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DX実現に向けた最初の一歩、コンカーとIBMが進めるデジタル・ファイナンスとは

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*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

 

橋本祥生 氏

橋本祥生 氏
株式会社コンカー
デジタルエコシステム本部 本部長

 

1998 年、早稲田大学理工学部卒業。同年日本電気株式会社に入社。以後13 年間に渡り、流通サービス業、製造業のソリューション営業本部にて、主にソリューション企画を担当。2011 年、ガートナー・ジャパンに入社し、プロセス、ユーティリティ、流通サービ企業といったIT戦略立案の支援などを担当。2013 年、株式会社コンカー入社。2019 年1月営業統括本部 インダストリー営業本部長、戦略事業開発本部本部長を経て、2021年1月より現職。

松本 直也

松本 直也
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
次世代エンタープライズ・アプリケーションズ事業パートナー
SAP会計担当

 

日本アイ・ビー・エム株式会社にて、ERPパッケージソリューションを中心に企業の経営変革を支援する次世代エンタープライズ・アプリケーションズ事業でパートナーとしてSAP会計部門を統括。2002年から約20年にわたりSAPに従事。SAP会計グローバル統合用テンプレートを開発し、プロジェクトマネージャーとして複数の企業の会計業務改革・システム統合・見える化に貢献。2015年には、IBMのSAP Concurビジネスを立ち上げ、20社以上のデジタル改革を上流から下流まで一気通貫で支援。その大手企業の変革実績が評価されて、SAP Concur最優秀パートナーアワードを2度受賞。

DXの波が経理・会計領域にも及んでいる。次世代の会計コンセプト「デジタル・ファイナンス」の動きが見え始める中、企業の経理分野はこれまでの紙ベースのチェック業務からデジタル化への移行、そして変革を迫られている。

そんな中、「全社員が関与する経費精算からデジタル化を進めると企業のDXに効果がある」と言うのは、出張・経費精算管理クラウドを提供するコンカーで戦略事業開発本部 本部長を務める橋本祥生氏だ。そんな橋本氏と、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)のGBS パートナー SAP会計担当 松本直也氏が、デジタル・ファイナンスを中心に経理のデジタル化について語り合った。

紙ベースのオペレーションが残る日本の経理

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――次世代会計コンセプトであるデジタル・ファイナンスへの注目度が高まっています。その背景には、どのような社会的課題があるのでしょうか。

橋本 以前からの課題として、日本の生産性が低いことが挙げられます。OECD(経済協力開発機構)に加盟する36カ国のうち、日本は21位に留まっています。生産性人口も減少傾向にある中、どうやってこの問題を解消するのかが課題となっていました。

革新的な企業は最新のITを活用して業務を変えています。日本だけではなくグローバルで戦うマインドで改革を進めている企業もあります。その一方で、なかなか改革に着手できない企業も多数あるのが現状でした。

そうして迎えた2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)により出社ができない状況となりました。本気で働き方や生産性を考えなければならないという声が出てきています。それでも経理業務では紙をベースとしたオペレーションがまだ残っており、経理担当の41%が出社を余儀なくされているという調査 (PDF, 1.2MB, IBM外のWebサイトへ)もあります。

ここにきてデジタル庁の創設など政府が本腰を入れ始め、国が生産性や働き方の問題に取り組もうという機運が高まってきました。コンカーではIBMなどのパートナーと共に、日本社会をよくしようという姿勢で取り組んでいます。

松本 IBMの顧客である大手企業の観点で補足します。現在は産業革命にも匹敵する変化が起きています。このように新しい技術が起こると、それに基づいて社会や企業モデルに大きな変革がもたらされますが、今まさにその時期が来ていると感じます。

IBMが行っているグローバル経営層スタディでは、ここ7年ほど「テクノロジー」が強い関心分野として挙がっています。ホテル業界を脅かす存在となったAirbnb、タクシーや運輸業界を脅かしているUberなど、小さなベンチャー企業がテクノロジーを駆使して新しいビジネスモデルを構築する例が出てきたり、業界を超えた競争や協業が次々と出てきたりと変化が現実化していっています。

