グローバル経営層スタディ CIOの視点: CIO革命
障壁を打ち破り、価値を生み出す

グローバル経営層スタディ CIOの視点: CIO革命

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グローバル経営層スタディ CIOの視点: CIO革命

テクノロジー・リーダーは今、かつてない重圧にさらされている。テクノロジーは以前も現代社会の中心を支えていたが、2020年のパンデミックによって、デジタル化を担う組織への期待が一気に高まったからだ。新型コロナウイルス感染症が新しいツールや手法の導入を促した結果、かつては想像もつかなかったようなさまざまな事柄が、今では日常茶飯事となった。多くの個人や組織、およびコミュニティーにとって、今やテクノロジーは、単なるソリューションや問題解決の手段を超えて、生存に不可欠なライフラインとなっている。

2021年になっても、激動する事態に適応する流れが止むことはなかった。「ポストデジタル」時代の到来がビジネスに新たな機会をもたらし、さらに「バーチャル・エンタープライズ」モデルを生み出す契機となった。このモデルは、クラウド技術が持つスピードと規模、中でもハイブリッドクラウドの柔軟性と相互運用性に加え、人工知能(AI)と自動化の組み合わせが実現する迅速性に大きく依拠している。これらのテクノロジーは、組み合わせることで相乗効果を生み、単独の技術活用と比べ桁違いに大きな価値をもたらす。

IBM Institute for Business Value(IBV)は最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)などのCxO(経営層)レベルのテクノロジー・リーダー5,000名を対象に調査を実施した。特定のグループには詳細な定性的インタビューを行い、この未曾有の混乱の時代に、テクノロジー部門のリーダーとして現場で得た知見について語ってもらった。今回のIBVの調査は、世界45の国や地域の29業界を対象に行われ、19年に及ぶ一連の調査の中でも、最も網羅的なものとなった。

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一夜にして、デジタルからバーチャルへ

テクノロジー・リーダーは今、かつてない重圧にさらされている。テクノロジーは以前も現代社会の中心を支えていたが、2020年のパンデミックによって、デジタル化を担う組織への期待が一気に高まったからだ。新型コロナウイルス感染症が新しいツールや手法の導入を促した結果、かつては想像もつかなかったようなさまざまな事柄が、今では日常茶飯事となった。多くの個人や組織、およびコミュニティーにとって、今やテクノロジーは、単なるソリューションや問題解決の手段を超えて、生存に不可欠なライフラインとなっている。

2021年になっても、激動する事態に適応する流れが止むことはなかった。「ポストデジタル」時代の到来がビジネスに新たな機会をもたらし、さらに「バーチャル・エンタープライズ」モデルを生み出す契機となった。このモデルは、クラウド技術が持つスピードと規模、中でもハイブリッドクラウドの柔軟性と相互運用性に加え、人工知能(AI)と自動化の組み合わせが実現する迅速性に大きく依拠している。これらのテクノロジーは、組み合わせることで相乗効果を生み、単独の技術活用と比べ桁違いに大きな価値をもたらす。

IBM Institute for Business Value(IBV)は最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)などのCxO(経営層)レベルのテクノロジー・リーダー5,000名を対象に調査を実施した。特定のグループには詳細な定性的インタビューを行い、この未曾有の混乱の時代に、テクノロジー部門のリーダーとして現場で得た知見について語ってもらった。今回のIBVの調査は、世界45の国や地域の29業界を対象に行われ、19年に及ぶ一連の調査の中でも、最も網羅的なものとなった。

グローバル経営層スタディ CIOの視点: CIO革命
障壁を打ち破り、価値を生み出す

“旧来 IT 組織はシステムを中心に、会社全体を俯瞰的に捉えられる組織であり、DX 推進の重要な役割を果たす。CIO は IT のバックグラウンドを持つ人である必要はない。プログラミングができる必要もない。デジタルで変化するビジネス環境に合わせた変革を推進することができれば良い”

— ヤマト運輸株式会社 デジタル機能本部 執行役員 田中従雅氏

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CIOは驚異的なペースで、変革をドライブする。

組織がラディカル・アジリティーを追求するにつれ、テクノロジー担当責任者と彼らが率いる部門は、ますます重要な役割を担うようになった。Sun Life Financial社のCIOであるLaura Money氏は次のように述べている。「ビジネスがテクノロジーをリードするという考え方は、もはや時代遅れとなった。ビジネス戦略とテクノロジー戦略は相補的であるべきだ。大切なのは顧客を第一に考え、デジタルを有効に活用するという共通の目標を持つことである」

