IBMが世界初のコグニティブ・サプライチェーンを構築

パンデミック時でも優れた顧客体験を提供

Mike Tucker
読了時間:8分

過去10年間で、地震、火山噴火、壊滅的な暴風雨、病気の発生、武力紛争など、一連の予測不可能な出来事が連鎖的に発生し、グローバル・サプライチェーンの深刻な脆弱性が露呈しました。 これらの出来事は、その先に待ち受ける、さらに大きな課題への最初の警鐘となりました。

人件費や運用コストの削減を目指し、ジャストインタイム生産システムなどのコンセプトに基づいて構築されたサプライチェーンは、複雑に絡み合っています。 長年にわたり、企業はサプライチェーンを絶え間なく最適化し、比較的予測可能な需要と供給のパターンで市場にサービスを提供してきました。 しかし、最近の前例のない出来事は、これらの選択がストレス下で脆弱な柔軟性のないサプライチェーンをどのように生み出したかを示しています。

グローバル化されたサプライチェーンの単一の繋がりを切断すると、波及効果が生じ、混乱のポイントから何千マイルも離れた顧客に影響を与える可能性があります。 「サプライチェーン問題」は、経済混乱を象徴する言葉になっています。

IBMサプライチェーン・トランスフォーメーション部門のシニア・パートナーであるRob Cushmanは、「近年、サプライチェーンは、誰も考えもしなかった状況から、役員会レベルの話題へと変わっています」と述べています。 「サプライチェーンは、人々が個人的にとてもつらい経験をしたことのある概念です。 そして、サプライチェーンについての考え方が、コストからレジリエンスと俊敏性、ひいては成長の推進に軸足を移しつつあるのは、そのためです」

工場でコンピューターを使って作業をしている2人の男性の画像

IBMのコグニティブ・サプライチェーンの開発により、削減したサプライチェーンのコストは(米ドル):

1億6000万

にのぼり、レジリエンスと俊敏性も向上しました

IBMはお客様に対し、新型コロナウイルス感染症のピーク時でも

100%

のIBM製品における注文処理率を維持しました

IBMのコグニティブ・サプライチェーンでは、権限に応じて誰でもデータにアクセスできます。 単一ビューからリアルタイムに正確な情報を得ることができ、顧客体験の管理、柔軟性のある運用、市場の混乱へのより迅速な対応を可能にする洞察を即座に得ることができます。
Ron Castro
IBMサプライチェーン担当 バイス・プレジデント
大量の段ボール箱が積まれたフォーク・パレット車の画像

サプライチェーンの高速化とさらなる透明性を確保する必要性

ノートPCによる倉庫管理機能

IBMが顧客ロイヤルティーと成長を促進するために差別化されたカスタマー・エクスペリエンスを提供するための変革戦略を模索し始めたとき、そのサプライチェーン構造の世界的な範囲、規模、複雑さは大きな課題でした。 IBMは40カ国でサプライチェーン・スタッフを雇用し、170カ国以上で数十万件の顧客への配送とサービス・コールを行っています。 IBMはまた、その多層的なネットワーク全体で数百のサプライヤーと協力して、お客様の仕様に合わせて、高度に構成可能でカスタマイズされた製品を製造しています。

以前は、IBMのサプライチェーンはさまざまな組織にまたがるレガシー・システム上で実行されていたため、情報共有が遅く、不完全なものでした。 また、従業員はスプレッドシート上で多くの作業を行っていたため、コラボレーションとリアルタイムム・データの透明性が妨げられていました。

しかし、IBMサプライチェーンがビジネス・プロセスを再考し、そのテクノロジー・プラットフォームを変革すると同時に、IBMはAI、クラウド、データ・ファブリック、IoT、エッジコンピューティング、およびその他のツールで大きな進歩を遂げていました。 IBMサプライチェーン担当バイス・プレジデントのRon Castroは「私たちは、これらの新しいテクノロジーを使ってIBMが進化しているのを見てきました」と述べています。 「その中で、『自社のテクノロジーを活用してIBM自身のサプライチェーンも進化させようではないか』となったのです」

