IBM Partner Ecosystem
「AI Dig」で実現するコンタクトセンター個人依存からの脱却
2024年11月28日
カテゴリー IBM Partner Ecosystem
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AIを活用したコンタクトセンター向けオペレーター支援サービスとして高い評価を得ている「AI Dig」が、先日、複数のLLM(Large language Models)の迅速な使い分けを可能とする「watsonx.ai」と連携したことを発表しました。
今回のAI Digの進化がもたらすものとこれからの展望について、開発を先導されたお二人にお話を伺いました。
目次
- AIが「二人羽織」で新人オペレーターを強力サポート | AI Dig
- 12カ月かかっていた教育期間を2カ月に。1通話あたりの対応時間を半分に
- 「AI Digがなかったときって、どうしていたんですか? 想像できません」
- 個人依存から脱却し、強いナレッジ組織となるために欠かせないKCS
- 複数LLM使い分けは「当たり前」。それが可能なAIプラットフォームを
● AIが「二人羽織」で新人オペレーターを強力サポート | AI Dig
——まず、AI Digとはどんなものなのか、その強みを教えてください。
佐々: 平たく言うと、「AI技術を活用した応対支援サービス」で、コンタクトセンターに関係するすべての方のお悩みを解消し、しあわせに働いていただくための「働き方改革」ソリューションです。
2018年の最初のリリース以来多くのコンタクトセンターでご好評いただいていましたが、つい先ごろ、生成AIプラットフォーム「watsonx.ai」と連動した最新バージョンを発表しました。
強みについては、開発元であるエス・アンド・アイ株式会社(以下、S&I)の私が説明するよりも、ユーザー第1号企業として共に開発を手がけていただいたパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社(以下、PBD)の松野さんから、「KCS」との関係を含めてお話しいただいた方がいいかと思います。松野さんお願いします。
松野: はい。「KCS(ナレッジ・センター・サービス)」は、ナレッジマネジメントの国際標準フレームワークで、コンタクトセンターをはじめとした「業種業界不問のナレッジマネジメント」の一連の実践プロセスであり、方法論です。
複雑さを増す環境の中で、お客様からのお問い合わせやお困りごとの解決策を導き出すことの困難さは増していますが、サポートチームが自分たちの「ナレッジを捉え、構造化し、再利用し、改善する」という一連の動きをスマートに行うことで、より早くより的確に、お客様の問題を解決していけるのがKCSの特長です。
私たちはKCSをより円滑、かつ最適な形で活用する方法を9年以上にわたり追い続けてきているのですが、約5年前にようやく辿り会えたのがAI Digでした。
参考 | KCSとは?KCS運用でコールセンターがどう変わるのかを徹底解説! |パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社
松野: コンタクトセンターの新人オペレーターにとって一番の恐怖ってなんだと思いますか?
