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デジタル化で変わる不動産業界の「働き方改革」

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鶴田悟
日鉄興和不動産株式会社
総務本部 総務部長


早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2013年日鉄興和不動産株式会社に入社。業務監査室長を経て2015年より現職。2016年6月より、同社本社移転プロジェクトの責任者を務めるかたわら、働き方改革や、それを支えるICT基盤の整備を牽引。

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藤尾貴史
日鉄興和不動産株式会社
総務本部 総務部 マネージャー


九州大学(旧・九州芸術工科大学)芸術工学部中退し陶芸の道へ。石川県九谷焼技術研修所を終了した後、青年海外協力隊としてエティオピアに赴任。シングルマザーの自活を促すNGOで陶芸のテクニカルアドバイザーとして従事。帰国後、エティオピア料理レストラン・マネージャーを経て、興和不動産ファシリティーズに入社。2006年に日鉄興和不動産株式会社に転籍。情報システム部門のインフラ担当、新規システム導入担当としてICT活用を通したDX、働き方改革を推進中。業務のかたわら、2019年3月に金沢工業大学大学院虎ノ門校を卒業しMBA取得。

企業が生産性と従業員の満足度の双方を向上させるためにはどうすればいいか。伝統的な産業として知られる不動産業界の中でも日鉄興和不動産はその理想を叶えるために革新的な取り組みを行っている。「人と向き合い、街をつくる。」を企業理念とする日鉄興和不動産は、オフィス移転をきっかけに働き方改革とデジタル化を一気に推進した。紙の多い昭和時代のオフィスを一新。時間や場所に縛られない令和時代の働き方が始まった。その噂は同業・異業種を問わず広がり、この2年間でオフィス見学に来た会社は3000社を超える。

変革の柱の一つである業務のデジタル化は、コネクテッドRPAプラットフォーム「BluePrism(ブループリズム)」と電子商取引プラットフォーム「Tradeshift(トレードシフト)」の導入によって進められた。いかなる課題を持って、どのように解決したのか。同社総務本部総務部長の鶴田悟氏、総務部マネージャーの藤尾貴史氏に変革の経緯を伺いつつ、不動産業界の展望を聞いた。

オフィス移転を、本質的な働き方改革のきっかけに

–オフィス移転を決めた理由は何だったのでしょうか。

鶴田 当社は2012年10月に旧興和不動産と旧新日鉄都市開発という、特徴や強みの異なる二つの会社が経営統合して発足しました。移転前、統合から5年以上が経過し、旧2社の融和は自然と進んでおりましたが、統合によるシナジーが十分発揮されているかというと、必ずしもそうは言えないというのが、当時の重要な経営課題でした。

一方、旧本社は9階建で、各フロアに部署が分かれて入居しておりましたので、ややもすると、朝出勤してから帰るまで、他の部署の人とまったく顔を合わせないということが、当たり前のように発生していました。そのような状況では、シナジーの発揮も難しいということで、フロアを集約し、風通し良い職場を実現したいという強い思いがありました。それが一つのきっかけとなって、2018年9月竣工予定だった弊社の旗艦ビルとなる赤坂インターシティAIRに本社を移そうということになりました。そして、移転するのであれば、思い切った働き方改革にも取り組もうという機運が高まりました。

「日経ニューオフィス賞(※1)」を受賞した赤坂インターシティAir内の新オフィス。2018年3月に移転を完了した。

※1:日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会(NOPA)が、創意と工夫をこらしたオフィスを表彰する制度。

–働き方改革の手段として業務のデジタル化が挙がったということですね。

鶴田 現在、新オフィスで定着しているモバイルワーク、ABW(Activity Based Working)、フリーアドレス、オープン・コミュニケーションといった、デジタル化を前提とする新しい働き方は、形式的には旧本社でも可能だったかもしれません。しかしながら、全社員が、紙に大きく依存する昭和の働き方から脱却するためには、オフィス移転をきっかけする社員の意識改革が必要だったと思います。

