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Smarter Business

国内初のバリアフリーな社会インフラを目指す

「インクルーシブ・ナビ」、
東京・日本橋室町地区でいよいよサービス実装を開始

目の不自由な人も、車いすの利用者も、外国人や一般の買い物客も、誰もが快適に街歩きを楽しめるようにしたい――そんなバリアフリー・ストレスフリーの社会を目指して、日本IBM東京基礎研究所と清水建設株式会社は、屋内外を区別なく案内する高精度音声ナビゲーション・システム「インクルーシブ・ナビ」を共同開発した。
このシステムは2017年2月に東京・日本橋室町地区のCOREDO室町1・2・3を中心に三井不動産株式会社と共同で実施した「高精度な屋内外ナビゲーション・システムの実証実験」の成果をもとに、2019年10月11日から日本初の実装サービスとして3社が共同で展開するものだ。

スマートフォンで利用者の属性に応じて、地図と音声で案内

音声ナビゲーションは、スマートフォンに専用アプリ「インクルーシブ・ナビ」をインストールした利用者が、一般歩行者、車いす利用者、ベビーカー利用者などの属性を選択して利用する。画面読み上げ機能を利用している場合には、視覚障がい者専用の機能が自動で選択される。アプリを起動すると、一般歩行者には最短コースを、車いす利用者には階段や段差を避けたルートを、視覚障がい者には周囲の状況や曲がるタイミング、エレベーターのボタンの位置などの詳細情報を、地図と音声でリアルタイムに案内してくれる。

使い方はこんなふうだ。利用者は自分が行きたい場所や意図をスマホに話しかける。

利用者 「中華料理が食べたい」

アプリ 「コレド室町には1:店舗A、2:店舗B、3:店舗Cの3件があります。何番のお店にご案内しますか?」

利用者 「それらはどんなお店ですか?」

アプリ 「店舗Aの魅力は『◎◎の新業態店。本場四川の味でおもてなし』、店舗Bの魅力は『メディアで人気の中国料理店。伝説のシェフ△△の新中華』、店舗Cの魅力は『横浜中華街の老舗四川料理店の中華菓子と点心』です。どちらの店にご案内しますか?」

利用者 「最初の店でお願いします」

アプリ 「店舗Aにご案内します」

 
それぞれの店舗の紹介はポイントがわかりやすく伝わるよう簡潔にまとめられている。こうして目的地が決まれば、店までのルートがスマホの画面上に示され、ターン・バイ・ターン方式(分岐にさしかかったときに目的地へ向かう方向を音声で示す、カーナビ等では標準的なナビゲーション方法)で音声案内をしてくれる。途中でルートを間違えても、自動再検索機能できちんと誘導し直してくれる。訪日外国人向けには英語での音声サービスも備えている。

図1.車椅子利用者のナビ利用の様子

視覚障がい者向けの音声ナビゲーション

では視覚障がい者向けには、どのようなサービスが提供されるのだろうか。

利用者 「○○○に行きたいです」

(この間の対話を省略)

スマホ 「9メートル進み、正面エレベーターを使って3階に上がる」「そろそろです」
「正面のエレベーターを使って3階に上がる。エレベーターの右少し下に呼び出しボタン、点字あり」
(エレベーターに乗る)「3階に行きます。出口に向かって右に操作ボタン、点字あり」
「エレベーターを降りたら右に曲がる」「10メートル進み、突き当りを左に曲がる」
「そろそろです」「突き当りを左に曲がる」「5メートル先、目的地です」
「到着しました、目的地は左側です」

 
このように視覚障がい者でもスムーズに移動できるようにエレベーターのボタンの位置まできめ細かく読み上げることができる。読み上げる量は早い音声でも認識できる視覚障がい者の特性に合わせてデザインされている。また「曲がり角で正しい方角を向いたらスマホが振動する」など音声以外の伝達方法も利用している。
一方で、視覚障がい者は周囲の音からお店の存在や空間の大きさなどを把握しながら歩いている。そのため、スマホの音声と周囲の音を同時に聞くことができる骨伝導方式やオープンイヤータイプのイヤホンを用いることを推奨している。

また、音声ナビゲーション・システムの実証実験の様子を見たベビーカー利用者の方々から「私たちも使いたい」との要望があったことを受け、今回のインクルーシブ・ナビには、おむつ交換や授乳用のスペースの案内に加え、ベビーカーでの移動に適したルートを案内できるベビーカー利用者向けのサービスも加えられている。

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161個のビーコンを約10メートル間隔で設置

このインクルーシブ・ナビは、日本IBM東京基礎研究所と米国カーネギーメロン大学(CMU)、清水建設などが共同で開発し、実証実験に利用していた「NavCog」をベースに清水建設が開発したものだ。

