エンタープライズAI機能の拡張
仮想化層とインサイト層の間でデータを送信するデータ・ファブリック・アーキテクチャのアクティブAI層
組織全体でAIを運用するには

AIや基盤モデルに関する誇大広告は増え続け、ニュースや話題を席巻していますが、組織は依然として、責任あるAIアルゴリズムやモデルを実世界の環境にうまく展開するのに苦労しています。実際、AIプロジェクトの約半数しか、試験段階から生産段階に移行できていません。¹ここからがあなたの出番です。

組織のデジタル・トランスフォーメーションのリーダーとして、最高データ責任者、最高AI責任者、その他のデータ・リーダーは、AIを効果的かつ倫理的に活用して業務を改善し、イノベーションを推進し、収益を拡大するための重要な役割を担っています。あなたの専門知識と意思決定は、エンタープライズAIを成功に導くための土台です。

 

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強力なデータ基盤でAIを拡張するための4つの戦略
1. 適切なAIユースケースを定義して、ビジネスを支える

AIを組織に導入するには、AIプラットフォーム、基盤モデル、生成AI、機械学習(ML)が、組織の重要な目標に、どのように合致するかを特定することから始まります。多くの企業は、AIの影響を過大評価し、複雑さを過小評価する傾向があります。これにより、データおよび分析のリーダーは、期待を管理することを求められ、コストのかかるプロジェクトが失敗するリスクを冒すことになります。²

IBMのPortfolio Product Management DirectorのAnn Leachは、「あなたがデータ・リーダーであれば、チームに最も求められていることは何か、AI によってそれらの事業部門の業務がどのように楽になるかを考えてください」と述べています。「意思決定を支援したり、より良いワークフローやプロセスを構築したり、先進的な思考を推進する情報をビジネスに提供したりするために、どのようにAIを導入できるでしょうか」

AIアプリケーションを最大限に活用するために、次を念頭に置いておいてください。

ビジネスの成果につなげる

リーダーシップチームと協力して、組織の全体的なビジネス目標を達成します。IBMの最高アナリティクス責任者であるTim Humphreyは、マーケティング、人事、サプライチェーン、営業、資産管理などのリーダーとAIのユースケースを検討している場合でも、そのリーダーがその機能や組織をどこに導こうとしているのかを尋ねるべきだ、と提案しています。現在地はどこなのか、そして目標地点がどこなのか、その両方を理解する必要があります。同氏はさらに、「現在から未来への連続のなかで、AIを適用できない場合は、始めるべきではありません」と付け加えています。

まず最初にテストを行う

AIを導入すると、適切な修正が見つかるまで概念実証をテストします。その次に、最適化を行います。Carruthers and Jackson社のCEOで、『The Chief Data Officer's Playbook』の著者であるCaroline Carruthers氏は、「私は、すべてを完璧にすることに多くの時間を費やすよりも、実際に永続性があるものを見つけるまで、多くの概念実証を行うことに賛成しています」と言います。

目標を設定し、追跡する

各ユースケースが成功したかどうかを測定するKPIを定義します。クレジットカード詐欺の特定に関するプロジェクトで、AIに詐欺のケースの95%を特定させたいとします。メトリクスを用いて進捗状況を追跡することで、AIのパフォーマンス・レベルをマッピングして監視し、関係者にAIの価値を示すことができます。

AIでビジネスの価値を創造するには:12の導入事例
あなたがデータリーダーであれば、チームが最も求めていることは何なのか、そしてAIがチームの業務をどのように楽にすることができるのかを考えてみてください。 Ann Leach Director, Portfolio Product Management IBM
2. 関連するデータセットを特定して、調査する

データ・リーダーの仕事の中で最も難しい部分の1つは、データからインサイトを得るための、迅速かつ信頼できる方法を確立することです。モデルを実行するには適切なデータが必要ですが、すべてのデータがAIに適しているわけではありません。

「すべては、特定のユースケースに適したデータセットから始まります。これがなければAIは存在しないも同然です」と、IBMのData Fabric担当Software Development Vice PresidentのRemus Lazarは言います。同氏は、乗客が乗り継ぎ便に乗れるかどうかを予測する、予測系AIを必要としている航空会社の例を挙げています。「飛行機に乗った乗客のデータではなく、乗り継ぎに乗り遅れた乗客のデータだけを収集した場合、それは正確なデータとは言えません。適切なデータセットがなければ、決してユースケースを解決することはできません」

データ・アーキテクチャーを見直す

組織の半数以上が、AIプロジェクトが停滞している原因として、データを挙げています。データ・ファブリックのような最新のデータ・アーキテクチャーには、データ品質とデータ・ガバナンス機能が組み込まれています。これにより、データサイエンティストは、データが存在する場所にかかわらず、すべてのガバナンスとプライバシーの要件が自動的に適用された状態で、データをセルフサービスで活用できるようになります。このアプローチにより、ユーザーは信頼性の高いデータをすぐに利用できるようになり、完全なガバナンスにより異なるソースにリアルタイムでアクセスできるようになり、アジリティーとスピードが向上します。

