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金融機関バックエンドシステムにおいて、レガシー変革を成功させるための道標

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金井正彦 氏

金井正彦 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
金融ビジネス・ソリューションズ コアシステム 部長
 

2000年、日本アイ・ビー・エム入社。大手地域金融機関の担当SEとして基盤・開発・運用プロジェクトを多数経験。2007年以降、大手地銀共同化グループのリードアーキテクトとして共同化を推進。2018年より勘定系、対外系、情報系、APIといったソリューションの企画・推進活動をリードしており、現在は従来型のコアバンキング・ペイメントの企画・開発を統括している。専門分野は銀行におけるITコンサルタント/アーキテクト。

金融機関の基幹システムにおけるアプリケーションの課題

金融機関のバックエンドの基幹システムはレガシー化の問題に直面している。インフラは定期的に刷新しておりレガシー化の課題は少ないが、アプリケーション面は長年使用を続けてきたことにより、大きく2つの課題がある。

1つ目は、長年の度重なる機能開発によりアプリケーションが複雑化・肥大化している点(課題①)。2つ目は、次の世代に引き継ぐことができるかという点だ(課題②)。

これらを解決するためのアプローチとして、一般的にはリビルド(作り直し)、リライト(言語コンパージョン)、リホスト(オープン化)が挙げられる。リビルドは2つの課題に有効であるが、多大な投資が必要になってしまう。リライトやリホストでは、①と②の課題が一部残ってしまう。

※課題②に対して、リホストの場合、システムは延命するが、スキルは継承されない。リライトやリビルトの場合は、見直しが発生するためシステムスキルの継承の効果もある

IBMでは、これらの業界共通の課題に対して、①と②の両方に実効性がある実践的なモダナイゼーション(リライト/リビルド/リホストを組合せたベストなハイブリッドアプローチ)を推奨している。他社のアプローチと異なり、アプリケーションに致命的な課題がない場合、既存アプリケーション資産において長年培ったがゆえの安定化のノウハウを継承し、一括再構築をしない。このIBMのアプローチは、レガシー変革においてコストやリスクを抑えるだけでなく、再構築に比べ対応期間を短くすることでDXなどの戦略的な案件を並行して推進することを可能とする。

基幹システム・アプリモダナイゼーションにおいて実効性があるアプローチ

複雑化している既存アプリケーションに対する処方箋は、アプリケーション毎の事情により異なる。共通して言えるのは、アプリケーションの変動部を優先して処方していくこと。また、柔軟性・メンテナンス性の向上を考え、高凝集度かつ疎結合な構造を目指す点になる。必要に応じて、新たな基盤も採用する。

モダナイゼーションのアプローチ方法は、全体計画への影響が大きいため、個別のアプリケーションを分析し、充分な検討をしたうえで施策をブラッシュアップしていくことが重要だ。

1)モダナイゼーション戦略
まず、将来のビジネス要件を踏まえた全体アーキテクチャーを描く。そのうえで、モダナイゼーションにおいて達成すべきことを明確にする。経営が把握できるKPIとして設定できることが望ましい。KPIの設定例としては、維持メンテナンスコスト、開発効率、要員育成などが挙げられる。

2)モダナイゼーション施策立案
次に、KPIに効果のあるモダナイゼーション施策を検討する。プログラム分析を実施し、アプリケーションに関する統計情報(プログラム本数、ステップ数、変更回数、複雑度、障害発生数など)を定量的に把握することから始める。モダナイゼーションの具体的な施策は、統計情報×アプリケーション有識者×モダナイゼーション施策パターンから、ケースに合った施策を導き出す。KPIへ貢献するかどうか常に確認しながら検討を進めていく。IBMではグローバルの知見や研究所の技術を活かしたプログラム分析から、施策を立案するコンサルティングサービスを提供している。

3)施策の評価・効果測定
最後に、PoCにおいて実現性と効果測定を実施する。実現性に課題や見直す点はないか、設定したKPIに想定通り貢献するかどうかを最終的に確認して、プロジェクト化の判定を行う。

銀行基幹システム向けアプリモダナイゼーション・ソリューション

IBMでは金融機関の銀行向けに対して、モダナイゼーションを推進するうえで、いくつかのパターンに整理してソリューションを準備している。メインとなるのは、コスト削減を主眼においた守りのモダナイゼーションと、将来要件への迅速な対応やスキル継承を狙いとした攻めのモダナイゼーションの2つだ。

守りのモダナイゼーションは、従来の自由度や独自性確保よりコストを優先する施策だ。既存アプリケーション資産を大幅に変更することなく、これまでの独自性を優先したシングルバンク型システムからマルチバンク型へモダナイゼーションできる。これにより、コストの大幅な削減や経営統合にも柔軟に対応できる。

攻めのモダナイゼーションは、複雑化や経年劣化した箇所を改善しつつ、基幹系を変更しなくてよいアプリケーション構造にモダナイゼーションすることだ。新しい要件は、基幹系の外で作り込こんでいき、ハイブリッド型のシステムで今後のDX戦略を加速させる。

さらに、既存の基幹システムは維持しつつ、新たな基盤でデジタルバンクに特化したクラウド型ソリューションも提供可能だ。

レガシー変革の実践を支える触媒役

レガシー変革を実現するためには、次世代へのスキル継承が重要になってくる。IBMではレガシー変革を実践するコミュニティー(レガシー変革CoCと呼ぶ)を組成して次世代へのスキル継承を始めている。レガシー変革CoCでは、2つのミッションを持って活動している。

ミッション1:基幹システムにおける資産・技術をしっかりと守る
ミッション2:新たな基幹システム・アーキテクチャーへの変革を推進する

レガシー変革CoCで取り扱っているテーマは、「テクノロジー」、「アセット(効率化)」、「方法論(モダナイゼーション手法など)」、「タレント(スキル育成など)」、「チェンジマネージメント(新しい働き方)」と多岐にわたる。新しい技術を取り込み、基幹システムのベストプラクティスを蓄積しつつ、若手技術者の育成を行っている。

IBMだからこそできるレガシー変革

金融機関のレガシー変革は喫緊の課題だ。レガシー変革を成功に導くためには、実効性のあるアプローチ、実現するソリューション、次世代へのスキル継承がポイントになってくる。IBMでは、すでに多くの金融機関のお客様や社内においてレガシー変革の実践を始めており、知見がある。

モダナイゼーションやCoCにおけるレガシー変革のベストプラクティスが、基幹系システムやその技術者の課題解決に、少しでも役立てば幸いである。