エッジ・ベースの分析で
よりスマートな運用を推進

AIを搭載したモバイル・ロボットでさらなる労働力を提供
執筆者: Michelle Cloutier
読了時間:6分

金曜日の夜、製造工場でのことです。生産機械のセンサーを監視するコンピューターを管理する仕事をしているローレンは、ちょうどシフトの時間になりました。

彼女は、机に向かって機械の遠隔測定結果を表示するいくつかの画面を見ながら、自分の仕事がどれほど退屈かとは思うものの、すべての機械を自分で検査しなくてはならなかった頃よりも今はずっと予測可能でリラックスできることを喜んでいます。

その時、アラームが鳴ります。機器センサーが突然の圧力損失を示しました。これは、漏出の可能性があるため、ローレンが機械を目視で検査する必要があることを意味します。そのため、ローレンはヘルメットとゴーグルを着用し、工場のフロアの奥に行かなければなりません。ローレンは、金曜日の夜勤でそうなるとは予想していませんでした。そして彼女は、他のもっと興味深く技術的な仕事を見つけた方がいいのではないかと思います。

ローレンだけではありません。製造業者は彼女のような優秀な労働者の雇用を維持するという問題に直面しています。

実際、今日の製造業の生産ラインは高度に技術的で、自動化と機械を遠隔地から24時間監視する必要があります。これらのデータはすべて、クリップボードやタブレットを持った人が手作業で収集するか、機器自体に取り付けられている数百、数千のセンサーによって収集する必要があります。次に、データを手作業で、もしくは資産監視システムを介して分析する必要があります。しかし、こうした自動化にもかかわらず、漏出などの問題を突き止めて解決する場合、ローレンのような労働者は依然として危険な状況に直面しています。

センサー装置と分析機能を搭載したモバイル・ロボットのSpotは、

コスト削減

IoT計測の関連コスト削減

Spotの定期検査ルートとフォローアップ・タスクの割り当てにより

作業効率の改善

労働者の効率アップ

導入プロセスが複雑であることを考えると、固定センサーを使用してデータの問題に取り組むことは拡張性があるとはいえません。また、手作業による方法は効果的でも効率的でもありません。どちらも、ビッグデータ分析ツールで得られるような本当に必要な価値を提供しません。
Michael Perry 氏
Boston Dynamics社 事業開発担当 バイス・プレジデント
犬のような黄色いロボットSpotの写真

製造業のジレンマ

ヘンリー・フォードが工場の生産ラインで最初の「モデルT」自動車を生産して以来、製造業の施設は進化してきました。今日、自動化とロボット工学は工場の現場では当たり前のことです。しかし、製造業者や他の工場のオペレーターは、工場の稼働を維持するためにこれらの機械を保守および修理する必要があります。そして、これには継続的なデータ収集と分析が必要です。

モバイル・ロボティクスのグローバル・リーダーであるBoston Dynamics社の事業開発担当副社長 マイケル・ペリー氏は、この問題について次のように説明します。「従来のロボットによる自動化は、現場の規模や複雑さのため成功しているとはいえません。つまり車輪付きの追跡ロボットには、狭いスペース、階段、不整地では限界があるかもしれません。データを収集するロボットは、コンピューティング機能だけでなく、現場で起こっていることとすべてのオンサイト・データを処理しているものとの間の通信機能でもあるインテリジェンス機能に接続する場合に最も役立ちます。」

長い間、企業は、機械が生成するデータを収集および分析するために、主に2つの方法のいずれかを採用してきました。従来のやり方では、定期的に機械の測定値を記録するために、工場全体に技術者を派遣します。1年に1回しか機械に問題が発生しない場合でも、技術者はその機械からのデータを毎日または毎週記録して、重大な障害になる前に小さな問題を見つける必要があります。また、労働者は、危険な環境や騒がしい環境で、機器を保守および修理する必要があります。

タブレット検査機械を手にしたヘルメットの女性
蒸気のパイプを検査する Spot

もう1つの方法は、各機器にセンサーを設置し、資産管理アプリケーションを使用してそのセンサー・データを収集および分析することです。IBMは、クラウドに保管されているこのセンサー・データを分析するために、IBM® Maximo® Application Suite を提供しました。ただし、製造業者は最初に機器の装備に高いコストをかけ、データを保存するためにさらにコストをかけ、最後にデータを分析するためのソリューションを購入する必要があります。これにより、多くの場合、中小企業には、計器による計測全体が困難なことになります。

