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THINK Business

持続可能なプラットフォーム・エコノミーの実現に向けて

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関根 亮太郎

関根 亮太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
事業戦略コンサルティング・グループ
アソシエートパートナー
慶應ビジネススクール (MBA) “デジタルテクノロジーと経営” 非常勤講師

外資系コンサルティング会社数社において、事業戦略、既存事業の変革、マーケティング戦略、IT戦略など幅広いテーマを担当。
2014年にIBMに参画後、近年はブロックチェーン、AI/アナリティクスなどの先端テクノロジーを活用した新規事業戦略立案、国・業界を超えたプラットフォーム戦略、企業がイノベーションを起こすための仕組み作り等に従事。社外においても、国際連合における国際会議の場への登壇、慶應ビジネススクールにおける講義等を通じ、デジタルテクノロジーの社会への適切な普及に向け、積極的に活動している。

 

デジタル・テクノロジーを活用したプラットフォームビジネスが、民間と公共機関の双方において脚光を浴びている。その一方で、サービス・ビジネスモデルのもろさや問題点も指摘され、仮に「実証実験」を終えたとしても、ビジネスを持続し、継続的に発展させることが困難な状況が多発しつつある。本記事においては、筆者の経験も踏まえ、そのような状況を乗り越えるためのポイントを解説する。

 

デジタルビジネスは「破壊」から「適応」の時代へ

AI、IoT、ブロックチェーン、クラウド、量子コンピューティングなどのデジタル・テクノロジー活用は、企業の課題解決から、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に代表される社会課題解決まで、適用への期待が高まってきている。特にここ2、3年は、SDGsへの協賛をうたう企業も増えてきたと認識している。

筆者自身も、昨年2018年に引き続き今年も国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の国際会議に参加し、IBMの事例を元に、ブロックチェーン活用によるユースケースやガバナンスモデルの設置の重要性などについて講演させていただいた。

所感として、発展途上国の経済的発展、性差別や教育格差の是正など、SDGsを解決するための具体的なデジタル・トランスフォーメーションの絵姿を見据えたうえで、必要となるネットワークインフラのロードマップの議論ができる状況になってきており、デジタル・テクノロジーの持つ価値に対する理解は確実に深まってきていると言える。

その一方で、子供達が不適切なコンテンツに簡単にアクセスできてしまう「Information Abuse」における問題や、仮想通貨、クロスボーダー決済におけるマネーロンダリングへの対応など、法規制・ルール作りにおける問題意識が高まってきているとの所感を得た。

一般的にデジタルを活用した新規サービスは、デザイン・シンキングなどの手法を用いて顧客課題を把握した後に、リーン・アジャイル方式による開発・顧客検証を繰り返し、顧客の声を聞きながら、徐々に市場に適応させていくアプローチを取ることが多い。

しかしながら、昨今においては、「実証実験」と呼ばれる検証フェーズまでは到達するものの、上記のような問題も関連し、そこから先の商用化フェーズへの移行に至らない、又は、仮に商用化したとしても、諸々の問題により、早期にサービス終了に追い込まれるケースも多く見受けられるようになってきている。

実証実験から先に進まないといった事象はプラットフォームビジネスのみでなく、DXの取り組み全般に多く見られる。そのため、筆者はDX全体を俯瞰し、確実な推進を促すため、以下のDX Strategy Frameworkを開発した。

今回の寄稿においては詳細を割愛するが、ポイントとしては、今まで経営・業務課題解決の「手段」であったData(IT)を、価値創出の中心、心臓部に位置付けた上で、周辺の4つの重要論点「Economy」「Experience」「Employee」「Enterprise」のとの関係性を整理し、企業の実態に合わせた検討アプローチを網羅的に議論するためのものである。加えて、企業外部のステークホルダー向けにビジネスを創出するエリアを「Business Platform」、企業内部を強化するエリアを「Management Platform」と呼び、使い分けている。

DX Strategy Framework 4E+D
出展:IBM

 

