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One-to-One-Marketingの理想と現実

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若松 幸太郎

若松 幸太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 インタラクティブ・エクスペリエンス事業部 アソシエイト・パートナー


国内大手広告代理店及び、国内大手通信会社のデジタルマーケティンググループにて、SP/O2O/ソーシャル/マス媒体を絡めた大規模プロモーション、オンラインキャンペーン、デジタルチャネルの戦略構築から施策実施、運用管理など、様々なデジタルマーケティングのプロジェクトを経験。特にデマンドジェネレーション(リードジェネレーション、ナーチャリング、クオリフィケーション)領域については多くのプロジェクトを経験し、販売をゴールとしたマーケティング施策においてPDCAプロセスを活用し、マーケティングから販売にいたるトータルの設計に基づいた活動を数多く支援。近年はマーケティングオートメーションを活用したデジタルマーケティング領域を強みとして、大手MAベンダーのMarketoの日本法人立ち上げに関わり、同社取締役も経て現在に至る。

 
昨今、多くのマーケターがチャレンジし始めている「One-to-One-Marketing」。
One-to-One-Marketingとは一般的に、「企業が顧客一人ひとりの趣味、属性、嗜好に合わせて個別に展開するマーケティング活動」と言われていますが、どれだけの企業がOne-to-One-Marketingを成功させているでしょうか?

本当に一人ひとりに対して異なるマーケティングアプローチを実践できている企業はほんの一握りで、現実はほぼゼロに等しいというのが私の感覚です。

今回は、One-to-One-Marketingがマーケターのあいだでますます重要と認識されるなかで、本当にそれがベストなアプローチなのかどうか、検証したいと思います。

 

One-to-One-Marketingには限界がある

One-to-One-Marketingが実践できることが理想だが、今の技術では残念ながらやりきれないし、無理をしてチャレンジしても結局は結果が出ない、というのがマーケターや担当者の本音ではないでしょうか。

One-to-One-Marketingの概念がバズワードになり、「顧客」ではなく「個客」というワードを使う企業もよくみかけるようになりました。また、多くの企業がペルソナ作りに注力しているという話もよく耳にします。

一人ひとりに合わせたマーケティングであるOne-to-One-Marketingにとって、多くのペルソナが必要なのは理解できますが、企業が抱えている実際の顧客は一体どれだけいるのでしょうか?

BtoBの比較的規模が小さい企業で100社のお客様がいる場合、顧客数は数百人。BtoCだと、最低でも数千人になるでしょう。その顧客は全員、属性をはじめ、趣味・嗜好も異なります。一人として同じ人間はいません。

現在の技術を用いて一人ひとりの顧客に完全にフィットするアプローチをとることができても、提供する情報=コンテンツは、残念ながらまだまだ人が作らなくてはいけないのです。
そして、顧客の心を揺さぶるようなコピーやイメージを、AIなどのテクノロジーが自動生成する時代が来るまでには、もう少し時間がかかるでしょう。

つまり、一人ひとりにコンテンツをふりわける技術は存在するものの、コンテンツの制作は人に依存するというのが実情です。その意味でOne-to-One-Marketingを行なうことには、やはり限界があるのです。

 

「個客」にとらわれすぎることの、落とし穴

そうした状況でも、多くのマーケターが無理くりOne-to-One-Marketingのアプローチを試みようとしますが、ものすごく細かくセグメントした「個客」に合わせ、複数の情報(コンテンツ)を用意するのには、膨大な労力を要します。

そうすると、労力を使えなかったセグメント群については適当なマーケティングアプローチが行なわれるか、完全に放置されるかのどちらかでしょう。マーケターは小さなセグメントをこねくり回し、さらに成果の最大化を目指すABテストも行なった上で、「Bの方が効果が高かった!」と満足するかもしれませんが、顧客全体から考えれば大きな機会損失となっているのです。

例えば、ある製品・サービスのマーケティングを10万人の顧客に対して行なうとして、従来のマーケティングによる成約率が1%の場合、成約件数は1,000件になります。同時に、見込みの高そうな100人の顧客に向けて緻密なOne-to-One-Marketingを行なって従来のマーケティングの10倍の成約率が取れたとしても、成約件数は10件。従来のマーケティングとOne-to-One-Marketingをかけ合わせた結果としては、1,010件の成約ということになります。

しかし、10万人を100のセグメントに分類して成約率を1/10の1%改善するだけで、2,000件の成約が得られることになり、上記と比べて圧倒的に高い成果が得られます。実際には10〜20程度で、100のセグメントも必要ない場合が多いので、コンテンツやそれに必要なシナリオを用意する労力とコストが軽減される分、その作業負担も軽減されるでしょう。

結論を言うと、ROI(Return On Investment)を考えるにあたって、「どれだけ少ない数のセグメントでマーケティングを行なうべきか」という視点を、ぜひ覚えておいていただければと思います。

最近のデジタルマーケティングの製品やサービスは高性能ですし、マーケターがさまざまな機能を使いたいという気持ちは非常に良く理解できます。しかしある企業では、メッセージを細かく出し分ける時間と労力をふまえると、顧客全員に対して同じメッセージを送った方が実はROIが良かったという、何ともマーケター泣かせな結果を受けて、こうした古典的なやり方をつづけているケースもあるようです。

これは非常に極端な例かもしれませんが、どのようにアプローチするのが最も効率的なのか、マーケティングの流行や最新の製品・サービスの性能だけにとらわれず、一度立ち止まって冷静に考えることも必要ではないでしょうか。

 

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