サプライチェーンの未来を切り拓く
サプライチェーンに大きな注目が集まっている。パンデミックによる混乱は、サプライチェーンが内包する複雑性、さらに、社会・経済に与えるインパクトの大きさを再認識させた。インフレ圧力など、顕現化しつつあるさまざまな要因により、その注目度はさらに高まりつつある。サプライチェーンのリーダーはサステナビリティーや適応力、価値創出といった、これまでにないタイプの要求にさらされている。これは新たなリスクであるとともに好機ともなりうる。
こうした激変する環境の中、IBMのビジネス・シンクタンクである「IBM Institute for Business Value(IBV)」は、大手企業数十社からサプライチェーン担当の幹部を招き、話を伺った。オープン・フォーラムと、経営層に関する定量的調査の広範なデータから、IBVは2022年以降、サプライチェーン・リーダーにとって必須となる5つのポイントを特定した。
この5つのポイントには、サプライチェーンを未来へ向け構築していく上で目指すべき戦略が凝縮されている。顧客や社員、株主、さらには社会全体からは差し迫った、新たなニーズが次々と寄せられている。こうしたニーズに対応するためには供給体制を再構築する必要があり、DXや、サステナビリティー、ワークフォースの進化が期待されている。
この難題に立ち向かい、より多くの価値を生む戦略的なイニシアチブを採用すれば、最高サプライチェーン責任者(CSCO)は個人としても組織としても他と一線を画す存在となることができる。
サプライチェーンを刷新するために、CSCOはテクノロジーを活かしたさまざまなツールを活用している
プレイブックの必須項目 1:サプライチェーンの適材確保
優れたサプライチェーンには、デジタルの未来を担うスキルと才能を備えた優れた人財が必要である。しかしパンデミックが発生したことにより、働き方は変化し、スキルや人財が不足するようになった。そのためリーダーはサプライチェーンのプロセスを再検討し、新しいテクノロジーを活かした新たなプロセスを再構築する必要性に迫られている。
プレイブックの必須項目 2:ビジネスモデルを変革し最高の顧客体験を提供
顧客体験の向上を図る取り組みは、サプライチェーン・リーダーが将来成功するために不可欠だ。その一環として顧客の要求やニーズを満たすために、AIを活用して自動化されたワークフローを構築しており、その中には変化を予測するインテリジェント機能が組み込まれている。これらのインテリジェント・ワークフローにより、バリュー・チェーン全体でデータに基づいた迅速な意思決定が可能になる。
プレイブックの必須項目 3:サステナビリティーを取り入れる
サステナビリティーとステークホルダー資本主義を重視する経営陣は、サプライチェーンのリーダーに対し、環境や社会への貢献を果たしながら企業利益の拡大に努めるよう求めている。アナリティクスを活用すれば、サプライチェーン・ネットワークの無駄を省き、消費と調達活動のバランスがとれるだけでなく、思わぬ変化にも柔軟に対応できるようになる。
プレイブックの必須項目 4:自動化への投資
ロボティクス(ドローン、ロボット)やロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、インテリジェント・ワークフローを活用して、物理的業務を自動化・デジタル化すると、社員が生み出す価値は大きく増幅される。サプライチェーンの業務で人間とテクノロジーを最適な形で組み合わせる方策に乗り出すCSCOも出ている。具体的には、人財のリスキリングを最優先にして取り組み、アナリティクスやワークフローのモニタリングなど付加価値の高い仕事を任せるといったことだ。
プレイブックの必須項目 5:リスクへ備える
企業は、レジリエンスを高めてリスク管理を強化するため、リアルタイムの需要・供給データの活用を推進し、サプライチェーンの強靭化に努めている。オペレーティング・モデルはテクノロジーを使ったワークフローを活用し、予測可能な事態へ先手を打つモデルと、不測の事態へ柔軟に備えるモデルの双方が登場している。本レポートでは、CSCOが未来のサプライチェーン構築を目指す上で必要となる戦略を掘り下げ、重要なポイントを解説している。
著者について
Karen Butner, Global Research Leader, AI Automation, Supply Chain, Virtual Enterprise, IBM Institute for Business ValueJonathan Wright, Managing Partner, Supply Chain and Finance Transformation, Sustainability, IBM
Sheri Hinish, Sustainability Services Lead, Enterprise Sustainability Offering Workflow Leader, IBM
発行日 2022年6月12日