サプライチェーンは、誰も考えもしなかった状況から、役員会レベルの話題へと変わりました。 そのため、サプライチェーンについての考え方は、コストからレジリエンスと俊敏性へと軸足を移しています。
Rob Cushman
IBMサプライチェーン・トランスフォーメーション部門 シニア・パートナー

サプライチェーンの混乱にイノベーションで対抗

「私たちがこの変革に乗り出した理由の背後にある原則は、『レジリエンスと顧客体験を管理するために、混乱に最善の対応をするにはどうすればよいか』という課題に応えることでした」 と、Castroは言います。 「混乱を迅速に特定し、データを分析し、洞察を得て、最善の行動方針を決定する必要がありました」

IIBMサプライチェーン・マネジメントは、世界初のコグニティブ・サプライチェーンになるという大胆なビジョンを打ち出しました。 その目的は、データとAIを広範に使用してコストを削減し、顧客の期待を上回り、付加価値のない作業を容赦なく排除または自動化し、サプライチェーン・パートナーのエクスペリエンスを飛躍的に向上させるアジャイルなサプライチェーンを実現することでした。

変革の推進に必要なプロセスの開発を支援するために、IBMコンサルティング™が最初に参画しました。 「私たちは自分たちをIBMコンサルティングの『模擬顧客』と考えています」と、IBMサプライチェーン・トランスフォーメーション部門のリーダーであるDebbie Powellは述べています。 「私たちは、必要なことを行うためのテクノロジーを持っています。 変化が必要だったのはカルチャーとプロセスです。 また、私たちの知識の多くが共有されておらず、多くの場合、1人の人物に依拠していることにも気付きました。 組織全体の意思決定をサポートするために、知識をデジタル化して共有する必要がありました」

海上輸送コンテナに飛行機の影の画像

IBMコンサルティングは、IBMサプライチェーン・チームがデザイン思考の手法を用いてデジタル変革を計画し、逐次的な計画から継続的な計画に移行することを支援しました。 IBMサプライチェーン・トランスフォーメーション部門のディレクターである Matthias Gräfeは、「私たちは、従業員に権限を与え、統制された方法でワークフローを調整できるよう、俊敏性と文化の転換に多大な努力を払っています」と、述べています。 「私たちはトップダウンのアプローチから、実際に意思決定を下す人物をボトムアップで特定することにしました」

「デジタル変革を成功させるには、何十年もの間、神聖視されてきた従来の働き方に挑戦し、サプライチェーン・パートナーの心をつかみ、変化を定着させる必要がありました」と、IBMサプライチェーン・トランスフォーメーション部門のパートナーであるTakshay Aggarwalは述べています。

IBMのサプライチェーン・デジタル変革は、高いレベルで、センス&レスポンド機能の構築を中心に展開しています。 これは、コグニティブ・コントロール・タワー、コグニティブ・アドバイザー、需給計画、およびリスク回復ソリューションを組み合わせることで、データを共有し、意思決定を自動化および強化することによって達成されました。 「私たちはコグニティブ・コントロール・タワーを、全てデータにアクセスできる単一の信頼できる情報源と見なしており、最善の行動方針をアドバイスするのに役立ちます」と、Castroは言います。 「また、エンドツーエンドのサプライチェーン全体で、情報から洞察を迅速に収集するのにも役立ちます」

コグニティブ・コントロール・タワーは、IBM Hybrid CloudおよびRed Hat® OpenShift®外部リンクソフトウェア上で稼働するIBM Cognitive Supply Chain Advisor 360ソリューションによって強化されます。 Cognitive Advisor 360は、リアルタイムでインテリジェントなサプライチェーンの可視性と透明性を実現します。 また、需要の変化を感知して対応し、サプライヤー管理の自動化を簡素化します。

