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デジタル時代の銀行とは?―― デジタル×フィジカルによるビジネスモデルの革新

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林 智洋
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
金融コンサルティング パートナー


国内大手SIベンダー、外資系コンサルティングファームを経て、2007年にIBMに入社。その後、リスク管理、コンプライアンス、フィナンシャルマーケッツ、データマネジメント、先進テクノロジー活用など、多岐にわたるテーマのコンサルティングに従事し、現在は銀行・証券・保険業界向けコンサルティングチームのリーダーを務める。

2019年現在、銀行ビジネスにおいてもデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の機運が急速に高まっている。従来の融資に依存したビジネスモデルによる成長は難しくなる一方で、これから社会の中心となっていくデジタル・ネイティブ世代の顧客への対応や、GAFAなどのデジタル・プラットフォーマーが提供する新たな金融サービスとの競争も不可避となるからである。

DXの第1ステップ、「デジタル推進」によるコスト削減

銀行ビジネスのDXは以下の3ステップによって進展すると想定される。本記事では、第1ステップである「デジタル推進」について、大きな進化を遂げている銀行のオムニチャネルの事例から解説する。

  • 第1ステップ:デジタル推進
    銀行の最大のコストである、営業店や本部で発生する経費をデジタル技術により削減する
  • 第2ステップ:新金融サービス
    デジタル技術を活用して、従来とは異なる顧客層やニーズに対応する金融サービスを展開する
  • 第3ステップ:非金融サービス
    デジタルにおける顧客体験を高めていくために、異業種との連携も含めて銀行が従来の金融サービスの枠を超えていく

金融業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の全体像概要図

銀行・顧客双方のコストメリットを追求するオムニチャネル

従来のオムニチャネルは、営業店やATMなどのフィジカルチャネルを、インターネットやモバイルなどのデジタルチャネルに置き換えることを目的としていた。これにより、銀行は人件費やファシリティコスト(店舗の賃貸料など)を削減でき、顧客も店舗への移動や待ち時間などを削減できるからである。一方、最新のオムニチャネルでは、デジタルとフィジカルを融合させることで、銀行・顧客双方のメリットを追求することが目的となっている。

その理由は、フィジカルチャネルより低コストとされるデジタルチャネルも、本格的なサービス拡大には新たなコストが必要となるからである。たとえば、事業者の視点では、デジタルサービスの開発費に加え、新規顧客を獲得し維持していくためのコスト負担が、実は非常に大きい。顧客にとっても、有用なサービスを探索するコスト、操作を習熟するコスト、自らの属性情報や履歴情報(家計簿ソフトのレシート情報など)を入力・蓄積するコスト、など物理的・心理的な負担が存在する。そのため、PFM(Personal Financial Management:個人財務管理)やロボアドバイザーなどのデジタルサービスで圧倒的な強みを持つ事業者であっても、デジタル単体では収益化がなかなか難しいのが現状である。

最新のオムニチャネルでは、このデジタルチャネル特有のコストをフィジカルチャネルとの連携により軽減することができる。たとえば米国のある銀行では、小切手をスマートフォンで撮影することで処理できる非常に便利なアプリを開発したが、預金者になかなか使ってもらえなかった。そこで、営業店に少額の小切手を大量に配布し、窓口で使用方法を実演してメリットを訴求するようにした。その結果、非常に短い期間で当該アプリの利用者を増やすことに成功している。

デジタルとフィジカルのハブとしてATMを活用

ATMは、入出金というフィジカルな接点を持つ一方、操作画面などのデジタルな接点も持つ重要なチャネルである。この特徴を生かし、フィジカルとデジタルの融合による新たな顧客体験を創出するために、国内の複数の銀行が、ATMを起点としたオムニチャネル・マーケティングに取り組んでいる。

  1. ATM画面にキャンペーン情報を表示する際、興味を持った顧客が「時間がある時に見られる」ように、「電子メール送信」ボタンが用意されている
  2. その後、電子メールを読んだ顧客が「詳細な情報を知りたい」と思う場合には、メール内の「パーソナライズドリンク」から自分に関連する情報が用意されたWebページに誘導される
  3. Webページにて必要な情報を一通り読んだ顧客は、「ここがちょっと気になる」ところをオペレーターとの通話により確認できる。これまでに他チャネルで確認してきた情報は自動連携されている
  4. オペレーターの説明を聞いて安心した顧客が、「あとは背中を押してもらえば」となったところで、オペレーターより「来店予約」が勧められる
  5. 店舗では、必要な書類は事前に準備されており話もスムーズで手続きが早い。その場で決断できず「タイミングをみて再び相談したい」という顧客のニーズをヒアリングしておき、適切なタイミングでキャンペーン情報をATM画面などに表示することもできる

このようなアプローチは、顧客にとってストレスのない体験を実現しているだけでなく、銀行にとっても顧客対応にかかる時間や労力を最小化している。

銀行のコスト削減、もしくは顧客の利便性のどちらかだけを追求してもマーケティングの継続性は期待できない。そのため、フィジカルとデジタル双方の強みを結集し、顧客と銀行の双方にメリットを創出していくことが、オムニチャネル・マーケティングの成功要因である。

銀行ビジネスにおけるDXは、第2・第3のステップへ

これまで述べたように、銀行は第1ステップの「デジタル推進」によって、フィジカルチャネルとデジタルチャネル双方のコストを削減し、あわせて顧客との関係性を強化できる。第2ステップ以降では、これら削減されたコストなどを原資として、「新金融サービス」や「非金融サービス」などの新たな収益源を開発していくことが求められる。そのためには 「パーソナル・ライフヒストリー・データ活用」や「異業種との連携を含めたビジネス・プラットフォーム」などがキーとなる。それについては、次回紹介させていただきたい。

 

photo:Getty Images