IBM Research® の DE Research Cognitive IoT Solutions のディレクター、Nancy Greco は、次のように説明します。「エッジ・ベースのセンサーは、クラウドに送られる大量のデータを生成します。製造業者はクラウドの請求書を見て、データがすべて問題なく、どこにもエラーがないと示していることを確認するために、なぜそんなに多くのお金を費やしているのか疑問に思います。」

3番目の解決策は、機器を定期的に検査し、遠隔測定機器からデータを収集するように設計したロボットを送りこむことです。これが、Boston Dynamics社による、犬のようなロボットSpotの開発というアイデアに繋がります。Spotは、人が行くことができる場所ならどこにでも行くことができ、より頻繁に、より正確にデータを収集することができます。ただし、カメラやその他のセンサーを備えているといっても、Spotはデータを自分で解釈することはできません。データはまだ分析を必要としているわけですから、Spotが異常を検出した場合、問題を解決するために人の力が必要です。

従来のロボットによる自動化は、サイトの規模や複雑さのために成功しているとはいえません。つまり車輪付きの追跡ロボットには、狭いスペース、階段、不整地では限界があるかもしれません。データを収集するロボットは、コンピューティング機能だけでなく、現場で起こっていることとすべてのオンサイト・データを処理するものとの間の通信機能でもあるインテリジェンス機能に接続する場合に最も役立ちます。
Michael Perry 氏
Boston Dynamics 社 事業開発担当 バイス・プレジデント

モバイル・ロボット + AI

IBM と Boston Dynamics 社はこのような質問をすることにしました。工場のデータはエッジで安全に収集され分析されていますか?また、すべての機器を計測するための要件と関連コストを削減しながら、人が手作業でデータを収集したり、工場のフロアで危険な状態にならざるを得ないような状況をなくすことができるでしょうか?答えは「YES」でした。

Boston Dynamics社とIBMは、それぞれの持つテクノロジーを合わせて、SpotのAIベースのソリューションを開発しています。「Boston Dynamics社とIBMは、同じようにデータ収集とデータ・インテリジェンスの問題を解決しようと試みました」とペリー氏は話します。「私たちは、お客様からも同じ質問を聞いていました。「この複雑な工場の現場で何が起こっているのかを実際に正確に把握するにはどうすればよいですか?」

Spotを使用すれば、すべての機器にセンサーを設置する必要がなくなります。現在、Spotは、IBMのAIおよびMaximoのソリューションを導入し、エッジでの分析機能を提供しています。Spotは、IBMのサポートにより、車載カメラとセンサーを通して「見る」ものを解釈できます。分析はロボット上でリアルタイムに行われるため、個別のクラウド・データ・ストレージと分析の必要性が少なくなります。Spotは、IBM AI@Edge ハイブリッドクラウド戦略の拡張です。

機械を検査している Spot
ボイラー室のSpot

「Spotはローミング・エッジ・デバイスとして、ユーザーが必要な場所に分析テクノロジーのペイロードを搭載します」とGreco氏は言います。「狭いスペースにも入っていけますし階段を上ることもできます。そして、それらすべての分析を実現することができます。」

問題を特定するだけでなく、高度にカスタマイズ可能で最適化されたAIモデルを使うことで、Spotが異常を検出し、すぐに修正アクションを開始できるようになっています。ペリー氏によれば、「Spotはサイトを巡回し、問題を特定し、Maximoを使って解決への次のステップを盛り込んだ作業指示書を自動的に生成します。」

IBMは、Boston Dynamics社と協業し、Maximoのもつ機能に加えて、資産管理、AI、および5Gテクノロジーに関する経験と専門知識を最大限に活用し、AI機能を備えたSpotを共同で開発しました。

IBM コンサルティングのコンサルタントは、Boston Dynamics社に実装並びにサポート・サービスを提供しています。また、お客様の特定のニーズに対応するための業界別のコンサルティングも提供します。そして、Red Hat® テクノロジーの活用により、ハイブリッドクラウド環境で分析を費用効果の高い方法で容易に展開できるようになります。

ペリー氏はこの両社の関係を次のように説明しています。「Boston Dynamics社は、ロボット・プラットフォームとしてSpotの機動性と柔軟性を提供し、IBMはSpotが収集しているデータを理解するためにのシステムのインテリジェンスを提供しています。」

ロボット工学とインテリジェンスの組み合わせがイノベーションを推進しています。それはただ単に世界を感知するだけでなく、世界を感知して相互作用する機能でもあります。
Michael Perry 氏
Boston Dynamics社 事業開発担当 バイス・プレジデント

