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THINK Business

オートバックスセブンがクラウドネイティブ開発で実現した自動車業界を超えるDX

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*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

八塚昌明氏

八塚昌明氏
株式会社オートバックスセブン
ICTプラットフォーム推進部部長
 
 

1993年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。プロジェクト・マネージャーとして主に会計システムの開発・保守に従事後、CIO部門にて日本法人のIT投資管理を担当。同社にて新規事業としてクラウド事業、スマーターシティ事業への参画を経て、2014年製薬関連の米国法人にてGlobal CIO、2015年にオムロン株式会社にてBPR部門での部長職を担当。2016年に株式会社オートバックスセブンに入社し、現職。現在ICTプラットフォーム推進部にてデジタル技術を活用し、「安心・安全」を軸とした地域課題解決に向けたサービス提供の推進をリード。2019年3月に大分県と包括連携協定を締結し、県および各自治体における地域課題解決に向けた支援を展開中。2020年4月に太陽の家との連携によりオートバックスセブン100%子会社として株式会社エー・ディー・イーを設立し、本社部長職と兼任にて代表取締役として障がい者雇用を視野に入れた事業を推進。

 

松谷和明

松谷和明
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
IBM オープン・クラウド・センター
アソシエイト・パートナー

入社後、インフラストラクチャーおよびネットワークを中心に、ITエンジニアとして製造業・公益企業にてエンタープライズ・システム構築プロジェクトに携わる。その後、アプリケーション・アーキテクトとして製造業・流通企業のオブジェクト志向(OO)、サービス志向アーキテクチャー(SOA) によるWebアプリケーション開発プロジェクトを通じて、アプリケーション領域でのアーキテクト経験を積む。2014年からは、クラウド・サービス組織にてクイック&スモール・スタートのオファリングをリードし、組織とビジネスの立ち上げに従事。現在までクラウド・サービスをリードする。ここ数年はマルチクラウド、オープン・ハイブリッドクラウドに向けてコンテナ技術、マイクロサービスを前提にクラウドネイティブ開発、クラウド・モダナイゼーションのビジネスをリードしている。

 

株式会社オートバックスセブン(以下、オートバックスセブン)は、全国に580以上もの店舗を構えるカー用品大手だ。激動期にある自動車業界だが、オートバックスセブンもデジタルを活用した新しい製品やサービスの模索を進めている。その土台となるのが、IBM Cloudで構築したプラットフォームだ。目指すのは車の枠組みを超えた地域課題の解決。

どのようなアプローチでデジタル活用を進めているのか。日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)のグローバル・ビジネス・サービス事業本部事業本部 IBM オープン・クラウド・センター アソシエイト・パートナーである松谷和明が、オートバックスセブンのデジタル変革を推進するICTプラットフォーム推進部部長の八塚昌明氏に聞いた。

100年に一度の変革期、オートバックスセブンが挑むプラットフォームビジネス

八塚昌明の写真

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

松谷 自動車業界は通信とデジタル技術により、車そのものの進化に加え、シェアリングなど根本のビジネスモデルも変化しています。御社は1947年に創業して以来、日本の自動車業界とともに成長してきました。そして今、デジタル変革(DX)に向けて取り組みを加速していらっしゃいます。

八塚 おっしゃるとおり、この業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電気自動車)が大きなトレンドになっています。100年に一度の大きな変革期と捉えており、メーカーを含め業界のプレイヤーはそれぞれの取り組みを進めています。

我々の社名は、店舗で展開するサービスの6つ頭文字を取ったオートバックス(AUTOBACS)と「セブン」で構成されます。セブンには、お客様へ新たな価値を提供するため常に7つ目を模索するという思いが込められています。今回、デジタル技術を活用したセブンの実践としてDXに取り組むことにしました。

具体的には2年前に「ICTプラットフォーム推進部」を立ち上げ、「WEAR+i コミュラボ」「デジタルトランスフォーメーション」「ドローン」の3つのグループで進めています。WEAR+i コミュラボとドローンのグループは大分県に拠点があり、前者は大分県立情報科学高等学校の中に社員が常駐し、産学連携でさまざまなDXサービスの企画を作っています。ドローンでは、ドローンを使った事業展開で専用の子会社を大分に立ち上げ、我々ICTプラットフォーム推進部と連携しています。デジタルトランスフォーメーショングループは東京・豊洲本社にあり、大分であがってきた企画を実際に開発したり、運用保守を行ったりします。