–不動産業界だけでなく日本全体で残業を減らしていこうという流れも強まっています。

鶴田 もちろん、そうした世の中の流れを受けてという側面もあります。ただ、私たちにとっては統合当初、業容の拡大に人手が全く追いつかない時期がありました。

その意味では、「働き方改革」が叫ばれる以前から、人員のやり繰りを工夫して残業時間を減らすことは、当社にとって重要な経営課題でした。それを乗り越えた今は、単純に業務時間を削減するということではなく、より先進的な取り組みによって、生産性を向上させ、イノベーションを生み出していこうという方向にシフトしています。

単純なRPA導入ではなく、既存システムとのつなぎ込みで自動化を効果的に

–業務のデジタル化にあたり、IBMのソリューションが役立ったと聞きました。

鶴田 IBMさんには、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)プロジェクトの支援をお願いしています。オフィス移転と同時にICT(情報通信技術)インフラの整備など抜本的な改革を進めてきた中で、現場の業務を効率化するRPAの活用が重要なテーマとして挙がってきたことが背景にあります。

それまで使っていたRPAは、基幹システムである会計システム「OBIC7(オービック)」で使えないという問題がありました。既存のシステムを活かしつつ、連携ができるRPAを探している中で浮かび上がったのがBlue Prismであり、提案してくださったのがIBMさんです。Blue Prismによるロボットを自前で開発するには難易度が高かったため、IBMさんには、開発までお手伝いいただきました。

–RPAをどんな段取りで導入していきましたか。

鶴田 まず、総務部の業務をテスト対象として、会計システムのOBIC7上でBlue Prismが使えるのかを確認するための実機検証を行い、使えることが分かった後、社員がOBIC7上で行う入力作業などをロボットに置き換え、自動化を進めていったのです。以前からOBIC7上で操作が分かりにくいとされていた部分の作業もロボットに置き換えることができ、時間の短縮と同時にヒューマンエラーや作業ストレスの削減にもつながりました。

その後、各事業本部にRPAを展開する準備段階として、汎用性の高い分野ということで支払業務を取り上げ、更に開発を進めていきました。

藤尾 実はBlue Prismの話が出る少し前から支払い業務の見直しの一環として、電子商取引プラットフォームであるTradeshiftの導入を検討していました。しかし具体的な適用方法を決めあぐねていました。そこでその部分も含めてIBMさんに相談したら「ではそこも含めて一緒に検討してみましょう」とご提案いただき、Tradeshift機能のOBIC7への流し込みまで完結させていったのです。単なるシステムの導入ではなく、我々の想定するゴールに向けて効果的なRPAの絵を描いてもらえたことが大きかったですね。

システム導入のみに留まらず、より深いビジネスパートナーであるIBM

–部分最適ではなくより広い視点での業務効率化が実現したということですね。そもそも今回のデジタル化においてIBMを選んだ理由とはどんなものだったのでしょうか。

鶴田 IBMさんには、前職の銀行員時代から長くお世話になっており、その経験からIBMの皆さんは非常に優秀だと感じていて、高く評価していました。ビジネスが高度化し、社内のリソースだけでは業務が完結しなくなっている中、信頼できるパートナーとしてIBMさんを選びました。

藤尾 今回の取り組みより以前から、企業のIT化のロードマップなど素晴らしい提案をいただいてきました。IBMさんならしっかりと見てくれる。そうわかっていたからこそ、RPA導入の際には当然に候補として挙がっていましたね。

特にIBMさんのベテランの社員は知見が深く、どんな玉を投げても必ず的確な答えが返ってきます。また、IBMさんが直接取り扱っていないシステムについても相談できます。目の前のプロジェクト以外の部分も見えており、一緒に仕事をしていて勉強になります。