本レポートでは、この不確実性の時代において、いかにしてCIOが驚異的なペースで、変革とビジネス価値を実現しているかを探る。2011年の調査では、自らをビジネスや組織のビジョン実現のために欠かせない存在だと捉えたCIOは、5人中1人にすぎなかった。しかし、現在のCIOは、激しく変化する要求に応え、同僚たちと協力し、組織全体、さらには社会全体に価値をもたらすと考えている。

世界のCIOから得た
鍵となる洞察を探る

01

CIOの
新たな役割

テクノロジ・リーダーたちは、どのように戦略リーダーとして生まれ変わり、変革をもたらすのかを学ぶ

読むarrow pointing down

02

良いとこ
取り

拡大しつつあるテクノロジー・ポートフォリオから価値を生み出すために、いかにコラボレーションが重要であるかを確認する

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03

航路を
見定める

成功要因により定義されるCIOの3つの職責を探る

読むarrow pointing down
01CIOの
新たな役割

空前の変化と好機

テクノロジー導入の流れは加速し続けており、今やすべての組織や部署にとって不可欠なものとなっている。それに伴い、テクノロジー部門は劇的にスコープを拡大し、複雑性を増している。こうしてテクノロジー・リーダーが担う領域は広がり、その戦略上の影響力も拡大している。
こうした存在感の向上には、得てして課題が伴うものだ。今日のテクノロジー・ポートフォリオは、集中型や分散型、および連携型のサービスがダイナミックに混在している。大企業のCIOは通常、数十の機能にまたがる、数百、場合によっては数千ものアプリケーションを、グローバル規模で管理している。CIOは業務運営の基盤となる基幹ITサービスを日常的に提供しているが、さらに将来の成功への道を切り拓くイノベーションの主導役をも期待されている。テクノロジー・リーダーは、このように多様化する責務を、人材と予算の制約が長期化する状況下で担っている。
パンデミックの発生は、CIOの果たす役割が、かつてないほど重要になっている事実を浮き彫りにした。これからの世界がどのようなものになろうとも、未知の状況に適応し、リスクをチャンスに変える能力は、決定的に重要なものとなるだろう。

将来に対する不安が広がり、職場が混乱を極める中、組織が抱える喫緊の課題に対し中心的な役割を担っているのはテクノロジー・リーダーである。今回の調査に参加したCIOの77%が、サプライチェーン問題の解決や事業継続性の確保、リモートワークの実現などを例に挙げて、自身のチームがパンデミックへの対応において、極めて重要な役割を果たしたと評価している。

また、パンデミックの影響によって、事業戦略の恒久的な軌道修正を余儀なくされたと答えた回答者が55%もいた。具体的な戦略の修正内容としては、DXの加速やチェンジ・マネジメント(変革管理)の調整、およびクラウドベースのビジネス活動への移行などが挙げられた。

こうした業務上の変化を踏まえると、イノベーションと再現性を巧みに実現できる組織は、決定的に有利な立場を確立できると考えられる。調査によると、組織のビジネス・プロセスに占める自動化の割合は、20%から40%程度にのぼる。こうした自動化はインテリジェント・ワークフローを円滑に進め、価値の「ゴールデン・スレッド」を生み出し、企業内とエコシステム全体のつながりを強化する。

自動化の向かう先

企業内での自動化の進捗

機能の高度化と回答したCIOの割合は、2019年から700%増加
700%
ハイブリッドクラウド運用
560%
デジタル・プロセス自動化、インテリジェント・ワークフロー
467%
クラウドネイティブ開発
327%
クラウドネイティブ導入
292%
データ洞察とAI
  • 将来に対する不安が広がり、職場が混乱を極める中、組織が抱える喫緊の課題に対し中心的な役割を担っているのはテクノロジー・リーダーである。今回の調査に参加したCIOの77%が、サプライチェーン問題の解決や事業継続性の確保、リモートワークの実現などを例に挙げて、自身のチームがパンデミックへの対応において、極めて重要な役割を果たしたと評価している。

