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北風と太陽ーー第2回:従業員により効率よく働いてもらうためのデザイン

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石 悦寛

石 悦寛
日本アイ・ビー・エム株式会社 シニアマネージングコンサルタント


大手通信事業者を経て、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。数多くの企業に対して、UCD/UXコンサルタントとして戦略策定からシステムUI設計まで多岐にわたる支援を行っている。UX観点でB2Cでは顧客ロイヤリティの向上、B2Eではワークスタイル変革、業務生産性向上、従業員満足度向上などに取り組んでいる。

 

『北風と太陽』はイソップ寓話でも有名な一編であり、知らない者はいないだろう。その教訓は、冷酷に強制して何かを強いるより、温和で優しく接することで人を動かすことができるというものである。
では、この教訓がUXと何の関係があるのだろうか。前回の予告通り、この連載ではUXの中でも特にあまり語られることがないB2E(自社従業員に対して企業が提供するサービス。例えば、社内業務システムや社内制度など)分野にフォーカスを当て解説をしたい。

 

いま議論される、「効率良い働き方」

さて皆様は、自分の仕事を楽しんでいるだろうか。自分の仕事に誇りを持っているだろうか。「仕事」とは何かをきちんと自問したことはあるだろうか。

近年大変盛り上がっている「働き方改革」というキーワードがある。その基本的な考え方は「労働生産性を改善するための最善の手段」であり、「働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土も含めて変えようとするもの。働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにする」と、公的な文書で定義されている。この「働く人の視点に立つ」ということが、まさにUXそのものである。

日本人は文化的な背景から勤勉で誠実であり、自制や滅私を美徳としている部分がある。それは、仕事においても同じであり、ひたすら真面目を良しとする風潮もある。もちろん、仕事は真面目に取り組まなければいけないものだが、己を苦しめ、あえて苦しい環境下において行うのは必ずしも得策ではない。

想像してほしい。新入社員があるレポートを明日までに仕上げないといけないのに耳にイヤホンをして音楽を聴きながら作業をしていた。理由を聞いてみると、「好きなバンドの曲を聴いていました。そちらの方が効率が良いから」と答えたら、あなたはどう思うだろう。「なんて不真面目な! ここは会社だぞ!」と思ってしまう方もいるのではないだろうか。

職場で音楽を聴くことに抵抗感を覚える方は確かに多い。しかし、実際にそれで作業効率が格段に上がるのであれば、頑なに否定する理由も見当たらない。極端な例かもしれないが、今回の「働き方改革」は労働生産性を改善し、より効率的にモチベーション高く業務を遂行するのが目的だ(そこには給与や雇用体系などさまざまな要素が関わってくるが、本記事では純粋に生産性に関する話をさせていただきたい)。

だからといって、業務生産性向上のためなら一足飛びに「自由な場所」で、「自由な格好」で、「自由に仕事」をすべきとは思わないが、実際にテレワーク、カジュアルデー、裁量制労働など、より「働く人の視点」に立った施策が、多くの企業で段階的に取られ始めている。

いま議論される、「効率良い働き方」

 

職場に対するロイヤリティを担保せよ

IBMでは「働き方改革」が注目されるずっと以前から、「ワークスタイル変革」というテーマで、お客様の業務の効率化、生産性向上、ES(従業員満足度)向上などを支援している。これまで私も多くのお客様企業にUXコンサルという形で「ワークスタイル変革」の支援に行ってきた。

そのなかで、よく社内システムの改善・改修・刷新にかかり現場の不満の声を取りまとめてIT部門に報告すると、「このシステムは業務に必要な機能をすべて、網羅している。仕事は遊びじゃない! 便利で楽なシステムが欲しいというのは甘えだ」という回答が返ってくるケースもあった。その後ろに隠れているのは、先述した日本人の労働観における「美徳」によるものである。それを他人にも求めてしまうあまり、時にその美徳がワークスタイルの変革にとって最大の「壁」となりうるのである。

従業員をより生産性高く高品質に働いてもらいたいのなら、北風のように「強制・強要」するのではなく、太陽のように「自発性を促進する」ことが望ましい。従業員は機械ではなく、心を持った人間である。心を持つからこそ、さまざまな職場に関するさまざまな要素を改善することでより良いパフォーマンスを出してくれる。わかりやすいところだと、給与や職位かもしれない。しかし、実際に多くの人のやる気を喚起するのは「ロイヤリティ(忠誠心)」なのである。

B2E系システムのデザインにおいて、私はお客様に「考慮すべき8つの原則」というものを推奨している。その1つに「ロイヤリティの担保」という項目もある。

職場に対するロイヤリティを担保せよ

冒頭で自分の仕事を楽しんでいるだろうか、自分の仕事に誇りを持っているだろうかと読者の皆様にお聞きしたのは、実はこの仕事に対するロイヤリティがあるかの確認であった。どうせ同じ仕事をするのなら、楽しいほうが良いことに反対する人は少ないだろう。そういうポジティブな感情を促すためにも、従業員のUXへの考慮は重要なのである。

職場に対するロイヤリティを担保せよ

最後に、よくある失敗例を挙げたい。

「なるほど、従業員に気持ちよく仕事をしてもらうためには従業員の声に耳を傾けよう」と考え、何でもかんでも現場の声を聴きすぎて、逆に業務が回らなくなるケースがある。世の中は何事もバランスである。外交が「片手で握手しながら片手で殴り合う」と例えられるように、より良い関係の構築には絶妙なテクニックが必要である。『北風と太陽』の寓話とは違い、仕事には時に「北風」が必要となるケースもあるのだ。

一見矛盾する意見のようだが、これが現実である。では、そんな難しいさじ加減を、UXを活用しながら整理する方法について次回は語りたい。

photo:Getty Images

 

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