このような背景から、ここ3年ほど、大手企業はPoC(概念実証)として新しいテクノロジーを自社で活用するトライアルをいろいろと展開し、本格化していこうという流れにあります。この動きを新型コロナウイルスがさらに加速させました。これまでDXの取り組みをしていなかったり、現場で検討していてなかなか進みが遅かった企業もまだまだ多かったのですが、トップダウンでDXをするという例が急激に増えています。

――経理業務固有の課題としてはどのようなものがあるのでしょうか。

松本 コロナ禍でも決算を止めることはできませんので、リモートで業務を行わなければならないという課題があります。また、業務に詳しいシニア層が退職する一方、入社した若手は紙ベースの伝票処理に意義を感じられず辞めてしまうという人の問題もあります。経理で働きたいと思うような環境を整える必要が出てきています。

さらには、グローバルかつ業界を超えた競争の中でコスト削減も差し迫った課題です。デジタル化を進めることでデータを使って新しい気付きを得たいという要望や、そのサイクルをできるだけ短くしたり、過去ではなく今後の変化や見通しを予測したりすることで、ビジネスに貢献してほしいという要望が、CEOや事業部からCFOやCIOへ寄せられています。その解決策となるのが「デジタル・ファイナンス」です。

デジタル・ファイナンスにアプローチする4つの層

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――IBMが考えるデジタル・ファイナンスとはどのようなものでしょうか。

松本 紙の伝票を手で打つという業務処理を前提としたオペレーションから、データを前提にした経理に変えることをデジタル・ファイナンスと考えています。マニュアルで行っていた業務をどう効率化するのかではなく、デジタルな世界でデータを生み出す仕組みをどう作るか、洞察を得るにはどのようなデータが必要かといったことを前提に発想を転換する、つまりデジタル・ファイナンスはデータドリブン経営に向けた変革と定義できます。

具体的には、業務、システム、データ、人材の4つの層で考えることができます。

業務については、OCRや自動化などの技術を使って、業務をすること自体をなくす“オペレーションレス”の概念です。

システムではデータドリブンの考え方を用いて、「データが集まったから何かに使う」ではなく、「こういう意思決定に使いたいからデータを集める」という発想に変えます。対象となるデータは、社内だけでなく、場合によっては外部からデータを購入する必要も出てくるかもしれません。

データの場所については、オンプレミスのサーバーだけでなく、クラウドやコンカーのようなSaaSなどさまざまなシステムを組み合わせるハイブリッドのアプローチが重要です。自分たちで組み合わせるのではなく、サービスとして提供しているものをいかに活用するかが重要だと考えます。

このように環境がそろってくると、人材の観点から、自ずと経理のミッションも変化します。データを処理するのではなく、データを分析する役割にシフトします。全て自動化できずにデータ処理が残ったとしても、社内で行うのではなく社外のアウトソーシングサービスを利用し、社内の経理担当は、データを生み出す仕組み自体を改善しながら回すところに注力することが求められます。

4つの層で変化することにより、月に1度残業しながら決算書を経営層に渡すという業務から、日々溜まっていくデータを基に経理面でのアドバイスを経営層・事業に行うという業務に変化できます。これがデジタル・ファイナンスの目指す姿です。

――コンカーは経費精算システムを提供していますが、コンカーからみたデジタル・ファイナンスについて教えてください。

橋本 我々は請求書や領収書などの業務を範囲にしていますが、ここ数年のキャッチフレーズは「デジタルtoデジタル(DtoD)」です。従来の紙ベースを「アナログtoアナログ(AtoA)」とすると、DtoDの世界では発生源のデータから自動連携し、AIなどのテクノロジーを活用して不正検知をするといったことが可能になります。

徹底的に自動化とDtoDを推進することで、この業務をゼロにします。つまり、入力レス、承認レス、そして出社レスです。この3つは自社だけでは実現できないため、IBMなどと協業してエコシステムの早期確立を目指しています。これがデジタル・ファイナンスの実現につながっていくと考えます。