    また、パンデミックの影響によって、事業戦略の恒久的な軌道修正を余儀なくされたと答えた回答者が55%もいた。具体的な戦略の修正内容としては、DXの加速やチェンジ・マネジメント(変革管理)の調整、およびクラウドベースのビジネス活動への移行などが挙げられた。

    こうした業務上の変化を踏まえると、イノベーションと再現性を巧みに実現できる組織は、決定的に有利な立場を確立できると考えられる。調査によると、組織のビジネス・プロセスに占める自動化の割合は、20%から40%程度にのぼる。こうした自動化はインテリジェント・ワークフローを円滑に進め、価値の「ゴールデン・スレッド」を生み出し、企業内とエコシステム全体のつながりを強化する。

    機能の高度化と回答したCIOの割合は、2019年から700%増加
    700%
    ハイブリッドクラウド運用
    560%
    デジタル・プロセス自動化、インテリジェント・ワークフロー
    467%
    クラウドネイティブ開発
    327%
    クラウドネイティブ導入
    292%
    データ洞察とAI
    自動化の向かう先

    企業内での自動化の進捗

  • 今日のCIOは、さまざまな職務にまたがる複雑なポートフォリオを管理している。その中には、多様なユーザーに対するテクノロジー・サービスの提供や、データ洞察の活用、生産性プラットフォームによる職場環境の改善、さらには部門を越えたワークフローの拡張などが含まれる。

    International Airlines Group社のJohn Gibbs氏は、CIOを、社内で「あたかも対角線を描くように」立ち回ることが求められる役職であると語り、続けて「私は部署や役職に関係なく、多くの人たちと一緒に仕事をしている。あるときは現場のオペレーターと、あるときにはCEOと直接打ち合わせをする」と述べた。

    ところが、この交差点のようなポジションには、困難が伴う。元ロンドン警視庁のCIOであるAngus McCallum氏は、自らの任務は「瞬時に対応」することが求められ、著しく困難な問題に対処しなくてはならないと語る。複数の利害関係者の優先事項に囲まれた中で、CIOは時代の先取りもしなくてはならない。さもなければ、絶え間なく起こり続ける危機に対し、その場しのぎの対応に終始してしまうからである。米国バージニア州のVirginia Department of Behavioral Health and Developmental ServicesのCIOであるRobert Hobbelman氏は「CIOは部門間の橋渡し役である。しかしCIOの役割は進化している。ソリューションをただ提供するだけではなく、点と点を結び付けて、価値を生み出しているのである」と述べている。

    52%
    のCIOは他のCxOよりも、CEOと密接に連絡を取り合っている
    “私は CIO の役職に就いているものの、テクニカルな側面だけでなく、資源コントロールサイド、経営サイドに近い役割を強く担っている”— 日本生命保険相互会社 取締役専務執行役員 三笠裕司氏
  • 例えばテクノロジー部門におけるCTOの役割はますます重要になっており、今やCTOはCIOの強力な協力者となり得る。組織は時として、特殊なテクノロジーの組み合わせを必要とすることもあるだろう。そうした場合、テクノロジー部門は経営層など組織の上位レベルで共有する責任を担うが、通常CIOとCTOがこれを分かち合う。

    Unilever社のSteve McCrystal氏は、両者の関係について次のように語る。「時に私たちは、正確に説明責任を果たそうとするあまり、職務を過度にカテゴリー化してしまう。その結果、CTOやCIOの存在意義を見失うことになる。私たちの存在意義は、テクノロジーを使ってビジネス価値を創出することにある。だからこそ、この両者は協力し合って仕事に取り組まなければならない」

    概してCIOの業務は組織全体にわたり、さまざまな階層を結び付けるという意味で「対角線」を描くように縦横無尽に立ち回ることが多い。CIOの成功は、これを遂行する能力にかかっている。一方、CTOの職務は一般的に、テクノロジー戦略やオペレーション、およびアーキテクチャーを中心に体系化された定義やそれに基づくさまざまな責務に焦点が絞られている。そのように、焦点を絞ることによってCTOは、組織のテクノロジー利用に影響を及ぼす、最も戦略的な機会と最も差し迫った課題に対処できるのである。

