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SaaSに続くアウトソースの新機軸BPaaSで企業を強くする

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取材・文:阿部欽一、写真:山﨑美津留

昨今、ITのクラウド化が一段と進む中、企業においてノンコアな領域、あるいは、投資負担の重い領域を外部から供給する包括的なサービスモデルが拡大している。中でも、コア領域に経営資源を集中することが出来るBPaaS(ビジネス・プロセス・アズ・ア・サービス/業務基盤プラットフォーム・モデル)が主流になりつつある。

「これまではコスト削減を主眼に行われてきたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が今、“攻めの姿勢”に転じつつある。」こう力説するのは、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)で主に調達分野のアウトソーシングを統括する毛利光博氏だ。

IBMは、自身の業務改革の経験を基に、そのノウハウやリソースを提供することで、お客様の業務改革を支援している。さらに、最新アナリティクス技術を活用しながら、お客様の多様なニーズにもとづく変革を支援している。また、IBMは事業会社として全世界で毎年6兆円もの購買を行っているが、その半分以上はアウトソースしているお客様に対応した購入であり、調達分野での豊富な経験とノウハウを持っている。

今、BPaaSビジネス・プロセス・アズ・ア・サービス(業務基盤プラットフォーム・モデル)」が企業にもたらす価値やメリットとは? IBMが考える次世代BPOの展望を見据えたい。

毛利光博

日本アイ・ビー・エム株式会社
コグニティブ・プロセス・サービス アソシエート・パートナー
製造メーカー、外資系コンサルティングを経て、2002年に日本IBM入社。BPOの、特に調達分野に精通しており、直接材や間接材に関する業務改革、また人材育成まで豊富な職務経験を持つ。現在は間接材のアウトソースを実施するチームの責任者を務めており、関連メンバーを含めると250名をまとめ上げ、お客様のビジネスをサポートしている。

 

コスト削減の「守りのBPO」から、競争力強化の「攻めのBPO」へ

──まずは経歴や職務内容ついてお聞かせください。

今から15年前にIBMに入社し、現在は特に間接材の調達をアウトソースするチームの責任者を務めています。

もともとは製造メーカーで、サプライチェーンにおける需給管理やロジスティスク、調達に関する業務に携わっていましたが、その後外資系コンサルティング会社でコンサルタントとして実務経験を積みました。上流の構想策定から、業務の設計、具体的なデリバリーに至るまで、企業経営層や購買部門を対象にさまざまなご提案を行なっています。

──「間接材のアウトソース」というのは、具体的には?

調達の対象には、大きく「直接材」と「間接材」の2種類があります。間接材は、オフィスの什器や備品、出張経費、あるいはオフィスの清掃、警備といった直接材以外の経費購買品を指します。IT機器やソフトウエア、ロジスティクス、採用、広告・マーケティングなども含みます。後者は業種に関係なく用いられるものです。通常、お客様においてノンコアとされる商材です。

IBMには世界で約4,000人のバイヤーがいます。世界中の拠点と、これらバイヤーを有機的に組み合わせ、お客様にとって最適な提案をするプロデュース機能を司っているのが我々のチームです。また、中国の大連には2,300人からなる日本語を話せるオペレーションチームがあり、彼らを適材適所に配置し、実務を通じてお客様の調達業務をサポートします。

円滑なBPOを実現するうえで、以下3つのサービスを提供しています。

1.調達オペレーション
これはオペレーションコスト削減を目的に行われます。日本に比べて人件費のリーズナブルな大連やマニラなどのオフショア拠点を活用してコスト削減や効率化を進めることが可能です。通常、こうした移管を機会に業務の標準化を達成しようとします。

2.戦略ソーシング
IBMは世界で最もモノを買っている企業の1つです。この購買ノウハウを生かし、お客様のソーシング活動を代行して支出を削減します。

3.しくみの提供
1.と2.を可能にする仕組みの構築・運用支援です。支出可視化のインフラや社内統制の仕組み確立のために、事業会社としての弊社が進めてきた変革の経験やノウハウを使い、お客様のトランスフォーメーションを支援します。さらに、最近では、そうしたインフラの上に、AIなどのコグニティブ・テクノロジーや、アナリティクス(データ分析により知見を得ること)などのテクノロジーを活用し、さらなる価値を提供しています。

インタビューに応じる毛利氏の写真

日本IBMの毛利光博氏

──BPO一般について、お客様のニーズはどのように変化していますか?