――DXにおけるデジタル・ファイナンスの位置付けをどのように見ていますか。

橋本 コンカーは日本市場へのコミット、働き方改革、経費精算業務ゼロを目指す、の3つを掲げています。

さきほどお話ししたように、社員全員が関連する経費精算を変えることで企業全体のDXが推進されるという考えから、我々は“DXの一番バッター”になることを標榜しています。経費精算からデジタル化に着手することで全員がDXのメリットを認識すれば、その後の領域におけるDXがスムーズに進むからです。

事例で伝える“DX一番バッター”コンカーの効果

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――コンカーとIBMが協同し、デジタル・ファイナンスへ向けて業務変革を行った事例について教えてください。

松本 年商1兆円レベルで海外進出している製造業の事例をご紹介しましょう。新型コロナウイルス前に、コンカーの出張・経費精算管理システムである「Concur Travel & Expense」を導入しました。それまでは紙やExcelをベースとしていた処理をコンカーにすることで、出張規程を守っているかの分析などができるようになり、コストを約20%削減できました。事業規模を考えるとかなり削減できたことになります。

それに加えて、業務改善のポイントが洗い出されたというメリットもあります。一部現行踏襲した業務ルールを少しずつコンカーに合わせてシンプルに変えることで業務をさらに効率化できることがわかり、コンカーという仕組みを土台にさらなる改善を進めています。

それまで海外出張費を分析しようとすると、自社の旅行代理店からデータを取り寄せて加工し、専門家が分析する必要がありました。そのため、ほとんど分析していないに等しい状態でしたが、データがコンカーにあるため簡単に分析できるようになったと喜ばれています。コスト削減の進捗を見たり、狙った通りに旅費を減らすことができたのか、航空券を早めに買うようにしたかなどが目に見える形で把握できるようになったりすることで、経営層にも画期的と評価されているそうです。経営層がデータを使ったデジタル・ファイナンスのイメージが掴めたことで、ERP導入などさらなる発展につながっています。

別の事例では、コンカーに合わせて業務ルール・方式をシンプル化させることで、経理担当の工数を半減させました。それまで経費精算のチェックが主だった経理担当は、より本質に近い業務ができるようになったと聞いています。

橋本 新しい領域での事例になるのが慶應義塾大学様です。キャンパス・学部を多数抱える大学で、キャンパスごとに異なる運用やルールで経費処理がされており、紙ベースのオペレーションが中心でした。そこで、電子化すると共に同じルールにして標準化することにより、業務工数を削減できると考えてスタートしたプロジェクトです。

松本 DXをどのように実現するかを、コンカー導入を通してご支援しています。これまで我々が企業のお客様との案件で培ったノウハウを、大学のデジタル改革に応用するという点で印象深いプロジェクトです。

大学固有の要件として、さまざまな資金源があり、その使途を明確にする必要があるため、コンカーで処理した結果を資金管理システムとも連携する必要があります。企業に求められる単純な予算実績管理よりも複雑な仕組みとなりますし、歴史ある大学だけに今までの業務・規程に変化をもたらすことも容易ではありません。これをいかにして解きほぐし、クラウドの仕組みに乗せるかという部分は、我々にとっても大きなチャレンジだと感じています。

橋本 具体的には、教授がインターネットで書籍や物品を購入することがあるのですが、インターネットでの購買履歴をコンカーに自動連携させることで、生産性が改善されるだけではなく透明性も担保できます。

大学はどこも経営面で競争力を高める必要があり、変革が求められています。IBMと共にDXへ着手するに当たって、我々コンカーが一番バッターとして打席に立ちバットを振っている状態です。

――コンカーとIBMによるデジタル・ファイナンスはどのような成果をもたらしているのでしょうか。

松本 全体の傾向として、業務をなくす、入力をなくす、伝票を使ったチェック作業をなくすといったことを進めるだけで、業務コストを3〜5割削減できます。局所的に9割削減したというところもあります。出張コストは20%程度、一般的な経費精算コストは10%程度下がる傾向があります。コンカー導入に当たって新たな統制プロセスを組むため、使う方において経費意識が高まることも関係しています。