    ただし、すべての組織がこのように構造化されているわけではない。実際のところ、責任の分担は業種や組織構造、および上下関係によって大きく変わることが、われわれの分析によって明らかになっている。CTOの職務はCIOのそれに比べると、組織の違いを超えて共通している傾向があるが、両者の役割はかなりの幅を含む。

    CIOとCTOに共通する分野

    テクノロジー部門における責任の分担

02良いとこ
取り

構想:サステナブルな機会

経営層はどのように現代社会が抱える最大の課題に取り組んでいるのか

詳細はこちら

岐路に立つコラボレーション

テクノロジー導入だけでは最適な価値をもたらすことはできない。しかし現代において、企業がハイブリッドクラウド、AI、自動化などのテクノロジーを戦略的かつ効果的に組み合わせて導入すれば、その大規模な変革により莫大な利益を生み出すことができる。では、テクノロジー部門を主導し、成功をもたらす鍵とは何だろうか。今回インタビューした経営層は、一貫してある特定のテーマについて言及した。それはコラボレーションである。
興味深いことに、チームワークを強調しながらも、CIOとCTOは単独で業務を遂行することが多く、行き違いが生じる場合もあることが調査結果から明らかとなっている。CIOと頻繁に接していると述べたCTOの割合は45%にすぎない。また、CTOと頻繁に接すると述べたCIOの割合も、わずか41%にとどまっている。
ではなぜ、CIOとCTOは協働しないのだろうか。グローバル非営利組織OCLCでCIO兼CTOを務めるBart Murphy氏は次のように述べている。「CTOの役割の背景には、CIOはイノベーションを起こすことができないという考え方がある。私は『構築』部門と『運用』部門を分離することには反対である。なぜなら、これらは相互に情報を提供し合っているからである」
フィンランドに本社を置くエネルギー企業のFortum社でビジネス・テクノロジー担当上級副社長を務めるArun Aggarwal氏は、目的とインセンティブを一致させる必要性を強調し、次のように語る。「他のテクノロジー・リーダーと協働する際は、目的の明確化を徹底する必要がある。つまりミッションを明確にし、機能に重複がないようにするのである。財務的なインセンティブとオペレーション面のインセンティブを一致させなければならない」
テクノロジー部門を3つの基準に基づいて評価した。
  • テクノロジーの成熟度—クラウド、AI、自動化、セキュリティーの導入レベル
  • テクノロジーの効果—アジリティー、データ管理、ガバナンス、レジリエンスの度合い
  • テクノロジーのROI—業界ごとに正規化されたテクノロジー投資による利益

テクノロジーの成熟度、効果、そしてROIの高い組織は、高業績を達成していることをIBMの分析は示している。特に、パンデミック下においても利益が増加し、かつテクノロジーの評価指数の値が高い組織は、競合他社に対する優位性を確立している。

群を抜く高業績企業

テクノロジー評価指数の値が高い企業と低い企業の差がこの2年間で拡大した

  • テクノロジーの成熟度、効果、そしてROIの高い組織は、高業績を達成していることをIBMの分析は示している。特に、パンデミック下においても利益が増加し、かつテクノロジーの評価指数の値が高い組織は、競合他社に対する優位性を確立している。

    テクノロジー部門を3つの基準に基づいて評価した。
    • テクノロジーの成熟度—クラウド、AI、自動化、セキュリティーの導入レベル
    • テクノロジーの効果—アジリティー、データ管理、ガバナンス、レジリエンスの度合い
    • テクノロジーのROI—業界ごとに正規化されたテクノロジー投資による利益
    群を抜く高業績企業

    テクノロジー評価指数の値が高い企業と低い企業の差がこの2年間で拡大した

  • 戦略性の高い構造的かつ効率的なアプローチで、全社をあげてビジネスの価値と機能を推進することは、企業を成功に導く鍵となる。ビジネスとテクノロジーが融合する現代では、テクノロジー・リーダーはビジネスとオペレーション、そしてテクノロジーの戦略を一体化させる必要があり、そのためにはこれまでとは異なる発想が求められる。

