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気象データがもたらすビジネスインパクト予測の衝撃

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AIやIoTなどのテクノロジーの進化により、気象データを活用した新しいビジネスや既存ビジネスに変革が起きている。「天気」はさまざまなビジネスに多大な影響を与えるが、現在、そのデータは企業においてどのように利用されているのか。具体的な事例や活用法について、企業向けに気象データと気象のビジネスへのインパクト分析に基づくソリューションを提供する「The Weather Company」の事業責任者と、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)に所属する気象予報士に話を聞いた。

加藤 陽一

加藤 陽一
ザ・ウェザーカンパニー ジャパンリーダー(事業部長)

 

網野 順

網野 順
日本アイ・ビー・エム株式会社 ワトソン事業部 アジア・太平洋気象予報センター センター長 気象予報士

 

気象の変化によるビジネスインパクトを予測する

──まず、お二人のプロフィールや役割についてお聞かせください。

加藤 気象データと気象のビジネスインパクト予測に基づくソリューションを提供する「The Weather Company(以下、TWC)」の日本エリアにおける統括責任者を務めています。TWCでは、クライアントである企業に精度の高い天気予報や気象データをお届けするだけでなく、お客様が気象データを活用してビジネスリスクやロスを低減したり、新たな価値を創出することができるように支援するコンサルティング的要素が強いサービスを展開しています。

網野 TWCでは、アジア・太平洋エリア、北米南米エリア、ヨーロッパエリアに各々気象予報センターを設置し、世界中の気象データを収集しています。私はアジア・太平洋気象予報センターのセンター長として、気象予測データ生成の責任者という役割を担っています。私自身、気象予報士の資格も保有しています。

――IBMでは、 2017年3月から気象データを提供するサービスを開始しています。なぜ気象データを扱うビジネスに参入されたのでしょうか?

加藤 IBMでは「Weather Means Business」という言葉を掲げ、気象データをビジネスで活用する方法を提案しています。どのような業種のビジネスであっても、何かしら必ず直接的・間接的に天候の影響を受けているものです。だとすれば、気象予報の先にあるビジネスインパクトを予測することで、ビジネスロスの低減や新たなビジネス機会発見につながるソリューションを提供できるのではないか。そこに、IBMならではのAIやビックデータ解析の強みが生かせると考えたからです。

気象の変化によるビジネスインパクトを予測する

具体的には、運輸やエネルギー関連、損害保険など、明らかに気象の影響を受ける業種以外にも、小売業やサービス業は気象条件により集客数や売れ筋商品の変化が起こります。また、農業、漁業、林業等の第一次産業の品質や収穫量、水揚げ量、生産量も、気温、降水量、日射量、日照時間等から大きな影響を受けています。意外に思われるかもしれませんが製造業のものづくりの品質やモバイル通信の品質、さらには特定疾患の発症も気象の影響を受けることがわかっています。

気象の変化により、どのタイミングでどのようなビジネスインパクトが生じるかを予測することで、気象情報をビジネスに役立てたいという企業のニーズに応えることができると考えています。

――ビジネスインパクトを予測するための気象情報サービスというのは、世界的に見ても珍しいのでしょうか?

加藤 一般的に気象情報サービス会社は、気象情報を各メディアに提供することを業務の柱としています。もちろん、メディア以外の業種にビジネスにおけるリスクを予想し、アラートの提供サービスを行っている企業もあります。

とはいえ、IBMが3年前に統合したTWCのように、ビジネスインパクト予測を明確に掲げ、エアライン向け、電力会社向け、損害保険会社向けなど、気象の影響を受けやすい業界別にビジネスソリューションサービスを手掛けて世界中で多くの実績を上げている企業はTWCが唯一と言っても良いと思います。

網野 ビジネスインパクトを予測するプロセスというのは、過去の気象データと企業側がストックしている過去の業務データを照らし合わせ、その相関関係を探るという作業になります。IBMには、TWCが得意としていた既存の業種以外にも、幅広い業種に向けたソリューション開発を実現したいという狙いがありました。実際、統合後は互いの強みを生かし、既存のソリューションの品質向上、また、新たな用途開発に取り組んできました。

気象の変化によるビジネスインパクトを予測する

――用途開発においては、お客様側の業務データも重要になるということでしょうか?

加藤 これまで気象の影響によるリスクヘッジ対策は、各企業が気象情報サービス会社から入手した天気予報を利用し、ビジネスへのインパクトを経験則で加味しているケースが多かったわけです。自社でデータサイエンティストを抱えて様々な業務データ分析を行なっている企業でも気象データを予測分析には加えていないところが多いようです。

網野 そこに我々が持つビックデータ解析を掛け合わせることで、よりビジネスインパクト予測の精度を高められます。例えば、電力会社にとって、送電配電網への被害発生は大きなビジネスインパクトです。台風など荒天時の電柱の倒壊や電線切断などの過去の膨大な被害発生データを読み解いて気象条件と被害の相関を見つけ出すには、人間よりもAIの方が優れています。そのようなビックデータ解析によって導き出された結果を、人間の知見や経験により最終的に精査・判断することで、予測の精度は確実に上がります。

加藤 導き出された結果を確認し、「確かにそう感じていた」と口にするお客さまもおられます。ビックデータ解析により、従来は人間の経験則に過ぎなかった相関関係が可視化され、実証されることで新たな知見に変わるわけです。そこから各企業が蓄積してきた知見を加えて、新たなビジネス機会の導出につながります。

――何かしら、思わぬ相関関係が導き出されるケースもあるのでしょうか?