これらを通じて何を目指しているのかというと、DXを活用したプラットフォームビジネスです。

クラウドネイティブ開発が支える地域の課題解決

松谷 プラットフォームビジネスの中心が「AUTOBACS DX Platform」ですね。ここでは、コミュニティ・アズ・ア・サービスとスマートシティ・アズ・ア・サービスと大きく2つのカテゴリがありますね。

八塚 コミュニティ・アズ・ア・サービスでは人と人、モノとモノなどさまざまなつながりを形成し、それを事業の基軸にするという考えで進めています。ここでは「クルマのえん」を立ち上げ、4月1日にサービス提供を開始しました。個人間取引(CtoC)の中古車売買マーケットにおいて、ブロックチェーン技術を利用することで安心安全も担保できる仕組みを構築しました。ここではIBMのHyperledger Fabricを活用しています。

スマートシティ・アズ・ア・サービスは、社会、安全性、拡張性をキーワードに、自治体様など地域の課題からより大きな社会課題の解決・緩和につながるようなソリューションを乗せていくものです。

両サービスともにIBM Cloudを活用し、小さく、クイックに始める“スモール&クイックスタート”で進めています。

ドローンを使った薬の配達など、技術を使い地域課題に取り組む

松谷 大分県と包括連携協定を結び、地域課題に取り組まれております。そこに至る経緯や具体的に進めている地域課題について教えてください。

八塚 最近は、高齢者の交通事故の割合が年々増えています。国家戦略特区に指定されている北九州市で、高台にLPWAのアンテナを立ち上げ高齢者の見守りサービスの実証実験をしたのがきっかけとなり、近くの大分県でもいろいろなことに困っていることがわかりました。また、大分県はドローンに力を入れており、我々がドローンサービスも視野に入れていたこともあり、2019年3月の包括的連携協定に至りました。

具体的には、1)交通安全・地域交通、2)介護福祉分野における移動や生活の支援、3)観光振興、4)農業支援、5)地域防災と防犯対策、6)女性活躍推進・青少年の育成、7)環境保全、8)スポーツ振興・部活動支援と健康増進と大きく8つの分野があります。

例えば、2)に該当するものとして、医薬品をドローンで配送する実証実験を進めています。山間部に住んでいる高齢者のために週に一度、市街の病院から医師が訪問診察を行いますが、診察の結果処方箋が出たときは市街地へ薬を取りに行くか、次回の訪問診察を待つしかありませんでした。そこで、処方箋が発行されたらデジタル的に市街地にある病院と連携し、病院から処方された薬をドローンが公民館に運ぶという仕組みを開発中です。

実証実験は1年以上前にスタートしました。その後、現在も距離を伸ばしており、今後は目視外飛行にも取り組む予定です。

IoTを使ったタクシー配車の実証実験も進めています。高齢者など利用者に専用のデバイスを持っていただき、ボタンを押すとタクシーが来るというものです。山間部は公共交通機関が手薄になっていて、そこに住む高齢者が移動に困っているという課題を聞き、地場のタクシー事業者に協力をいただいて進めています。

クラウドネイティブ開発とスモール&クイックスタートで得られるスピード感

松谷和明の写真

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

松谷 テクノロジーがあってこそのソリューションですね。オートバックスセブン様はIBM Cloud上でクラウドネイティブ開発を実践していらっしゃいます。従来の開発からクラウドネイティブ開発への転換を振り返って、苦労されたことや想定と違ったことなどはありますか。

八塚 それまでのウォーターフォール型は、要件をガッチリ固めて、そのとおりのものを作るというアプローチです。途中で変更が入ることはなく、高品質なものを作ることができるのがメリットと言われます。

クラウドネイティブでは、スプリント単位で要件が実装されるのを見て確認しながら開発を進めます。現物のイメージを共有しながら進めるので、開発しているものがどういうものになるのかずれがあまり生じません。目の前にモックがあるので、経営層への報告という点でもスムーズにいったように思います。結果として、開発時間を大幅に短縮できました。

一方で、慣れたやり方を変えることは簡単ではありませんでした。そこはIBMの支援がとても役に立ちました。IBMにはさまざまな手法があり、このような不安ならどのように解消すればいいのかといったサポートを適切なタイミングで受けることができました。IBMの担当者とはSlackなどのツールを使いしっかりコミュニケーションし、何か問題や課題があればリアルタイムに共有しています。やりとりが時系列に残るため、ログという点でも便利でした。