BPOによるアウトソース自体のニーズは確実に高まっています。同時に、目的意識が変わってきているのが最近の傾向でしょうか。

これまでは、コスト削減など「守り」の観点が主流でしたが、最近は「競争力確保」の観点に変わってきているように感じます。例えば、グローバルな事業展開を目指して、内部の人材リソースをコアビジネスに集中させるために、購買部門の中でノンコアな領域の業務を丸ごと外部に委託する、といったケースが増えています。

しかし、海外企業に比べると、国内企業はまだまだBPOの取り組みが遅れています。自社の資源のみを用いてすべての業務を遂行しようとする考え方であったり、日本独特の雇用事情があり、国内にコストの高いオペレーションを多く残しているのが現状です。

──ご自身の専門領域である購買・調達分野では、特にBPOが浸透しづらいと聞きました。その理由についてはどのようにお考えですか?

原因として考えられるのは、“業務の分散”と“オーナーシップの欠如”です。改革の必要性を理解されている会社は多いのですが、実際に改革を実行しようとすると、そのリーダーシップを取る機能や部門がなく、改革の受け口が見つからない、という問題があります。

欧米の会社ではCPOとして全社的な購買権限を一括管理している役員が存在しますが、日本の場合、こうした横串しを通す責任者がなかなか見つかりません。事業または拠点ごとに個別に購買をしている事例が非常に多いです。

この課題をクリアするためには、アウトソースと同時に、統括組織の確立から推進する必要があります。こうした組織立上げのお手伝いも行っています。

インタビューに応じる毛利氏の写真

 

コスト削減から社員の安全保証まで。調達業務の「見える化」が果たす意義

──御社は毎年、全世界で6兆円もの調達を行う事業会社と伺いました。

IBMは「ONE IBM(グローバルで1つの統合された企業)」を掲げ、世界を1つの国としてとらえ、適材適所でオペレーションを実行しています。そのため、自社内でもアウトソースが非常に進んでいます。調達における発注オペレーションは、EUはブタペスト(ハンガリー)、英語圏はバンガロール(インド)、アジア圏は大連・上海(中国)に集約されており、それらの拠点からしか注文書が発行できない運用になっています。そうした社内で業務の標準化や、オペレーションの移管に取り組んできた経験を、サービスとしてお客様に提供しています。

例えば、年商1兆円の企業では、間接材の支出規模は売り上げの7〜8%にあたる700〜800億円と言われています。なかなか可視化されることは無い、決して小さくないこれらの支出に対して、グローバルな専門知識やリソース、ネットワーク、さらに長期にわたって蓄えた調達業務の知見を活かし、ご支援しています。

──お客様にとって、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

コストを下げることだけが目的ではなく、社内にある資金を管理、統制する仕組みづくりへとつなげられるのがポイントです。ビジネスには好不調の波はつきものです。今期の業績が厳しいというときに、調達部門からの提案で適切に支出をコントロールすることができる。支出のアクセル、ブレーキが踏める。これは経営者にとって大きなメリットです。

支出に対する必要不必要の線引きを明確にし、然るべきところに購買リソースを投入すれば、業績が落ち込んだ時に支出のコントロールができます。

分かりやすいので、出張旅費で事例を説明します。業績が振るわない時期には、多少制限があっても航空券をリーズナブルなチケットに変えれば、費用を緊急に削減することができます。逆に、業績が回復したら、これまで課長以上だったビジネスクラスの利用権を、主任以上に拡げることで、社員の満足を拡充することができます。

しかし多くの場合は、緊急に削減したくても、社員のチケット購入ルートが管理できていないため、適切かつ緊急に対処することができません。利用権を拡充しようとしても、それをするのにいくら費用が上昇するのか、どうやって統制するのか、そうしたことがタイムリーに把握できません。

こうした状況に対し、支出を可視化し、適切な仕組みを構築することができれば、購買部門での事前シミュレーション、経営者への提案が可能になり、具体的な数字を見ながら速やかに検討することができるようになります。支出のアクセル・ブレーキが踏めるのです。

このような支出のコントロール機能をお客様に確立していただくのが、BPOの真のゴールです。この仕組みが確立できれば、コストの削減は結果としてついてきます。

インタビューに応じる毛利氏の写真

──「経費の見える化」について、他にはどのような意義がありますか?