たとえば、以下に示すように、デザイン・シンキングを活用した顧客価値(Experience)創出に向けたサービス検討手法(アウトサイドイン)は、多くの企業が取り入れるようになってきたという所感ではあるが、加えて自社にとっての収益化、ガバナンスモデルの運営方針、必要データの獲得方法/安全性、デジタル人材確保まで十分に検討できている企業は稀であろう。
従って、データを中心に据えた検討を実施し、その後周辺要素を検討するインサイドアウト、又はアウトサイドインとのハイブリッド・アプローチを、個々の企業の現状に合わせて検討する必要がある。

Poc病、サービス実運用に向けた壁(例)
出展:IBM

 

上記を踏まえ、デジタルビジネスを商用化フェーズに安定的に移行するための要素として、今回は「1: ビジネスモデルのリスク軽減」「2:持続的なガバナンス戦略の策定」「3:信頼できるテクノロジーの確保」の3点について触れてみたい。

 

1:ビジネスモデルのリスク軽減

プラットフォーム型のビジネスで比較的多く見られる「使った分だけ課金される」サブスクリプション型の、課金単価の安いビジネスモデルは、顧客にとってサービス利用の心理的障壁を下げるとともに、サービス提供企業にとっては顧客獲得コストを最小化させ、サービス提供企業と顧客の双方にメリットがあるようにみえる。しかしながら、いつビジネスがスケールするのかわかりにくく、投資回収が非常に予測しにくいモデルでもある。

個人が単発で仕事を請けて収入を得る「資産を持たない」ライドシェア型の新興ビジネスにおいても、ビジネス遂行上の安全性担保が指摘されてきている。米国カリフォルニア州においては、UberやLyftなどで働くドライバーを企業の従業員として扱う法案が可決され、これにより労働者の権利が保護される一方で、企業の負担額が増加するなど、規制の変化がビジネスモデルに及ぼす影響も大きい。

さらに、企業をターゲットとしたBtoB型のプラットフォームビジネスを展開しようとする場合は、利用する個々の企業の複雑な業務課題・ニーズに丁寧に答えていかないとサービスを使用してもらえない難しさがある。そのため、プリセールス、サービス導入、保守などのサービスには必然的に費用がかかる。加え、顧客の基幹業務や社会インフラのような仕組みを支えるミッションクリティカルなプラットフォームを一度構築すると、場合によっては事業から撤退すること自体も難しくなる。

結果として、当初想定の事業計画に対し、気がつけばマーケティング・営業、システム改善・運用などのコストなどが肥大化し、当初想定した投資対効果を享受できないケースが発生し得る。

そのような状況を打破するためには、規制対応シナリオの策定、定額課金や、オンボーディング・サービスなどの付加価値サービスの有償化を含むプライシングモデルの最適化、明確な撤退戦略の策定、事業計画の軌道修正を柔軟にするための顧客分析の仕組み、などの慎重な検討が必要になる。
特に、顧客要求が複雑となるオンボーディングなどのサービス領域に関しては、自社の提供領域を最小限に抑え、業界に特化したシステム・インテグレーションベンダーとのアライアンスを活用することが重要となる。

 

2:持続的なガバナンス戦略の策定

前述のように、プラットフォーム型ビジネスにおいて、他の業界・企業との協業、エコシステムの形成は重要であるが、その推進のために、「コンソーシアム」を組成するケースが多い。その際において、各種意思決定の仕組みや標準ルールなどを規定・運用する「ガバナンスモデル」の策定が重要となる。

GAFAなどの、中央集権的なプラットフォームをグローバルレベルで一方的に構築してきたプレーヤーであっても、昨今は個人情報保護に加え、市場寡占や租税など様々な観点から、規制当局のターゲットとなっていることは記憶に新しい。