「お客様との会話が途切れて、何をどうすればいいかわからなくなってしまうこと」なんです。お客様のお困りごとが何で、それを解決するために聞くべきことは何か…。お客様の発話内容が理解できなくて頭が真っ白になってしまい、ある種のパニック状態になってしまうんですね。
でも、AI Digは、お客様との対話内容をリアルタイムでテキスト化してくれるので、「自分が何を分かっていないのか」にオペレーターが気付くことができます。また、キーワードや知らない単語についての説明も簡単に画面表示させられます。そして解決策に辿り着くための次の質問や、あるいはそのためのきっかけを、オペレーターに提供してくれます。
以前は、「二人羽織」と呼ばれる、ベテランスタッフが新人オペレーターさんの横について耳打ちしてあげる方法で支援していましたが、現在は、人とプロセス、そしてAI Digを用いたテクノロジーとデータで新人さんの成長を支援しています。
AI Digは、お客様からの問い合わせ内容をリアルタイムでテキスト化。新人オペレーターも安心。
AI Digは、テキスト化された通話内容を基に、質問に対する回答候補をAIが洞察して提示してくれる。
AI Digは、ナレッジマネジメントの国際標準フレームワーク「KCS」と相性抜群の最適なパートナー。
● 12カ月かかっていた教育期間を2カ月に。1通話あたりの対応時間を半分に
——AI Digがもたらす効果について教えてください。
松野: まず顕著なのは、新人オペレーターの教育期間の大幅削減です。
これまで1人前のオペレーターとなるまで平均で約12カ月かかっていましたが、それが2カ月なりました。あまりにも大きな変化に、私たちも最初は「特別に優秀な新人だからではないか?」と思ったのですが、数10名の新人オペレーターほぼ全員が、軒並みわずか2カ月で一人前に成長したんです。
さらに、1通話あたりの対応時間も約半分になりました。これも大きな驚きです。
佐々: これは私たちがPBDさんとディスカッションを重ね、AI Digを開発し成長させていく過程で分かったことですが、オペレーターの業務で最重要なのは「回答を見つけること」じゃないんです。
それより大切なのは、オペレーター自身が、お客様に何が起こっているのかを的確に理解すること。回答を見つけるのは「その後」なんですよね。
松野: このプロセスは、お医者様の「診療」という一連の動作に似ているところがあるんです。
病状・病因を判断する「診断」には、聴き取りや視診、打診などで病状・病因を探る「診察」が肝心ですよね。そして診断ができれば、自ずと治療方法はそれに応じて決まっていきます。
——成長スピードが6倍。対応時間が半減。革新的ですね。
松野: それだけではなく、コンタクトセンター業界では「手あげ」と呼ばれる、スーパーバイザーに支援を要請する内部エスカレーションも激減しました。
また、残っている支援要請も、その内容と質が大きく変化しました。以前のような「どうすればいいかわからないから教えてほしい、助けてほしい」というものではなく、「こういう提案を差し上げてよろしいですか?」という、新たな対応案の提言への意見や許可を求めるものへと変わったんです。
以前は「高品質のナレッジを持っているのは数名のスーパーバイザーのみ」とオペレーターたちが思い込んでしまっていたので、そこに質問が集中してしまいボトルネックになってしまっていました。
でも今は、AI DigとKCS運用により、誰でも同じようにすぐにその「ナレッジ」に辿り着けるし、簡単に活用できるようになりました。つまり、本当の意味での「使えるナレッジ」になった、ということですね。
佐々: オペレーターが「診察」を通じて、「お客様の状況はこうではないのか。こんなこともあるかも…これはどうだろう?」と、自分で判断と対応の可能性をどんどん導き出していく。これはオペレーターの成長そのものですよね。
そしてこのやりとりと推測のプロセスそのものがナレッジとなり、システムに加えられていくことで、次のオペレーターがそれを活用でき、悩まずに済むようになっていく。
AI DigとKCSの相乗効果により、こうしたサイクルが次々と生まれているそうです。
AI Digにより、オペレーターが1人前になるまでの成長スピードが6倍に。対応時間が半減。
AI Digの特長は「ただ回答を見つけること」ではなく、お客様の状況と問題をすばやく明確にした上で回答を提案できること。
AI DigとKCSの相乗効果により、誰もが使える高品質のナレッジが次々生まれる。
● 「AI Digがなかったときって、どうしていたんですか? 想像できません」
——運営側や発注側の大きなメリットはわかりました。オペレーターの方たちの評判はいかがですか?