システムで使われている技術や情報連携の仕組みの概要は図2のようなものだ。COREDO室町1・2・3の対象エリアは約20,000㎡で、三井不動産は対象エリアの平面図に加えてエリア内にある約100件のテナント情報(店舗の種別や紹介など)、トイレなどの施設情報を提供。その情報をもとに清水建設が161個のビーコンを設置し、利用者の所在する位置を推定するシステムと対象エリアのナビゲーション用地図を作成した。ビーコンの電波を受信したインクルーシブ・ナビは、利用者の特性および推定された位置とクラウド上に保存されたルート情報(国土交通省が定める歩行空間ネットワーク形式を利用)に基づいてナビゲーション用のルートを検索する。日本IBMは、IBM Watsonを活用した対話に基づく目的地設定機能などを含めた、このシステム全体の構築を支援した。

図2.高精度音声ナビゲーション・システム概要

ハイブリット位置推定による世界最高レベルの位置推定精度

日本橋室町地区における位置推定は推定平均誤差1~2メートルと、街などの大規模空間を対象とした屋内測位環境における精度として世界最高レベルを誇る。本システムでは、ビーコンの電波強度分布を機械学習したモデルに基づく位置推定と、スマホに内蔵された加速度計、ジャイロスコープ、気圧計などのセンサーの情報に基づく歩行者自立航法(PDR)を連動させることで、正確な位置推定を実現している。

自らも視覚障がい者の浅川智恵子IBMフェローや、
米カーネギーメロン大学も尽力 グローバルな産学連携

このように3社の協力で開発・実装されたインクルーシブ・ナビだが、自らも視覚障がい者である浅川智恵子IBMフェローが中心となった米カーネギーメロン大学 (以下CMU)のグループも基礎段階から研究開発に尽力してきた。
CMUがある米ピッツバーグ市では、CMUが主導してピッツバーグ国際空港、アンディ・ウォーホル美術館、ホテルなどにおいて音声ナビゲーション・システムの実証実験が展開されている。

同国際空港で利用した視覚障がい者からは「すばらしい!自分1人でゲートまで行けたのは初めての経験だ」、ホテル利用の視覚障がい者からも「人から『助けましょうか?』と声を掛けられたが、『1人で大丈夫』と答えたんだ!」と、称賛や喜びの声が寄せられている。

病院、空港、地下街などで実証実験を重ねてきた日本

一方、日本での実用化の歩みは、清水建設技術研究所と日本IBM東京基礎研究所が2015年、視覚障がい者と車いす利用者を対象にして歩行実証実験を行ったことに始まる。
その成果をもとに、2017年、COREDO室町1・2・3を中心とする日本橋室町地区での大規模社会実証実験を実施した。その後、総合病院、公共施設、国際空港、地下街、スポーツイベント会場など、目的や用途、規模の異なる多彩な空間で実証実験を進め、技術的な課題の克服を進めるとともに、実装・運用に関するさまざまな壁を乗り越えて、今回、COREDO室町1・2・3でのサービス実装を実現したのである。

誰でも手軽に使える社会インフラ、普及に期待

インクルーシブ・ナビは、誰でも迷うことなく手軽に使える社会インフラとして、これからもさまざまな空間に広がることが期待される。日本でも空港、駅等の交通結節点、ショッピングセンター、スタジアム等の大規模施設、美術館、ホテル、病院、公共施設、観光地など多くの人が集まる場所に展開されることが期待されている。

今回サービス実装する日本橋エリアでは、COREDO室町1・2・3だけでなく、日本橋三井タワーへの拡大を予定しているほか、エリア内の他施設におけるサービスの導入も検討されている。また、高精度な位置推定技術を活用した新たなサービスの提供や管理効率化など、本システムを基礎とした都市のICTインフラ強化、日本橋エリア全体での安心・安全の向上を目指した検討が進められている。

浅川智恵子IBMフェローは、「視覚障がい者にとってうれしいのは、1人で買い物を楽しんだりレストランを探したり、自由に街を楽しめることです。私自身もナビゲーション技術によって行動範囲が広がることを実感できました。さまざまなパートナーの方々の協力でこの技術が成長し、日本中にそして世界中に広がることを願っています」と語る。

国際イベントの日本開催の増加を受け、訪日外国人観光客の増加も見込まれる中、世界から障がいのある人も数多く来日する。訪日したすべての人たちに日本の技術力を知ってもらうだけでなく、日本滞在中、バリアフリー・ストレスフリーで楽しめる環境を楽しんでもらうことができれば、最高の「おもてなし」になるだろう。

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