たとえば、仮想通貨の「Facebook Libra」は既存の法定通貨に代わるグローバル通貨の導入に向け、多くの著名な協賛企業を交え「リブラ協会」をスタートしたが、直ちに米国の規制当局の警告を受けて協賛企業が減少し、現在では決済の主要プレーヤーであるVisa、Mastercard、PayPalなどが脱退するに至った。
社会的インパクトが大きい決済の仕組みであったため、立ち上げ当初から業界で著名な企業を多数募り、周辺を固めることで規制当局の反発に備えたと想定されるが、その反発はFacebookの想定以上だったであろう。

従って、現状は既存業界を凌駕する可能性のあるアイデアであっても、現行の法規制も考慮した上で、巻き込むべきプレーヤーを適切に選定、ガバナンスモデルを構築しないと、ビジネスの推進上大きなインパクトを与えてしまう。

実際には、ガバナンスモデルはサービスの発展状況に応じ、時系列的に変化させる必要があり、そのための「ガバナンス戦略」が重要になる。以下において、ブロックチェーン活用によるコンソーシアムの成長シナリオの一例を示す。

コンソーシアム ガバナンス戦略
出展:IBM

 

設立時:
ブロックチェーンなどの新規技術の活用が前提となっているコンソーシアムにおいては、当該技術を熟知している創業メンバー中心にサービス企画から意思決定まで担う中央集権型(Founder-Ledモデル)が向いている。
創業メンバーは意思決定やサービス開発、実証実験など多くの側面でコンソーシアムをリードする。創業メンバーの選定においては、業界全体への影響力、必要なリソースの保持(資金、人、テクノロジー)、現状の取引関係などの観点を考慮し、最小限のメンバー構成とすることが好ましい。

その上で、コンソーシアムが解くべき業界課題・目的を明確にし、ビジョンを共有する。具体的には、業界横断で新規市場の創造か、又はサプライチェーン全体のコストを下げるのか、共通リソースを共有して業務効率を上げるのか、などがあげられる。

その目的に紐づくユースケース群を、デザイン・シンキングの活用、加え法規制対応シナリオ等を考慮し策定、初期活動計画に落とし込む。

商用化:
初期ユースケース・サービスの開発が進み、商用化の目処がついた時点で、コンソーシアムのメンバーを積極的に増やし、コンソーシアムを成長させる必要があるが、一方規制当局の目が厳しくなるタイミングでもあり、最新の注意を払う必要がある。その際に重要になってくるのが、中央集権型から徐々に脱却することであり、まずはコンソーシアムの意思決定機関と執行・運営を明確に分離することが重要になる。

具体的には、意思決定機関は提供サービスに関わる規制対応やルール策定、ビジネスモデル策定、技術標準策定などを行い、執行・運営機関はブロックチェーンなどの製品サポートやオンボーディング、コンソーシアムのイベント運営などの実務を担当する。IBMはテクノロジー・プロバイダーであるため、執行のポジションを取ることが多い。

また、意思決定をより迅速にするため参加メンバーによる共同出資でJV(ジョイントベンチャー)の形を取るケースもあるが、JV参加メンバーにより意思決定が寡占化されることで、新規メンバーの参画を妨げる可能性があり、JV設立においては慎重な検討を必要とする。参入障壁の高い、極めて限定的なユースケースを運用する場合においては、有効なのかもしれない。

成長期:
コンソーシアムメンバー増加とともに、創業メンバーによるコンソーシアムメンバー獲得に限界が見え始めるタイミングでもある。その場合、メンバーが参加しやすくするために、分散型の意思決定モデルの仕組みを導入することが有効である。意思決定機関においてはメンバーシップ、投票権、議決権、インセンティブ・モデル、費用負担スキームなどを見直すことで分散型モデルへの移行を促し、執行・運営面ではアライアンス・ベンダーを積極活用することで、サービス内容の拡充並びにスケーラビリティを確保する。

さらに、プラットフォームビジネスがある規模のマーケットシェアを獲得し、成熟してきたタイミングにおいては、他の国への現地法人設立による地域別展開、メンバーシップ構成を見直すことにより他業界のメンバーを取り込みユースケース拡張、などのオプションを検討することが考えられる。それでも拡張性が無い場合においては、共同出資などでコンソーシアムから一つの営利組織になり、運用効率、コスト効率を高めるという手法も考えられるであろう。