佐々: 先日、とあるコンタクトセンターで、オペレーターの方たちにヒアリングをさせていただいたんです。
その際に、入社数カ月の新人オペレーターの方に質問してみたのですが、「『もしもAI Digがなくなったら』 ですか? 私はここにはいません。他のオペレーターもみんなそうだと思いますよ」と言っていただけて。
松野: 私もしょっちゅう「AI Digがなかったときって、皆さんはどうやって仕事していたんですか? 想像できません」ってセンターで聞いていますよ。採用面接でも「こういう仕組みで皆さんを支えていきます」とお伝えすると「すてき!」と喜んでもらえます。
実際、離職率もAI Dig導入後に大きく下がっています。もちろん、生活の変化に伴いお辞めになる方たちはいますが、それでも彼らの生みだしたナレッジがすべてAI Digに踏襲されているので、次に入ってくるオペレーターたちがすぐに追いつけるんです。
佐々: 「ナレッジを活用することでオペレーターが安心して応対業務ができるシステム」という、AI Digの開発コンセプトと正に合致して、ちょっと感動しました。
● 個人依存から脱却し、強いナレッジ組織となるために欠かせないKCS
松野: オペレーターの業務支援としてもう一つ重要なのが通話後の応対記録です。ここでもAI Digの通話をテキスト要約する「下書き機能」が大活躍しています。
要約作成は個々のオペレーターの「作文能力」に依存する部分が大きく、個人差が出やすいんです。でも、AIが作った高精度の下書きを修正するだけなら、個人依存度を大きく削減して一定レベルに均一化できるんです。
佐々: KCSの重要ルールである「たとえ『自分が答えを知っている』と思うことであっても、必ずシステム上で検索しなければならない」ということとも強いつながりがありますね。
松野: そうです。「答えを知っているのに検索するのは無駄では?」と思われる方もいると思うのですが、そこには3つの大きな理由があります。
一つは「自分の持っているナレッジ」が、最新のものと適合しているかを確認すること。すでに新しいナレッジに置き換わっているかもしれませんから。
次に、そのナレッジが「組織のもの」となり、誰もがアクセスできる開かれた状態になっているかを確認するということです。
そして最後に、問い合わせがあり検索されたという事実を記録するためです。何がどんなキーワードで検索されたかというデータが、ナレッジの有用度を高めていきます。
3つのどれも、個人依存から脱却し強いナレッジ組織となるためには欠かせません。
「安心して応対業務ができる」AI Digの高い業務支援効果から、離職率も激減。
個々のオペレーターの「作文能力」に依存しないAI Digの「要約下書き機能」が、個人依存度を大きく削減。
「必ず検索する」というKCSの重要ルールが、強いナレッジ組織をつくる。
● 複数LLM使い分けは「当たり前」。それが可能なAIプラットフォームを
——先日、複数LLM(Large language Models)の迅速な使い分けを可能とする、AIプラットフォーム「IBM watsonx.ai」との連携が発表されました。この経緯についてお聞かせください。
佐々: さまざまな企業が、3カ月単位で特色のある新たな生成AIモデルを、次々発表しています。各モデルには強い「癖」があり、AIのハルシネーション(事実かのように幻覚すること)抑制、「プロンプト・チューニング」をはじめとした精度向上、そしてテスト環境の構築など、本当に良いサービスを作ろうとすれば、LLMの選定に多くの時間と労力がかかります。
昨年の段階で、AI DigはOpenAI社のChatGPTや、OpenAI社とMicrosoft社が共同開発した「Azure OpenAI Service」による「テキスト生成機能」に対応していました。
しかし今後、新たな有力生成AIモデルが登場するたびに、より良いサービスをお求めのお客様に、毎回多くの時間と労力、そして費用を費やしていただくのは心苦しいと思っていました。
そんな時に、IBM watsonx.aiという生成AI環境を容易に構築でき、さまざまなビジネス・ユースケースに合わせた生成AI活用の検証・実装をスピーディーに行えるプラットフォームが登場したと聞き、すぐに検証をはじめました。
参考 | 「もっともらしい嘘」を見破れ!生成AIのハルシネーション抑制したナレッジ検索で問題解決をサポート | エス・アンド・アイ
松野: ぶっちゃけ、私たちは1番良い生成AIシステムを使用したいだけで、LLMはなんでもいいんです。