–今後はどのようにRPAの導入を進めていきますか。

鶴田 総務部で明確な投資効果が見えてきましたので、今年度は賃貸事業本部、住宅事業本部にも展開していきます。ただ、そこからさらに投資を膨らませるのか、いったん小休止するのかは、IBMさんとよく相談して決めていきたいと考えています。

IBMさんからは「RPAについては、その開発だけでなく、前提となる業務プロセスの見直しまで踏み込んで、投資効果が十分見込めるかたちで提案したい」と、当社の現状とゴールを見据えた親身なアドバイスをいただいています。

–IBMには今後、何を期待していますか。

鶴田 私どもは、IBMさんを単なる業務委託先ではなく、熱意をもってプロジェクトを一緒に進めていく重要なパートナーだと思っています。企業を取り巻く技術革新が急速に進む中、IT関連のプロジェクトについては、自前主義にこだわらず、臨機応変にIBMさんのようなパートナーのお力を最大限活用させていただきながら、現場の生産性向上に貢献していきたいと思っています。

藤尾 社員全員が情報システム部門を兼任するようなイメージですね。そうならなければ新しい「不動産テック」に打って出るレベルまではいけません。

鶴田 IBMさんには、我々が考えるゴールに止まらず、その先のゴールを描き、ご提案いただけることを期待しています。

ペーパーレスとアウトソースにより「昭和の働き方」から脱却する

–業務のデジタル化とオフィスの改革を同時に進め、どのような働き方改革が可能になったのでしょうか。

鶴田 デジタル化は、オフィス改革の大前提です。デジタル化が進み、柔軟なモバイルワークが可能となったことで、オフィス設計の自由度が増し、改革は大きく前進しました。ただし、ここでいう「デジタル化」は、もちろん単にシステムを導入するということではありません。デジタル化のためのICTインフラは、それを活用する社員の意識が変わり、働き方が変わらなければ、何の価値もないからです。

–デジタル化を含めた業務の効率化を進めていく上で、どんな部分が重要だと感じていますか。

鶴田 当然ながら、まずは紙の削減です。移転前は、社員一人ひとりが固定席で作業し、デスクの上は乱雑に散らかった紙で溢れかえっていましたが、移転を契機に7割を削減しました。次に実施したのは、フリーアドレスです。私は、移転前はもちろん移転後も、機会を見つけてできるだけ多くの他社様のオフィスを見学させていただいておりますが、固定席のままで、紙に依存しない働き方に移行できた企業をほとんど見たことがありません。

フリーアドレスの場合、使ったデスクは必ず毎日片付けなければいけないですよね。そうなると、必要に迫られて、自然と紙に依存しない働き方、すなわちデジタルな働き方に変わっていくのです。当社では、社員の7割がフリーアドレスを実践しておりますが、そのエリアの早朝のオフィスは、移転した当時のまま、デスクの上には何も置かれていません。そこまでいくと、当初は少し面倒だと感じていたモバイルワークが、むしろ楽になってきます。そして、モバイルワークが定着してくると、部署の壁を超えたコミュニケーション、コラボレーションがスムーズに行えるようになり、職場にイノベーションを生み出しやすい土壌が形成されます。

紙の削減は、一見地味で、クリエイティブな業務とは無縁の作業と受け取られがちですが、実は、世の中のデジタル化が急速に進展する中、好むと好まざるとに関わらず、むしろクリエイティブな組織の土壌を作っていく上で不可欠な要素になっていると思います。

ほかに重要だと考えていることは、本業以外で、社員がやらなくて良いことは思い切ってアウトソーシングしていくことですね。特に、管理部門で特定の社員が一人で担当しているような業務は、効率化のメスが入りにくく、それが長期にわたると手順が属人化し、担当者が替わるタイミングで事故が発生するリスクにもつながります。当社では、オフィス内の庶務業務、契約書類の電子化・保管業務、許認可管理業務などにBPO(Business Process Outsourcing)を積極的に活用しています。