信頼できるデータでモデルを強化する

AIをとりまく規制や倫理が変化し、複雑になりつつある今、このデータに関するガバナンスはどうなっているのか、この目的に使用できるのかについて、常に問い続ける必要があります。データ品質とデータ・ガバナンスはAIソリューションの拡張を成功させるうえで不可欠です。アルゴリズムの決定を信頼する前に、組織が回答する必要がある次の質問を検討してください。

  • たとえば、社外のデータが必要ですか、もしくは社内のデータが必要ですか。
  • 履歴データを使用していますか。
  • もしそうなら、それは今日の基準に照らして倫理的と言えますか。

誰がデータを管理するのか、誰がAIソフトウェアやアプリにアクセスできるのか、そしてAIイニシアチブを有効に活用するために誰がアクセスする必要があるのかを決定するのは、データ・リーダーであるあなたです。

倫理的なAI活用への取り組み

責任あるAIのガイドラインには、セキュリティー、説明可能性、バイアスといった考慮事項が含まれています。モデルにフィードするために過去のデータを使用している場合は、それが社会の現在の倫理感や感覚と一致していることを確認する必要があります。たとえば、ジェンダー、人種、性別、階級、年齢に対する考え方は、今日と1970年代とでは違います。古いデータセットを使用すると、AIのバイアスが永続化し、最初から結果が歪んでしまう可能性があります。組織は、戦略的、意図的、思慮深く倫理問題に取り組むことで、差別化を図ることができます。

 

AI倫理へのIBMの取り組みはこちら
75%

の軽視幹部が倫理を競争上の差別化要因と考えています。³

適切なデータセットがなければ、AIでは何も起こりません。ゼロです。 Remus Lazar Vice President of Software Development, Data Fabric IBM
3. MLOpsと基盤モデルを使用して、モデルを迅速に実稼働環境に導入する

エンタープライズAIには、組織の確立された領域と同じコミュニケーション、構造、厳格さが要求されます。しかし、モデル開発はデータサイエンティストのノートPCで行われることが多く、オーケストレーションはカスタム・コードやスクリプトを使用して、手動または都度都度に行われます。そのため、自然言語処理(NLP)や機械学習モデルなどのAI機能を応用して、運用ワークフローを自動化および合理化する機械学習基盤(MLOps)が必要になります。また、基礎モデルのような柔軟で再利用可能なAIモデルによってもたらされる効率の向上も見逃せません。

データサイエンスとMLOpsに関するデータ・リーダー向けガイドを読む

ワークフローを効率的に高速化する

データサイエンスチームとIT部門間のコラボレーションを高速化して同期する、エンタープライズAIプラットフォームのベスト・プラクティスを用意しておくと便利です。

「セキュアなモデルをEdge、Webサービス、メインフレーム、適切なハードウェアに自動的に展開し、それを正当化できるようにすべきです」と、IBM Global Chief Data Office、AI & Governance担当バイス・プレジデントのSteven Eliukは言います。「IBMでは、グループがより迅速に、しかもセキュアかつ管理された方法でモデルを実稼働環境に導入できる方法を常に検討しています」と同氏は付け加えています。

ヒューマン・エラーを解決する

MLOpsは手動プロセスを自動化し、コストのかかるヒューマン・エラーを排除してリスクを軽減し、企業のアジリティーを高めます。MLOpsは生産を最適化するだけでなく、モデルが本来のパフォーマンスを発揮できるよう支援するため、AIライフサイクル全体にわたって信頼が得られます。これは、次のような重要な質問に答えるのに役立ちます。「そもそも、このデータにはバイアスがあるのでしょうか」「データセットに十分な代表サンプルがありますか」「開発を始めるにあたって、適切なアルゴリズムを使用していますか。それとも、それらのアルゴリズムはデータ内にすでに存在するバイアスを永続させてしまいますか」

あるデータ・リーダーがMLOpsをどのように実践したかを次に示します。「当社では、MLOpsが常に品質をチェックし、予測の質と機械学習の質をテストしています」と、Outra社の最高データおよび運用責任者であるPeter Jackson氏は言います。「当社には、上級管理チームに報告するダッシュボードがあり、モデルの品質と予測能力を確認することができます。そして、1か月の間に低下が見られた場合は、機械学習プログラムを解凍し、データ・ソースを調べて、それらが機能していない理由を確認します」

 

私たちは、モデルをより迅速に、安全で管理された方法で本番環境に導入する方法を常に模索しています。 Steven Eliuk Vice President, AI & Governance IBM Global Chief Data Office
4. 透明性が高く、説明可能なAIワークフローを実装する