加藤 例えば、ある医療機関でデータ解析の知見を持っている先生からの依頼に基づき特定疾患の発症に関するデータと気象条件の関係を分析した案件があります。ある特定の疾患の発症リスクについて、従来は「比較的高温時に発症しやすいとする説」と「比較的低温時に発症しやすいとする説」があり、専門医の間でも意見が分かれているという話でした。

気象の変化によるビジネスインパクトを予測する

データを分析した結果、疾患の発症と相関の高い気象項目が浮かび上がりました。それは体感温度です。これは気温だけでなく湿度や風速など、複合的な要素から算出される、「体が感じる」温度です。疾患発症頻度との関係をグラフ化した結果、高温時と低温時の双方で発症ピークがあることが明らかになりました。つまり、従来の二つの説は両方正しいと実証されたわけです。

網野 我々のデータ解析では、企業の過去何年分、何十年分という膨大な蓄積データを分析することができます。AIによって学習させた企業側のデータと、TWCが保有する過去の気象情報データを掛け合わせることで、そうした意外な相関関係を見つけ出せるのです。

 

24時間365日気象予報士が常駐。日本およびアジア太平洋地域の企業に正確な気象予報データを提供

――気象データを活用したことで、ビジネス成果が上げられた事例を教えてください。

加藤 エアライン向けソリューションを例にあげると、飛行ルート上の乱気流や荒天の精度の高い予測から航空機への負荷や安定性が改善され、アドホックな保全検査を約4割減らし、乗員・乗客の傷害も大幅に減らすことができました。
また、飛行ルート上や行き先の空港の天候状況だけでなく混雑予測がきめ細かくできるようになったことで、欠航便数を約11%削減できたという実績もあります。さらに、企業の過去の業務データと気象データを掛け合わせAIを活用した分析をすることで、クライアントは具体的なROI(投資対効果)を導き出せます。これは気象予測サービスを提供しているだけの会社では難しく、IBMだからこそ可能な精緻なビジネスインパクト予測だといえます。

24時間365日気象予報士が常駐。日本およびアジア太平洋地域の企業に正確な気象予報データを提供

――TWCでは、どのような気象データを提供しているのでしょうか?

網野 昨年3月に、日本の気象庁から気象予報業務の許可を取得し、IBM本社内に米国、欧州に続く3拠点目として「アジア・太平洋気象予報センター」を新設しました。24時間、365日気象予報士が常駐し、日本およびアジア太平洋地域の企業向けに正確な気象予報データの提供を行っています。

TWCの気象予報は、気象衛星やアメダス等の公的機関によるデータ、世界各地に散在する25万カ所以上の観測地点から収集する気象データ、世界各国の気象予報機関が保有する162に及ぶ気象モデル(シミュレーター)の予測データをもとに生成しています。地点ごとの予測モデルを「重み付け手法」で評価することで、より高い予測精度の実現を目指しています。1時間ごとの気温や湿度、降水量など基本的な気象データのみならず、風速や海面水温など気象状況に関わるさまざまなエレメンツを網羅して情報を集めています。

――今後、どのような業務や業種において気象データが役立つとお考えでしょうか?

加藤 現在、TWCの気象情報サービスを利用されている企業は、メディア企業をはじめ航空会社、エネルギー関連企業など多岐にわたりますが、あらゆる業種において気象データのビジネス活用は有効だと考えています。

小売業においては商品需要の予測、ロスの少ない在庫プランや効果的販促活動の計画、製造業では原料や資材の最適な調達量を予測や製造品質向上につながる示唆を得ることができるようになるでしょう。また、先ほど例に挙げた医療・医薬業界では、気象条件による医薬品の効き目の違いを分析することで、医薬品の開発に役立てられるはずです。その他にも、第一次産業や建設業、サービス産業、損害保険等の保険業界など、多くの業種に向けて有効な提案をすることができます。

網野 メディア、エアライン、エネルギー関連など特定の業種の企業に向けては既に業種向けアプリケーションソフトを用意していますが、今後、さまざまな業種に展開していければと思っています。現在、お客様にはAPI経由で気象データを提供していますが、エリアでは半径500m単位、時間では1時間単位、期間では15日先までの詳細かつ緻密な情報提供が可能です。

加藤 今後も気象情報データのみを活用するだけではなく、各企業と共にビジネスインパクトの予測モデルを構築するサービスを業種・業務毎の”Forecast as a Service”としてより充実させていきたいと考えています。

 

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