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Smarter Business

スーパーエンジニアに聞く テクノロジーで社会とビジネスを変えるには

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「エンジニアは未来予測の水先案内人としての役割がある」。2012年から5年間、全国最大級の開発コンテストである「Mashup Awards」の事務局を担当し、今年独立した伴野智樹氏はこう語る。今回、エンジニアではないが、数多の「スーパーエンジニア」と接点を持ち、エンジニアが活躍する未来のビジョンを持つ伴野氏に、これからのエンジニアに何が求められるのかを聞いた。

Mashup Awardsでの5年間、エンジニアに「ものづくりを楽んでもらう場」を提供してきた伴野氏。「エンジニアやITクリエイターたちはアウトプットの機会やプロダクト自体に触れる経験が少ないと感じてきました。スタートアップなどの形態でない限り、どうしてもエンジニアの関与は部分的になりがちで、想像力を使うことやアウトプットの機会が限られてしまうのです。だから、楽しみながら表現をする場をたくさん作りたいと思っていました」

そんな思いから、伴野氏は数多くのハッカソンを主催してきた。その過程で、最初は東京だけのムーブメントであったハッカソンが、いろいろな地域に同時多発的にじわじわ広がっていく感覚を覚えたという。クラウドやスマートフォン、モバイルアプリケーションの広がりとともに「どこでも誰でも、低コストでものづくりに参加しやすくなった」という認識が広がった結果だ。

写真左に座って話す伴野氏

 

見据えるのは「テクノロジーが民主化」した社会

仕様に基づき開発を行うというイメージが強いエンジニア。しかし、エンジニアの働き方は変わりつつある、と伴野氏は指摘する。これからは作り手の柔軟で先進的な思考が、ビジネスをリードしていく時代だ。

1. エンジニアの民主化が起きる

これまで日本の「ものづくり」は、特定の技術を持つ企業や団体が、その専門性をもって中央集権的に取り組んできた。しかし、いまは「テクノロジーやエンジニアが民主化する」時代だと、伴野氏は言う。AIやIoT技術に代表されるように、これまで資本力や研究活動の実績を得なければ実現できなかったことが可能になっているのが、そのひとつの表れだ。ものづくり全般にエンジニアが関与できるようになったのである。

「逆にIT分野は、いままで専門分野として閉じていたわけですが、テクノロジーが民主化されることで、エンジニアの活躍フィールドがさらに広くなり、エンジニアにとって、企業に所属することが唯一の選択肢ではなくなり、フリーランスになったり、会社に勤めながらサイドプロジェクトとして地域などに貢献する人も増えるでしょう」

2. 企業ではなくコミュニティーに属する

「だから、エンジニア専用のワークスペースをつくり、コミュニティー活動の支援をしたいんです」この先の社会のあり方を見据えるからこそ、エンジニアに「より所」がなくなってしまうという不安がある。この「場づくり」が、伴野氏が独立した理由でもあるのだ。

3. サイドプロジェクトに参加する

今後は社内・社外に関係なく、さまざまな産業でエンジニアの役割が必要とされ、そのニーズに応えるべく、エンジニアのサイドプロジェクトへの参加が増えていくだろう。いまだにエンジニア不足に悩まされている企業や、IT人材の重要性に気づいていない企業は数多くあるが、派遣や外注頼みでシステムがうまく動かないという問題や、電子商取引や電子決済が本格的に導入されるフィンテックに代表される金融業界のように、これからより一層エンジニアの採用が様々な業種業態で進んでいくという。一方、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やオープンイノベーションに取り組む会社は、リソースを社内に持たず、社外に求める動きを始めている。

座って笑いながら話す伴野氏

 

イノベーションのジレンマをどう打破するか?

だが、これらエンジニアの民主化の実現を阻むものとして、日本で長く作られてきたSIer(システムインテグレーター)の文化が挙げられるという。SIerが中心となってアウトソーシングによりITシステムをつくっていく過程で、プロジェクトやマネージメントが巨大に膨れ上がることが多い。「これはリスクを取るイノベーションと真逆のあり方です。クライアントである企業は、最新の技術でイノベーティブに活動してほしいというよりも、安定的な言語やシステムで効率的にしたいというのが本音です。このような文化が邪魔になって、旧来型のマネージメントに囲い込まれてしまっているんです」