このシステムは、IBM Watson®テクノロジーを使用して自然言語の照会と応答を可能にし、意思決定の速度を加速し、問題を修正するためのより多くのオプションが用意されています。 「自然言語で、部品の不足、注文への影響、収益へのリスク、およびトレードオフについて尋ねることができます」と、Cushmanは言います。 「問題を解決するためのアクションを推奨するボタンがあります。これがWatsonの機能です。 これは拡張インテリジェンスであるため、人々がより優れた情報を使用して、データ主導の意思決定を非常に迅速に行えるようにします」

「世界初のコグニティブ・サプライチェーンにより、レガシー・システムや社内外のソースからのこれら全てのデータ、および非構造化データを取り込み、高度な分析とAIのさまざまな要素を適用できるという利点があります」と、Castroは言います。 「システムは自然言語に反応するため、レガシー・システムやERPプラットフォームの専門家でなくても、データを抽出して洞察や推奨事項を得ることができるのです」

IBMコグニティブ・サプライチェーン・テクノロジー・アーキテクチャーには、IBM Edge Application ManagerIBM Maximo® Visual Inspection、およびIBM Track and Trace IoT(サプライチェーン全体でデータをエンドツーエンドで接続するソリューションの統合スタック)も含まれています。 「当社の調達、計画、製造、物流のデータは、ほぼリアルタイムで接続されています」と、Cushmanは言います。 「これにより、サプライヤーからのインバウンド情報、製造状況の最新情報を外部の製造パートナーと共有し、配送情報を顧客と共有することができます」

「さらに、デマンド・センシングを追加したことで、市場の需要の変化を感知し、将来を予測できます。 また、Resilincと呼ばれているクラウド・ベースのリスク管理ツールを調達およびインバウンド部品管理プロセスに組み込みました」と、Cushmanは言います。 「基本的にAIを使用してWebをクロールし、問題が発生した場合には、次のサプライヤーを確保するために迅速に行動を起こすことができます」

他の誰もがサプライチェーンの問題に苦しんでいるので、当社は製品を出荷しています。 私たちが生きているこの破壊的な時代の最盛期に、当社は約束を果たすことができました。
Daniel Thomas
IBM Business Optimization Manager スタッフ・チーフ

運用の可視性の向上とコスト削減

デジタル・タブレットを使用した倉庫の職長の画像

基本的に、IBMのコグニティブ・サプライチェーンの最大の利点の1つは、従業員が必要な情報に即座にアクセスすることができ、混乱を緩和できることです。 「大量の異なるデータを取得し、それを人々が見て理解できる場所に配置することには、驚くほど効果的です」と、Cushmanは述べています。

「リアルタイムで一元的に把握することで、意思決定の速度を高め、迅速な対応を可能にします」と、Castroは言います。 「これは、計画の観点から実行チームやサプライヤーに至るまで、『what-if』シナリオ分析を開発するのに役立ちます」

動きの速い現実世界の状況では、情報に基づいた迅速な意思決定が競争上の優位性をもたらします。 「これまでは、主要な空港の閉鎖などの大きな混乱が発生した場合、その影響をすぐに把握するには数日かかりました。 現在のソリューションでは、この分析を数分に短縮する「what-if」機能があります」と、Powellは言います。 「供給が制限された環境では、情報を最初に入手した人が勝ちます」

コグニティブ・サプライチェーンが運用可能になって以来、IBMは、在庫コストの削減、配送コストの最適化、意思決定の改善、および時間の節約に関連して、1億6,000万米ドルを節約しました。 「部品不足を緩和する場合、以前は部品番号ごとに4~6時間かかっていました」と、Powellは言います。 「それを数分に短縮し、さらには数秒にまで改善しました」

「私の荷物はどこにありますか?」 という問い合わせは、サプライチェーン業界ではよくあることです。 答えを見つけるには、さまざまな地域で何時間もの電話、Eメール、ERPクエリーが必要になる場合があります。 「ログインして注文を入力すると、約17秒で回答が得られるソリューションを構築しました」と、Cushmanは言います。 「それは私たちのビジネスのやり方に大きな転換点をもたらし、強力な変化となりました」

