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コストセンターから価値創造の主役へ

CEOのための生成AI活用第2弾 ー カスタマー・サービス

生成AIは過去のどのテクノロジーとも異なっています。瞬く間にビジネスと社会を揺るがす存在になりつつあり、リーダーはこれまでの想定や計画、戦略の見直しを迫られています。

こうした変化にCEOが対処するための一助として、IBM Institute for Business Valueは生成AIの調査に基づくガイドをシリーズ化し、12のテーマごとに公表しています。内容はデータ・セキュリティーからテクノロジー投資戦略、顧客体験にまで及びます。今回は第ニ弾として「カスタマー・サービス」をお届けします。

 

組織の中で、カスタマー・サービス以上に、生成AIの成果を確実に得られる部門はありません。


カスタマー・サービス担当者と顧客とのやりとりにAIツールが加わることで、企業は習熟度の高い顧客対応実現の新たな方法と、確かな価値をもたらす機会を得ることができます。

 

IBVが考える、すべてのリーダーが知っておくべき3つのこと:

 

そして、すべてのリーダーが今すぐ実行すべき3つのこと:

 

 

リーダーが知るべきこと1ー 「戦略+生成AI」

カスタマー・サービスが、他の部門を飛び越え、CEOが優先する生成AIの活用領域のトップに立ちました
 

ほんの3か月前までCEOたちは、もっとも即効性があり価値を生む生成AIのユースケースは研究、イノベーション、マーケティング、リスク・コンプライアンスだと語っていました。ところが今日では、カスタマー・サービスが他の部門やサービスを抜き去り、そのトップの座に躍り出たのです。

こうなった一因として、あらゆるステークホルダーがCEOたちに、生成AIを導入するようにプレッシャーをかけるようになったことが挙げられます。半数近くのCEOが、生成AIの加速度的な導入を顧客から求められていると回答しています。顧客は、パーソナライズされた回答を迅速かつ簡便なかたちで求めるようになっており、カスタマー・サービスにおけるAI搭載のボットは有用であるだけでなく、必要不可欠なものになっています。

CEOは、生成AIにカスタマー・サービスを変革する力があると認識しています。様々なメリットが見込まれますが、まず挙げられるのが、応答時間の短縮、顧客体験全般の向上です。

ただし、これらのメリットを実現するには、人材の強化から始めなければなりません。

CEOの3分の2近く(63%)が2023年末までに、カスタマー・サービス担当者への直接的な支援のため、生成AIへの投資を実施すると回答しています。これには、生成AIを担当者の教育に活用することや、担当者が生成AIアプリと直接やり取りできるようにして、現場ですぐ利用できる支援機能を向上させることなどが挙げられます。
 



 

どのようなかたちで導入するにせよ、カスタマー・サービスは常に信頼と信用に基づいて設計されなければなりません。生成AIを顧客対応の支援に活用する一方で、担当者には、人間ならではの当意即妙な対応が求められます。

 

リーダーが実行すべきこと1ー 「戦略+生成AI」

生成AIツールをカスタマー・サービス担当者に提供し、彼らの能力を飛躍的に高めましょう

 

カスタマー・サービス担当者を定型的な問い合わせから解放し、もっとも必要とされている、よりパーソナライズされた顧客エンゲージメントに注力できるようにしましょう。これこそが、組織が顧客により高い価値を提供し、ブランドの差別化を促進し、カスタマー・サービスをコストセンターから収益を加速度的に生み出す部署へと変革するために、すぐに取り組めることの一つです。
 

  • カスタマー・サービス担当者の体験を向上するユースケースを優先しましょう。その中にはもちろん、手間のかかる手作業の自動化が含まれます。さらに担当者が、生成AIを活用して、製品やサービスに関する質問に答え、お勧め商品を提案できるようにしましょう。また通話内容やその要約に素早く簡単にアクセスできるようにしましょう。即時翻訳も利用しましょう。さらに担当者が個別アナリティクスに基づくコーチングを生成AIから受けられるようにしましょう。
  • 標準的な顧客とのやり取りは生成AIにまかせましょう。そして、より複雑でデリケートな問い合わせを担当者に取り次ぐようにします。担当者に高度な教育を施し、入念に育成しましょう。共感力を持たせることはもちろんですが、不満を抱く顧客を企業のファンに変えられるように、きめ細やかなおもてなしを含むサービス提供ができるビジネス感覚を養うことが必要です。
  • 顧客をウソでごまかしてはいけません。生成AIによるボットを利用していることは、正直に顧客に伝えましょう。そして顧客が求める場合は、無条件で人間の担当者にコンタクトできるようにしましょう。

 

リーダーが知るべきこと2ー 「従業員+生成AI」

経営幹部の85%が「今後2年間で生成AIが顧客と直接やり取りするようになるだろう」と回答しました

 

経営幹部の60%以上が年内に、対話型AIのレビューやテスト、訓練といった最適化に生成AIを活用する予定だと答えています。しかし、生成AIをビジネスの最前線に置くことは大きなリスクであり、顧客との対応を誤ればブランドに致命傷を与えかねません。

顧客とのコミュニケーションに生成AIをすぐにでも導入したいと、リーダーは思うかもしれませんが、その前に、リーダーは生成AIがどのような問題を解決することが得意なのかを理解し、人間の担当者の、顧客とのやり取りから学んだことを活かすべきです。懸念は尽きませんが、ボットが有害もしくはブランドにそぐわない回答を提示するのではないか、透明性や監査可能性の課題は解決できているのか、社会的責任の理念に反してしまうのではないか、と言ったことが、すぐにCEOの頭に浮かぶのではないでしょうか。
 

