Matthew Moroney氏は言います。「永久凍土の融解による影響について調査をしながら、シベリアの凍土帯に立っていた時、気候変動がさまざまなモデルが予測しているよりもはるかに速度を上げて加速している様子を察しました」 そのソリューション活動に参加するため、Moroney氏は科学的な研究活動を退き、環境工学とクリーン・エネルギーのプロジェクト開発に取り組みました。

一方、Franz Hochstrasser氏は、2008年にバラク・オバマ氏の大統領選に参加し、米国政府とホワイトハウスにおける任期の間、気候変動に対処するために戦いました。同氏は米国史上最大のクリーンエネルギー投資の実施を支援し、大統領の気候変動対策計画を立ち上げ、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)にてパリ協定の交渉を支援しました。現在お二人はクリーンエネルギーの導入を加速させ、気候変動ソリューションへの融資により多くの人々が関わることのできるような新たな方法を用いた、グラスゴーで開催されるCOP-26を目指しているところです。

Moroney氏とHochstrasser氏は、イェール大学で環境マネジメントの修士号で学んでいた時に出会いました。グリーン・ソリューションを数百倍早く拡大させ、(政府や非営利組織だけではなく)個人が持続可能性に関与できるより良い方法を提供するために、二人は気候変動ソリューションの効率的な構築を目指してRaise Green社(ibm.com外部へのリンク)という包括的なインパクト投資市場を共同で設立しました。同社は、コミュニティーや個人による独自のクリーン・エネルギー・プロジェクトの作成、出資、構築、運営を支援します。Raise Green社は、株式投資型クラウドファンディングとコミュニティ・ソーラーを組み合わせることにより、インパクト投資への門戸を開放しました。社会経済的地位が比較的低いコミュニティーは、クリーン・エナジー・プロジェクトから直接利益を得ることができ、投資家は株の買い付けを100米ドルほどから始めることができます。

規制産業でのスタートアップ企業として、Raise Green社にはいかなるミスも許されませんでした。コンセプトのレベルを引き上げるために、同社はIBMとの協業を選択しました。その理由は、IBMには確立された名声があり、さらに持続可能性に関するプロジェクト、気候データ、およびエネルギー部門での経験もある、信頼の置ける技術とソリューションのパートナーであったためです。

太陽光エネルギー・プロジェクトの立ち上げに必要な平均時間が

75%
削減され、10ヶ月から10週間に短縮

Raise Green社とIBMが「Originator Engine POC」を共創した期間は、わずかに

8
週間

気候ソリューションの複雑性

米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2020年に米国内で生産された電力の約20%を再生可能エネルギーが占めていました。気候危機の切迫した影響を緩和させるためには、2050年までに総電力の70~85%を再生可能エネルギーで賄う必要があります。

このような統計を念頭に置き、Raise Green社のCEOであるHochstrasser氏とCOOであるMoroney氏は、ユーザー設計とユーザー体験の専門家であるIBM iX®のチームと、デジタル変革のためのフレームワークであるIBM Garage™のチームとロンドンで1週間を費やし、共同で各種のソリューションを作成しました。Raise Green社とIBMは、よく働きよく遊ぶ熱血ワンチームでした。共に食事を楽しみ、サウス・バンクのパブでサッカーの話題に興じる毎日の中で、Moroney氏はここで人生初となる英国式朝食も経験しました。そしてチームは夜ごと、気候変動ソリューションを立ち上げるにあたっての様々な障害について議論を重ねました。

風力タービンとソーラー・パネル

Hochstrasser氏は説明します。「クリーンエネルギープロジェクトの開発は、想像するよりも困難です。オバマ政権では、地域やコミュニティーのレベルで太陽光などの気候変動プロジェクトが資金を調達することがいかに難しいのかを直接見てきました。それぞれのプロジェクトにおいて設計、許可、契約、相互連携を実現するためには、専門的な知識が必要となります」プロジェクト・マネージャーは、高額で複雑な法律関係書類を平均して10~15部作成して提出する必要がありますが、それには何人もの弁護士と数時間かけて交渉したり、地域固有の仕事の進め方にも適宜対応しなければなりません。さらに融資の確保、会社の作り方の把握、許可の取得、プロジェクト・モデルの完成、規制に準拠するための調査、建設工事入札の手配も行う必要があります。コミュニティ規模のソーラー・プロジェクトは、低価格でも10万米ドルの費用がかかります。