    われわれの分析によると、資産やリソース、洞察、および機会をリアルタイムの変化に応じて動的に組み合わせる能力も、価値を創出する。これらの能力の効率と効果が、ビジネスの成果に大きな差異をもたらす。こうした能力は、組織の中に散在しており、一元化することは難しい。またそこから生まれるメリットは、リソースの最適化よりもつながりの強化や、洞察によって創出される。

    テクノロジー戦略とオペレーションは相互に依存し、複雑性を増すため、その責任は共有されるべきである。CIOにとって、責任を果たすということは、テクノロジーを中核的なビジネス機能として活用し、さまざまな当事者や利害関係者が日常的に使うテクノロジーへのニーズに対応することであろう。一方、CTOにとってのそれは、テクノロジー戦略やテクノロジー・アーキテクチャー、テクノロジー・オペレーションへのより包括的、全体的なアプローチの策定において、リーダーシップを発揮することであろう。

    6つのバリュー・ドライバーによる相関

    この6つのバリュー・ドライバーを組み合わせることで、テクノロジーの適用範囲と影響力は拡大し、新たな価値を生み出すことができるのである。

  • CIOの主な職務の1つは、ハイブリッドクラウド・テクノロジーへの転換を推進することである。ここで考慮すべきは、クラウドの持つ潜在的な能力である。例えば、クラウドを、組織的なイネーブラーや運用的なイネーブラー、および強化されたエクスポネンシャル・テクノロジーやデータ機能と組み合わせて実装することで、大幅な収益増を見込むことができる。その期待値は、導入以前の13倍以上にもなる。

    現在、ワークロードの75%をクラウドが占めており、その事実がクラウドの相対的な効率の高さを示唆している。しかしこれは、クラウド・ベースのテクノロジー、特にハイブリッドクラウド関連のテクノロジーが成熟するにつれて、クラウドがさらなるワークロードを負担する可能性を示している。データや統合、オーケストレーションのレイヤーは、どれもハイブリッドクラウドの設計に組み込まれており、クラウドはあらゆる機能に価値をもたらす鍵となっている。

    アプリケーションやサービスをオンデマンドで提供する能力や、クラウドの規模が、ビジネス活動を行う上で不可欠な要素になっていると、多くの経営層が指摘する。Axis銀行のAvinash Raghavendra氏は「デジタル化はパンデミックによって急速に進行した」と語る。また「成功することはもちろん重要なことだが、成長の過程において失敗はつきものである。失敗したとしても、すぐに立て直し、そこから速やかに学ぶことが肝要だ」とも述べた。

    多くのCIOが、独自データの洞察を取得・分析・強化する能力を中心にITオペレーションの再構築に取り組んでいる。CIOの74%は、内外のソースからデータを取り込む能力に長けていると自身を評価しており、87%は組織のデータ戦略でリーダーシップを発揮していると考えている。このような発想の転換により、データの価値は一面的なものではなく、特定ユーザーの特定ニーズに、特定のタイミングで対応することで高まるものであると認識されつつある。

    基盤を支えるクラウド

    テクノロジー・リーダーたちは、クラウドとクラウド対応型のテクノロジーが業績に影響をもたらすと予想している

  • CIOは組織のほぼすべての部署と接する機会がある。そのため、新たな価値を生み出す提案や、既存のオペレーションの制約を理解できる特異な立場にある。これが、組織全体を網羅する視点から生み出される、真のメリットである。CIOはクラウド・パートナーと間近に接していることから、新しいクラウド・サービスを提唱し、IT資産全体をより有効に組み合わせて活用する方法を理解するのにうってつけな立場にある。

    職場がハイブリッドな形態へ進化する中、生産性が高く、手厚い支援もある充実した職場環境の構築におけるCIOの役割は、重要性を増すばかりだ。CIOは革新的なエンド・ユーザー体験の中心的な提唱者である。この18カ月の間に、クラウド・ベースの生産性向上ツールの導入や、柔軟な職場環境への移行によって、こうしたCIOの主張が持つ説得力は格段に高まった。リモート環境への移行に加えて、人々の仕事への取り組み方が急速に進化し、コラボレーションやコミュニティー、共創、およびコ・イノベーションといった概念が重視されるようになってきたのだ。多くのCIOは、テクノロジー・サービスを設計し提供する上で、多様性と包摂がいかに重要な意味を持つかを十分に理解している。

