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Smarter Business

信頼を原動力に利益を生む2020年のデータ活用法から考える、リーダーシップの再定義

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IBM小鹿

小鹿 文清氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
戦略コンサルティング 理事・パートナー

1999年にIBMに加わり、エネルギー、通信、メディア、製造関連の企業に対し多くの戦略コンサルティング・プロジェクトをリードした経験を持つ。近年では、新規事業開発支援や新製品戦略、シナリオ・プランニングによる事業計画を多く実施している。事業戦略、マーケティング、戦略的投資、新規事業など経営者向けセミナーを多数実施している。

IBM森

森 祐之氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
戦略コンサルティング 理事・パートナー

日本IBMにて技術戦略コンサルティングをリード。テクノロジーの進化とともに企業変革のあり方を進化させ続け、経営意思決定の高度化、グローバル統合化等の取り組みを実践。近年は、デジタル技術時代における、ユーザー体験のデザインから始まるスモールスタートでの変革アプローチを、幅広い業界において推進している。

IBM鈴村

鈴村 敏央氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
コグニティブ推進 理事・パートナー

製造業、流通業のお客様へサプライチェーンを中心とした戦略立案、業務改革、システム構想サービスに十数年来従事。近年はデータサイエンティスト、業務変革コンサルタント、ITエンジニアの知見を活用し、AIを組み込んだ業務プロセス変革を多数実施している。

この度、日本IBMによって実施された「グローバル経営層スタディ」(https://www.ibm.com/services/jp-ja/studies/csuite/2020/)では、デジタル時代において企業の優位性を確立する源泉として、「信頼」というキーワードに焦点を当てている。特に昨今は、ビジネスにおいて顧客データをはじめとする企業内外のさまざまなデータを有効活用していく必要があるなか、より一層の信頼性が求められるようになってきた。

今回は、日本IBMの理事を務める3名の有識者に、「顧客と企業の関係性」、「企業組織内の関係性」、そして「エコシステム上のパートナーとの関係性」という3つの領域において、データを収集・活用・流通するための信頼の考え方について触れながら、企業のデータ活用のあり方や、経営層が発揮すべきリーダーシップについて聞いた。

 

信頼構築のために求められる、日本の企業カルチャーのアップデート

——データ活用において重要視されるようになっている信頼構築について考えるにあたり、まず日本企業と海外企業それぞれのスタンスについてお聞かせください。データ活用の手法やその重要性の認識について、どのようなギャップ、または類似性があるでしょうか。

IBMの3名

 日本企業の経営層は、みなさん「データが重要である」という認識を持っています。その想いは世界でもトップクラスで、海外企業に後れを取ることはないでしょう。ただ残念な点を挙げるとすれば、「データを用意すれば何かできるはずだ」と考えている人がいまだに多いことです。

CEOが「データ活用で何かやれ」とだけ指示を出して、言われた方は何をすべきかわからない——下に丸投げしただけで、責任の所在すらわからないケースが散見されます。そのため重要だと思っていても、最後までやりきるところまで至っていない企業も多いです。

小鹿 私も同じ印象です。CEOの方はITやデータ活用の重要性については認識しているし、データもすでに社内に蓄積されている。でも、それを活用しきれていません。

原因の一つとして、データがサイロ化してしまっている状況があります。本来ならデジタル化されたデータは、物理的な制約なしで使えるものなのに、社内の組織や文化の壁がそれを阻んでいる。これは日本企業における大きな課題の一つだと思います。

鈴村 私は事業部のオペレーションを統括するCOOの方と接する機会が多いのですが、日本の製造業はデータを活用した業務改善に非常に熱心に取り組んでいると思います。データをもとにPDCAを回していくプロセス改善は日本企業のカルチャーにマッチしていますし、 Industry4.0など業界的にも大きな変革が起こっていて、先進企業は一定の成果を出しています。

ただ、すべてのデータをガラス張りにして共有するのはまだ難しいようです。たとえば生産性向上のため、社員の動きや在庫をデータで可視化するとなると、当人たちは抵抗を感じてしまう。考えるべきは、「データを使って、より良くしていこう」という意識が、経営陣だけでなく企業全体に根付いているかです。組織内における信頼関係の構築が必要になります。

小鹿 また、根本的な前提として、「データそのものの信頼性があるかどうか」も大きなポイントだと思います。「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉がありますが、それと同じように、悪質なデータは良質なデータを駆逐する。そのデータは正しいものなのか、偏りはないのか。データそのものの質を磨くことも、一つの鍵になります。

