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高齢化と忍び寄る孤独 迫りくる危機への取り組み

孤独が寂しさに変わると、特に高齢者にとっては有害であり、悲惨な結末を迎えかねない。

本レポートのオリジナル版を発表して以来、私たちはCampaign to End Lonelinessをはじめとする有識者と議論を続けてきた。 この団体は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延する中で、友人や家族、隣人と良好な関係を維持するための具体的なアドバイスを行っている。

私たちの当初の研究テーマは、高齢者が地域社会やその人々とより良い関係を保つにはどうすればよいかを探ることだった。 しかし2020年初頭の今、高齢者だけでなく、世界の多くの人々にとって、孤立と孤独の脅威が身近に迫りつつある。それは感染症の流行を遅らせるために、物理的・社会的距離を置くことが、さらには社会と隔絶することが、突然誰にでも必要な状態になったからだ。

新型コロナウイルス感染症が蔓延する現代のような不確実な時代においては、常に孤独がつきまとう。物理的なつながりがなく、バーチャルなつながりだけが求められる状況下においてはなおさらだ。現在、孤独を感じているあらゆる年代の人々にとって、救いの手立てとなるのは必然的にテクノロジーを中心としたものになるだろう。

そこで私たちは、すべての年齢層のために、新たな思考をもって、かつての常識を疑い、孤独との戦いを広範囲にサポートすることを、そして将来にわたって人々の孤独を軽減することを目指している。

人は誰しも時には世間の喧噪を離れ一人になり、心身ともに疲れを癒し、新たな活力を取り戻すべく、ほっと一息つきたいと思うことがある。しかし、一人の時間があまりに長く孤独を感じるようになると、とりわけ高齢者には有害で、取り返しのつかない結果を招く恐れがある。

たいていの人にとって孤独は、社会的交流に対する満たされない欲求(アンメットニーズ)から生じる。単に人とのつながりが不運にも途切れるというだけではない。さまざまな病気や社会的問題を引き起こす予兆であり、家庭のみならず、業界、ひいては社会全体にマイナスの経済効果をもたらす原因ともなる。どの程度人と交流する必要があるのかは個人差があるにしろ、将来の凋落につながる危険性をはらむ孤独は、人生の晩年になればなるほど誰にでも訪れるのではないだろうか。

高齢者の増加は世界的な周知事実であり、関連資料も多く発表されている。最近の国連のデータによると、2050年には世界の6人に1人が65歳以上になり(16% )、2019年の11人に1人(9%)から大きく増加する。 その時、ヨーロッパと北アメリカに住む人の4人に1人が65歳以上となっていると予想される。

そして80歳以上の高齢者は、2019年の1億4,300万人から2050年には4億2,600万人となり、3倍になると予測される。高齢者の増加は、本人が社会的ネットワークを再構築・再生したくても、その手段も資金もないような“孤独な人々の増加”に直結する可能性がある。

報道機関も、この高齢者の間で増大しつつある孤独が引き起こす深刻な問題を認識している。Washington Post、New York Times、National Public Radio局、Japan Times、Guardianなどのメディアはいずれも近年、高齢化が社会に及ぼす影響に警鐘を鳴らしている。

この問題は、個人や家庭だけにとどまらず、そのもたらす結果次第では医療専門家や企業、支援団体および政府機関にも影響が及ぶ。実際、2018年1月、英国では世界で初めて「孤独担当大臣」なる役職が設けられた。

現在、多くの関係者がその影響を軽減するために努力を重ねている。この問題の規模や、現時点における介入策および今後の解決策に向けたアイデアをより確かなものとすべく、我々は6カ国の各分野を代表する専門家50人にインタビューを実施した。

その結果、医療専門家、ソーシャル・ワーカー、学術研究者、科学技術者、消費者およびデバイス製造者、高齢者市場に焦点を当てたソフトウェア開発のスタートアップ企業、支援団体、政府当局者から成るグローバル・グループから独自の洞察を得ることができた。

本レポートでは、以降5つの重要項目に焦点を当て詳しく説明する。​​​​​​​

  • なぜ組織は高齢化と孤独を理解しなければならないのか
  • 何が原因で人は孤独を感じるのか
  • 孤独を和らげることが、なぜそれほどまでに難しいのか
  • 高齢化社会でいかに孤独を軽減するか
  • 今後の解決策に向けたガイドライン

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著者について

Heather Fraser

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, Global Lead for Healthcare and Life Sciences, IBM Institute for Business Value

発行日 2018年3月2日

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