人間が行けないところに進んで行く

2画面のモニターの前に座る女性

あらゆる製造業のお客様にとって、生産ラインを稼働を継続することが収益性への鍵といえます。最も重要なことは、共同で開発したのSpotは、異常を検出する時間を短縮し、致命的な問題になる前に異常を発見するのに役立つということです。また、Spotはあらゆる規模の企業に対しても同じように役立ちます。Spotの提供するローミング計測により、100%の機器計測やクラウド・ストレージのコストを提供できない小規模な施設でも、その恩恵を受けることができます。

「私たちのお客様は、リスクを軽減し、機械がダウンしないようにするための手頃な方法を必要としていました」とGreco氏は話します。「今では、無理なくそれを行うことができ、計測の量を減らし、データの移動と遅延の量を減らし、データのセキュリティーを向上させることができます。」

IBM Maximo分析機能が組み込まれているので、Spotは機器の稼働時間の延長にも役立ちます。異常を特定できるだけでなく、想定できる原因を解明し、救済策を提案することができます。大きな問題の作業指示書を作成したり、小さな問題を再検討したりすることもできます。「SpotはIBMサービスに接続され、多くの洞察を提供できるため、資産を長期間実行し、問題が発生する前に問題を把握し、ダウンタイムを回避して資産を稼働させ続けることができます」とペリー氏は述べています。

Spotは、労働者に取って代わるものではありません。人を安全に保ち、人がより効率的になるのを支援できることを目的としています。ローレンは、漏出の可能性を検査する準備をする代わりに、Spotを送りこんで検査し、必要に応じてメンテナンスをスケジュールすることができます。災害救助犬が救助隊員が行けない場所に行って救助隊員の仕事の効率性を高めるように、アジャイルなモバイル・ロボットSpotは、化学物質や騒音、その他の危険のために今日労働者が入れない危険な環境に進んで行くことができます。

Spotを使用して問題を検出および修復することは、労働者に取って代わるものではありませんが、企業に、労働者のスキルをより有効に活用できる役割に高める機会を提供する可能性があります。グレコ氏は、Spotを「コボット(co-bot)」と呼んでいます。これは、救助犬が救助隊員と協業するのと同じように、人間と協業することから来ています。ローレンのような技術者は、Spotを調教、トレーニングして、工場を歩き回って問題を修正できるようになりました。また、ローレンは、製造業者が充足できなかったより重要なハイテクの仕事に異動できるかもしれません。

「非常に退屈で面倒な作業に時間とエネルギーを費やし、人々の健康を危険にさらすよりも、そうした人々の能力を活用して問題を解決する方がよいでしょう」とペリー氏は話します「これにより、Spotを使って、ありふれた反復的な仕事、危険な環境での仕事から人間を解放し、より価値の高いトレーニングを受けられるようにする機会を提供できます。」

IBMとBoston Dynamics社がAI機能を備えたSpotの開発をさらに進めるにつれ、もちろん両社の期待は高まっていますIBM全体からユースケースを持ち寄って、SpotとIBMアナリティクスを使ったプロジェクトに役立てています。IBMは、5Gなどの分野のエコシステム・パートナーと協業して、最新のテクノロジーをSpotにもたらし、IBMとBoston Dynamics社の顧客に最大の価値を生み出すようにつとめています。

Boston Dynamics社は引き続きSpotの機能を強化し、IBMはより正確なモデルを構築し続けます。IBM Researchは、音響、匂い、組成分析などを含む、新しい分析機能を継続的にもたらし、Boston Dynamics社との関係を強化します。

Spotの場合、「ロボット工学とインテリジェンスの組み合わせがイノベーションを推進しています。それはただ単に世界を感知するだけでなく、世界を感知して相互作用する機能でもあります」とペリー氏は結論付けています。

Boston Dynamics 社のロゴ

Boston Dynamics 社について

Boston Dynamics社外部リンクは、最難関のロボット工学の課題に取り組み、高度なモバイル・ロボットを開発および提供する世界的なリーダーです。同社の主な使命は、社会にプラスの影響を与えるよう設計された高度なロボットの開発と提供をリードすることです。Boston Dynamics社は、MIT Leg Labからスピン・アウトして1992年に設立され、『Inc. Magazine』誌で2020年最高の職場の1つに選ばれています。

ソリューション・コンポーネント
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