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三井住友銀行が共創で挑む金融機関GHG排出量削減のソリューション

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船山 明信郎氏

船山 明信氏
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
デジタル戦略部
副部長

1998年に住友銀行入行。法人・個人取引に従事した後、オペレーション効率化企画やコールセンター企画を経て、システム統括部で渉外用タブレット電子契約や邦銀初となるOffice365の導入プロジェクト、チャットボット等のAI先端技術活用プロジェクトを率いる。
2018年よりシリコンバレーに赴任し、SMBCシリコンバレー・デジタルイノベーションラボの所長としてグローバルスタートアップとの協業、ビジネスモデルの調査を通じて、SMFGのデジタル・トランスフォーメーション、新規事業開発を推進。2023年4月よりデジタル戦略部に着任、現職に至る。

 

赤澤 直人

赤澤 直人
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部
ビジネストランスフォーメーション・
ラージディールコンサルティング
シニアマネージングコンサルタント

2009年IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社入社、2010年より日本アイ・ビー・エム株式会社。金融機関向け新人組織リーダーを経て現職。入社以来、経営管理(会計・リスク・コンプライアンス)領域にて業務・システムのコンサルティングに従事し、企画段階から運用に至るまで複数案件の統括を担当。現在サステナビリティー分野のコンサルティングに従事し、SMBC様とのエコシステムを構築。2022年GHG排出量計算ソリューションの協業を開始するなどソリューション説明やシステム導入、保守推進をリードしている。

脱炭素社会の実現に向けて、温室効果ガス(GHG)排出量の効果的な削減が求められる中、金融機関は投融資先との対話(エンゲージメント)によるGHG排出量(スコープ3カテゴリー15)の管理・監視を含む制度的な対応に加え、具体的に排出量削減を支援することが求められています。しかし、必要とされるデータの実態の把握や信頼性、説明責任の確保には多くの課題が残っており、これらの整備が急務です。株式会社三井住友銀行(以下、SMBC)は、グローバル基準の炭素会計プラットフォームを展開する米Persefoni AI, Inc.(以下、パーセフォニ)、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)と協力してGHG排出量の算定やコントロールのソリューションを提供、課題解決に乗り出しました。

求められるGHG排出量算定と取引先企業に対する支援

船山 明信氏、対談時の様子

2023年6月に公表された国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の国際基準を受けて、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)でも2023年度中にサステナビリティ開示基準の草案が公表される予定です。開示基準の導入スケジュールが具体的に示されたことから、「各企業とも、どの時期に何から始め、どのように取り組むかを具体的に考える時が来ています」と、三井住友フィナンシャルグループデジタル戦略部副部長の船山明信氏は語ります。そして、金融機関の置かれた状況として、「金融機関を中心とした投融資を行う企業の重要課題は、スコープ3カテゴリー15をいかにコントロールするかです。投融資先のGHG排出量は、スコープ1-2の平均値と比べて700倍以上にもなります。これをいかに削減していくかが2050年ネットゼロ実現の鍵になります」と説明します。

ただ、GHG排出量データの収集や整備にはいくつもの課題が指摘されています。
一つはリスク・会計といった先行領域から見た場合に求められる次の4点です。

  1. 正確で網羅性が高いこと
  2. 決算と同時に開示できる適時性を実現できること
  3. 監査に耐える仕組み
  4. 包括的に対応できるシステムを構築すること

これらを軸にデータの流れ全体をシンプル化・標準化する必要があります。

もう一つはデータの活用です。船山氏は「金融機関には適切な情報開示のために自社のデータや外部のデータを大量に収集して算定することと同時に、お客様の脱炭素に向けた様々な支援が求められています」と語ります。

この課題解決のためには、投融資先のGHG排出量の現状把握が必要ですが、相当数の取引先すべてが自身のGHG排出量を理解しているわけではありません。対象となる全法人の取引先で特定作業・名寄せ処理が必要であり、その処理は大量で複雑です。実際には推計法を用いて各金融機関が算定しており、多くの企業で信頼性の確保や算定にかかる負荷などの問題を抱えているのが現状です。

図:GHG排出量の算定対象と計算式

パーセフォニとIBMとの3社による協業体制を確立

こうした中でSMBCでは、米国のパーセフォニとIBMとの協業によって、金融機関のGHG排出量算定とデータ活用に関するソリューションの提供を2022年8月に開始しました。スタートアップ企業であるパーセフォニは、米国の調査会社フォレスター・リサーチの「GHG排出量算定・報告とサステナビリティ管理ソフトウェア業界のリーダー」に選出され、2023年には日本国内では唯一のPCAF認定パートナーとなるなど、この分野において高い評価を得ています。