たしかに「ITは生産性や効率性を重視するもの」というサクセスストーリーは、容易に思い浮かぶ。業界でも、どのくらい効率化するのかという視点からなかなか離れられない。中期的には、新しいリスクある技術を提案するよりも、今までのやり方でいいのかもしれない。しかし、AIやブロックチェーンは新しいクリエイティブな分野であり、乗り越えなければならないギャップも大きい。その分野に食らいついていくには、エンジニアをモチベートして、新しいことにチャレンジさせなければいけない。

AI技術が躍進を見せ、概念や用語も社会に定着してきた。しかし実際にAIがどこでどのように活用できるかということについてはいまだにIT業界全体で模索中だ。いまエンジニアに求められていることは、実際のサービスを実現までもっていくまでのリードなのだ。

いままで以上に空間の中をデータが飛び交う時代になり、これまでバーチャル世界でしかできなかったことを、リアル世界でも実現できるようにするには。伴野氏は「起こっていることをリアルタイムに解析して、どう営業活動に活かすのか?」が課題だという。

「いままでは現実世界とインターネット世界が分けて考えられていたのです。例えば、Eコマースにおいては、実際の小売店舗は購買データしかわからなかった。ところが、AIなどの機械学習技術が発達して、センターデータの技術活用が発達していくと、たとえば、入店した人が何に迷ってどこで困ったのかまでわかるようになる。ある意味、リアルな世界とインターネットでしかできなかったことの分界点がなくなってきています」

エンジニアの力で、リアルの世界を変えるために「独創的なアイデア」の重要性が、今後ますます高まっていくだろう。

座って話す伴野氏

 

エンジニアがイノベーティブであるためには?

では、エンジニアはどんなアイデアを出すべきなのか。重要なのは「誰のためのアイデアか?」を意識することだ。それは、会社の新規事業のためなのか、それとも自分の興味関心を追求するためなのか。伴野氏が「ビジネスと個人の中間に位置する」と表現するMashup Awardsのハッカソンでは、参加者に「自分のためのアイデアを出してほしい」と伝え続けてきたという。自分に火をつけることで、独創的なソリューションを引き出すためだ。

これまで、アイデアやプロトタイピングの始め方としては、リーンスタートアップやデザイン思考というユーザーターゲットにフォーカスしたあり方が評価されてきた。顧客開発をし、どのようなユーザーがいるのか、そこにどのようなニーズがあるのかを分析し、ビジネスに落とし込むモデル等だ。しかし、これから重要になるのは「自分のアイディアにこだわり抜く、こだわりすぎるほどこだわる人」から出てくるアイデアなのだという。成功確率は前述の仕組みに比べて低いが、よりイノベーティブな到達点に達することができるアプローチだ。

「たしかにこれまでの風潮では、こだわりすぎるとビジネスにならないと煙たがれていました。しかし、最近ではこだわり抜いた独創的なアイデアが評価され、起業して成功する人も少なくないんです。 Mashup Awardsのハッカソンから起業した人もいます。ビジネスのために何ができるか?ということや効率性、生産性にとらわれ過ぎないほうがいいですよね。もともとエンジニアはこだわりが強い。そこを強みにしてほしいのです」

エンジニアがイノベーティブであるためには、もちろん最低限の技術習得と不断のスキルアップが必要だ。しかしそれ以上に大事なものが3つあると伴野氏は指摘する。

1. 好奇心

技術が日に日に進化していていく中、新しい技術を常にウォッチする姿勢が重要だ。その中から、自分に合うものや自分の好奇心が動く技術を見つけてみよう。

2. こだわりを持つこと

必ずしもIT業界である必要はない。例えば音楽好きの人は、近い将来、音楽業界がソフトウェアエンジニアを求めた時に飛びつけるように、切り口を考えておくなど、エンジニアは自分の好きなものに対してこだわりをもつことが大切だ。

3. 会社からいったん離れること

ハッカソンでも、フリーランスという形でもよいが、「どんなバリューが出せるのか?」ということは独創的なアイデアであればあるほど未知数となる。何度も練習し、試合をすることで飛距離は伸びる。既存の組織から離れ、自由にアイデアを出せるハッカソンやイベントに行ってみよう。

「リアルな社会にどう実装されていくのか?をエンジニアが組み立てる時、アイデアが必要になってくるのです。プロトタイプを作り上げ、トライアンドエラーを繰り返す。例えば『AIやIoTの技術をまちづくりにどう活かすか?』というテーマは、いろいろな地域で取り組まれていますが、このような発想をもっと持つべきです。未来予測の水先案内人としての役割は、エンジニアにあると、私は思います」

伴野氏が腕を組んでいる