海外で仕事をする際には、地域によってさまざまな危険が伴います。有事に際して、自社の社員を守れるかどうかも大きな関心事です。

弊社では、社員が世界各地で宿泊するホテルについては、事前にネットワーク環境や危機管理など実に400項目に上るポイントを調達時にバイヤーが厳しくチェックしています。会社は社員を有事から守るために、そうしたホテルにしか社員を宿泊をさせていません。また、移動にかかる飛行機についても、社員が出張申請通りにチケットを買い、その航空機に乗っているかを社内システムで確認できるため、万一アクシデントがあった時でもすぐに何らかの対応が取れる体制を整えています。

ほとんどの日本企業の場合、こうした間接材の「経費の見える化」や「その先の安全管理」が進んでいないのが現状です。コスト削減に加え、社員を守るという意味合いもあることを改めて訴求したいと思います。

 

クラウドベースで、システムとオペレーションをオンデマンド提供する「BPaaS」

──では、クラウド時代におけるBPOの新たなサービスである「BPaaS」(通称:ビーパス)について教えてください。

「BPaaS(Business Process as a Service:サービスとしてのビジネスプロセス)とは、従来のBPOとクラウドコンピューティングを組み合わせ、既存の業務システムなど「ITに紐付く」業務プロセスをアウトソースし、集中管理しようというものです。

多くの業務システムにおいてオンプレミス(サーバーやソフトウェアなどのITシステムを購入し、自社が管理する設備内に設置、管理、運用すること)からクラウドへ移行する「クラウドファースト」の流れが加速しています。

BPaaSの概念図

ここでポイントとなるのは、ソフトウェアを含めた「テクノロジーの進展」と「クラウド化」です。

前者の「テクノロジーの進展」は、業務プロセスの可視化のためのツールが進化し、「SAP Ariba」などの調達・購買システムや「Concur Travel & Expense」などの出張・経費管理システムが成熟化してきました。後者の「クラウド化」が意味することは、システム導入の進め方がこれまでとは大きく変わってきたということです。オンプレミスのシステムと違い、クラウドは基本的に「業務をシステムに合わせる」ことが前提です。すなわち、これまでのようにシステムの導入に1年くらいの時間をかけ、自前の業務プロセスに合わせてシステムをカスタマイズしながら、業務改革を進めるというやり方が通用しなくなってきているのです。

多くの場合、予めシステム側で決められたプロセスに、お客様が業務プロセスを合わせることが求められます。業務を個別にカスタマズする余地が無くなり、クラウド側が設定した業務を淡々と実行することが求められます。そこには、差別化要因が存在しなくなるため、この業務もクラウドと共にアウトソースで提供して貰えれば良い、ということになります。

だからシステム導入だけでなく、業務プロセスもセットにしてアウトソースする。そして、IBMが培ってきたノウハウにより最適化されたオペレーションを提供する。クラウドと一緒に業務サービスもオンデマンドで利用できるようにしよう。──これが「BPaaS」の考え方です。

インタビューに応じる毛利氏の写真

──つまり、クラウドをベースにしながら業務プロセスのアウトソースを進めていく流れが、従来のBPOと異なるわけですね。

その通りです。さらに、「BPaaS」が従来のBPOと最も大きく異なる点は、これまでお客様企業の各所に分散した業務がIBMにアウトソースとして集約されるため、標準化など対象業務プロセスの「改革」までを視野に入れた支援が可能になるのです。IBMがお客様の業務を預かって、きれいにし、効率化して提供するのです。
さらに、その上で、コグニティブやアナリティクスなどのテクノロジーを使って、更なる価値を提供する。そうした点が、IBMならではの優位性になると思います。