図:3社の協業体制を確立図:3社の協業体制を確立

船山氏は、「米国のSMBCシリコンバレー・デジタルイノベーションラボでグリーンテック領域を調査する中でGHG排出量の可視化ソリューションを提供するパーセフォニと出会いました。パーセフォニは経営陣を含めてこの分野に精通しているメンバーが揃っており、カテゴリー15の管理・算定を実現するソリューションを持っていました」と協業の背景を語ります。

同社のソリューションはPCAFに基づいたカテゴリー15を含めた包括的なGHG排出量の算定に対応でき、幅広い関係者とデータ共有が容易にできるという特徴を持っています。また、監査対応や脱炭素施策の立案など、GHG排出量に関する統合プラットフォームとしても機能します。

しかし、このソリューションを活用するためにはデータの収集、加工などデータ活用の事前準備が必要なため、IBMに声を掛けて、3社でタッグを組むことになりました。船山氏は「導入前に社内のデータを整備したいというお客様もいらっしゃいます。そのような技術的課題は経験豊富なIBMに解決策を提供してもらえると考えました」と話します。

※ PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ:Partnership for Carbon Accounting Financials)。金融機関が投融資を介して資金提供した先のGHG排出量(スコープ3カテゴリー15)の算定・開示基準を策定する組織
 

 

3社がそれぞれ持つノウハウで実行段階までサポート

図:金融機関向けご支援の全体像

3社の協業による支援の特徴は、ESG領域における先進的なシステムであるパーセフォニのソリューションに加えて、SMBCの金融機関ならではのノウハウ、システムだけでは解決できない算定体制の構築、そしてIBMの一気通貫でのシステム面のトータル・サポートがワンパッケージで提供されることにあります。

金融機関向けの具体的な支援は、

  1. IBMがパーセフォニのソリューションを活用して、カテゴリー15を自動算定。支援を要するGHG大量排出企業の把握や取引先の排出量の算定を補助し、さらに取引先への支援内容に関する目標と実績を把握。所属業種に応じた削減施策の推奨案を提案
  2. 必要とされる脱炭素施策についてはSMBCがグループとしてのノウハウを提供、実行段階を支援となります。例えばお客様企業向けの支援として、お客様が普段取引している企業だけでは対応できないニーズがあった場合には、SMBCが提供する企業同士のマッチング・プラットフォーム「BizCreate」を通してニーズに合致する脱炭素に資するソリューションを提供できる企業を紹介する

など様々な支援が考えられます。

支援の全体像としては、SSBJ開示基準の草案を基にした「予備検討期」、基準確定を受けての「立ち上げ期」、一連のプロセスを回すことで見えてきた課題への対応と開示に向けた範囲拡張を行う「拡大・効率化期」、さらにはGHG領域だけでなく、サステナビリティー投資との連動などの「高度化期」といったロードマップを想定することもできます。

IBMコンサルティング事業本部シニアマネージングコンサルタントの赤澤直人は「3社の強みが出せることがこのスキームの利点です」と話します。

 

GHG排出量の算定からサステナビリティー全般へ

赤澤 直人、対談時の様子

実際にパーセフォニのユーザーにヒアリングした第三者レポートでは、導入して2年目までに算定・報告時間が35%、3年目で40%短縮されたという効果を上げています。コストの観点ではコンサルタントなどへの委託費用を3年間で1億1,000万円以上削減できたという事例も見られます。現在国内でも数社がPoC(概念検証)に取り組み、ダミー・データなどを利用して検証が行われています。

赤澤は「多くの工場を持つお客様企業に、限定的なデータを用いてパーセフォニを試行いただくことにより、具体的にどのような効果が見込めるのか、利用目的に対しどのような検討事項や課題が発生しうるのかを評価、検証していただいています。その中で例えばパーセフォニ導入をきっかけに、そもそも自社に相応しい算定法が何か判断がつかないといった業務上の課題が見えてくることもあります。多くのお客様でも同様の実態があるかと思いますが、その場合は3社の持つ業務・システム知識を基にした課題解決の支援・協議を提供することで、そこから今後の開示の仕組みづくりのための新たな気づきも得られています」と現状を語ります。

パーセフォニ自体も、取引先が無償で算定を行える機能や相互にデータを共有できる機能もリリース予定であり、共通の仕組みを介して取引先とエンゲージメントを深めることにも有効に活用できるようになります。また、元々クロス・インダストリー向けに開発されたソリューションのため、多くの拠点を展開する製造業など金融機関以外でも活用できます。

船山氏は「グローバルな企業にとっても非常に有効なツールですから、金融機関に対するご提供を進めると共に、それ以外のインダストリーにおいても脱炭素の取組状況に応じてご支援していきたいと思います。今後も協業を通じてお客様に価値を届けていきます」と抱負を語りました。