コグニティブ・サプライチェーン・プラットフォームを使用することで、IBMサプライチェーン・チームは新しい機能をより迅速に開発することもできます。 「数年前、当社がこの取り組みを始めたとき、主要な機能のアップグレードには1~2年かかり、長くループするロードマップが必要でした」と、Castroは言います。 「今IBMでは、2~3週間でデプロイを完了するチームもあります。 当社は、さらなるアジャイル開発に移行しました」

新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって引き起こされた混乱にもかかわらず、IBMはコグニティブ・サプライチェーンを使用して、必要に応じて部品を迅速に再調達および再ルーティングすることにより、注文の100%を履行しました。 「この過去2年間、IBMのサプライチェーンに納期遅れはありません。 私たちは約束を果たしました。 他の誰もがサプライチェーンの問題に苦しんでいた中、私たちは製品を出荷しています」と、IBM Business Optimization Manager兼スタッフ・チーフのDaniel Thomasは述べています。 「私たちが生きているこの破壊的な時代の最盛期に、当社は約束を果たしました」

「供給の保証は重要ですが、多くのお客様は供給の予測可能性も求めています」と、Castroは言います。 「当社が現在持っているツールは、両方の問題に対処するのに役立ちます。 これにより、需要を管理して、適切なお客様の期待に応えることができます」

今IBMでは、2~3週間でデプロイを完了するチームもあります。 当社は、さらなるアジャイル開発に移行しました。
Ron Castro
IBMサプライチェーン担当 バイス・プレジデント

未来のIBMサプライチェーン・リーダーを育成

財務データがスクロールしているコンピューター画面の前でタブレットを持っている手の画像

「私たちには、IBMサプライチェーンを今後何年にもわたって最先端で維持する若いサプライチェーン・リーダーを育成する責任があります」と、Aggarwalは述べています。 「今日、社会に出た人々は、前の世代とは異なる経験をしています。 彼らはデジタルに詳しく、仕事を管理する際にコンシューマ・グレードの体験を期待しています。 当社がこの取り組みを始めた当初、ワークフローとデジタル機能の設計に積極的に関与しました。 試練と苦難があり、設計と展開において複数の失敗がありました。 世界初のコグニティブ・サプライチェーンを設計し、失敗と成功から学ぶことで、若いリーダーたちはコグニティブ・サプライチェーンの擁護者となり、新しい機能の絶え間ない革新者になりました」

「IBMは独自の数十億ドル規模のサプライチェーンを持つ唯一のグローバル・サービス企業であり、ビジネスを推進するためにそれをデータ駆動型アーキテクチャーに変換しました。 当社は自分たちのためにこの仕事をしたことから、豊富な経験があり、顧客との会話も弾みます」と、Cushmanは言います。 「重要なのは、サプライチェーンがどのように差別化されたカスタマー・エクスペリエンスを提供し、持続性と成長を可能にするかです」

「IBM SystemsとIBMコンサルティングのチームが協力して、自社のビジネスを変革し、サプライチェーンにおける飛躍的なテクノロジーの力を実証したことは、企業としての最高の瞬間の1つです」と、Cushmanは述べています。 「私たちの経験と知識を、世界中の顧客、パートナー、クライアントと共有できることを楽しみにしています」

IBMロゴ
International Business Machines Corporation(IBM)について

IBMは、ニューヨーク州アーモンクに本拠を置く情報技術会社です。 1911年に設立されたIBMは、クラウド・コンピューティング、AI、コマース、データと分析、IoT、モバイルとサイバーセキュリティーにおけるハードウェア、ソフトウェア、サービスのほか、ビジネスの回復力、戦略、設計ソリューションを提供しています。 IBMは、28万人以上の従業員を擁し、IBMコンサルティング、IBMソフトウェア、IBMインフラストラクチャーを通じて、175以上の国と地域の顧客にサービスを提供しているグローバル企業です。

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