今回の「グローバル経営層スタディ」で、不要なデータ、または品質に問題があるデータを廃棄しているか尋ねたのですが、多くの企業ができていませんでした。今はAIなどを活用することで、データの品質や精度をこれまで以上に高めることが可能になってきています。適切な技術の活用でデータの信頼性を担保したいですね。

IBM小鹿

鈴村 技術の導入でヒューマンエラーや判断の歪みも排除できます。ただ、素のデータを包み隠さず出すというカルチャーを浸透させていくことも重要だと思います。

製造業の場合、品質向上のために、部品の寸法をコンマ何桁というレベルで調整することがあります。そうした高精度のデータを活用するケースで、問題がありそうなデータは出さないようにしようという意識が働いてしまうと、高度な分析にも意味がありません。

 ちょっと違う見方ですが、データの品質については、目的に合わせてレベルを設定する必要があると思います。製品の品質や故障予測などの場合、高精度で正しいデータが求められますが、売上予測やパーソナライズが目的であれば、ある程度の傾向が把握できればいい。精度を上げれば良い経営判断ができるかといえば、それは別の問題です。

私がCIOの方と接していると、データ活用のための準備を進める際、とにかく精度を細かく、正しく取ることに注力する方が多いのです。その結果、必要以上に力を注いでしまい、迷走している日本企業も多いと感じています。

 

信頼構築のカギとなる、データ活用における透明性と対価の提示

——今回のテーマになっている信頼を構築するために、企業はどのようなことに注力すべきでしょうか?

小鹿 信頼性の構築が売上や利益の増加につながるなど、企業にとって直接的なメリットをもたらすこともあります。それは単純に嬉しいですし、良いことだと思います。

ただ、そのためには、データそのものの質はもちろん、顧客との関係性や従業員とのリレーションシップ、そして自社が属しているエコシステム内のパートナーとの信頼があることが前提です。必要なデータをパートナーに提供してもらうのであれば、パートナーが必要とするデータを自社が差し出す。顧客から情報を収集するのであれば、それが何のために使用され、どれだけのメリットが還元されるのか、それぞれを透明にしていく必要があります。だからこそ、相互流通するデータ、共通資源としてのデータも信じられますし、顧客も安心して自分のデータを預けられます。

鈴村 COOの観点から言うと、データを活用することで業務生産性は確実に上がりますし、何より新しい価値作りにつながる可能性も高いと思います。

たとえば、IoT技術の進歩により製品を通じて利用者と企業がつながるケースも見られるようになってきましたが、安全性やプライバシーの問題をクリアして利用状況を可視化できれば、より多くのデータの収集が可能になり、自社の競争優位性を確立できます。そのことをCOOの方も理解しているのですが、なかなか踏み切れないというジレンマを抱えている状態です。

IBM鈴村

小鹿 難しいのは確かですね。エコシステムで考えると、自社または取引先で何か不都合なデータの使い方があった場合、どういう対策を準備していて、どのようにデータを扱うのか、そこがわかっていないと消費者側も安心してデータを預けることができません。

一方で、もしそういうことがクリアになっていて、しかも自分のデータを渡すことで有益なサービスを受けられるのであれば、顧客の心理的ハードルは低くなると思います。

だから、データをどのように管理して、セキュリティーはどれくらい堅牢なのか、有事の際にどういうプロセスで守るのか、それらすべてを開示する。そこを明らかにして、市場からの信頼を勝ち得れば、より情報が集まり、付加価値の高い提案をしていくサイクルができます。これが、これからの企業が目指すべき姿でしょう。

 データ活用の源泉としては、やはり信頼という概念が重要ですね。相手を信頼していないとデータを渡すこともできないし、提供されたものを信じることもできませんから。

 

経営者層によるリーダーシップが、パートナーや顧客を巻き込む

——信頼性という軸でデータ活用をあらためて考えると、もはや一企業の取り組みだけでなく、それぞれの企業が社会の構成要素の一つとして協力することが必要です。そのために、経営者層はどのような役割を担っていくべきでしょうか。

 CIOの役割はこの10年間でかなり変化しています。従来はITの構築と安定運用がメインでしたが、今はそれだけではありません。経営にITをどのように活用し、どのような顧客チャネルを作るべきなのかといったように、プラットフォームの構築を担うところまでをCIOの役割とする向きもあります。ただ、CIO自身の立ち位置についてはケースバイケースで、「自分が率先してやっていくべき」という立場の方も、「CEOやCOOとの協調で進める」という立場の方もいます。