 

教師なし学習で学んだ生成AIは、少なくとも初期段階では、理想的とは言い難い結果を生み出す可能性があります。その場合、暴走を防ぐガードレールを提供するのが人(カスタマー・サービスにおいては担当者)です。人は、AIが可能にすることを強化し、同時に、AIが生み出す誤った情報を止める役割を果たします。そして生成AIがより洗練されていけば、人は顧客との感情的なつながりを強めることができ、そこから、新たな洞察や機会を生むことができます。つまり人にAIをプラスすることが、企業の付加価値を向上させる勝利の組み合わせなのです。

 

リーダーが実行すべきこと2ー 「従業員+生成AI」

生成AIを活用して、これまで不可能と思われた次元まで深く顧客を理解しましょう

 

カスタマー・サービスにおいて、生成AIの高いリスクを克服し、その大きなメリットを獲得するために必要なのは、傾聴とテストであり、その上での活用です。
 

  • 顧客と生成AIとの直接のエンゲージメントに投資しましょう。しかし、やみくもに投資してはいけません。まず、組織にとって最もリスクの高い課題は何なのかを見定め、それらを軽減するために生成AIのユースケースをどう設計すればよいかを探ることから始めましょう。
  • 生成AIを調査ツールとして活用しましょう。カスタマー・サービスの個々のやり取りにおける感情評価の数値を収集、分析するのに利用しましょう。その際に、顧客の主要な関心事を扱う、低リスクで低労力のユースケースから始めましょう。また、現在の自社ブランドを差別化するものが何かに着目し、AIが組織の独自性をどのように強化できるかに目を向けましょう。
  • 生成AIは、顧客との対話やエンゲージメントのためだけではありません。イノベーションを推進するためにも活用しましょう。顧客との新たな機会を掘り起こし、カスタマー・サービスの成功事例を追跡し、自動のアプリケーションが顧客ライフサイクル全体で売上や顧客ロイヤルティーにどのような影響を与えるかを確認しましょう。データ・ガバナンスの取り組みも見直しましょう。


リーダーが知るべきこと3ー 「実験+生成AI」

カスタマー・サービスに生成AIを試験的に導入することで、生成AIの全社的な展開を加速できます

 

コールセンターには、まだ十分に変革できる余地が残されています。ロックダウンの時は、カスタマー・サービスにかなり自動化の余地があることが明らかになりましたが、一方で私たちは人間らしい対応の不足にも悩まされました。そうした中、生成AIの利用は、自動化と人間らしさの両方の良さを活かすものです。そして自動化と人間性を組み合わせに成功したカスタマー・サービスは、一種のPoC(概念実証)として働きます。その成功は、これらの新たなツールが従業員満足、顧客エンゲージメント、収益向上といった領域にどう寄与できるかを、社内の他部門に示すものとなります。
 

 

生成AIを使用すると、自動応答は改善され、より自然な会話に生まれ変わり、その結果、組織内の他の部署でのサービスを向上するためのよい実例を作ることができるでしょう。また、ほとんどの組織は、生成AIに対する必要性と機会がまだ未開拓の状態にあります。例えば、大半の企業は、カスタマー・サービスのボットのレビューや再トレーニングが不十分だと報告しています。また問題が発生したとき、迅速に顧客に注意を促す働きかけができていると答えた企業はわずか半数に過ぎません。

 

リーダーが実行すべきこと3ー 「実験+生成AI 」

カスタマー・サービスでの生成AI の実装体験から、成功事例と学びを得て、活用しましょう

 

生成AIは、単にテクノロジーの問題ではなく、従業員に関わることです。そのため、カスタマー・サービスでの目に見える実例が、企業全体に変革を促すきっかけとなります。
 

  • カスタマー・サービスを生まれ変わらせましょう。カスタマー・サービスをトラブル解決の場からイノベーションのハブへと変換しましょう。カスタマー・サービスでの生成AIの活用を、測定、最適化、拡張が可能な成果ベースの実験の場へと進化させ、他の領域にもすぐに応用できる可能性のある個々の学習をパッケージ化しましょう。
  • 生成AIの成功事例を公表しましょう。さらに個人レベルや部署レベルでの模範的な成果を共有しましょう。他の部署の従業員に対し、生成AIが顧客体験だけでなく、従業員の環境も改善することを強調し、この新しいAIの機能からいかに恩恵を受けられるかを実例で示しましょう。
  • 従業員を奨励し、モチベーションを高めましょう。生成AIが初期のユースケースにとどまらず、日常業務にどのように役立つのかを探らせましょう。従業員の一人ひとりが、生成AIのユースケースにつながる新たなアイディアやアプリケーションを生み出せるよう、ゲーム要素を組み込んだ機会を提供しましょう。

 

本ページに記載されたインサイトは、IBM Institute for Business Valueがオックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)社の協力を得て実施した、生成AIに関する3つの独自調査で得たデータに基づいています。第1回調査は米国を拠点とする企業の200人のCEOが回答し、第2回調査は米国、英国、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、インドの企業の369人の経営幹部から回答を得ています。いずれの調査も2023年4月から5月にかけて実施されました。第3回調査は18カ国の108人の経営幹部から回答を得たもので、2023年7月に実施されました。

 


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発行日 2023年8月1日