第二章
RPAはデジタル・トランスフォーメーション実現の鍵であると、長年目されてきました。2021年のデロイト社による調査では、調査対象企業の78%がすでにRPAを導入しており、さらに16%は今後3年以内の導入を目指しており、導入を検討していない企業はわずか6%にとどまりました。
これほど多くの企業がRPAの導入に取り組んだのは、魅力的なバリュー・プロポジションが功を奏したことがその理由です。理想的なシナリオ通りに進めば、ソフトウェア・ボットが平凡な反復作業を担当する一方で、人間はより価値が高くやりがいのある仕事に集中できるようになります。RPAはユーザー・インターフェース・レベルで自動化を行うため、迅速かつ魅力的な価格で導入できるだけでなく、バックエンドの統合作業も不要です。
導入後はビジネス・プロセスが高速化してエラー率が激減することで、従業員はこれまで以上に業務に集中できるようになるでしょう。さらにコスト削減、売り上げ上昇、顧客満足の向上も実現します。
成功に不可欠なRPAの実装および導入の方法
上記の各例では、ビジネス主導の戦略の一部としてRPAを実装した場合の成功例を示していますが、実際には各種のプロセスを分析して自動化が最も効果的である作業を特定するには時間がかかります。
またRPAを導入した企業の半数⁴で、あまり輝かしい成果が出ていません。具体的には、RPAで期待されたROIが全く実現できていないか、初期段階では成功しても継続的かつエンタープライズ全体の最適化までは発展していないの、いずれかの状態になっています。
この結果だけを見ると、これはソフトウェアの問題ではないか、と思われるかもしれません。しかしほとんどすべての場合、問題はRPAのソリューションにあるのではなく、その導入方法にあるのです。
特にRPAは簡単に導入できることから、一部の部門で従業員を忙殺している業務や、ボトルネックや非効率性の原因となっている特定のタスクの自動化だけに活用されるという傾向があります。
例えば、取引先から支払い遅延の苦情を受けている企業を想像してみてください。書面の請求書に記されたデータを手作業で入力することに時間がかかっているようで、これが苦情の理由であると考えられます。そのため金融部門はRPAを使用して、スキャンした請求書の内容をSaaS財務システムに入力するボットを構築することになりました。
ボットは順調に機能していますが、調達から支払いまで(P2P)のリード・タイムには改善が見られません。しばらくすると、ボットを構築した担当者が移動になります。誰もボットを更新する方法が分からないという状況になり、その後SaaSベンダーが財務システムを更新した時にボットはお払い箱になってしまいます。
RPAプロジェクトの失敗を招く状況
RPAの実装が失敗に終わる可能性のあるさまざまな状況を、分かりやすい例でご説明します。
プロセスの一部のみにRPAを実装:P2PやO2Cのプロセスは、現代の企業でも最高レベルの複雑なプロセスです。両プロセスとも複数の部門と外部の利害関係者が関わっている上に、両プロセス自体に独立した固有の作業が数多く紐づけされて構成されているためです。プロセスの一部を改善すれば多少の効果はあるかもしれませんが、プロセス全体にボトルネックが散在している場合、全体としてはほとんどまったく改善は見られないでしょう。またプロセスの一部に対して個別の修正を行うと、上流や下流で新たな問題や障害を生み出してしまう場合もあります。
不適切なプロセスに自動化を適用:上記の例のプロセスでは、書面で請求書が送られてきていました。請求書はまずその企業宛に郵送され、次にメール室で分類され、お客様窓口に届けられ、さらに整頓されていない机の上でしばらく行方不明になり、ようやく経理に届いた、という経緯だったのかもしれません。このような請求書からデータを抽出する作業を自動化しても、全体的なP2Pサイクルはほとんど加速されません。自動化を図る前に、プロセス全体を見直す必要があります。
不明瞭なKPI:どの企業のリーダーも社内に問題があることは認識していますが、どのような改善が必要かについては具体的に考えていないものです。望ましい成果と測定可能なKPIを特定しないまま、ひと目でわかる非効率なプロセスだけにRPAを絆創膏のように貼り付けているだけなのです。全体のプロセスを俯瞰して検討すれば、非効率なプロセスをすべて特定し、その修正手順を決定し、各修正によるROIを計算してからRPAを効果的に導入できます。
場当たり的なツールの使用で自動化が持続不可能に:上記の例のボットは、ITに詳しい財務担当者がローコードのRPAツールを使用して構築しました。社員はそのボットの使いやすさを大変気に入りましたが、ボットの開発に関する知識は担当者の移動とともに失われました。これではいずれボットは壊れてしまうでしょうし、せっかくのRPAを他の非効率な作業に活用する機会も失われることになります。
継続的なガバナンスの不在:上記の例のボットは包括的な自動化戦略の一部としてではなく場当たり的に構築して導入されたため、ボットをモニターする担当者(およびモニタリング・システム)が不在の状態で、財務システムを更新しただけでボットが壊れることになるとは誰も予測できませんでした。
RPAを成功させる5つの要件
上記のシナリオでは、以下の5つの要素が欠けていました。もしその要素が揃っていれば、RPAの使用が短期的にも長期的にも成功していた可能性があります。
- 複数の部門、システム、利害関係者、タッチポイントにわたるP2Pのような複雑なプロセスは、エンドツーエンドで可視化する。
- 企業内でボトルネックと非効率性が発生している箇所とその理由、さらに最善の修正方法に関する洞察を得る。
- 既存プロセスをモデリングして、そのプロセスに実際に変更を加えた場合の正確なシミュレーションを行う。これにより、自動化を実施する前にその影響を評価できます。
- プロセスの再設計と特定のタスクの自動化によって企業が得られるメリットを、ROI計算で評価する。
- 自動化されたタスクとそのタスクに関連する様々なプロセスを継続的にモニタリングし、今後問題が発生したときにそれを通知するアラート・システムも設定する。
こうした要素を追加するには、多くの作業が必要だと思われるでしょう。これまでは確かにそうでした。従来型のビジネス・プロセス・モデリング(BPM)は組織のプロセスを手作業でマッピングして分析したうえで効率を改善できる場所を特定する労働集約型のアクティビティーであるため、数カ月を要することもあります。
しかし現在では、はるかに迅速かつ適切な方法で、企業の成長を阻む隠れた非効率性についての洞察を得ることができます。この洞察を活用する企業は、世界中で年間数十憶ドルもの秘められた価値を引き出しています。
「プロセス・マイニング」に続きます。
第三章
プロセス・マイニングによるRPAの可視性、ガバナンス、拡張性の実現
出典
² https://www2.deloitte.com/bg/en/pages/about-deloitte/articles/Intelligent-Automation-Survey-2021.html(英語)(ibm.com外部へのリンク)
³ https://researchportal.vub.be/en/publications/the-economic-impact-of-standards-in-belgium(英語)(ibm.com外部へのリンク)
⁴ https://www.ey.com/en_us/consulting/five-design-principles-to-help-build-confidence-in-rpa-implement(英語)(ibm.com外部へのリンク)