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THINK Watson

Watsonが切り拓く経営教育の新しい知識と経験

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教育とAIはどのように結びつき、どのような人材創出に役立てていくべきなのか。日本IBMの久世和資CTOとグロービス経営大学院の教員であり、グロービスAI経営教育研究所所長でもある鈴木健一氏が対談した。

久世:鈴木さんはグロービス経営大学院の教員でもありますが、グロービスではAIの活用についてどのように考えておられますか?

鈴木:グロービス経営大学院は経営者を育成する学校なのですが、最近人工知能をはじめとするテクノロジーを活用して、事業変革や事業創造を牽引できる人材の必要性が高まっていると感じます。

また、我々自身もAI技術のエンドユーザーとして、教育の効率化と高度化にAIを活用する必要性を感じています。直面する問題に対する答えが一つではない経営という分野において、教育の質を低下することなく一人ひとりのニーズにあわせたカリキュラムを構成し、その教育効果をエビデンスに基づいて評価することが求められています。これを実現するために、AIを活用できないかと考えています。

久世:なるほど。そうした分野では、Watsonが提供しているPersonality Insightsという性格分析の機能が活かせるかもしれません。

たとえば金沢工業大学ではPersonality Insightsを使って、学生一人ひとりの成長を支援するための取り組みを進めています。具体的には面談などを通じて学生がどのような時にどのようなアドバイスを受け、どのように成長したのかを記録したデータを基にBig5という、心理学では標準的に利用されている外向性、人当たりの良さ、勤勉さ、繊細さ、好奇心の強さという評価尺度を算出し、学生への学習アドバイスを提供しています。

鈴木:なるほど。グロービスの授業はディスカッション中心で、問いに対して自分なりの意見を伝えることを重視した、考える力を育成するカリキュラムを心がけているのですが、そうした会話もデータ化し、分析の対象にできそうですね。

久世:自然言語処理の技術は、たとえばレポートの採点や、面接試験の一貫性を高めるといった実務の場面でも今後利用可能になると私は考えています。

たとえば、いま人材マッチングのフォーラムエンジニアリングと進めているプロジェクトでは、Watsonを活用して企業が求める人材をスキルや経験だけではなく、企業カルチャーまで考慮してマッチングを行うという取り組みをしています。

その際に、面接のような手間のかかる手続きは必要ありません。求職者はアプリに対して日常的な会話のやりとりを自然に行っていただき、その会話のなかからWatsonが自動的にその人の強みと判断できる要素を抽出します。この情報をもとにしてマッチングを行うと、従来の4倍の効率でマッチングに成功するようになったのです。

久世和資

鈴木:わたしたちも1000人を越える受験志願者の応募書類を手分けをして審査していますが、そういった場面でもWatsonを活用して初期的な絞り込みを行い、その後に人間が精査することで、より効率的で、より高度な選考過程を提供できるかもしれません。

久世:Watsonはこうした適合性を示す際に、エビデンスもあわせて表示します。一人ひとりに対する教育の効果をエビデンスとともに表示して、最適な指導方法を検討するための支援を行うといったことも今後可能になるでしょう。

 

経営者もAIを学ぶべき時代

鈴木健一,久世和資

鈴木:AIを活用できる経営者を育成するという観点でみたとき、経営者はどこまでAIについて知識や経験をもっているべきとお考えですか?

久世:私は個人的には、経営者もAIを触ったことがあったり、使った経験がないといけないと考えています。

IBMでも、経営陣がプログラミングの実習をうけるといった取り組みをしています。それは会社を動かす決定権をもった人々が、コンピューターはどういう原理で動いているのか、インターネットとはどのような仕組みなのかといった基礎を学ぶ必要があるからです。

そうした基礎があるからこそ、経営者はイノベーションが生まれる現場に立っているエンジニアの発想に寄り添った考えかたを実践し、新しいビジネスを生み出してゆくことができるようになるのです。

鈴木:なるほど。私たちグロービスでも、最新のテクノロジーを理解し、ビジネスにイノベーションを起こすことのできる新時代の経営者やビジネスリーダーを「テクノベート」人材と定め、MBAのカリキュラムのなかにテクノロジーに対する理解のエッセンスを入れ始めています。テクノベートとは、テクノロジーとイノベーションを組み合わせて私たちがつくった造語で、「テクノベート・シンキング」など、科目名にも用いています。

鈴木健一

久世:IBMではAIをArtificial Intelligence(人工知能)ではなく、人間をサポートするAugemented Intelligence(拡張知能)という言葉で表現していますが、人間と協調し、経営者にとって新しい想像力を生み出す刺激として、AIは重要だと私は考えています。

たとえば、Watsonの応用例としてシェフワトソンという、新しいレシピをつくる仕掛けがあります。これはプロのシェフが主材料を指定して「ポルトガル風に煮込みで」と指示すると、Watsonは素材の化学組成や健康への影響もすべて考慮して助言のリストを提供するという仕組みです。ただし、Watsonは最終的な作り方や分量を示すのではありません。シェフは材料をみて、そこからインスピレーションを得て新しいものを作るのです。

情報を整理するのに長けたAIにその得意なことをさせ、人間はそこからより高度な判断を行うわけです。

鈴木:人間が刺激をうけるための情報をWatsonの支援のもとに選択させるということなのですね。それは私達の教育の現場における「気づき」に近いものを感じます。Watsonと協調して教育の現場を変えてゆくことで、我々の教育そのものに対する「気づき」のようなものも得られるのではないかという、可能性を感じます。

 

新しい「妄想力」のために

鈴木:よく私たちは、目標を設定して、ロジカルに考えを進めて経営判断をおこなうといった手法について講義をします。しかし経営の現場では、蓄積した経験や知識をいったん白紙にもどして、先入観なしに問題を考えるクリエイティビティも求められる傾向があります。こうした経営判断の場面でも、Watsonは活用できるでしょうか?

久世和資

久世:現代の経営者はどんな分野でも、より多くの情報をより多面的にとらえ、ビジネスとして最良の判断を下さねばならないという課題に直面しています。こうしたときに、WatsonのようなAIは人間のクリエイティビティを損なうことなく、判断に必要な情報を絞るために利用できると思います。

たとえば映画の予告編を作る際に、同一ジャンルの映画の予告編を学習させておくことによって、必要なシーンとセリフを数時間で抽出するという技術も確立しています。これによって、これまで30日かかっていた作業を1日程度にまで短縮できるのです。

では、この作業をすべてAIにまかせてよいかというと、答えは「No」です。最後には、人間が判断をする必要があります。経営もまた、同じだといっていいのではないでしょうか?

久世和資

人間でなければできない発想の転換、勇気のある決断、一瞬のひらめき、そういった、課題に対して発想を広げることができる「妄想力」とでもいうべきものが、AI時代の経営者に求められるスキルといっていいのではないでしょうか。

グロービス知見録の記事「AIを使いこなし、AIとともに発展できる経営者をいかに生み出すか」では、今回の対談の中から鈴木 健一氏の経営教育に向けた思いやヴィジョンに焦点を当てて紹介している。こちらも併せてご覧いただきたい。

 

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