次のフロンティアである航空機の運航安全における空間コンピューティング

タブレットを使ってヘリコプターを点検する女性航空エンジニア

フライトの遅延は、飛行において避けがたいストレスのひとつです。ターミナルや滑走路上で、理由の説明もないまま遅延を待たされる状況は、多くの人にとって身に覚えのあることです。

航空機が遅延する理由は実にさまざまですが、その多くは安全を最優先するためのものです。たとえば、航空機が雷に打たれて軽微な損傷を受けた場合、牽引や給油の際に地上設備と接触してしまった場合、飛行中に鳥と衝突したり、悪天候の影響を受けた場合などが考えられます。これらの場合、航空機は再び飛行する前に必ず点検を受ける必要があります。航空業界では、離陸前の損傷点検を迅速に行うことが大きな課題となっており、こうした手続きによる遅延は、航空会社と乗客の双方にとって共通の悩みとなっています。

航空機が安全に飛行できる状態であることを確認する作業は、避けられないうえに時間のかかる工程です。例えば、手荷物搬送装置が誤って機体に接触し、胴体に損傷が生じたとします。地上の整備士は、損傷箇所を点検し、位置・深さ・広がりを正確に把握したうえで、航空機がなお飛行可能かどうかを判断しなければなりません。航空機の安全性の確保は、厳格な規制に基づいた業界としての必須要件であり、主要な部品にはそれぞれシリアル番号が割り当てられ、飛行継続の可否が追跡・評価されています。この点検作業は、損傷の記録や手順の文書化も含むため、30分以上かかることも珍しくなく、その結果、フライト・スケジュールに大きな遅れや影響が生じることがあります。

新しいテクノロジーが離陸前の損傷点検を迅速化

Regional Jet Center(RJC)は、Air France-KLMグループの航空機整備・修理・オーバーホール(MRO)を専門とする組織です。RJCはIBMと協力し、拡張現実(AR)とデジタルツインという、空間コンピューティングの中核となる技術を活用した航空機損傷アセスメント・ソリューションを開発し、離陸前の損傷点検プロセスに革新をもたらしました。

空間コンピューティングは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)、リアルタイム3D技術を用いて、物理空間とデジタル空間を融合させるものです。企業におけるモバイル・デバイスの利用が広がる中で、空間コンピューティングは、スマートフォン、タブレット、ヘッドセットへの投資からより大きな価値を引き出す手段となります。航空会社は、この技術を活用することで、地上整備士に対してより直感的でインタラクティブな作業環境を提供し、判断を支援することができます。航空安全の文脈においては、空間コンピューティングにより、損傷点検をより効率的かつ正確に行うことが可能になり、必要な作業時間を大幅に短縮できます。

iPad用に設計されたDamage Assessmentという専用アプリケーションを使用することで、整備士は航空機の点検に拡張現実(AR)を活用できます。このアプリケーションは、機体のデジタルツインを利用し、機体フレームを実機にリアルタイムで重ね合わせることで、損傷箇所を正確に特定できるようにします。Damage Assessmentを使用することで、a) 点検担当者は損傷箇所を正確に特定し評価でき、アセスメント・プロセスを大幅に高速化できます。b) 地上整備士は、関連する損傷履歴や技術文書を参照しながら判断を支援できます。c) 点検時間は、従来の30分から3分へ短縮され、効率が900%向上します。

将来的には、AIが推奨アクションを提示し、プロセスの短縮を一段と後押しします。安全性が厳しく規制されている業界において、データに裏付けられたセキュアなデジタルツールを用いて新たな損傷の確認・記録時間を短縮することは、報告精度の向上につながり、より安全な飛行に寄与します。この革新的なソリューションは、点検データの正確性と整合性を確保することにも貢献します。これまでの点検記録は紙で手作業で行われることが多く、誤記やデータ消失のリスクがありました。空間コンピューティングを用いることで、すべての点検データが航空機のデジタルツインにシームレスに統合され、透明性と追跡性の高い情報チェーンが形成されます。空間コンピューティングは、安全性を高めると同時に、業界規制へのコンプライアンスをよりシンプルにします。

RJCとIBMによる空間コンピューティング・ソリューション

このテクノロジーはRJCにとって大きな転換点となりますが、同時に、これは業界全体が抱える共通の課題でもあります。世界中の航空会社が、離陸前の損傷点検における非効率性に悩まされています。RJCの空間コンピューティングソリューションは、自社の運用を改善するだけでなく、航空安全の実務をグローバルに変革しうる可能性を秘めています。

このように厳格な規制が課される業界では、RJCは、この新しいプロセスが時間と精度の両面で明確な効果をもたらすことを示し、業界規制当局から承認を得る必要があります。RJCは、この技術の業界全体での採用に向けた手続きを開始しており、他の航空会社でも利用できる可能性が広がっています。同時に、IBMは空間コンピューティング技術に投資する組織とのパートナーシップを求めています。

IBMは、航空業界の専門家や航空会社の経営層、あるいは同様のソリューション導入や空間コンピューティングの活用可能性を検討している企業に対して、支援を提供できます。

RJCとIBMによる空間コンピューティングソリューションについてさらに詳しく知り、その可能性を実際にご確認ください。2023年9月26日~28日にポルトガル・リスボンで開催されるWorld Aviation Festival(リンクはibm.comの外部サイト)に参加し、より安全で効率的な航空運航への取り組みに加わりましょう。

 

 
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