全米オープンのデジタル体験を加速する
watsonxで構築されたAIモデルはデータをインサイトに変換します
夜のアッシュ・スタジアムの内部

2023年の夏の終わりの2週間、95万人以上の人々が、全米オープン・テニス選手権で世界最高のテニス選手たちの試合を観戦するためにニューヨーク州フラッシングを訪れました。

毎年、世界で最も多くの参加者が集まるスポーツ・イベントの1つです。

しかし、1,500万人以上の世界中のテニス・ファンは、全米オープンのアプリやウェブサイトを通じてトーナメントを観戦します。たくさんの人に、繰り返し観戦してもらえるように、米国テニス協会(USTA)は、30年以上にわたってIBM Consultingと協力し、主要な特徴や機能を絶えず進歩させるワールドクラスのデジタル体験を開発、提供してきました。

「全米オープンのデジタル体験は、世界中のファンにとって、ひいては私たちにとっても非常に重要です。」と、USTAの最高商業責任者のKirsten Corio氏は話します。「つまり、テニスファンの現代的な需要を満たすために常に革新し、彼らのニーズを先取りするだけでなく、新しく予想外の体験で彼らを驚かせる必要があるということです。」

全米オープンがこの最先端の顧客体験を維持できるよう支援するために、IBM ConsultingはUSTAと緊密に連携して、テニス・データを全米オープンのアプリとウェブサイト上のインサイトとオリジナル・コンテンツに変換する生成AIモデルを開発しました。USTAは、次世代AIおよびデータ・プラットフォームであるIBM® watsonxを使用して、マッチ・インサイトや全米オープンのハイライト・リール向けの新しいAI解説など、主要なアプリ機能をサポートするAIモデルを構築しました。

1,500万

世界中の1,500万人以上のファンのためのワールド・クラスのデジタル・エクスペリエンス

700万

IBMは、トーナメント全体を通じて700万を超えるデータ・ポイントを取得して分析します

watsonxで構築されたAIモデルは、全米オープンのデジタル体験を強化しているだけではありません。主要なワークフローを自動化することで、編集チームの生産性も向上しています。 Kirsten Corio 最高商業責任者 United States Tennis Association
watsonxで構築されたAI解説

全米オープンは2週間にわたる広大なトーナメントで、22面のコートで数百の試合が行われます。これらの試合のほとんどはテレビで放送されないため、音声による解説はありません。そこでUSTAは、トーナメントのすべてのシングル・マッチで作成されるビデオ・ハイライト・リールに音声解説を追加するようIBMに依頼しました。

これを実現するために、IBM Consultingチームは、watsonx.aiから利用できるSandstoneと呼ばれる強力な大規模言語モデルに基づいた生成AIソリューションを構築しました。Sandstoneはすでに英語を理解していましたが、テニスの場面を完全な文章に変換するためには、テニス・データを用いたトレーニング、または「チューニング」が必要でした。

「基盤モデルは信じられないほど強力で、生成AIの新時代の到来をもたらしています」とIBM ConsultingのパートナーであるShannon Miller氏は述べています。「しかし、有意義なビジネス成果を生み出すには、その分野の専門知識が必要です。だからこそ、組織の独自データがAIに関して重要な差別化要因となるのです。」

チームはwatsonx.dataを使用して、USTAの信頼できるデータ・ソースに接続し、キュレーションしました。キュレーション・プロセスには、大規模言語モデルに情報を提供する基盤データとUSTAの独自データの重複除外とフィルタリングが含まれます。このプロセスでは、冒涜的な言葉や暴言、不快なコンテンツなどがフィルタリングされます。

その後AI解説モデルは、ビデオ・クリップに関連付けられたメタデータを文章に変換するようにトレーニングされます。行動を説明する最適な文を選択する前に、数十の異なるオプションが生成され、クリップごとに文構造を変えることで繰り返しを避けるよう配慮されます。次に、Text to Speech機能を使用して、言葉に声を付けます。2023年の全米オープン期間中、AI解説付きの試合ハイライトは200万回以上視聴されました。