定性的なメリットとして最大のものは、DXの気運が高まることです。IBMは企業の経営者に「コンカーを単なる経費精算システムの導入ではなく、DXの象徴にしましょう」と提案しています。一番バッターであるコンカーと同じく、二番バッターでもコンカーのように、マニュアルでなく、データを連動しよう、あるいはコンカーのように自社で行う必要のない業務・運用はアウトソーシングしよう、などと改革の経験から、従業員の方から今までと異なった発想とプロジェクトの進め方のお話が出てくるようになることが重要です。

――コンカーを一番バッターに据えたDXとのことですが、そこにおけるIBMの強みはどこにあるのでしょうか。

松本 IBMはコンカーを使ったDXに必要な全てのサービスを一気通貫でできる、これは他社にはない強みです。構想の策定、業務の改革、コンカーの実装など導入の作業はもちろん、業務のアウトソーシングもご用意できます。導入後も、運用保守の改善や不正検知など継続的にサポートできます。

実績もたくさんありますが、まずはIBM自身が数年前からコンカーを使ってきました。100カ国で30万人以上がコンカーを使っています。不正検知は10年前から自社用に導入しており、その経験・ノウハウを用いて、日本のコンカー市場に対して不正検知の概念や仕組みを広げてきました。

お客様としては、すでに20社以上の大手企業の変革を成功させています。組織の規模が大きくなると歴史の積み重ね、組織のしがらみ、業務の量や精度など複雑なことが多く、変革は簡単ではありません。そこに我々が入り、現行業務を、このように発想を転換してルールや方式を見直し、コンカーに合わせてこう変えると、デジタルを活かした新しい姿になれるという案を提示しています。それだけでなく、クライアント企業の各拠点や彼らのパートナー企業のところへ一緒に改革の説明に行くような合意形成のご支援もしています。

橋本 我々は、デジタルエコシステムのインテグレーターとしてIBMに期待しています。というのは、コンカーを導入するだけでは業務の完全なデジタル化を実現できないからです。請求書を例に取ると、紙の請求書をAI OCRで読み取るベンダーと、IBMもコンカーも提携関係にあります。共通の提携企業が複数あるので、実際の商談でIBMの場合は提案の幅が広く、お客様にも喜ばれています。すでに我々がシステム連携できている提携先であれば短期間で導入でき、お客様へのリスクも最小限に抑えられます。

DXの後発企業や公共分野が、次のフォーカス

*新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮し、写真撮影時のみマスクを外しています。

――コンカーとIBMが協同する取り組みにおいて、今後の展開を教えてください。

松本 引き続きフォーカスするのは、ファイナンス領域のDX一番バッターとして、コンカーを使ってお客様にデジタル化の成功体験を届け、変革を推進していくことです。

業界としては、これからDXをしようというどちらかというと後発の企業、そして業界の専門性が高いためにDXの動きが遅かったところです。コンカーと一緒にタッグを組み、構想を想定してから変革の体験を届けるところまで一気通貫でご支援してきたいと思っています。

橋本 我々も同じで、特に公共分野に注力したいと思っています。2019年に公共専門の部隊を立ち上げ、自治体や大学とPoCを重ねてきました。その甲斐あって、さきほどお話しした慶應義塾大学様は国内初の大学の事例となりました。幸い、デジタル庁発足など機運が高まっています。今後もIBMのような大手に強くノウハウのあるパートナーと提案活動を進めていきたいと考えています。

――DXはこれからという企業に何かアドバイスはありますか。

松本 机上で議論するより、まずは変革を体験することが大切です。後発の企業ほど念には念を入れて検討期間が長いのですが、コンカーを入れることで検討期間より短期間で実際に変革を体験できます。

日本企業は一度経験すると、改善したり横展開したりするのは得意です。まずは新しいことを経験する、するとスムーズにDXに踏み出せるでしょう。

橋本 従来のシステム開発はウォーターフォール型で、ものができ上がるのは最後でした。これに対し、クラウドはアジャイルで、使いながら修正していけるというメリットがあります。やってみて変えていく、改善していくという思想も取り入れられます。しかも、それを短期間でできます。

経費はクリティカルな領域ではないので、どんどん使っていただきたい。体感して変えていくというサイクルを回すと、さらに次へと進み、自然とDXにつながるのではないでしょうか。

*本対談はオンラインで実施しました。撮影については、新型コロナウイルスの拡大防止に最大限配慮して行いました。