    経営層の語るところによると、CIOの役割を興味深いものにしている要因の1つは、人材とテクノロジー、そしてソフト・スキルとハード・スキルの組み合わせの妙にある。事業変革戦略の成功の鍵は、人材である。CIOは、限られたリソースを奪い合うさまざまな部門の要求に対処しなくてはならない。Axis銀行のAvinash Raghavendra氏は、「企業は競合他社だけでなく、全業種を相手に、人材の獲得競争を繰り広げているのである」と語る。

    これはIT組織全体にも当てはまることである。AIや高度なアナリティクス、およびサイバー・セキュリティーなどの分野で、専門スキルを持った人材が圧倒的に足りていない。そのため、例えばエコシステムの共有サービスの活用や、専門的な人材を有するパートナーに頼るなど、CIOは新たな方法に活路を見いだそうとしている。とはいえ、現実的な対応策は、現有の人材を最大限に活用することである。

    魅力的な職場

    従業員を引きつける最も重要な組織の属性

  • CIOはデジタル・トランスフォーメーションの最前線に立ち、新しいスキルや適応型ソリューションなど人に関する問題や、規模やスピードなどテクノロジーに関する問題に対応する。このようにCIOは、新たな「ゴールデン・スレッド」に基づく拡張ワークフローを実現することで、強い影響力をもった役割を果たしている

    価値の実現に最もインパクトのある機会は、さまざまなレイヤーを結び付けることで生まれる。多くのCIOが主張していることであるが、このことを複雑にしているのが、基幹アプリケーションをレガシー・インフラストラクチャーで扱うことの難しさと、ワークロード上に分散する新規アプリケーションの存在である。レガシー・ソリューションは不相応なほど膨大なサポートを必要とするが、多くのCIOは、すでに固定費を支払い済みのソリューションと、今後継続的に経費が発生するソリューションを交換することには慎重である。ロンドン警視庁の元幹部職員であるAngus McCallum氏は、「私は自分の組織が抱える技術上の負債を、サプライヤーに転嫁することには気が進まない」と語る。

    こうした課題に直面する中、自動化には大きな期待が寄せられている。と言うのは、反復的なビジネス・プロセスに要する費用を削減できるからである。今回の調査でCIOとCTOの77%は、ビジネス・プロセスの自動化は効果的だと回答している。自動化を最も多く利用している部署はITや財務、および製造で、それぞれの部署の業務で自動化された割合は40%、35%、35%であった。組織に良い影響をもたらす最大の機会としてプロセスの自動化を挙げたCIOの割合は、全体の37%であった。

    変わりゆく世界が抱える課題

    組織の複雑性と法規制が最大の懸念材料

03航路を
見定める

CIOの3つの職責

テクノロジー・ポートフォリオの範囲が拡大し、多様化するのに伴い、テクノロジー・リーダーの責任も併せて拡大・多様化している。またCIOやCTOの役割は、組織の体制やニーズに基づいて定義されることが多く、リーダー個人の特徴やスタイルに基づいて定義されるケースは稀である。
こうした中、CIOが組織に最も貢献し、違いをもたらすためには、どのような分野で、いかなる活動をすればよいのだろうか。それを知るためには、組織の中でCIOの役割がどのように定義されているかを理解する必要がある。
CIOの担う役割は業界や組織によってさまざまであり、その責任の範囲や、部門の規模、成熟度、経営層の権限、また企業戦略の確実性によっても変わる。本調査のインタビューで明らかになったのは、直面する課題に取り組み、ビジネスチャンスをつかむためにCIOが取るべき方法は決して1つではないという事実だ。Nippon India Mutual Fund社のAbhijit Shah氏はこの状況を、「それぞれのCIOの仕事は、単純には定義できない」と簡潔に言い表している。

本職責のCIOは、今回の調査対象者の約半数を占めている。このタイプのCIOは、部門を超えたイノベーターとしての活動を期待され、社内で最も多様な責任を任され、かつ最も多様な成功要因を満たしている。

責任の範囲が広いにもかかわらず、部門横断的なファシリテーターは、自社のテクノロジー成熟度を他の職責タイプのCIOよりも格段に高く評価している。責任の範囲が広域に及んでいることもあり、本職責のCIOはCTOとのコラボレーションのレベルが最も高い。カバーする部署が広範囲にわたるため、これらのCIOは同じ目的を持つ他の経営層のビジョンや専門知識から、恩恵を得ることができると考えているのかもしれない。

