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THINK Watson

愛すべき技術の無駄遣い ── Watsonの画像認識を用いたマンホールのマップサイト運営者

木村 桂

日本IBM Bluemixエバンジェリスト 木村 桂

取材・文: 森山和道

 

位置情報付きマンホールふた画像情報サイト「マンホールマップ」。「技術の無駄遣いをしている」というこのサービスではIBM Watsonの類似画像検索APIを活用している。「とりあえずサービスを手っ取り早く形にできる」というWatsonの利点と合わせて、マンホールへの愛について日本アイ・ビー・エム株式会社の木村 桂さん(Bluemixエバンジェリスト)に語ってもらった。

 

マンホールを鑑賞する「マンホーラー」たち

木村桂さんはマンホールのふたを愛する「マンホーラー」だ。木村さんに言わせれば、マンホールは「地上の星」である。一言でマンホールと言っても、地方自治体によってデザインが全く違う。それぞれの市町村ゆかりの花鳥風月のほか、地方の歴史や特色が描かれているのだ。たとえば静岡県富士市にはかぐや姫のマンホールがあり、岡山県岡山市には桃太郎のマンホールがある。茨城県牛久市にはカッパのマンホールがあり、鳥取県境港市には鬼太郎のマンホールがある。最近は、ゆるキャラブームに乗っかっているものも多い。

「マンホールのふたを観察・鑑賞する」というこの趣味、ニッチな趣味かと思いきや愛好家が少なからずいるそうだ。試しに「マンホール 画像」で検索すると多くのウェブサイトがヒットする。まとめサイトもある。またTwitterで「#manhotalk」、あるいはそのまま「マンホール」で検索してみると、様々なデザインのマンホール画像をアップロードしている人がいっぱいいる。
さらには「マンホールナイト」というトークイベントまで開かれている。マニアだけでなく、「マンホールのプロ」、すなわち下水道関係者との合同交流イベント「マンホールサミット」も開催されており、通算6回目となる2017年1月14日開催の「マンホールサミット in 埼玉2017」は、なんと 3000人の参加者を集めた。マンホール鑑賞は実は密かなブームになっているのだ。

 

クラウドで作るマンホールマップ

マンホールマップ

(画像転載:http://manholemap.juge.me

 

「基軸に据えたいのはマンホール愛です」と断言する木村さんは、2009年から、マンホールのふたの画像を集めてマップ上にプロットする「マンホールマップ」を運営している。どこにどんなマンホールがあるのかが地図上でわかるサイトだ。

もともとは「ジオロケーションを使ったクラウドサービスの勉強がてら始めた」という「マンホールマップ」も、木村さん個人だけでなく、同好の士によって支えられている。Twiterのアカウントを使ってサイトにログインして、位置情報つきで画像を投稿する仕組みだ。これまでに約7000枚の蓋画像が登録されている。特に濃いマンホーラーが多い場所の情報は分厚くなる一方、なかなか情報が埋まりにくいエリアもあったものの、いまや47都道府県すべてのマンホール情報を網羅している。

「マンホールマップ」では、市区町村別にマンホールの位置をマップ上で検索したり、人気ランキングで上位のマンホール画像を検索したりできる。お気に入りのマンホールに「いいね」をしたり、マンホール画像を使った坊主めくりの「マンホめくり」のようなミニゲームやスライドゲームもできる。APIも公開していて、モバイル版そのほかも有志によって開発されている。

市区町村別に検索できるため逆に空白地帯が気になってしまうこともあり、マンホールの写真を撮るために、わざわざその地域に出かけて行くこともあるそうだ。前述のとおり、ゆるキャラブームに乗っかったマンホールも多いので、逆に、ゆるキャラにもかなり詳しくなったという。事前に調べた上で写真を撮るのが木村さんのやり方だ。

 

IBM Watsonで類似画像検索機能を実装

マンホールマップ

かなり充実した機能が実装されている「マンホールマップ」には類似画像検索機能がある。要するに、投稿したマンホールと似た画像があるかどうかがわかるのだ。この技術にはIBM Watsonの画像認識API「Visual Recognition」が活用されている。

「Watsonの類似画像検索APIって、使うのが簡単なんです。仕組みがわからなくてもインプットするデータを集めれば学習させられる。すごく使いやすいんです」(木村さん)

