バーチャル・エンタープライズ: 科学とデータでイノベーションを巻き起こす
コロナ禍のために企業の在り方は根本から変化し、サプライチェーンや製造、流通、働き方、消費者行動などにおけるトランスフォーメーションのペースがますます加速している。この状況が絶え間なく続く中で企業にはかつてないほどのアジリティーと対応力が求められている。こうした新たな状況を管理するためのツールとアプローチは科学から生まれたもので、それ自体が加速をさらに増幅させる。
コロナ禍以前から、アナリティクスとAIを利用してビジネス・プロセスの改善に着手する企業はすでに数多く存在していた。こうしたテクノロジーに加え、企業の中核的なデータ資産(ユーザー・データやトランザクション・データ、自社ワークフローのパターンなど)を精査することに関心が高まり、生産から請求に至る過程でタスクを取り除いたり、デジタル化・自動化を進めたりする道が開かれた。
バーチャル・エンタープライズはこうしたアプローチをさらに一歩進め、例えば世界の人々の健康や気候、その他のエコシステムの状況に関わる、豊富な外部情報を取り入れることで、意思決定の指針としたり、事業運営と戦略の適応を図ったりしている。
科学と発見は、あらゆる業界のイノベーションを加速させる。
その効果は、世界経済の時価総額88兆ドルのうち52兆ドルにも上る
企業は政治や環境、社会の出来事、他業界といった、企業にとってコアではない幅広い分野に関する情報も吸収できる発見ツールを求めており、これによって事業の継続性とレジリエンスを保護・拡張することを目指している。科学とデータが主導するイノベーションは、このプロセスを具現化したものだ。迅速に収集されたデータの内容は意思決定に活かされ、その際、科学的な厳密さが知識の特定とリスク管理の双方に役立つ。経営層はこうしたイノベーションがもたらし得る差別化をますます認識しつつあり、発見したインサイトを活用できるかどうかに自社の競争力は左右されると経営層の4分の3超が考えている。
新たに登場したバーチャル・エンタープライズは、発見主導で、バリュー・チェーンに強みをもたらす。ライフサイエンスや化学、素材といった業界では長い間、科学が中核にあった。また、エネルギー・公益事業、医療、テクノロジー・ハードウェア業界なども、科学の成果に依存し、地質学や医学、物理学といった科学分野の進歩を原動力としてきた。
経営層の67%はデータの戦略的価値を理解しており、58%はデータにリアルタイムでアクセスして実践的なインサイトを生成している。
今日、企業は例外なく、情報主導型になる必要がある。科学的手法と実験を大規模に導入し、データとAIを足場としていけば、市場と経営のプラクティスに関する新たな情報を得ることができる。それを基に事業戦略や製品開発、業務運営などで重要な改善を推進することが可能になる。
リーダーの差別化要因
科学とデータが主導するイノベーションのリーダーシップとはどのようなものだろうか。企業がより発見主導になるにつれ、組織文化やスキル、ビジネス・プロセス、ツール、プラットフォームなどの面でトランスフォーメーションが求められる。実験を効果的に行うためには、組織全体で大規模に円滑な方法で実施されなくてはならない。発見の文化はエビデンスベースであり、そこには適応性とオープン性が必要である。
このトランスフォーメーションは、発見に向けた企業の取り組みを強化し、気候や労働、健康などの領域における進歩を促すほか、発見を加速する幅広い活動を可能にする。従来のAIツールに加え、企業には大規模な実験をサポートするハイブリッドクラウドのプラットフォームが必要だ。また、量子コンピューティングを導入すれば、さらに多くの新しい可能性が開かれるだろう。
CTOの78%が、発見主導のメカニズムを使用して、より広範なエコシステム全体でイノベーションを特定していると答えている。
AIを活用して人々の働き方を精査することによって、最も効率的で効果的なワークフローを決定することが可能となる。そうすれば、従来型のシステムと、(1台以上の量子コンピューターが古典的コンピューティング・システムと協力する)量子システムとのどちらを使うのがベストなのかを判断し、タスクを振り分けることができる。情報技術者が一度ワークフローを確立してしまえば、ユーザーはどこでどのように計算が行われているかを知る必要はなく、量子コンピューターに関する専門的な知識を学ぶ必要もない。
科学とデータが主導するイノベーションを促す「発見の文化」の醸成に必要なトランスフォーメーションを実現するには、リーダーシップに関する、以下の4つの優先事項を重視するとよい。
チームワーク:最近のIBVの調査では、コロナ禍後の世界で特に重要な人財の能力として、経営層の50%がチーム環境でコラボレーションできることを挙げている。
エコシステムへの注目:最近実施された調査では、CTOの78%が、発見主導のメカニズムを使用して、より広範なエコシステム全体でイノベーションを特定していると答えている。
デジタル化:経営層は、自社におけるバーチャル・ワークフォースとカスタマー・エンゲージメントの能力の割合が、2023年に2017年の3倍近くまで伸びると予測している。
データの優位性:経営層の67%はデータの戦略的価値を理解しており、58%はデータにリアルタイムでアクセスして実践的なインサイトを生成している。
バーチャル・エンタープライズは、こうした優先事項を取り入れ、科学とデータが主導するイノベーションをサポートし、発見の加速に注力する。このサポートの基盤として3つの重要なインサイトがあり、その焦点は次のとおりである。
- 仮想化とオープン性
- 統合されたコミュニティー
- エクスポネンシャル・ツール
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科学とデータ主導のイノベーションで新たなビジネス・チャンスをダイナミックに発掘し、競争優位を実現する方法についてぜひ詳細をご覧ください。
著者について
John Granger, Senior Vice President, IBM ConsultingTeresa Hamid, Chief Technology Officer and Vice-President for Business Transformation Services, IBM Consulting
Tetsuya Nikami, Senior Partner and Japan Chief Technology Officer and Cloud CTO, IBM Consulting
Glenn Finch, General Manager and Global Leader, Cognitive Business Decision Support, IBM Consulting
発行日 2021年10月14日