IBMが関与する以前は、共同創設者たちの知識と経験を総動員しても、Raise Green社が最初のパイロット・プロジェクトを展開するまでに10カ月がかかりました。New Haven Community Solar社(ibm.com外部へのリンク)は、非営利組織に対して25%割引で電気を販売するコミュニティー規模のソーラー・プロジェクトです。同プロジェクトは前例のないプロジェクトであり大きな成功を収めましたが、Raise Green社はビジネスや気候変動に関する経歴が全くない通常の人々が、同様のプロジェクトをよりすばやく立ち上げられる方法を見つけたいと考えていました。そのソリューションこそが、Originator Engineでした。経験や予算に関係なく、誰もがソーラー・プロジェクトの複雑な内容を舵取りできるデジタル・プラットフォームです。

アジャイルでユーザー中心の変革

「Originator Engineは、クリーン・エネルギー・プロジェクトの作成、資金調達、構築のプロセス全体を効率化して簡素化します。すべての公共施設、州、コミュニティーには、それぞれ独自の法規と取り組みがあります。Originator Engineは、このすべての情報と地域データを考慮することによって、ソリューションを米国内でどこでも機能するように拡大できるようにします」と、Hochstrasser氏は説明しています。

Originator Engineの構想を磨くために、チームはアジャイルでユーザー中心のIBM Garage Methodologyに従って、直ちにIBM Garage Enterprise Design Thinking® Workshopに参加しました。Moroney氏は、「法人であるか新興企業であるかを問わず、デザイン思考は数日掛けて行う必要があります。それによって変革を大幅に早めることができるからです。『あなたがビンに閉じ込められている間は、そのビンのラベルを読むことはできない』という話をしてくれた良き友人がいます。デザイン思考をすることで、私たちはそのビンの外に出て、ビンをあらゆる側面から眺める機会を得られるのです」と述べています。

ユーザーを設計上の意思決定の中心に置くことは、プラットフォームの軌道を定義する上で役立ちました。ユーザーの洞察、問題点、機会を把握するために、Raise Green社とIBMのチーム・メンバーは、5人のユーザーに詳細なインタビューを行うと共に、スキル、能力、出身、情熱、モチベーションがそれぞれ異なる数百人ものプロジェクト作成者たちと話し合いました。共同チームは、カスタマー・ジャーニーを構築し、「project originator」向けにユーザーのペルソナ(ソーラー・プロジェクトの作成と資金調達を必要とする専門の気候変動活動家)を設計しました。ユーザーに必ずしもビジネスの才覚やソーラー開発の知識があるわけではないため、チームは知識と理解を構築するために、より力強い教育コンポーネントを組み込みました。

ソーラー・パネルを見る若い女性

エンド・ユーザーには教育やガイダンスが必要であるため、IBM GarageとRaise Green社は協力して、ツールの効率化と顧客体験の簡素化を行っています。Originator Engineの2回目の開発において、チームはユーザーのジャーニーを重視すると同時に、太陽光発電事業者や設計エンジニアリグ・調達・契約(EPC)企業からの資金調達に焦点を当て、新たな取り組みを行うこととしました。この目的を最大限達成するために、新規の開発では新しい法律テンプレートを迅速にアップロードしてソフトウェア・ツールの機能を拡大するための能力を組み込み、経験豊富なソーラー開発者向けの資料と教育のための資料の両方を提供できるようにしました。これにより、より多くのユーザーがOriginator Engineを使用して自らのプロジェクトを作成し、包括的な資金調達によって資金を得られるようになるため、これまで以上に多様なソーラー開発企業と気候変動関連のベンチャー企業が起ち上げられます。

Hochstrasser氏は言います。「Raise Green社は、気候変動に対して誰もが直接アクションを取れる手段を提供するために立ち上げられました。IBM Garageのスタッフの仕事ぶりは素晴らしく、パートナー・シップも緊密であるばかりか、スタッフから提案される数々のコンセプには感銘を受けました。そして当社の仮説の一部を実際に試して後押ししてくれました。おかげさまで、当社で未処理となっていた途方もなく幅広い案件を、緻密に計画することができたのです」

4倍早くなったソリューション

Originator Engineは、IBM Cloud®Red Hat® OpenShift®のコンテナ・プラットフォーム上で実行されます。Raise Green社がRed Hat OpenShiftを選択した理由は、オープンソース技術の柔軟性にありました。その柔軟性によって新興企業は、自社のプラットフォームをサスティナビリティー関連のその他の分野に拡張し、カスタマイズを実現し、第三者へのアクセスを提供できるようになります。Raise Green社は、Kubernetesクラスターのアーキテクチャーがマイクロサービスを迅速に拡大して導入する機能を持つ点を特に気に入りました。

