を通じ、技術的な知見はもちろん、ビジネスの知見も深めていくことができます。自社のプロダクトだと愛着が沸きやすいので、自然と開発のモチベーションも上がりますね。さらに、一緒に働くメンバーがコロコロ変わることもないので、安定した人間関係の中で仕事ができています。

ウォーターフォール開発からアジャイル開発へ

IBM都築、対談時の様子

都築 FFGではDX推進の一環として、内製開発に力を入れていますよね。どのように進めているのでしょうか?

白木 お客様の声に耳を傾け、お客様が求める課題解決の本質をどう仕様に落とし込むか、またそれをどのようなデザインで表現するべきなのか、プロダクト・オーナーが中心となって検討を進め、2週間のサイクルでプロダクトの企画・設計・開発をしています。

これまでFFGのシステム開発は、開発を担当する外部ベンダーに要件を伝え、それをもとに構築するウォーターフォール開発が主流でした。今は、IBMとの共創開発に加え、社内に内製開発チームの体制を整え、アジャイル開発へのシフトを図っています。マーケットからの反応をアジリティ高く取り込み、ユーザビリティーの向上を実現しています。

都築 お客様を中心に考えながら進めるという点で、企画や開発、データ分析、マーケティングといった各領域の専門性をもったメンバーが、One Teamとして活動されています。

白木 そうですね。一方で、FFG全社ではそのような働き方や考え方の浸透は不十分で、まだまだこれからです。私たちのようなやり方や意識を、営業店も含めて全社に広げていくことも、私たち、DX推進本部の重要なミッションの一つと考えています。

都築 横山さんはいかがでしょうか? やりがいを感じている点や開発環境について教えてください。

横山 利用者数が40万人を超えるモバイルアプリの開発に関わっていることに、大きなやりがいがあります。友人など身近な人から、「アプリ使ってるよ」「この機能がいいね」といった意見をもらうこともあり、そんなとき、地域貢献というと大げさかもしれませんが、FFGに入社して良かったと感じますね。

都築 ご自身の業務環境はいかがでしょうか?

横山 業務環境の面では、作業場所や時間など比較的自由度が高く、リモートワークでも作業できます。

また、内製開発チームの立場として開発に携わっているため、自分たちの意見を反映しやすいです。企画チームもコミュニケーションがとりやすいので、無理難題で膨大な作業量になったり、白木さんたちから締切りの圧力を感じたりすることもありません(笑)。

白木 とはいえ、今に至るまでには苦労もありました。内製開発の本格的なスタートを切るために、2022年から社内公募やキャリア採用でモバイルアプリ開発エンジニアを集めながら少しずつ進めてきましたが、開発環境の構築やコミュニケーションなどが軌道に乗るまで相応の時間がかかりました。

期待していたより開発スピードが出ない時期もありましたが、今は実装できる機能を増やしつつ、一定のスピードを維持しながら開発を進められています。また、逆に開発チームから次に実装する機能を提案されることもありますね。

FFGが進める、顧客に寄り添った開発

白木氏と横山氏、対談時の様子

都築 白木さん、横山さんは異なる立場からプロジェクトに参加されていますが、大切にしていることについて教えてください。

白木 大切にしているのは「お客様の声」です。開発時はもちろん、リリースしたあとも、アプリストアのコメントやアンケート、コールセンターや営業店に寄せられたご意見など、あらゆる角度からの声を収集しています。さらに、社内ツールを使って社員の意見を募り、これらの声に対して優先順位をつけながら、プロダクトの改善につなげています。

都築 利用されているお客様からの評価はどうでしょうか?

白木 iOSとAndroid、両アプリストアにおいて一定のご評価をいただいています。特にリリース当初から搭載している引き落とし予定の事前通知機能に対するお客様からの反応は上々で、私たちがお客様にお届けしたいことが少しずつ認められてきたと感じています。

都築 ありがとうございます。横山さんはいかがですか?

横山 私は、機能アップデートのリリースサイクルを短期間で繰り返すことでお客様の要望を素早く取り込み、使いやすいプロダクトの実現を目指しています。

私たちのバンキングアプリは2023年7月に初回リリースを迎え、その後は数週間単位のマイナーリリースと、3カ月単位のメジャーリリースを続けています。4カ月ほどの間に10回のリリースやアップデート、軽微な内容も含めて300項目以上の機能追加や不具合の改善を行ってきました。

そのため、チームでのコミュニケーションはとても大切にしています。チームには、エンジニアだけでなく、企画に携わるメンバーやデザイナーなど専門性のある様々な人材が参加し、加えて、バンキングアプリの連携先システムの社内チームや外部企業のメンバーも携わっています。多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されるプロジェクトをスムーズに進めるためにも、コミュニケーションはおろそかにできません。

IBMが業界知識と技術で支援

横山 賢一氏、対談時の様子

都築 私たちIBMもFFGのみなさんとのコミュニケーションが密になり、より近い関係で開発をすることができています。「こういう機能を作ってください」ではなく、「こういうことを考えていて、こういう機能をつくりたい」と話し合いながら、プロダクトを一緒に作り上げる過程に参加させていただいており、達成感を感じる取組みだと感じています。

お互いにモチベーションを高めながら仕事に取り組めることは、共創開発の魅力ではないでしょうか。

横山 そうですね。IBMのエンジニアを始めとして、高い技術力と専門性を持ったエンジニアの方々に携わっていただいており、FFG内製開発チームも日々刺激を受けながらお互いに高め合うことができているのではないかと思います。

IBMエンジニアは、技術、知識や経験だけでなく仕事に取り組む姿勢や人間性が素晴らしいと個人的に思っています。高い技術力がある一方で、常に謙虚な姿勢で細かい点まで知識共有をしていただけますし、大変多くのことを学ばせていただいています。

都築 ありがとうございます。そこまで褒めていただけるとは恐縮ですが、とても嬉しいです。今後もIBMに期待することをお聞かせいただけますか?

