データ仮想化によりデータを統合し、シームレスなAIと分析を実現
2024年4月15日
読了時間:5分

データ統合は、人工知能(AI)アプリケーションを構築する上で、重要な最初のステップとなります。このプロセスを開始するにはさまざまな方法が存在しますが、データ仮想化を通じて組織はアプリケーションの開発と展開のプロセスを加速することができます。

データ仮想化により、企業はデータの隠れた可能性を解き放ち、予知保全、不正アクセス検知、需要予測などの最先端のアプリケーションにリアルタイムのAI分析情報を提供できるようになります。

データベースとテクノロジーに対し多額の投資をしているにもかかわらず、多くの企業はデータからさらなる価値を引き出すことに苦労しています。データ仮想化はこのギャップを埋め、企業が柔軟かつ効率的に既存のデータ・ソースをAIと分析の取り組みに使用できるようにします。

データの仮想化はブリッジとして機能し、プラットフォームがオンデマンドで外部のソース・システムのデータにアクセスし、表示できるようにします。この革新的なアプローチにより、プラットフォームそのものに物理的なストレージを置くことなく、データを一元的かつ効率的に管理できるようになります。仮想レイヤーはデータ・ソースとユーザーの間に確立され、本来の場所から複製したり移動したりすることなく、データにアクセスして管理できるようになります。

データ仮想化を選択する理由
  • データ仮想化により、物理的な移動や複製の必要性がなくなり、さまざまなソースからのデータの結合を効率的に行えるようになります。データ統合の時間と費用が大幅に削減されるだけでなく、データの不正確さやデータ損失が発生する可能性も最小限に抑えられます。
  • 組織は、ストレージ・ソースに関係なく、データを一元的に把握できます。分析、レポート作成、およびデータに基づいた意思決定のための単一の参照先として機能することで、精度が向上しするとともに貴重な洞察をより迅速に生成することが可能になります。
  • 組織は、変化するビジネスの需要に応じデータの変更と拡張を容易に行えるようになり、これまで以上の俊敏性と適応性を発揮できるようになります。
データ・サイロの解消:データ仮想化による機械学習の成功の促進

AIは大企業に大きな変革をもたらし、高度な分析ソリューションを通じて事業運営と意思決定プロセスを再構築しました。この変革はデータ仮想化に大きく依存しています。データ仮想化は、センサー・データや機器ログなどのさまざまなソースからのリアルタイムのデータ・ストリームを接続し、データのサイロ化や断片化を排除する中央ハブとして機能します。

データ仮想化は、リアルタイムのデータだけでなく、エンタープライズ・リソース・プランニングやカスタマー・リレーションシップ・マネジメントのような、さまざまな業務で使用される包括的なソフトウェア・スイートが持つ履歴データも統合します。履歴データは、スイートごとにメンテナンス・スケジュール、資産のパフォーマンス、顧客行動などの分野に関する貴重な洞察を提供します。

さまざまなソースからのリアルタイム・データと履歴データを組み合わせることで、データ仮想化は、組織の運用データエコシステム全体の包括的かつ統一的なビューを作成します。この様にして包括的な視点を得ることで、企業はデータに基づいた意思決定を行い、プロセスを最適化し、競争力を高めることができます。

生成AIチャットボットの台頭により、基盤モデルはこの豊富なデータ・セットを使用するようになりました。これらのアルゴリズムは、データを入念に分析することで隠れたパターン、傾向、相関関係を明らかにし、さまざまな結果を予測できる高度な分析を可能にする、有益な洞察を提供します。これらの予測により、市場の変化や顧客のニーズなどの潜在的なビジネスチャンスを特定し、システムの問題や障害を事前に検出して防止し、メンテナンス・スケジュールを最適化して稼働時間と効率を最大化できます。

仮想化データ・プラットフォームを設計する際の考慮事項

1. レイテンシーとリアルタイム分析

課題:

通常、保存されたデータへの直接アクセスは、仮想化されたデータの取得に比べて遅延が少なくなりますが、タイムリーな洞察が重要であるリアルタイムの予知保全分析を阻害する可能性があります。

設計上の考慮事項:

リアルタイムで洞察を得つつ、仮想化データへのアクセスの遅延を最小限に抑えるには、2つの側面からのアプローチが必要です。まず、ネットワーク・インフラストラクチャーを分析し、データ転送プロトコルを最適化します。これには、輻輳を軽減するためのネットワーク・セグメンテーションや、特定のデータ・タイプに対するUDPのような、より高速なプロトコルの採用などが含まれます。データ転送を最適化することで、必要な情報の取得にかかる時間を短縮します。次に、分析用に合理的な最新のデータ・セットを維持することを目的としたデータ更新戦略を実施します。これには、バッチ・ジョブを使用した増分データの更新の定期的な実行や、更新頻度と必要なリソースのバランシングなどが含まれます。このバランスが重要です。更新頻度が高いとリソースに負担がかかり、更新頻度が低いとデータが古くなって予測が不正確になりかねません。戦略を組み合わせることで、最小限の遅延と、最適な分析のための最新のデータ・セットの両方を実現します。

2. 更新頻度とソースシステムの負荷のバランス

課題:

リアルタイムの洞察を得るために仮想化データに対して継続的にクエリを実行すると、ソース・システムに過剰な負荷がかかり、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。これは、頻繁なデータ更新が必要な予測分析やAIにとって重大な懸念事項となります。

設計上の考慮事項:

予測分析とレポートのためにクエリを実行する頻度を最適化するには、データへのアクセス方法を慎重に設計する必要があります。これには、重要なデータ・ポイントの取得に絞ることや、場合によっては複数のソースからのリアルタイム・アクセスのためにデータ・レプリケーション・ツールの使用が含まれます。加えて、クエリを継続的に行うのではなく、特定の重要なポイントのデータ取得をスケジュールまたはバッチ処理することでデータ・システムへの負担を軽減し、モデル全体のパフォーマンスを向上させることも検討すべきです。

3. 仮想化層の抽象化と開発者のメリット

利点:

データ・プラットフォームの仮想化レイヤーは、抽象化レイヤーとして機能します。これは、抽象化レイヤーを使用できるようになると、データの物理的な保存場所やその特定のストレージの仕様を気にすることなく、ビジネス向けのAI/MLまたはデータ・マイニング・アプリケーションの構築が可能になることを意味します。データ管理の複雑さに煩わされることなく、モデルのコアロジックの設計に集中できます。これにより、開発サイクルが短縮され、アプリケーションのデプロイを迅速に行えるようになります。

開発者にとってのメリット:

抽象化レイヤーを利用することで、データ分析に取り組む開発者はモデルのコアロジックに集中できます。このレイヤーは、データストレージ管理の複雑さを隠すシールドとして機能します。これにより、開発者は複雑なデータに悩まされる必要がなくなるため、開発時間が短縮され、最終的には予知保全モデルの迅速なデプロイにつながります。

4. ストレージの最適化に関する考慮事項

正規化や非正規化などのストレージ最適化手法は、特定のデータ分析アプリケーションのすべての機能に直接適用できるわけではありません。ですがハイブリッド・アプローチを採用する場合、重要な役割を果たします。このアプローチには、取り込まれたデータと、選択したプラットフォーム内の仮想化を通じてアクセスしたデータ双方の統合が含まれます。

技術間のトレードオフを評価は、取り込まれたデータ・セットと仮想化されたデータ・セットの両方で最適なストレージ使用量を確保するのに役立ちます。これらの設計上の考慮事項は、データ・プラットフォーム上の仮想化データを使用して効果的なMLソリューションを構築するために重要です。

データ仮想化:最新のアプリケーションの戦略的な原動力

データ仮想化は単なるイノベーションを超えて進化しています。これは、さまざまなアプリケーションの機能を強化するための戦略的なツールとして機能します。代表例はデータ仮想化プラットフォームです。このプラットフォームは、データ仮想化を使用して幅広いアプリケーションの開発を容易にし、効率性、適応性、そしてほぼリアルタイムで洞察を提供する能力を大幅に向上させます。

データ仮想化が持つ変革の力を示す、いくつかの魅力的な使用例を見てみましょう。

1. グローバル化した世界に向けたサプライチェーンの最適化

今日の相互に接続された世界経済では、サプライチェーンの特徴の一つに、複雑な依存関係を持つ広大なネットワークが挙げられます。データ仮想化は、この複雑なシステムを大幅に合理化します。データ仮想化プラットフォームは、多数のソースから、生産指標、ロジスティクスの追跡の詳細、市場傾向データといったさまざまなデータを統合します。サプライチェーン業務全体の全体像を提供することでデータの包括的な把握が可能になり、ビジネスの強化につながります。

あらゆる側面にわたって可視化された状態を想像してください。発生しうるボトルネックを事前に特定し、物流プロセスを最適化し、変化する市場ダイナミクスにリアルタイムで適応できるようになります。その結果、最適化され、迅速に対応可能なバリューチェーンが実現され、大きな競争上の優位性を獲得できます。

2. 顧客の行動を深く掘り下げる:顧客分析

デジタル革命により、ビジネスの成功には顧客の理解が不可欠となりました。データ仮想化プラットフォームは、データ仮想化を活用してデータ・サイロを解消します。販売記録、顧客サービスでのやり取り、マーケティング・キャンペーンのパフォーマンス指標など、さまざまなタッチポイントから得られる顧客データをシームレスに統合します。この統合されたデータ環境により、顧客の行動パターンと顧客の好みを包括的に理解できるようになります。

深い顧客インサイトを得ることで、企業は、高度にパーソナライズされたエクスペリエンスの構築、ターゲットを絞ったプロモーションの実施、そしてターゲットオーディエンスの共感をより効果的に得られる製品への刷新が可能になります。このデータ駆動型のアプローチは、顧客満足度を高め、今日の激しい競争環境における成功に不可欠な、長期にわたるロイヤルティを醸成します。

3. デジタル時代におけるプロアクティブな不正検出

金融詐欺は絶えず進化しており、データ仮想化プラットフォームによる先手を打った対処が困難な検出タスクを引き起こしています。このプラットフォームは、さまざまなソースからの得られる取引ログ、ユーザーの行動パターン、人口統計の詳細などのデータを仮想化し分析することで、潜在的な詐欺行為をリアルタイムで特定します。このアプローチは、企業を財務上の損失から守るだけでなく、今日のデジタル時代において重要な資産である顧客基盤との信頼関係も育みます。

データ仮想化の変革の可能性は、次のような影響力のあるアプリケーションによって実証されています。IBM Cloud Pak ® for Data プラットフォームIBM watsonxにより、企業はデータの力を最大限に活用し、イノベーションを推進し、ひいてはさまざまな業界において大きな競争優位性を獲得できるようになります。IBMは、共通クエリ−・エンジンとしてIBM Data Virtualizationを、データ・ガバナンス向けにIBM Knowledge Catalogを提供しています。

私たちは、データ仮想化の実現に向け、あらゆる段階を支援します。

 
著者
John Millar Thangaraj Senior Data and AI Specialist-HDM