Moroney氏は、「IBM Garageの体制は本当に強力で、数多くの補給要員が控えているので、必要に応じて応援をお願いできるのです。ある短期プロジェクトで、当社はRed Hat社から3、4人の応援を必要としていました。彼らが現場に登場した時には、そのプロジェクトについて全員すべて理解していました。彼らは1週間プロジェクトに参加して、終了後はそのまま引き上げてしまいます」と述べています。

同チームは、IBM iX Experience Orchestrator(規制産業がセキュアで複雑でパーソナライズされたデジタル・フォームを作成、管理、発行するソフトウェア・コンポーネント)と、IBM® Carbon Design System(IBM Cloud platform向けの、ビジュアル、顧客体験、コードのガイドラインと規格一式の完全セット)を採用することで、ソリューション開発の時間を4倍短縮しましたその結果、設計者はわずか1週間でOriginator Engineの画面を72個も作成しました。各種のテンプレートを作成して、数千ページ分の文書を標準化されたカスタマイズ可能なマスター・フォームに集約しておけば、ユーザーは同じ情報の入力を2回求められることはありません。さらに、このフォームはバックエンド・システム、ビジネス・ルール、およびデータに容易に統合できます。

ソーラー・パネルを設置する男性のグループ

クリーン・エネルギーをすべての人たちへ

Raise Green社とIBMは、わずか8週間でOriginator Engineの概念実証(POC)を提供しました。投資家にPOCを示すことができたことにより、実用最小限製品(MVP)の開発への資金を集めることが可能となったため、同製品をRaise Green社は4ヶ月後に立ち上げました。このツールは非常に評判が高く、既に賞を受賞しています。2021年7月、Raise Green社のOriginator Engineは、International Data Corporation(IDC)社のFuture of Digital Innovation Awards(ibm.com外部へのリンク)の保険と金融サービス部門において、Goldman Sachs社やBank of Americaなどの中から選出されて賞を受賞しました。

ユーザーは、Originator Engineを使用することでクリーン・エネルギー・プロジェクト開発の複雑なプロセスを舵取りできるため、経験や収入に関係なく誰もが新規ソーラー事業の創出とクラウド・ファンディングが可能になります。Originator Engineの目的は、ユーザーがソーラー・エネルギー・プロジェクトを従来より約75%素早く立ち上げられるようになることです。このプロセスに以前は平均10カ月かかりましたが、現在ではOriginator Engineを使用することで平均10週間での立ち上げが可能となっています。Raise Green社は2020年のスタートアップ企業の立ち上げ以降、100件を超える新規ビジネス・プロジェクトをパイプラインに投入しており、現在Originator Engineは週に3件から5件のプロジェクトを行っています。

Raise Green社は、チームが既存のMVPを繰り返すことにより、プロジェクトの実行依頼が大幅に増加することを期待しています。開発の次の段階では、ソーラー・プロジェクトの構築と運営に焦点を当てることになっています。この開発では、プロジェクトの資金調達や、拡張されたユーザー・ジャーニーや機能などを対象とした、新たにテンプレート化されたカスタマイズ資料の準備にも取り組みます。ソーラー・プロジェクトを構築して運営できるツールをあらゆる人に提供できる製品を生み出すため、Raise Green社はIBM Garageとそのユーザー中心の設計手法を採用しています。同社は将来的な目標として、他の地域や気候変動資産に対応した電気自動車充電ステーション、風力エネルギー、都市農場などの運用システムを構築することを計画しています。

情熱的な共同創設者たちに加えて、IBMから柔軟に技術とサポートを得られることで、Raise Green社はビジネス面と社会面の両方の影響力という点で、将来の成長に向けて上々の位置にあります。「多くの人々と共にありたい、という当社の理念は、この製品の発想と提供形態にも深く根差しています。人々を置き去りにしてしまっては、クリーン・エネルギー経済に移行することはできません」とHochstrasser氏は結論付け、「私たちのモチベーションとなっているのは、気候変動に取り組むだけではなく、すべての人がその役割を果たせるような仕組みを作ることなのです」と説明しています。

Raise Green社のロゴ

Raise Green社について

Raise Green社(ibm.com外部へのリンク)は、コミュニティー主導のプロジェクトにおける財政管理のための金融テクノロジー企業です。このスタートアップ企業は、コミュニティ・ソーラーのような気候変動ソリューション・プロジェクトを生み出し、直接投資するために必要なツールを提供することによって、すべての個人を支援します。マサチューセッツ州のサマービルに拠点を置くRaise Green社は、従業員数は約10人で、2018年に設立されています。

製品・サービス

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IBM iX®
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2021年11月

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