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Smarter Business

ニューノーマル時代を勝ち抜くためのデータドリブン経営。実現に向けたアプローチ

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真藤達也 氏

真藤達也 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
コグニティブ・プロセス変革 経理財務トランスフォーメーション
パートナー

PwCコンサルティング(現:日本アイ・ビー・エム株式会社/IBM)に入社以来、一貫して経理財務領域の業務変革プロジェクトにコンサルタントとして従事。IBMのファイナンス部門の変革に関与した知見や、デジタルテクノロジーを活用したオペレーション効率化のノウハウを活かし、高度化と効率化の両面から、多くのお客様の経理財務トランスフォーメーションをプロジェクト責任者としてリードしている。米国公認会計士。

2018年に経済産業省のDXレポートが公表されてから3年以上が経過したものの、日本企業のDX推進にはいまだ課題が多く、データ活用に関する取り組みにまで踏み出せていない企業が多いのが実態である。一方、不確実性の高まるニューノーマル時代に向けて、データを活用して変化を機敏に捉え、適切なコーポレートアクションを速やかに実行することの重要性はさらに高まってきている。本稿では、それを可能にするデータドリブン経営について、必要な要素と実現手段、そして実現に向けたアプローチを解説する。

不確実性が高まるニューノーマル時代に求められるデータドリブン経営

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)の感染拡大は、企業の業績に大きな影響を与えている。収束した後に迎えるニューノーマルの時代では、不確実性がさらに高まることが想定され、各企業は、経営の意思決定のスピードと質を向上させることで、ネガティブなリスクが顕在化した環境でも生き抜くことができる強靭な経営管理体制を整備することが急務となっている。

そのためには、全社共通のファクトデータに基づいて戦略のPDCAサイクルを速めていくこと、つまりデータドリブン経営が有効となる。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)が2020年にCFO(最高財務責任者)2100名を対象に実施した「グローバル経営層スタディ第20版 最高財務責任者(CFO)の視点 」では、87%のCFOがデータを戦略的優位性の源であると回答した。中でも、AIにも投資してデータの価値を創出し、事業戦略と融合させることでベネフィットを受けていると回答したCFOが全体の8%いた。

先導者CFOと名付けた、そうしたデータドリブン経営を実現しているCFOがいる企業は、同業他社よりもイノベーションを推進して変化に対応する能力を磨き、高い業績を実現している(下記図)。

出典:IBM

データドリブン経営の実現に必要な3つの要素

データドリブン経営を実践している企業では、たとえば、地域や事業のビジネスに精通した経営者が毎朝ダッシュボードで速報値を見てトレンドを確認している。そして、気になる変化があった場合は、すぐに各事業の責任者に問い合わせて状況を確認したり、経営会議ではダッシュボードの数字を起点とした議論を交わしたりすることで、短サイクルであらかじめ定義していたシナリオを検証してデータに基づいたアクションを実行している。

そうしたデータドリブン経営の実現に必要な要素は3つ挙げられる。

1点目は、詳細な粒度でのタイムリーな見える化を実現することである。迅速な経営意思決定をするためには、全社横断で、管理に必要なセグメント別の事業状況を適正かつタイムリーに把握することが必要となる。最近では、基幹システムの刷新時に、明細レベルのデータ収集から多次元の分析までの一連が統合されたデータプラットフォームを構築する事例が増えてきている。同時に、データの収集にとどまらず、分析・洞察に対応する人材の教育や、それらに費やす工数を捻出して業務をシフトするために、既存業務の効率化や外部委託の検討も必要となる。

2点目は、業務のルールとプロセスを標準化し、ガバナンスを整備することである。経理財務部門にとっては永遠のテーマとも言えるデータの標準化であるが、適切な判断の礎となる信頼できるデータは、標準化されたルール・プロセスに基づく業務によって創出できるため、この標準化は必須の要素である。また、標準化の質を継続して担保するためにはガバナンスを効かせる仕組みが重要となる。

そして3点目は、高い予測精度での先読み経営を定着化させることである。経験や勘を重視して意思決定を行っていた企業にとっては大きな企業文化の転換となるが、結果指標のみならず先行指標の動向を踏まえて、事前に定義した組織・機能別のアクションを基に、先手を打ったコーポレートアクションを実行していくことが重要となる。

出典:IBM

IBMは1990年代初頭の経営危機をきっかけとして経営管理基盤の構築を進め、“Single Source of Truth”、つまり数字を共通言語にすることで170カ国での事業展開を推進している。勘定科目体系などデータ定義を標準化し、主要なアプリケーションを共通化し、詳細な粒度での情報が入った勘定元帳をベースに、グローバルで同じ数字を見ながら経営を行う文化を形成していった(上記図)。

最近ではAIなどの最新テクノロジーをビジネスの洞察に活用することで、四半期単位での売上着地点の予測や、リスク要因の洗い出しとリスクシナリオのドラフト作成などを、効率的かつ精度高く実施している。

 

データドリブン経営の実現に向けた3つのアプローチ

データドリブン経営を実現するには、以下3つのアプローチがある。

①全社的な経営・事業要件、組織の見直し、仕組みの再構築を行うトップダウンアプローチ
②現状の課題から仕組みを見直していくボトムアップアプローチ
③まず見える化を図り、そこから高度化を進めていくクイックアプローチ

最も一般的な進め方はトップダウンアプローチであるが、これは長期にわたって多大なリソースを費やす取り組みとなるため、最近はクイックアプローチで会社の文化を変えながら推進するケースが増えてきている。


出典:IBM

数字で物事を判断する企業文化を形成するのには時間がかかるため、まずは目的を絞って数字でマネジメントしていくことの有効性について共通理解を得て、その適用範囲を広げ、データの標準化を図り、最後にAIやAnalyticsを取り入れて高度化を実現していくのである(上記図)。

どのアプローチを採用するのかは現状の経営管理基盤の成熟度にも依存するが、どれにおいても全社横断での取り組みとなるため、その推進には経営トップのコミットメントと強力なリーダーシップが不可欠となる。

データの価値や重要性は理解しているものの、経営の意思決定をするためのデータが充実していない日本企業が依然として過半数に及ぶ。新型コロナウイルスの影響を変革の機会と捉え、データドリブン経営の実現に向けた経営管理の高度化を進めることが、今、求められている。