モデルの動作については、今後リリースされるwatsonx.governanceに含まれる要素を使用してパフォーマンスが監視されます。また、IBM Watson®でマッチ・インサイト機能を強化するAIモデルの構築には、同じwatsonxツール・スイートが使用されました。これらのモデルは、高度なデータ分析と自然言語処理を駆使して、数百万のデータ・ポイントからすべてのシングルス・マッチに関する有意義なインサイトを抽出し、AIによるファクトシートを生成します。

例えば、テニス・ファンはIBM Power Indexを確認することで、トーナメントで最も勢いのある選手を把握できます。結果的に女子シングルスのチャンピオンになった選手は世界ランキングが6位であったにもかかわらず、このインデックスは、トーナメントの1位にランク付けすることに成功しました。また、各試合の前に、ユーザーはどの選手が勝つ可能性が最も高いかを確認できます。新しいAIドロー分析機能を使用することで、各選手の対戦表の相対的な難易度も確認できます。

イノベーションのプラットフォーム

AI解説やマッチ・インサイトに見られるような新しい機能を毎年開発するには、USTAはスピードと目的を持って動く必要があります。 このプロセスは、全米オープンが終了した翌週、IBM ConsultingがIBM Garage Methodology (共創のための高度なコラボレーション・アプローチ)を使って作業を開始することから始まります。

「クライアントと関わるときは、クライアントが望む最終状態に向けてアイデアを出し、反復し、適応しながら、あらゆる段階で緊密に連携することが重要です。」と、Miller氏は言います。

新しいアイデアをデジタル現実に変えるために、IBM Consultingは、構造化データと非構造化データを処理し、さまざまなソースからのテクノロジーを統合できる強力なデジタル・インフラストラクチャーを設計、開発、管理します。この基盤インフラストラクチャーは毎年進歩し、改善されています。

「かつてはイノベーションのサイクルは年単位で測定されていました。」と、USTAのCorio氏は言います。「しかし今では、イノベーションは数週間、数日で測定され、どこからでも生まれる可能性があります。そのため、あらゆる種類のデータを処理し、データをインサイトに変えるプロセスを自動化し、デジタル環境全体を保護しながらすべてを実行できる柔軟なプラットフォームが必要でした。」

データからインサイトへ

デジタル・エクスペリエンスの原料はデータであり、全米オープン・トーナメントではデータが大量に生成されます。まず、各全米オープンは男子128名、女子128名のシングルス選手で構成され、各トーナメントは合計7ラウンドで行われます。各テニス選手には、世界ランキングや最近のパフォーマンスなど、独自のデータセットが付属しています。しかし、それはほんの始まりに過ぎません。

トーナメント期間中、125,000ポイント以上がプレイされます。そして、それらの各ポイントは、サーブの方向、スピード、リターン・ショットのタイプ、ウィナー・ショットのタイプ、ラリー・カウント、さらにはボールの位置など、独自のデータ・セットを生成します。全体として、トーナメント中に700万を超えるデータ・ポイントが生成されます。

しかし、全米オープンのデジタル・エクスペリエンスに更なる深みと背景を加えるため、チームは数字だけにとどまらず、さらに進むことを望みました。そのため、彼らはAIを利用して、何十万もの異なるソースからの数百万の記事の言語や感情を分析し、IBM Power Indexのように独自で情報豊富なインサイトを生み出しています。データ・セットの収集、統合、分析の管理を支援するために、IBMはAIワークロードを処理するために特別に設計された専用のデータ・ストア、watsonx.data を使用しました。

「これは、複数のデータソースとさまざまなパートナーを組み込んだ大規模なデータ管理業務です。」と、Miller氏は言います。「しかし、統計やスコアなどのハードデータと、メディアのコメントなどの非構造化データを組み合わせると、魔法が起こります。それがテニスファンに各試合のより完全な全体像を与えるのです。」