生成AIを活用しようと考えているすべてのコンタクトセンターのユーザー企業と管理者が、「LLMの変更に伴い管理的な別ワークロードが発生するのは避けたい」と思っていると思いますし、「特定のLLMに依存せざる得なくなってしまうことも避けたい」と思っているでしょう。
ですから、佐々さんから「IBM watsonx.aiを用いれば、複数LLMを臨機応変に使い分けられる」と聞き、喜んで開発テストに参加させていただきました。
佐々: 今後LLM間の競争はより激しくなるでしょうし、「リアルタイムテキスト化」「回答候補提示」「要約生成」といった適用業務に合わせて「1番良いもの」を選び実装したいという、コンタクトセンター運営側の希望が変わることもないでしょうから。
「欲しいのは望ましい結果と良いシステム」というお客様にとって、生成AIを最もすばやく幅広く活用できるのがIBM watsonx.aiだと思います。
松野: 私たちの要望を的確に汲んでいただいたS&I様には大変感謝しています。
佐々: こちらこそ、今回のAI DigのIBM watsonx.aiとの連携がスムーズに進んだのはコンタクトセンター業務にしっかりデータを生かすための視点も経験も思想もお持ちのPBD様の存在があってこそでした。ありがとうございました。
自分で言うのもなんですが、PBD様とS&Iという組み合わせに、IBM watsonx.aiが加わるというのは、これ以上ない理想的な組み合わせなんじゃないでしょうか? …言い過ぎかな? いや、そんなことないですね。
watsonx.aiとの連携に多くのご支援をいただいたIBMのAIテクニカル・スペシャリストの関根賢一さんにも改めて感謝をお伝えします。そして今後、さらに良いものにしていくために、カスタマー・サクセス・マネージャーの加藤典子さんにも一緒にたくさん汗をかいてもらえるのだろうと期待しています。一緒に頑張りましょう!
複数LLMを業務に合わせて使い分けるのは今後の「当たり前」。それが可能なAIプラットフォームを選ぶべし。
「特定のLLMに依存したくない」「LLMの変更に費用やワークロードをかけたくない」なら、IBM watsonx.ai。
コンタクトセンター業務とKCSのプロフェッショナルPBDと、AIテクノロジー実装のプロフェッショナルS&Iのコンビは理想的。
製品・ソリューション情報
■ AI Digとは | https://sandi.jp/sandiai/solution/aidig
AIによる音声認識、洞察、生成技術を組み合わせて、コンタクトセンターの業務フローをサポートする応対支援サービスです。 今回のIBM watsonxとの連携により、IBM製の高性能AIモデル「Granite(グラナイト)」に加え、30種類以上の特色ある他社製AIモデルも迅速に利用できるようになりました。
■ IBM watsonxとは | https://www.ibm.com/jp-ja/watsonx
IBM watsonxは、IBMが提供する「ビジネスのためのAIとデータのプラットフォーム」です。より業務に適したサービス提供を実現するために、オープンソースなどを含むさまざまなAIモデルを一元管理できる統合AIプラットフォーム「watsonx.ai」を中心に、自社固有のデータを一元管理・活用するための「watsonx.data」、信頼できるAIの構築を支援する「watsonx.governance」から構成されています。
■ KCSとは | https://www.hdi-japan.com/hdi/article/Explanation_kcs.asp
KCS(ナレッジ・センター・サービス)は、ナレッジマネジメントの国際標準フレームワークで、組織の重要な資産としてのナレッジ(知識・ノウハウ)に重点を置いた、サポートに特化したナレッジマネジメント・プロセスであり方法論です。
企業情報
■ エス・アンド・アイ株式会社 | https://sandi.jp/
1987年設立。インフラ構築からAIまで幅広い分野に事業展開し、提案から要件定義、設計/構築/開発、運用/保守まで、幅広いフェーズに携わるシステム・インテグレーター。本社: 東京都港区。
■ パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社 | https://www.persol-bd.co.jp/
2024年10月より新社名にて新たにスタート。人・プロセスデザイン・テクノロジー・データの力で人と組織の生産性を高め、「より良いはたらく環境」があふれる社会をつくることを使命とし、BPOやコンタクトセンターの運営を行う。本社: 東京都港区。
TEXT 八木橋パチ
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