AIの普及が進む今、明確で実践的なデータ戦略の重要性はかつてないほど高まっています。
ユースケースごとに必要なデータは異なるため、細かな見極めが欠かせません。例えば生成AIを最大限に活用するには、非構造化データを適切に管理することが不可欠です。
どのような目的であっても、成功するデータ戦略は自社のデータ環境を正しく把握することから始まります。すなわち、データ資産、データ・インフラストラクチャー、データの利用実態を理解しなければなりません。さらに、組織全体でデータ・リテラシー、データの民主化、AI活用スキルといった文化を根付かせ、チームが主体的に取り組める状態を整える必要があります。
以下の6つのフレームワークは、AIを企業全体で拡張し、ビジネス成果につなげるためのデータ戦略の設計に役立ちます。
利害関係者に対する主な質問
最も価値のあるユースケースを見極める
IBMでデータ戦略・コンサルティング・変革支援を率いるTony Giordanoは、「適切なデータを事業目標の達成に役立てるには、なにはともあれ『解決したいビジネス課題は何か』という問いが出発点になります」と述べています。
ユースケースを検討する際は、ビジネス上の優先事項と一致し、かつ明確で実現可能な成果を意識することが重要です。1
投資を守る
既存のインフラストラクチャーや技術、人材のスキルを活用して、データがどの領域でどのようにビジネス成果に貢献できるかを見極めます。データを深く理解できれば、老朽化したデータ・アーキテクチャーの特定、既存プロジェクトの有効活用、さらに改善すべき領域を把握できます。
障壁とギャップの特定
目標を定義し、リーダーシップの支援を得たら、本当のデータ・ファーストな体験を構築する上での障壁を洗い出します。サイロ化はデータ統合、データ管理、ワークフローの効率性を妨げることがよくあります。実際、ITリーダーの81%が、データのサイロ化がデジタル・トランスフォーメーションの取り組みを阻害していると回答しています。2
データへの容易なアクセスを確保する
ユーザーは、優れた成果を生み出すデータにシームレスにアクセスできるべきです。データの保存場所や、ガバナンス・コンプライアンス状況について心配する必要があってはなりません。
デザイン思考をデータ戦略に適用する
デザイン思考のアプローチは、組織が抱える問題を明らかにし、複数のユースケース、事業部門、チーム全体にわたって戦略的価値をもたらします。観察、内省、反復の継続的なサイクルは、実現可能な解決策を生み出す助けとなります。
人材とスキルを評価する
AIやITの進化に遅れないよう、組織として継続的なトレーニングを提供することが重要です。IBMのIBV調査によると、主要なCDOの85%がトレーニングを拡大し、77%が社内スタッフをリスキルし、70%が新たな人材を採用して、組織全体のデータ・リテラシー向上に取り組んでいます。3
ガバナンスを優先する
重視すべき規制対象のデータ要素を適切に管理することは、重複によるエラー、検索の不正確さ、プライバシー侵害などを防ぎ、システムを安定稼働させるために不可欠です。誰がデータ方針を所有・管理・定義しているのか、そのガバナンスがセキュリティーやプライバシー、コンプライアンスに影響しているかを検討してください。また、適切な担当者が必要な意思決定権、アカウンタビリティーの枠組み、外部リソースを備え、データを効果的に管理できるようにすることが重要です。
データのあるべき姿を定義する
「多くのデータ環境は古いままで、今日のデジタル環境に合わせて進化させる柔軟性がほとんどありません」とGiordanoは述べています。一貫したデータ品質を確保するため、最新のデータ・アーキテクチャーを管理、統制、保護する必要があります。それには、デジタル・チャネルとともに、進化する柔軟性が必要です。
目標に向けた進捗状況を評価する
データ・リーダーは長期的なトランスフォーメーションを推進することを求められる一方で、短期的なビジネス成果で評価されることが少なくありません。AWSの調査では、CDOの74%が、自身の成果はビジネスの結果、あるいはビジネスとテクノロジーの両面に基づいて判断されると回答し、技術的成果のみで評価されると答えたのはわずか3%でした。4
データに関する目標に集中し、データ利用者から得られる洞察を活用して、AIによってビジネス価値を高める最適な方法を見極めます。
データガバナンス方針の骨子を示す