オートメーション、コンテナ化、その他の効率化

IBM Consultingは、USTAとの長年の取り組みの中で、このプロセスを合理化するために、デジタル・エクスペリエンスを生み出すために必要なさまざまなアプリケーションやAIモデルを通じたデータの流れを統合し、編成する自動化されたワークフローを構築してきました。これらのワークフローは、ハイブリッドクラウド・アーキテクチャーと、Red Hat® OpenShift®(リンク先はibm.comの外部です)上で動作するコンテナ化されたアプリケーションによって実現されています。全米オープンのハイブリッド・マルチクラウド・アーキテクチャーは4つのパブリッククラウドと3つのプライベートクラウドで構成されており、さまざまなソースからのデータを利用し、さまざまなパートナーからの機能と能力を統合しています。

アプリケーションをコンテナ化することにより、チームはアプリケーションを一度書くだけでどこでも実行でき、正しいデータが正しいクラウド上の適切なアプリケーションに届けられるようになります。全体の運用をスムーズに保つために、チームはIBM Instana Observabilityテクノロジーを使用しています。これはアプリケーションのパフォーマンスを常に監視し、3秒以内に問題を検出するため、チームは迅速に対処してダウンタイムを避けることができます。

セキュリティーを優先。データを保護。

トーナメント期間中、全米オープンのデジタル・プラットフォームが何百万件ものセキュリティー・インシデントにさらされることは珍しいことではありません。脅威の種類はさまざまですが、ほとんどは隙を狙っており、深刻なものではありません。

プラットフォームの防衛は、トーナメントが始まる数カ月前に始まります。IBM Security® Randori Reconソリューションを利用して、チームは攻撃面の包括的な分析を実施し、第三者や隣接するネットワークを含むネットワーク全体の脆弱性をスキャンします。このセキュリティ調査の後、IBM Security Randoriはハッカーにとっての魅力度に基づいて脆弱性をランク付けし、チームが対応の優先順位を定めることを支援します。

トーナメント開始時、全米オープンではIBM Security QRadar® Suiteを利用して、各セキュリティー・イベントの重大性を見積もります。これには脅威の評価、重要でないものの無視、そして最も緊急性の高い問題のみをセキュリティー・アナリストへと伝える作業が含まれます。次に、IBM X-Force® Exchangeソリューションなどの外部ソースからの脅威インテリジェンスとの活動を相関させ、より広範でグローバルな攻撃の一環である可能性のある活動を探ります。そして最後に、IBM Security QRadar Suiteは、脅威に対処する最善の方法についてIBMのアナリストに推奨事項を提供します。2023年の全米オープンでは、IBMチームは1,000万件を超えるセキュリティー・イベントの阻止に成功しました。

「このプラットフォームを使用すると、数年前には不可能だったことが可能になります」とCorio氏は述べています。「すべてのデータを管理し、AIによって生み出されたインサイトを生成し、環境を保護すること... IBMは私たちのためにそれらすべてを統合してくれます。そして、このパートナーシップの未来がどのようなものになるかを見るのが待ち遠しいです。」

すべてのデータを管理し、AIによって生み出されたインサイトを生成し... IBMは私たちのためにそれらすべてを統合してくれます。そして、このパートナーシップの未来がどのようなものになるかを見るのが待ち遠しいです。」 Kirsten Corio 最高商業責任者 United States Tennis Association
全米テニス協会のロゴ
米国テニス協会(USTA)について

1881年に設立されたUSTA(リンクはibm.comの外にあります)は、アメリカのテニス・スポーツの全国統括団体です。全米オープン(リンクはibm.comの外にあります)は、Arthur Ashe氏が男子シングルスのタイトルを獲得した1968年に初めて開催されたグランドスラム大会です。全米オープンは、毎年9月にニューヨーク州クイーンズのフラッシングにあるUSTA Billie Jean King National Tennis Centerで開催されます。

IBM watsonx

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2023年10月米国で作成。

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