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もはや「食わず嫌い」では通用しない!事業別ブロックチェーンの調理法

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永続的で透明性の高い取引履歴を作成、分散管理することで、あらゆる業界でビジネスプロセスを最適化することが期待される「ブロックチェーン」。2017年に入り、金融分野以外でもさまざまな業種、業界で導入事例が見られるようになってきた。しかし、その詳細は、多くの人が理解していないという現状もある。そこで、ブロックチェーンにはどんな特性があり、企業にとってどんなメリットがあるか、また、ブロックチェーンの商用利用に向けたプロジェクト成功のポイントはどこにあるのか、日本IBMの高木隆と早川勝に話を聞いた。

高木 隆(写真右)
日本アイ・ビー・エム株式会社

グローバル・ビジネス・サービス事業本部 コグニティブ・プロセス・トランスフォーメーション ブロックチェーン コンサルティング アソシエイト・パートナー

 

早川 勝(写真左)
日本アイ・ビー・エム株式会社

グローバル・ビジネス・サービス事業本部 グローバル・バンキング・サービス事業部 金融第一サービス部 シニア・アーキテクト

 

取引の「スピードは上がり、コストとリスクは下がる」のがブロックチェーンの特長

──お二人は、ブロックチェーンを活用したビジネスモデルの定義、それをシステムとして実装するプロジェクトをリードする立場です。ご自身の役割と、昨今のブロックチェーンの動向についてお聞かせください。

高木 ブロックチェーンコンサルタントとして、ブロックチェーンを活用したビジネスモデル定義を支援しています。ブロックチェーンの活用はもともと金融分野での取り組みから始まりましたが、2016年後半から金融以外での取り組みも増えてきました。

例えば、グローバルトレード(国際貿易)やサプライチェーンのように、ステークホルダーが多岐に渡り、またヒト・モノ・カネ・情報のやりとりが煩雑な領域では、これまでの技術では実現が困難だった業種横断のプロセス最適化に向けた取り組みが始まっています。

高木隆氏

早川 デリバリー部門のテクニカルリーダー、リードアーキテクトという立場からお客様のプロジェクト全体をリードしています。コンサルタントと協業し、策定したビジネスモデルからアーキテクチャの設計、実際の開発をリードするだけでなく、その経験を踏まえてナレッジを汎用化、社内外に向けて展開する役割も務めています。

技術的には、ピア・ツー・ピア(P2P)だけで仮想通貨の取引を実現した「ビットコイン」の要素技術を汎用化したのが、ブロックチェーンだと位置づけられます。

価値を持ったモノやデータなどを「どこからどこに送ったか」という取引履歴が記録された台帳を、従来のクライアント・サーバー方式による「中央集権型」ではなく、P2Pによってネットワークに参加するコンピューターで分散管理します。連鎖する取引データをネットワークの参加者が相互に管理、監視することで、信頼性を担保する仕組みです。

例えば、ダイヤモンドの取引にブロックチェーンを活用し、その原産から消費者にわたるまでの全てのトレーサビリティー(※)を可視化している会社もあります。また、米国のあるスーパーマーケットチェーンでは、生産者から加工業者、販売店の商品棚にわたるまでのプロセスをブロックチェーン上で管理し、食品管理の安全性向上とコスト削減を図ることを目指しています。

※物品の流通経路を、生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能かどうかを示す言葉。

早川勝氏

 

ブロックチェーンがもたらすビジネスへの効果

──では、ブロックチェーンがもたらすビジネスへの効果とは?

高木 ブロックチェーンを活用することで取引の信頼性が高まります。これまでのシステムは管理者によるミスや不正を完全に防ぐのは困難でしたが、ブロックチェーンの場合、コンセンサス(相互検証)の仕組みにより、管理者であってもミスや不正ができないセキュアなシステムを構築することが可能です。また、国際貿易など、全ての国やステークホルダーが信頼できる第三者運営機関が設置し難い場合でも、ブロックチェーンを活用することで情報やプロセスを一元化したプラットフォームが構築でき、全体最適化を図ることで取引のスピードやコストを大幅に改善することができます。

早川 これまで、複数企業をまたいだ取引の可視化や、トレーサビリティー自動化といったシステムを構築する際には、当事者間で信頼できる第三者機関を設立する必要がありました。しかし、組織設立のための準備期間に相応な時間を要し、第三者機関のシステムは高い信頼性が求められるため、どうしても重厚長大なシステムを構築する必要がありました。さらに、システムを作った後は運用に相応なコストと手間が発生していました。

それが、ブロックチェーンによって当事者がお互いに支え合い、協業してフラットな組織で運営できるため、システムはより早く構築、運営できるようになることが期待できます。これが、ブロックチェーンの代表的な価値です。また、「今までできなかったことがより早くできる」ということは、複数の企業間で新しいビジネスモデルを考え、エコシステムを確立していくような、オープンイノベーションを実現するための技術としても期待されています。

 

「ブロックチェーンである必然性」を見極める

──IBMが手がけた、最新のブロックチェーン事例についても教えてください。

高木 金融の事例にはなりますが、米資産運用大手ノーザントラスト様に対し、プライベートエクイティ(未公開株)のファンド管理プラットフォームを昨年リリースし、商用利用頂いております。このファンド管理プラットフォームを使うことで、ファンド管理者、運用者、投資家、監査法人等、ファンドに関わるさまざまなステークホルダー間のプロセスを最適化し、リアルタイムに情報を共有することが可能になりました。ブロックチェーンを活用することで、単一の運営者が管理する従来型のサービスと比較して、より信頼性のあるプラットフォームが提供できたと考えております。

早川 そのほか、特定の同一業種間における取り組みでは、例えば、金融分野で仮想通貨、デジタル通貨などの取り組みが挙げられます。非金融分野では、カナダで本人信用情報の共有基盤を整備するという、国家レベルでの取り組みも存在します。

高木隆氏と早川勝氏

──ブロックチェーンを活用したプロジェクトを、成功に導くポイントについてはどうお考えですか?