本職責のCIOの責任範囲は広いため、リソースの確保に苦心したり、相反する優先事項の調整に悩んだり、トレードオフを迫られたりするといった苦労については、必ずしも十分には認識されていない。それでも多くのCIOは、責任範囲が広く、多くの人々に係る課題に関与できるからこそ、この任務は魅力的であると答えている。

責任を持つ職務の上位5項目
  • データ・ガバナンスおよびコンプライアンス: 73%
  • サプライチェーン・マネジメント: 73%
  • 顧客体験: 72%
  • データ・プライバシー: 71%
  • 事業継続性: 68%
時間をかける職務の上位3項目
  • イノベーション戦略: 42%
  • データ・プライバシー: 39%
  • サイバー・セキュリティー:36%
成功基準
  • オペレーションの稼働時間: 46%
  • テクノロジー主導型プラットフォームの立ち上げ: 43%
  • 製品およびサービスからの収益: 42%
  • 予算実績: 40%
  • ビジネス成果への影響:40%
  • 本職責のCIOは、今回の調査対象者の約半数を占めている。このタイプのCIOは、部門を超えたイノベーターとしての活動を期待され、社内で最も多様な責任を任され、かつ最も多様な成功要因を満たしている。

    責任の範囲が広いにもかかわらず、部門横断的なファシリテーターは、自社のテクノロジー成熟度を他の職責タイプのCIOよりも格段に高く評価している。責任の範囲が広域に及んでいることもあり、本職責のCIOはCTOとのコラボレーションのレベルが最も高い。カバーする部署が広範囲にわたるため、これらのCIOは同じ目的を持つ他の経営層のビジョンや専門知識から、恩恵を得ることができると考えているのかもしれない。

    本職責のCIOの責任範囲は広いため、リソースの確保に苦心したり、相反する優先事項の調整に悩んだり、トレードオフを迫られたりするといった苦労については、必ずしも十分には認識されていない。それでも多くのCIOは、責任範囲が広く、多くの人々に係る課題に関与できるからこそ、この任務は魅力的であると答えている。

    責任を持つ職務の上位5項目
    • データ・ガバナンスおよびコンプライアンス: 73%
    • サプライチェーン・マネジメント: 73%
    • 顧客体験: 72%
    • データ・プライバシー: 71%
    • 事業継続性: 68%
    時間をかける職務の上位3項目
    • イノベーション戦略: 42%
    • データ・プライバシー: 39%
    • サイバー・セキュリティー:36%
    成功基準
    • オペレーションの稼働時間: 46%
    • テクノロジー主導型プラットフォームの立ち上げ: 43%
    • 製品およびサービスからの収益: 42%
    • 予算実績: 40%
    • ビジネス成果への影響:40%
  • 本職責のCIOは、今回の調査対象者の4分の1強を占めている。これらのCIOが担う責任の範囲は、明確で一貫性がある。3つの職責タイプのうちクリティカル・オペレーターは、テクノロジーの成熟度への評価が最も低く、テクノロジー投資に対するリターンも最低であった。しかし、われわれが今回の調査のために開発したテクノロジー効果の指標に基づくと、この特異な職責タイプは他を圧倒している。ビジョナリー・ビルダーの平均指数は41%、部門横断的なファシリテーターは36%だったのに対し、クリティカル・オペレーターは81%であった。

    クリティカル・オペレーターとしてのCIOは、少数に絞った責任事項に深くコミットし、周りのメンバーと使命感を共有する傾向がある。実際、この集団は、自身が注力する分野と自己認識が最も一致しているグループだ。41%が自らを「ビジネス変革のリーダー」と表現している。他の職責タイプでは、自身の役割を一つで表現することに同意した割合は3分の1にとどまった。

    奇妙なことに、クリティカル・オペレーターが挙げた成功基準は、責任項目よりもはるかに幅広く分散しており、CIOの活動とはやや乖離しているように見える。おそらく、その理由はこの集団のCIOには新たな優先課題が矢継ぎ早に課されるためか、あるいは自らが重要だと認める任務を積極的に受け入れているためであろう。