勉強しながら進めることができたと思います。やってみて、難しいものではないというのが感想です。確かに新しいやり方は不安が先立ちますが、こういう考え方でやればちゃんとできると教えていただいたので、安心感を持って取り組むことができました。また、プロジェクト全体のスピード感も大きく改善しましたね。

松谷 DXにおいてテクノロジーの検討や適用に完全な正解はありませんが、小さく始めて、うまくいけばスケールさせるという“スモール&クイックスタート”の実践も重要なポイントですね。

八塚 新しい技術は次々と出てきていますが、いきなり大型の投資をすることはリスクを伴います。そこで取り入れたのが“スモール&クイックスタート”です。小さく始めることにより、少ない投資と短い期間で新しい技術を実践できます。このアプローチは、まずはやってみることができるのでよかったと思います。

また我々はお客様に効果を証明する必要があります。まずは自分たちが小さく投資して作ってみて、お客様にお見せすることができました。

例えば、大分県由布市は水害が多いという課題を抱えています。監視カメラの設置はかなり進んでいますが、監視カメラや水位センサーが付けられていない支川で洪水が起こっていることがわかりました。そこで、まずは10台のカメラを設置して、効果があるのかを検証しています。効果があるとわかれば、次は100台、そして200台とカメラの設置台数を増やしていきます。10台なので、効果が見合わなかった場合も、撤退のハードルが低いと言えます。

重要なポイントは検証です。クイックに小さくスタートした後は検証、そして見直し、それをまた検証というサイクルを回すことで、商用化に向けた拡張も進めることができました。ここは大きな効果だと感じています。

DXで大切なのは破壊と創造を恐れない姿勢

八塚昌明と松谷和明の写真

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

松谷 実証実験(PoC)からなかなか進まないという企業も多いです。オートバックスセブン様はPoCから商用化につなげていらっしゃいますが、何か秘訣はあるのでしょうか。

八塚 PoCから先に進まないというのは、PoCのためのPoCになっているのかもしれませんね。特に、自治体に提案するケースにおいては、アピールのためのPoCが少なくないと聞いています。その先のビジネスをリアルに考えたPoCではなく、とりあえずやってみようという気持ちでPoCを進めているのではないでしょうか。

我々は、その先のビジネスとして地域課題を解決するという大きな題目があります。そこに向けて何が必要なのか、実現のためにはどんな技術が必要なのか、その技術を使うためには何をすればいいのか――この順番で考えているので、“PoCをやって広げる”ではなく、“商用化のためにPoCをする”という本来のアプローチができます。

その点から考えて、IBM Garageはとても有意義だったと思います。いろいろと助言を受けることができ、ビジネスモデルについても精緻にしっかり詰めることができました。

松谷 オートバックスセブン様は「2025未来共創」というビジョンを掲げ、以前から先進テクノロジーを活用した変革や新規ビジネスの展開に取り組んでいます。これまでのDXの取り組みを振り返って、DXを進めるうえで重要なことは何だと考えられますか。

八塚 個人的な見解ですが、トップをはじめとする経営層が明確なビジョンとして“DXを推進する”と全社に向けて発信する、宣言することは重要です。これはトップダウンですが、それだけでは進みません。新しいことにチャレンジする、それを企業として支えていくという企業文化の醸成も大事です。実践のために社員一人ひとりが意識改革を含めて、DXに向き合う必要があります。

これに付け加えるなら、既存のプロセスやサービス、インフラ環境ありきではなく、破壊と創造を恐れない姿勢、覚悟、勇気を持ち続けて、物事に取り組んでいく――これがDXにおいて一番重要な要素と感じています。

私は、DXで重要なのはD(デジタル)ではなくX(トランスフォーメーション)だと思っています。Xの変革のためにDという技術を使う――これがDXだと考えています。将来を見据えるに当たって、そもそも今やっていることが必要かどうかを含めて考え直す必要があります。ひょっとすると不要なプロセスがあるかもしれません。そこからスタートしています。

企業はこれから、利益さえ上げればいいというものではなくなってきています。何らかの形で社会や市民とつながり続け、利益や価値を社会に還元していくことが求められる時代です。そこに向けて我々も変革を続けます。地域課題への取り組みはその一つです。

松谷 破壊と創造を恐れない姿勢――これはオートバックスセブン様のこれまでの取り組みを表していると思いました。新しい技術があるから使うのではなく、目的からスタートしているところは素晴らしいと思います。本日はお時間いただき、どうもありがとうございました。

八塚 ありがとうございました。