 

3:信頼できるテクノロジーの確保

デジタル・テクノロジーを活用したビジネスにおいて戦略的なデータの取得・分析・活用を行うことが必要であることは既知であるが、データは様々な外部環境からの脅威に晒されつつもある。そのため、今後はデータの安全・信頼性を担保できるテクノロジーを、ユーザーシナリオを俯瞰した上で、慎重に設計することが重要となる。

情報セキュリティ
FinTech領域では、仮想通貨やQRコード決済など、新規サービスが増えているが、同等にサイバーセキュリティの脅威にも常にさらされている。消費者も個人情報の流出に敏感になっているため、事故が起こってしまった場合、顧客の信頼を喪失し、即サービス停止に追い込まれてしまうインパクトがある。
また、情報漏洩のリスクは特定のテクノロジー領域への監視を強化することで防げるものでもない。世間を騒がせた仮想通貨の流出の事故においても、ブロックチェーン技術そのものが原因ではなかった。そのため、セキュリティの仕組みの検討においても、一つの技術レイヤーのみならず、ユーザーシナリオを強く意識し、UIからプラットフォーム、インフラまでEnd-to-Endで俯瞰し、設計する必要がある。

アクセス制御
“Information Abuse”(情報への過剰な接触)も問題視されつつある。昨今、デジタルネイティブと言われる子どもたちは、幼少期からタブレットなどのデジタルデバイスを与えられ、恩恵を受ける一方で、動画やゲーム、SNSなどを通し情報中毒になる、または、不適切な情報に接触する危険性がある。
また、今後ヘルスケアや教育などで、マイナンバーに代表されるような、生涯同じIDを活用するサービス検討も進むものと考えられるが、その際には、プラットフォーム内でのデータの取得および活用に関し、個人の「同意」を獲得する仕組みが必要となる。
このような同意取得の仕組みは、現状、プラットフォーム利用前のユーザー登録時に行うことが一般的であるが、今後は、ユーザーの情報開示が必要になるタイミングで、都度必要になる可能性が高いと見ている。
上記のように、個人情報や利用シナリオに応じて、然るべきデータのオーナー、利用者が、柔軟に情報へのアクセスを制御、許可する仕組みが必要になってくる。

処理内容に対する透明性、監査性
ブロックチェーン技術が、登録されたデータ内容を改ざんされない状態で保ち、情報の透明性・信頼性を担保する一方で、それらの情報を活用したAI技術が処理に至った判断理由に関しては、従来はブラックボックスであった。今後、人々の生活や、ミッションクリティカルな仕組みを支えていくために、AIによる判断理由の開示が必要になってくる。

相互接続性のあるアーキテクチャー
プラットフォームビジネスにおいてエコシステムが重要な役割を果たすことは前述した通りであるが、企業や公共機関がその価値を最大限享受するために、既存のインフラシステムや、他のプラットフォームとの相互接続性を考慮することが重要である。たとえばインフラ領域においては、自社でサーバー環境を用意する「オンプレミス」やさまざまなクラウド環境との柔軟な接続性は担保されるべきであるし、ブロックチェーンに関しては、他のブロックチェーンとの相互接続性も今後はサービス拡張のために必要になってくる。そのために不足している技術標準は、前述のコンソーシアムで規定されていくべきであろう。

 

俯瞰的なデジタル戦略を立案し、ステークホルダー全ての信頼獲得をすることが“鍵”となる

このように、デジタル・テクノロジー化の進展は「既存のルール」を破壊し、新しい利益や恩恵を我々にもたらす一方で、既存の社会のメカニズムとの適合性の観点から、その脆さも指摘されてきている。そのため、デジタル世界において勝ち続けるためには、網羅的なデジタル戦略を策定し、顧客、規制当局、業界プレーヤー、投資家などのステークホルダーからの「信頼」を獲得し続けることが、プラットフォームビジネス成功に向けた“鍵”といえる。

photo:Getty Images