    責任を持つ職務の上位5項目
    • 事業継続性: 99 %
    • 職場の機能実現: 99 %
    • 人財管理および生産性: 99 %
    • 顧客体験: 98 %
    • サプライチェーン・マネジメント: 98 %
    時間をかける職務の上位3項目
    • 事業継続性: 71 %
    • エコシステム戦略: 58 %
    • サステナビリティー課題: 42 %
    成功基準
    • 製品品質基準: 50 %
    • オペレーションの稼働時間: 43 %
  • 本職責のCIOは、今回の調査対象者の4分の1弱を占めている。この集団の特徴は、他の2つの職責タイプが責任項目とみなさない、極めて独自な職務分野を重視している点にある。彼らの96%が最も重要な職務分野として挙げたのが、CxOレベルの経営層と取締役会への助言である。つまりビジョナリー・ビルダーは、従来のCIOの任務に加えてCTOの職務も兼ねているようなものである。コラボレーションのレベルは比較的低く(おそらくCIOとCTOの両方の役割を果たしているため)、他の職責タイプよりも単独で活動する傾向が見られる。しかしテクノロジー投資に対する利益率は、他のグループよりも格段に高かった。

    この集団のCIOは、テクノロジー戦略とオペレーションに大きな権限が与えられており、テクノロジー部門を掌握している。さらに最高経営幹部によるテクノロジー戦略の策定や意思決定に対して、幅広い影響力を持っている。

    責任を持つ職務の上位5項目
    • 経営層や取締役会への助言: 96 %
    • テクノロジー戦略: 85 %
    • テクノロジー・オペレーション: 76 %
    • データ・プライバシー: 75 %
    • テクノロジー・アーキテクチャー: 75 %
    時間をかける職務の上位3項目
    • テクノロジー戦略: 67 %
    • テクノロジー・アーキテクチャー: 58 %
    • データ・プライバシー: 56 %
    成功基準
    • 主観的な評価: 75 %
    • テクノロジー主導型プラットフォームの立ち上げ: 68 %
“私は CIO の役職に就いているものの、テクニカルな側面だけでなく、資源コントロールサイド、経営サイドに近い役割を強く担っている”
— 日本生命保険相互会社 取締役専務執行役員 三笠裕司氏
将来を見据えた計画の立案
“もはやCIOの役割は、ITプロジェクトにテクノロジーを提供することだけに限定されていない。周りと協力し合いながら、企業と顧客のために成果を上げることが求められている”
— Rong Xian, General Manager, Technology & Information Department, China Tourism Group

以前にも増して、テクノロジー部門は、継続的にビジネスを成功へ導くために不可欠な存在となった。組織全体でくまなくテクノロジーが活用されるようになるにつれ、組織のアイデンティティーはさらにテクノロジーに集中するようになった。今後、バーチャル・エンタープライズを成功させるためには、 成熟した協調的なテクノロジー部門がますます必要になるだろう。

“もはやCIOの役割は、ITプロジェクトにテクノロジーを提供することだけに限定されていない。周りと協力し合いながら、企業と顧客のために成果を上げることが求められている”
— Rong Xian, General Manager, Technology & Information Department, China Tourism Group

未来がどういう形になろうとも、テクノロジーが形作る未来において、CIOとCTOが果たす役割は重要なものになるはずだ。この世界はより勇敢で大胆であると同時に、より脆弱で不安定なものとなり、人工知能はより人間らしいものとなって進化していくだろう。それは人々の願望やニーズ、才能、さらには偏見や過失、怠慢さえも否応なしに反映されたものとなるに違いない。

これは困難な状況ではあるが、同時に、コラボレーションの強化や効率性の向上、およびテクノロジーへの投資によってテクノロジー成熟度を高める絶好の機会でもある。今、私たちが取る行動が、未来を築くのである。

これは困難な状況ではあるが、同時に、コラボレーションの強化や効率性の向上、およびテクノロジーへの投資によってテクノロジー成熟度を高める絶好の機会でもある。今、私たちが取る行動が、未来を築くのである。
組織における、自らのポジションの確保
複雑な課題に正面から取り組む
フォース・マルチプライヤー(force-multiplier)になる
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2021 経営層スタディ
役職別レポート