白木 IBMのメンバーからは、金融業界におけるアプリ開発の知見はもちろん、金融業界以外の豊富な知見を活用して、私たちのアプリ開発に貢献いただいています。引き続きレベルの高い貴重なアドバイスをいただきながら、今後も共創開発の伴走者・パートナーとしてプロダクトの成長を牽引していただきたいと考えています。まだ道半ばではあるものの、新しいことにスピード感をもって挑戦していくための環境が整ってきたと実感しています。

横山 共創開発を進めつつ、引き続き豊富な知見を活かした最新のテクノロジーへの取組みや活用を提案いただきたいと思います。スキルや知識を通じて、FFGの内製開発チームの開発力向上に協力いただけたらと思います。

都築 ありがとうございます。FFGのみなさんからのご期待に応えていけるよう、私たちIBMも邁進していきます。引き続き、最新の技術や専門知識を活かした提案はもとより共創パートナーとして伴走していきたいと思っています。

大好きな街での地域貢献

対談後の様子

都築 最後に、これまでの活動を踏まえて、今後の展望をお聞かせください。

白木 他業界と同様に金融業界もDXが急務ですし、FFGも例外ではありません。DX推進を成功に導くため、内製開発を積極的に進めることで、プロダクト成長のアジリティ向上を目指しています。

単に開発期間を短縮するのではなく、企画からマーケットへのサービス投入までに要する期間を短くし、ご利用いただいたお客様の声をもとに改善を続けることで市場の変化に素早く対応し、市場価値の高いデジタル・プロダクトを提供し続けることで、最終的にお客様に選ばれる銀行を目指しています。

この取組みを今後さらに加速し、FFGのブランド・スローガンである「あなたのいちばんに。」を実現していきたいです。私たちは九州地域のお客様の課題を解決する金融サービスとは何かを常に考え、実際にお客様の声を聞き、デジタルの力を活用して進めていきます。

ただ、忘れてはならないのは、デジタルを便利だと思うお客様がいる一方で、従来の対面サービスを必要とされている方々もいらっしゃるということです。デジタル一辺倒になるのではなく、DX化により業務効率や生産性を向上させ、捻出した時間をお客様との相談やコンサルティングに充てるなど、今まで以上に細やかで丁寧なお客様に寄り添ったサービスを実現していくための仕組み作りを進めていきます。

都築 地域に根付いた金融機関だからこそ、幅広い年齢層やさまざまな背景をもった方々が対象になりますね。横山さんはいかがですか?

横山 私はまず、バンキングアプリをさらに良いプロダクトにしていきたいです。お客様に便利だと感じてもらえるよう、開発者としてしっかり携わります。年代や地域、背景に関わらず、誰でも簡単に、そして安心・安全にご利用いただけるアプリを目指すことは、私たちが使命とする地域貢献につながると信じています。

福岡はコンパクト・シティーで、以前住んでいた東京に比べ家賃などは安く、住みやすい街です。ご飯も美味しくて大好きですね。そんな福岡、そして九州の多くのお客様に喜んでもらえるように使命感を持って貢献していきます。

都築 地域を良くしていきたいというお2人の強い思いを感じます。その上で、個人のキャリア・プランについても聞かせてください。

横山 エンジニアリング・マネージャーやテクニカル・リードとしてチームをリードしていきたいという思いはもちろんあるのですが、それ以上に、いちエンジニアとしてのスキルアップも継続していきたいですね。

今はiOSアプリの開発に従事していますが、いずれはAndroidアプリ、さらにはバックエンドと、幅広く技術を身につけたいです。FFG内で、「横山に任せれば安心」と思ってもらえるような、周囲から信頼されるエンジニアになることが当面の目標です。

私たちのチームは発足してまだ1年、道半ばです。今後、どんどん新しいことをやっていきます。FFGのミッションや私たちの思いに共感していただける方がいたら、ぜひチームに加わっていただきたいですね。

白木 私は、アプリ開発に携わる中で得てきたアジャイル開発の知見やプロダクトの成長に向けた取組みなどを他のサービスに適用し、組織全体に広げていくような活動を実施していきたいです。

都築 FFGのアプリは2023年度のグッドデザイン賞を見事に受賞されました。やはりFFGの皆さんが、「お客様に寄り添ったアプリを」と取り組んできた結果だと思います。私も自分ごとのように嬉しかったです。

今後も、FFGがお客様の思いに寄り添っていけるよう、私たちも尽力いたします。引き続き、よろしくお願いします。