早川 個人的に感じるのは、「ブロックチェーンである必然性」を見極めてユースケースを選ぶことの重要性です。例えば、参加者の中で特定の企業の信用力が極端に強い場合は、ビジネスの効率性を重視してその企業が通常のシステムを構築した方がいいこともあります。一方、当事者が対等な関係で複数の業種の企業が参加するようなシステムでは、ブロックチェーンならではの価値が最も発揮できます。

また、ブロックチェーンは、「みんなで同じ取引台帳を管理して、みんなで取引履歴を管理していきましょう」というコンセプトに依拠しています。ですから、「特定の情報は特定の関係者にしか見えないようにしたい」などの場合、もちろん技術的には可能なブロックチェーンプラットフォームはありますが、相互管理、相互監視というブロックチェーン本来の特長を活かせなくなる可能性があります。そのため、お客様のビジネス要件を実現する方法として、本当にブロックチェーンがふさわしいのか、検討を重ねる必要があるでしょう。

──運用面での課題はどうでしょうか?

早川 複数の参加者が存在するコンソーシアム(※)型のビジネスネットワークを、どう運用するかが課題となっています。例えば、コンソーシアムに乗っている業務アプリは誰が開発するのか、システムのメンテナンスは誰が、どのタイミングで行うかといった問題です。各自が好きなタイミングでメンテナンスを行ってしまうと、知らない間にシステム全体が止まっていた、ということになりかねません。

※複数の個人、企業、団体、政府(あるいはこれらの任意の組合せ)から成る団体

高木 2017年末の商用開始に向けて複数の銀行から構成されるコンソーシアムのオペレーティングモデル定義を支援させていただいておりますが、そこでは各社で異なる標準・ポリシーをどう統合するかが大きなチャレンジでした。多岐に渡るステークホルダー間でコンセンサスを得る為には共通の目標・価値観・方針を見出すことが鍵になります。

早川 パブリック性が高いのがブロックチェーンのメリットですが、誰かがイニシアチブを取らなければならないという課題矛盾があります。真の意味での分散型ネットワークを実現するには、こうした課題を認識し、全体の枠組みを整理して、関係者間で議論を透明化し、時間をかけて合意を生み出すことが大事です。

──そうなると、ブロックチェーンはまず自社の取引など“スモールスタート”で取り組んだ方がよいのでしょうか?

早川 そうですね。将来の拡張を見据えたロードマップを描くことが大事で、最初から風呂敷を広げ過ぎてしまうと、関係者を巻き込んで調整するだけでも一苦労です。また、ブロックチェーン自体の技術的な成熟度の問題もあります。ですから、徐々に拡張していくロードマップを描く方法が、ビジネス面でもシステム面でも重要になってきます。

 

正しい調理法で、ブロックチェーンの「素材の良さ」を引き出したい

──IBMだからこそ提供できる技術や独自価値についてお聞かせください。

高木 グローバルでの豊富な実績、経験を活用した、実用化に向けたオペレーティングモデルのコンサルティングや商用システム開発サービスを提供できる点です。システム開発に際しては、開発を効率化する「Composer」という開発ツールや、ワークフロー・アクセス管理・ドキュメント管理・履歴管理等、多くのユースケースで活用可能な共通コンポーネントを提供しています。

高木隆氏

早川 導入におけるいくつかのレイヤーでIBMの価値が発揮できると考えています。一番下のレイヤーでは、ブロックチェーンプラットフォームをパッケージングして製品サポートを提供するもの、クラウド上でブロックチェーンサービスを提供するものがあり、ブロックチェーン・ネットワークの速やかな構築を促しています。

また、ブロックチェーンの特性・制約を十分に踏まえた上でのシステムのデリバリーと、そのナレッジを活用したお客様へのビジネスモデル提案をコンサルタントと協業して行います。また、効率的なデリバリーに必要な共通部品のアセット化をグローバルレベルで考えいます。全方位のサービスをワンストップで提供できるのが、IBMの独自価値といえます。

──最後に、今後のブロックチェーンの展望、近い将来に起きる変革についてお聞かせください。

高木 ブロックチェーンを活用して統合された、多岐に渡るステークホルダー間の情報やプロセスをフルに活かすコグニティブサービスの検討が既に始まっています。例えばシンガポールでは、ブロックチェーン上で繋がった資金調達者と投資家・運用者のマッチングサービスを検討中です。

高木隆氏と早川勝氏

早川 IoT分野では、これまで食品や物流のトレーサビリティー管理は、システムにインプットされたデータをもとに行っていました。これを、モノに備えられたセンサーデータから、よりリアルタイムに「モノ」と「データ」を結びつけることができます。例えば、貿易業務でモノの位置をよりリアルタイムに管理したり、生鮮食品の輸送中の温度管理をより厳密に行ったりすることが可能になります。

将来的には、AIやロボティクスを組み込み、多くの事業者が関わる国際ビジネスなどで手間と時間がかかっている書類手続きをロボットが自動化することで、ビジネスプロセスを一層スマート化することが考えられるでしょう。

こうした将来の姿から、IBMはブロックチェーンの特性を踏まえたビジネスのロードマップ作りを支援しています。IBMは、いわばブロックチェーンの調理法に精通したシェフです。正しい調理法で、ブロックチェーンという素材の良さを最高に引き出し、お客様にとっての価値を創出するお手伝いをさせていただきたいと考えています。

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