スマート農業とは、スマート・アグリカルチャーとも呼ばれる、農業生産における持続可能性を最適化および向上させるために、先進技術を導入し、データに基づいて農場を運営することです。スマート農業に使われる技術には、人工知能(AI)、自動化、モノのインターネット(IoT)などがあります。
新しい技術や道具は長い間、農場の管理と食料の生産に不可欠なものでしたが、今日のスマート農業向けの技術の開発と導入は、差し迫った問題によって推進されています。その中で最も重要なのは食料の安全保障問題です。国際通貨基金によると、世界の人口増加に対応するためには、2050年までに食料の生産量を70%増やす必要があります。1
食料の安全保障問題を悪化させているのが気候変動です。作物の収量が悪影響を受け、灌漑用水などに利用可能な天然資源の不足が深刻になっています。気候問題に加えて、農業セクターは、肥料などの投入資材のコスト上昇、コモディティーの価格変動、規制による要件の増大により、収益性の課題にも直面しています。
「スマート農業を通じて、気候変動がもたらす不確実性に柔軟に適応し、環境への影響を軽減し、農業生産の回復力を促進することができます。」
―国際標準化機構(ISO)2
初期の農業は、人間の労働、動物、そして簡素な道具の使用が中心でした。農業技術における注目すべき進歩としては、1701年に効率的な植え付けを可能にする種まき機の発明、1800年代に穀物の脱穀に動力を与えた蒸気牽引エンジン、そして1900年代初頭のガソリン駆動トラクターの発明などが挙げられます。
農業機械の導入により、農作業における肉体労働の必要性が大幅に軽減され、データの収集と分析によって農家は作物や家畜の生産量を向上させることができました。精密農業またはプレシジョン・ファーミングと呼ばれるこの手法は、1980年代初頭に「精密農業の父」として知られるPierre Robert博士によって始まりました。博士は、作物の最適な生育のために、畑の異なるエリアで異なる量の栄養素が必要であることを研究しました。博士の研究は、畑全体に異なる量の資源を投入する農業システムの誕生につながりました。3
1990年代には、デジタル作物収穫量モニターの開発と衛星ベースの全地球測位システム(GPS)の利用拡大により、農業ビジネスの技術はさらに進歩しました。収穫量データとGPSを組み合わせることで、農家は収穫量を地図上に表示し、収穫時に作物の特性と品質に関する重要な情報をリアルタイムで得ることができました。その後、GPS技術は自動化というもう一つの大きな進歩をもたらしました。自動運転トラクターは、2000年代初頭に農機具メーカーのJohn Deere社とNASAの提携から誕生しました。
さまざまな農業ビジネスにおける農業生産に革命をもたらしている先進技術が、今日の現代農業を支えています。
米国商務省国立標準技術研究所は、情報通信技術(ICT)を「データと情報の収集、保存、検索、処理、表示、表現、提示、編成、管理、セキュリティ、転送、および交換」と定義しています。土壌の内容から気象条件まで、あらゆるデータの収集はスマート農業の重要な側面となっており、ICTは農家がそれらのデータを整理し、転送するのに役立っています。
IoTとは、センサー、ソフトウェア、ネットワーク接続が組み込まれた物理デバイス、車両、家電製品などの物理的なオブジェクトのネットワークを指し、それらによってデータ収集が可能になります。スマート農業の場合、IoTデバイスには、作物の監視、家畜の追跡、農機具の状態の観察など、さまざまな種類のIoTセンサーが含まれます。光検出と測距(LiDAR)を搭載した無人航空機(UAV)またはドローンも、リモート・センシングを通じて農業データを収集します。
人工知能と機械学習(ML)は、農家がIoTイニシアチブに由来する「ビッグデータ」(大規模で複雑なデータ・セット)から洞察を抽出するのに役立ちます。意思決定およびスマート農業において、クラウドベースのAIソリューションや機械学習ソリューションによるデータ分析とモデリングによる情報を使用できます。例えば、機械学習を活用した予測分析、気象データ・セット、農業予測モデルは、農業業界が作物の生産、土地の利用、サプライチェーンの計画などの生産プロセスを管理するのに役立ちます。
自動化とロボティクスは、最新のスマート農業において非常に重要な役割を果たしています。農家は自律走行トラクターに加えて、種まき、収穫、剪定などの作業にロボットを活用しています。また、UAVは、従来よりも効率的で正確な方法で肥料、殺虫剤、その他の農業資材を散布する目的で導入することもできます。特に、肥料をより正確かつ限定的に施用すると、環境に与える影響を減らすことになります。肥料は温室効果ガスの発生源として無視できないためです。
農業セクターとテクノロジー・プロバイダーは、スマート農業技術とイノベーションによって農業のより良い未来の創造に貢献できます。ここでは、スマート農業の実践により農場の生産性が最適化された世界各地の例をご紹介します。
テキサス州では、スマートフォンのアプリと連動したセンサーが、水分量など土壌の状態をリアルタイムで収集しています。このアプリは、この情報を天気予報などの他のデータと組み合わせて、AIを活用した分析を行い、散水に関する推奨事項を導き出します。アプリは推奨事項を農家のモバイル・デバイスに送信し、干ばつや気候変動の影響を受ける地域で作物の生育を改善するために水資源を効率的に利用するのに役立っています。
効率的な水利用も大きな課題となっているカリフォルニアでは、あるワイナリーがクラウドベースのツールを導入しました。このツールは、天気予報、衛星画像、センサーから情報を取り込んでブドウの木のストレスを測定します。データの分析により、それぞれのブドウの木のニーズに合わせた水やりの推奨事項が生成されます。このツールを導入して以来、収穫量は26%増加し、水の使用量は16%削減されました。
カザフスタンのアルマトイ地域では、5ヘクタールの「スマート温室」にIoTテクノロジーとAIが導入されています。これらの技術を利用して温室内の状態を監視し、必要に応じて温度、光、湿度、灌漑レベルを自動的に調整して、作物の生育に最適な環境を作り出しています。4
英国では、研究者らが酪農場の牛にセンサーを取り付け、歩数やエサを食べる時間、横になった時間などの牛の活動を追跡しました。一般的に、活動的な牛ほどポジティブな行動を示すことから、このような情報は酪農家の介入、つまり牛の環境を変えることが必要かどうかを判断する役に立ちます。環境を変えると牛の満足度が高まり、乳量が向上する傾向があるためです。5
¹ 「Helping Feed the World’s Fast-Growing Population」、 Rabah Arezki、IMFブログ、2017年1月31日。
² 「Smart farming: the transformative potential of data-driven agriculture」、ISO。
³ 「The Evolution of Precision Agriculture and Policy Implications」、 Bernt Nelson、アメリカ・ファーム・ビューロー連合、2023年8月23日。
⁴ 「How a “smart” greenhouse helps Kazakh farmer grow vegetables all year round」、国連食糧農業機関、2023年8月2日。
⁵ 「How 'robocows' are helping keep Scotland's cattle happy」、『The Herald』紙、2023年8月14日。