働き方の変革がもたらした社員の活性化

–社員の意識はどう変わっていきましたか。今までのやり方を変えるには抵抗もあったのではないでしょうか。

鶴田 今回の働き方改革は、それまでのやり方を大きく変える内容でしたので、移転前、「なぜ今のままでは駄目なのか」という声が多かったのは事実です。しかし、思い切って変えてみると、特に社外と接する機会の多い事業部門は、デジタル化の流れを敏感に感じ取っていて、順応が非常に速かったという印象です。移転後、固定席に戻りたいという声が一切あがっていないのは、その証左だと思います。

移転後、デジタル化を推し進める中で、社員の意見が変わってくるのも実感しました。「外出先や移動中もオフィスにいるときと同じように仕事をしたい」、「組織の枠を超えてナレッジを共有したい」、「IBMさんなど社外のパートナーとのコラボレーションも円滑にしたい」、そんな前向きな意見がどんどんでてくるようになりました。

自らを「働き方改革の実現企業」の実例としつつ、時代の変化を追い続ける

–オフィス移転をきっかけにインフラ整備を含めたハード面での改革が進み、社員の意識というソフト面にも影響が及んだということですね。企業の内側で大きな変化が起こったわけですが、一連の業務のデジタル化が、不動産という本業にもプラスに働く部分はありますか。

鶴田 お客さまを弊社LIVE OFFICEのご見学に積極的にお招きしており、昨年春以降、延べ3000社以上の企業様にお越しいただいております。一日平均7、8社がお見えになっている計算です。皆様、貴重な時間を割いて足をお運びいただき、私どもの話を聞いていただけるわけですから、オフィス営業を生業としている弊社として、こんなにありがたいことはないと思っています。

誰もが働き方改革を模索している現在、私どものデジタル化体験をお客様にもお伝えし、オフィスという視点から働き方改革をお手伝いできると考えています。

–不動産業界の中でもデジタル化の最先端にいるのではないでしょうか。

鶴田 IBMさんからそのようにおっしゃっていただけるのはとても光栄ですが、技術革新のスピードはすさまじく、少しでも気を抜くとたちまち立ち遅れてしまうという危機感を持っています。IBMさんは、そうしたこちらのニーズをしっかり受け止め、これまでも、RPAに止まらず、デジタルトランスフォーメーション、AI、ブロックチェーン、不動産テック、コンテナ技術など、様々なテクノロジーの最新動向をタイムリーに伝えてくれており、とても感謝していますし、また頼りにもさせていただいております。

藤尾 もちろん、現在も当社が遅れている部分もあります。例えば、不動産が都市や街とコラボレートしてMaaS等の様々なサービスを統合していく「スマートシティ」と呼ばれる領域などが挙げられますが、そのような取り組みはこれからですね。

–業務のデジタル化は社内だけでなく、顧客に対しても進めていくのでしょうか。

鶴田 今や、この業界の誰もがそう考えていると思います。様々な分野で、お客さまと企業の接点にいち早くデジタル技術をうまく活用できた企業が勝ち残っています。流通や金融で起こっていることは、数年後には、間違いなく不動産業界にも起こると皆が考え、必死になって備えを進めているというのが、この業界の実態だと思います。

–IT技術の進歩により不動産業界はどうなっていくと思いますか。

鶴田 よく言われていることですが、業界の定義自体が変わっていくことも十分予想されます。他業界との垣根がなくなり、異業種が参入してくるということもあるでしょうし、逆にこちらから異業種に攻めていく場面も出てくるでしょう。確実に言えることは、デジタル化に後れを取った企業は、決して勝ち残れないということだと思います。

藤尾 ブロックチェーンを活用した不動産ビジネスと、そのプラットフォームなど、新しいビジネスが生まれ、そこに不動産以外の会社が入ってくる可能性もあります。

業界が変わっていく中で前向きに取り組んでいけるか、デジタルネイティブ世代のスタートアップとすぐに組めるか。今後生き残っていくためにはそうした姿勢とスピード感、決断力が必要になってくるだろうと考えています。

 

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