一つ言えることは、いずれの場合もデータを使う側との協調関係がやはり大事だということです。データを活用する目的と戦略を、CEOやCOOと合意しながら進めていく。その間にあるのは、「経営を変える」という共通認識です。それに基づく信頼があって、顧客であろうと生産や販売の現場であろうと、さまざまなステークホルダーからデータを提供してもらうことが可能になります。そして、確かな示唆や経営判断を示す。このプロセスを経営陣が意識して行動しなければなりません。

IBM 森

鈴村 データを使う側のCOOの立場から言うと、データを活用した業務効率や、新しいサービスの提案、CIOとの協業による新たな優位性の確立など、すぐにでも取り掛かりたいと常に考えています。世の中の変化やテクノロジーの進歩に合わせて、ITに求められるレベルやスピード感も上がっています。IT部門とコラボレーションする局面も拡大傾向にありますが、短期間のうちに協業体制を確立しなければならず難しい舵取りになっている印象です。

 部門間の協業という観点で言うと、私が進めている事例では、IBM Garageのように関係者が一堂に集まってイノベーションを生み出す環境を活用し、共創しているケースが多いです。目的を共有し、小さい成功例を社内に広げていく。この方法は日本企業のカルチャーにすごく合っています。スタートは遅くても、最初の壁を一度越えると一気に動くのが日本企業の特徴です。個人的な見解ですが、これが日本企業でデータ活用を成功させる一つのモデルではないかと捉えています。

小鹿 かつてのようにCIOとCOOとの間で溝があってはイノベーティブなことは何もできません。CxO同士の協業は今後必須になってくるでしょう。ただ、実際に日本企業のCEOに状況を伺うと、社内的なコラボレーションはまったく進んでいません。そこで、「事実ベースで物事を判断するためには、データは絶対に必要」という議論をし、データを中心に設計できる体制を作ることが必要と提案しました。

具体的には、CDO(Chief Data Officer)やCAO(Chief Analytics Officer)のように、収集したデータを活用し、戦略に結び付けることを専門的に考える役割を作ることが必要です。そしてデータとIT全体を見るCIOに、ビジネスにつなげていくCOO、加えてCMO(Chief Marketing Officer)も欠かせません。このような人たちが一緒になって、新しい価値創造に向けてプロジェクトを進めていく中で、CEOの役割としては、全体を見ながらブレーキとアクセルのタイミングを判断することが求められます。

——さきほど、社会全体での信頼性構築という話題が出ました。一企業でも難しいことですが、全体に広げていくには何が必要なのでしょうか。

鈴村 COOなど事業のオペレーションを担っている人は、当然現行のプロセスには詳しいですし、改善していく知見もあります。しかし、新しい価値創造となると、ブレイクスルーが必要です。それは、CIOなり、CTO(Chief Technology Officer)なりの視点で見て、生まれるものだろうと考えます。

小鹿 その根底には、信頼性の高いデータと、そのデータを基に正しい判断ができる環境が必要です。CEOの役割として、変化に柔軟なカルチャーや、コラボレーションする文化を推奨することも求められるようになると思います。

鈴村 そこが一番大事ですね。

 最近は、CIOの役職に就かれる方も、IT部門出身ではなく、事業部門等を出自とする人の方が多くなっています。根底には、「テクノロジーとビジネスをさらに融合させたい」という思いがあるようです。

顧客のことも、テクノロジーのインパクトも、その活用法も、全部理解しているスーパーマンがいれば、その人が全部やってしまうのが最善です。しかし、基本的にはそんなことはあり得ません。すると、やはりCEOやCOO、CIOが互いを信頼し、コラボレーションしていくことが必要になるでしょう。

——最後に、CxO同士のコラボレーションを進めるために、一歩踏み出すためのアドバイスをお願いします。

IBM の3名

 CxOが集まって、自社のデジタル戦略のビジョンや、5年後10年後のあり方を考える場を持つことを勧めています。自社内で進めることが難しければ、IBM Garageを活用することもお勧めです(笑)。

小鹿 企業の業種や成熟度によって違いはありますが、経営層の問題意識の差を埋めるためのワークショップなり、研修なりの機会を持つことは重要だと思います。リアルな経営課題について、CxO全員が一緒になって考える機会を持ち、立ち位置を合わせる。これが信頼性構築への第一歩だと思います。

鈴村 私も同じ考えです。CxOの方は、そもそも歴戦の実績ある方ばかりなので、本気になって短期間議論をすると、かなりいいシナリオや戦略が見えてくると思います。それをスキップしてしまう会社が多いのですが、圧倒的な優位性を作るためには、ぜひ一度その機会を持ってもらいたいですね。