──実際に「BPaaS」を導入された事例について聞かせください。

2つの事例をお話ししたいと思います。

弊社では「ハイバリューシフト」と呼ぶケースに当てはまるものです。ある大手メーカーでは、海外への展開や業務の高度化に伴う将来的な人材確保が大きな課題でした。そこで、ノンコア領域の購買部門(主に間接材)ごと外部にアウトソースして、それまで間接材業務に紐付いていた優秀な人材を、海外事業やアナリティクスなど、将来的に価値が高まるであろうビジネス部門に再配置するというプロジェクトを行いました。攻めの外部化です。

もう1つは、社内で間接材の購買にかかる統制が取れていないという課題を抱えた製造業です。国内ではトップ企業に属しおり、大きな支出規模がありました。しかし、実際の運用は事業ごと、拠点ごとで、トップ企業だけが持つ最大の強みであるスケールメリットを全く活かせていませんでした。社内統制、集約の仕組みを整備すべく、IBMのノウハウを採用いただきました。

インタビューに応じる毛利氏の写真

──BPaaSの提案や導入に際して、お客様側の課題はありますか?

人事部門や経理部門では、アウトソース後に、「出口問題」と呼ばれる雇用問題がつきものです。一方、調達分野には出口問題はないものの、「社内統制、購買権限の強化」といった大きな課題が発生します。ユーザー部門が自由に行っていた購買活動を購買部門経由とする変革が求められます。ユーザー部門にしてみれば、これまで既得権のように自由に判断していたサプライヤー選定の権限を奪われるのです。時として大きな抵抗を示します。

私たちがお客様に提案を行う際も、経営者は乗り気でも購買部門の責任者が改革を進めることに尻込みしてしまうケースがあります。それは現場の方々が、こうした事を進める事の難しさを肌で感じているからです。

したがって、プロジェクトの成功には、こうした課題に対する経営者のコミット、そして購買担当者が改革に対して野心的であることが非常に重要です。

また、クラウドを活用するためには、クラウドに合った仕事の進め方が必要です。場合によっては、組織やルールも合わせないといけない。これまでオーダースーツを着ていた人が、体型を変え既製品のスーツを着るのです。そのための努力が必要です。

 

BPaaSだけでないーー最新テクノロジーがあらゆる業務プロセス改革を促進

──「IBM Watson」(以下、Watson)をはじめとする最新テクノロジーが、業務プロセス改革にどう寄与していくか、グローバルでの購買の先進事例を教えてください。

「Watson Buying Assistant」というビジネス部門向けのソリューションを使えば、例えば「2日後に行うプレゼンテーションで急遽プロジェクターが必要になった」という状況でも、Watsonを活用したモバイルアプリを使うことでわずか1分半で購入が完了します。

購入プロセスの短縮に役立つのは、Watsonが持つ自然言語処理や画像解析などの能力です。
推奨機種の中から、お客様が現在使っているアイテムの特徴や使用状況を踏まえ、最適なスペックを持つ製品を提案してくれます。あとは発注ボタン1つで購買が完了するというものです。

この他にも、調達部門のバイヤー向けにサプライヤー管理情報を一元管理する「Watson Supplier IQ」や、管理者向けに世界各国の調達部門の支出を一元管理する「Watson Spend IQ」などのサービスがあります。IBM社内での運用はもちろん、お客様の導入事例も増えています。

インタビューに応じる毛利氏の写真

──最後に、今後の展開について教えてください。

「IBM Watson」だけでなく、RPA(Robotic Process Automation:ソフトウェアロボットの特徴を生かして人の定型的な作業を自動化するテクノロジー)などのロボティクス技術、アナリティクスなどのテクノロジーを活用し、「BPaaS」と一体化させ、さらなる競争力強化を図ります。

こうしたテクノロジーは、これまでコールセンター改革やデジタルマーケティングなど、「フロント業務」に注目が集まることが多かったですが、これからは人事や経理、調達といった「バックオフィス業務」にまで適用範囲が広がっていくでしょう。

そうした業務改革を実現するには、現状を可視化するための「データ収集」の仕組みを構築することと、収集されたデータを整理し、分析し、知見を得ていくためのサイクルを確立することが欠かせません。IBMでは、BPaaSにてこうしたデータ収集のインフラを提供し、整備したうえで、アナリティクスやコグニティブの最新事例をお客様の業務に適応していきます。

IBM CloudとBPaaS、そして、上述したようなテクノロジーを活用しながら、お客様企業のさらなる業務改革に貢献していきたいです。

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