堅牢なガバナン・スフレームワークは、品質、プライバシー、セキュリティーを確保します。メタデータとガバナンスの層を設けることで、データの保管場所にかかわらず、組織全体で可視性とコラボレーションが向上します。さらに、データ・ガバナンス方針は、データの管理、保護、秘匿の方法を定めるとともに、AIがコンプライアンス対応をどのように支援しているかを把握する際の指針にもなります。
データ推進者を見つける
データを活用して業務を向上させたいという強い意欲を持つ人材を見つけます。パートナーシップが成功した場合、データ活用の標準化や良いデータ習慣の定着に貢献します。AIモデルを構築するデータ・エンジニア、アーキテクト、データサイエンティストといったデータチームのメンバーや、データ分析に依存する部門を率いるビジネスリーダーは、特に有力な候補です。
スプリント・サイクルを設定する
データとAIの戦略を組織に定着させるには、まず明確で実現可能な目標を設定します。これらの目標を軸に部門横断のチームを編成し、達成可能なマイルストーンを設定した短いスプリントサイクルを実行して、進捗を分かりやすく示します。経営層、技術チーム、ビジネス・ユーザーが同じビジョンを共有していることを確認します。
小さな成功を積み重ねる
簡単で効果の高いユースケースに注力し、データとAIへの投資価値を素早く示します。最初から最も難しい課題に取り組むことは避けます。AI導入の初期段階では、小規模なパイロットプログラムに投資し、将来的により大きな成果を生み出すために必要な経験を蓄積します。
中央データカタログを構築する
中央のカタログは、未加工データと整備済みデータの両方を保管・共有し、アクセス性と利便性を向上させます。また、データの利用状況や生まれつつある洞察を把握できるため、組織全体でより的確な意思決定につながります。
データ利用者の採用を後押しする
新しいデータフレームワークの組織全体での採用を促進します。これにより、コミュニケーションが向上し、ワークフローが効率化され、セキュリティーが最適化されるほか、新たなビジネスモデルや市場機会、運用効率の向上が実現します。
成果を示し、共有する
ユースケースは、その効果を示す強力な手段です。Harvard Business Review誌の記事でも指摘されているように、CDOやAIリーダーは「データを全員の関心事とする」ことで、より大きな成果を上げています。5
ユースケースの領域は、データサイエンス、オペレーショナル・アナリティクス、デジタル・トランスフォーメーション、ビジネス・インテリジェンス、生成AIの取り組みなど多岐にわたります。これにより、複数のチームがデータを活用して実際のビジネス・インパクトを生み出す機会が広がります。
人材の採用とリスキルを進める
スキルギャップを埋めるには、従来型の採用や研修の枠を超えた取り組みが必要です。企業が人材確保に奔走する中、多くの企業が役割を埋めるために学歴や経験の要件を見直しています。それでも不足する場合には、AIや自動化を活用して、人手不足やスキルのミスマッチを補う方法を検討しています。
強力なパートナーシップを築く
データリーダーの役割は、データの収集・管理・活用に関して、組織が適切な判断を下せるよう支援することです。あらゆるレベルでパートナーシップを構築・強化する際は、フィードバックやコラボレーションに対して開かれた姿勢を保ちます。データ・ファーストの文化は、人々が学び、責任を持ち、新しい役割を受け入れる意欲を持つときにこそ根付きます。
データを差別化要因にする
既存技術を強化し、データ・アクセスを容易にする新たなソリューションを導入する際には、効率化や新たな洞察を生み出すだけではないことを意識する必要があります。真に取り組むべきなのは、データの可能性を最大限に引き出すことに情熱を持つ文化そのものを築くことです。
¹ Turning data into value、IBM Institute for Business Value、2023年4月。
² 85% of IT Leaders See AI Boosting Productivity...、Salesforce社、2024年1月。
³ 2023 Chief Data Officer Study、IBM Institute for Business Value、2023年3月。
⁴ CDO Agenda 2024、AWS、Thomas H. Davenport、Randy Bean、Richard Wang共著、2023年10月。
⁵ Why Chief Data and AI Officers are…、Randy Bean、Allison Sagraves共著、2023年6月。