IBM Watson のAPIの利用には IBM Bluemix のアカウントが必要だ。ログインしたあとに、WatsonカテゴリーからVisual Recognitionを追加して使う。Visual RecognitionにはCustom Classifiersという機能があり、APIを使って独自のカテゴリー判別が可能だ。

ユーザーは検索結果の候補となる画像を訓練データとしてアップロードするだけでいい。そうすると、Watsonが画像をカテゴリーごとに分けるための判別モデルを勝手に学習してくれる。そうすると、学習したデータのなかで、入力に近い画像はこれだと候補を返してくれるようになる。

たとえば「珍しいマンホールを見つけたので撮影したけど、このマンホールを撮った人はどのくらいいるんだろう」とか、「ちょっと薄汚れたマンホールがあるんだけど、これは他にどこで使われてるんだろう」と思ったときに、簡単に検索して探すことができるのだ。有名なマンホールはやはり目立つので、多くの人が登録していることがわかる。また同じマンホールがどのあたりの地域まで使われているんだろうかといったマニアならではの探索が簡単にできるのだ。

なおユーザー画像の登録は、良く撮れた写真だけを学習データとして使うほうが望ましいので、マンホールマップでは「ナイスマンホ機能」という、いわゆる「いいね」評価をされた画像だけを自動的にWatsonにアップロードするようにしている。ちなみにWatsonにマンホール画像を認識させるとその結果が出てくるが、それにも木村さんが学習させたデータが活用されているという。

なお木村さんは類似画像検索サービスのソースコードをブログで公開しており、ブログで解説している。

Watson 類似画像検索サンプルのソースコードを公開しました | まだプログラマーですが何か?

 

ここまで触れなかったが、木村さんは日本IBMのクラウドエバンジェリストだ。

「APIは実用的なものを作れるかどうか。次の課題は学習データをどこからどう持ってくるかです。Bluemixを売る立場からすると、使っていただきながら増やしていきましょう、使えるデータが眠っていたらそれは使いましょうと考えています。業務アプリケーションのなかで塩漬けになっているデータを再活性化して、うまく活用できないかなと考えています」。

マンホールマップでも認識精度を上げるために、ちょっと方向を変えて撮った写真や、白黒とカラーそれぞれを用意して学習させるといいのではないかと考えているが、それ以上はなかなか難しい。そこで候補をいくつか提示するという方法を考えている。「コグニティブエンジンに100% の答えを求めるのではなく、人間の思考を刺激するという発想で使っています」。

マンホールマップでは現在、クイズコンテンツの自動生成を進めようとしている。マンホールの画像を見せて「これはどこのマンホールですか」と聞くタイプのクイズだ。ただしマンホールの場合、多くはマンホール自体に地名が書かれている。そこで文字部分をOCRで自動認識して、ただし「おすい」といった地名以外の部分だけは除外して、モザイクをかけようと考えているという。マンホールマップの充実化はまだまだ進みそうだ。

 

あふれるマンホール愛はどこまで

木村 桂

今は、初めて訪れる場所では、ほぼ常に下向きで歩いているという木村さん。ところがもともとマンホールに興味があったわけではないそうだ。マンホール好きの友人に誘われるかたちでマンホールマップを作り始め、今に至っているというから驚きだ。マンホールマップは広告なしの完全趣味として運営しており「データベース運営の大変さを学んだ」と笑う。

だがマンホールマニアのなかには、さらに上には上がいる。自宅に観賞用の特注マンホールを置いて眺めている人もいる。そこまではわからなくもないのだが、中にはさらに、マンホールを愛しすぎて、マンホールと一緒に入浴したりする筋金入りのマニアもいるそうだ。

そこまでいくと、愛があふれすぎないようにマンホールできっちりふたをしておかないとマズイんじゃないかと思わなくもないが、技術の無駄遣いができるというのは素晴らしいことだなと改めて実感した。


2017年11月1日、BluemixはIBM Cloudにブランドを変更しました。詳細はこちら

森山和道(もりやま かずみち)
フリーランスのサイエンスライター、科学関連書籍の書評屋。1970年生。愛媛県宇和島市出身。広島大学理学部地質学科卒。NHKディレクターを経て1997年からフリーライターに。科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、人工知能関連、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。メールマガジン「サイエンス・メール」編集発行人。原案担当書籍に学習マンガ『ロボットパークは大さわぎ!』学研プラスなど。

 

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