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Smarter Business

EVの時代は本当に来るのか?世界の消費者の意識は?

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鈴木 のり子

鈴木 のり子
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Institute for Business Value
Global Research Leader – Automotive and Electronic Industry

自動車業界では過去に何度も電気自動車(EV)へのシフトが検討され、たくさんのEV商品が市場に投入されてきました。環境意識の高まりと規制強化、電池技術の向上により、EVが身近な商品として認識されはじめています。消費者がEVの魅力を感じ、受け入れなければ本格的なEVシフトは進みません。IBMのビジネスリサーチ・シンクタンク IBM Institute for Business Valueは、2022年7月に世界の主要な自動車市場7カ国の消費者を対象にオンライン調査を実施しました。

主要なポイント

  1. 消費者のEVに対する興味は非常に高まっている。EVならではの魅力が市場に理解されはじめている。
  2. 充電インフラの整備は引き続き課題。多様な使用シーンに対応できるインフラ整備が必要。
  3. EVの本格普及には、総所有コストがガソリン車並みに下がる必要がある。

1.消費者のEVに対する興味は急速に高まっている。EVの魅力が理解されはじめているが、国によってかなりの温度差がある。普及タイミングは規制と消費者の需要次第、市場により異なるだろう。

中国54%、インド53%の消費者が、1年以内にEV購入を検討したいと回答しています。一方、日本では3%、アメリカでは11%と大変低い数字です。グローバル全体では、51%の消費者が3年以内にEVを購入したいと回答しました。
2021年の世界の自動車販売に占めるEVの割合は9%程度です。今回の調査パネルは、中国とインドで比較的所得が高く都市在住の層が中心となりましたが、それを考慮しても購買意欲の高さは顕著です。

また、既にハイブリッド車(HEV)やEVなどの電動車を使っている消費者は、次もEVを検討したい、と考えている人が大多数(EVオーナー86%、HEVオーナー74%)です。一度電動車を使ってみるとその利点や魅力を実感しやすいといえそうです。

いつまでにEVを所有したいか?(現在所有している車両別)いつまでにEV を所有したいか? (現在所有している車両別)

EVを使いたい理由のトップは自宅で充電できるから(63%)と維持費用が安く済むから(62%)でした。環境に良い商品を使いたいから、という回答は52%に留まりました。環境面への配慮よりも、商品の実用的な側面に魅力を感じている人が多いようです。

一方、懸念事項としては、充電ステーションがまだ足りない(57%)、導入コストが高額(52%)、自宅充電設備の設置困難(51%)が上位に上がりました。どれも以前からEV普及の課題とされてきたことですが、様々なインセンティブや施策にも関わらず、まだ課題として残されていると言えるでしょう。

2.充電インフラ整備はEV普及のための大きなポイント。自宅充電、目的地充電、経路充電それぞれをバランスよく整備し、安価に利用できることが重要。

自宅充電をメインに使う予定の消費者は53%に留まりました。21%は目的地充電、すなわち職場や外出先での充電をメインと想定しており、17%は近隣または集合住宅の共有充電施設を活用予定です。人々の生活の様々な場所で使えるEV充電インフラの整備が必要だと言えます。 

メインの充電方法メインの充電方法

また、EVの使用目的も充電ニーズに大きな影響を与えます。消費者の72%が通勤や日々の用事に使うと回答していますが、一方で長距離移動が主な用途との回答も12%あり、年間54日程度の使用頻度が想定されています。また、現EVオーナーはガソリン車オーナーと比べて日々の使用、長距離移動ともに2倍以上の走行距離を想定しています。現EVオーナーは車好きな層が多いという事情もあるかもしれません。EVが普及するにつれ、使用パターンは変わっていくかもしれませんが、多様な運転ニーズに応える必要があるでしょう。

3.EVの本格普及には、総所有コストがガソリン車並みに下がる必要がある。

52%の消費者が、ガソリン車と比べたEV所有の追加コストはゼロ以下、つまり追加コストなしか低コストが望ましい、と回答しています。
消費者にとって、EV購入の際に最も重要なポイントは価格です。消費者のEV購入意欲は6万ドルを超えると下がります。2022年のアメリカのEV新車価格平均は6万7千ドルとのデータ※1があります。消費者の期待とのギャップはまだ少しあるようです。
高度な電動化による付加機能も注目されています。いくつかの機能はとても付加価値が高いと認識されており、例えば自動運転機能は月額171ドルまで支払っても良い、パフォーマンスアップグレードには月額171ドル払っても良いとのデータが出ています。

※1Kelly Bluebook June 2022 data(外部サイトへ)

EV関連業界への示唆

消費者のEVへの興味は急速に上がってきており、いくつかの主要市場で数年以内に一般的な選択肢になる可能性があります。自動車業界と周辺のモビリティー・エネルギー業界は、業界の枠を超えて協力して消費者の懸念事項を解決していく必要があります。また、新しいビジネスモデル、収益源が出現する可能性もあります。