AIモデルにバイアスがある、または説明できない場合、組織はブランドの評判に対する深刻なリスクに直面します。また、複雑で変化する規制要件を満たさなかった場合、政府の監査を受け、数百万ドルの罰金を科される可能性もあります。これらすべての問題は、株主と顧客の関係に壊滅的な影響を与える可能性があります。

AI モデルを理解して、信頼する

透明なプロセスを欠いたブラックボックスモデルに対して、AI関係者の間で懸念が高まっています。これらのモデルは構築・展開されていますが、透明性に欠けています。モデルがどのように、そしてなぜ意思決定を行ったのかを追跡することは、データサイエンティストにとっても必ずしも容易ではありません。また、雇用におけるAIの活用方法を規制するニューヨーク市の法律や、EUのAI規制なsどのにより、企業はより迅速に知識を習得する必要性に迫られています。

AIガバナンスは、ビジネス・プロセス全体にわたるAI活動を指示、管理、監視するプロセス全体です。データ・リーダーは、AIプロジェクトの開始時から最高リスク責任者、最高コンプライアンス責任者、その他の主要な関係者と協力して、AIガバナンス・フレームワークを開発する必要があります。このフレームワークは、AIモデルの開発、導入、管理、そして最終的にはブラック ボックスを排除するための企業のベスト・プラクティスを概説している必要があります。

モデルをエンドツーエンドで追跡する

AIガバナンスは、データ収集、モデル構築、展開、管理、監視など、AIと機械学習のライフサイクルの各段階でガードレールを確立します。これらのガードレールにより、プロセスの透明性が高まり、主要な関係者や顧客に説明可能な結果が得られます。AIガバナンスを最初から最後まで実装すると、リスクと評判をより適切に管理し、倫理原則を遵守し、政府規制から保護して拡張することができます。

米国のある大手小売業者は、候補者を選別するツールや採用システムにおける公平性の問題に対処するため、IBMに支援を求めました。この企業にとって、雇用に使用されるAIおよび機械学習モデル内でバイアスを特定し、意思決定を説明する能力など、公平性と信頼性を組み込むことが重要でした。同社はIBM® Cloud Pak for Dataを使用して、AI対応モデルを一貫して管理し、正確さと公平性を担保しました。現在、同社は採用プロセスにおけるバイアスを積極的に監視し、軽減しています。

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IBMは、このアプローチを社内でも適用しています。「特定の規制で透明性や説明可能性が求められる場合、アルゴリズムや影響評価でそれらの詳細を示すようにし、ビジネスに影響を与えるのではなく、新しい規制を中心に継続的なコンプライアンス遵守に向けて、迅速に方向転換できるようにしています」と同氏は言います。

AIが実験からビジネス・クリティカルなものに移行するにつれ、組織はAIガバナンスを積極的に導入して透明性と説明可能なAIを推進する必要性を認識するようになっています。AIの周りにガードレールがないと、AIプロジェクトが頓挫し、イノベーションが遅れてしまう可能性があります。

 

AIガバナンスにより、責任ある、透明性のある、説明可能なワークフローを構築する方法について学ぶ
当社ではMLOpsに常に品質をチェックさせ、予測の品質とMLの品質をテストさせています。 Peter Jackson Chief Data and Operations Officer Outra

AIの継続的な適用を支持する

データ・リーダーとして、あなたは企業のあらゆる部分にAIテクノロジーを構築しています。機械学習とAIのプロセスに関して、先進的な組織全体のポリシーを設定するのはあなたの仕事です。しかし、あなたは一人で行動しているわけではありません。ビジネスの強力なパートナーになるということは、データ管理、サイバーセキュリティ、サプライチェーン、エンタープライズ・ソフトウェア、顧客サービスなどの領域に関わる新しいAIユースケースを特定することを意味します。

エンタープライズAI機能を拡張すると、コストを削減し、ワークフローを最適化し、研究開発の収益が増加し、株主と顧客の信頼が構築されます。AIにはもはや選択の余地はありません。必須のものです。AIの影響については不安やためらいがあるかもしれませんが、Carruthers氏の次の言葉を考えてみましょう。

「AIの力は驚くべきものであり、常にポジティブな面に注目する価値があると思います。通常、新しいテクノロジーに対する恐怖は理解の欠如によって引き起こされます。私たちはコントロールできており、コントロールし続ける必要があることを覚えておくことが重要です。AIは私たちを助けてくれます。私たちはその上に立つことで、より遠くを見たり、より多くのことをより速く行うことができます。そして、その組み合わせが正しくできて、人々がその部分を理解したとき、私たちはいくつかの素晴らしいことができるようになります」

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脚注

「Gartner 2022 AI Survey」(ibm.com外部へのリンク)、Gartner, 2022.
² “What Is Artificial Intelligence? Ignore the Hype; Here’s Where to Start”, Gartner, 2022.
³ “AI ethics in action”, IBM Institute for Business Value, 2022.