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「AI脳」でどう意思決定を下すべきか? AI革命時代の経営戦略

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取材・文:ジェイ・コウガミ

 

IBM Watson Summit 2017 Day 1 ゼネラル・セッション・レポート(後編)

 
4月27日から28日まで開催された「IBM Watson Summit 2017」では、昨今ますます注目が集まるAIのビジネス事例が多数紹介された。

初日のゼネラル・セッションでは「WatsonとIBMクラウドで経営変革に挑む」をテーマに、日本でいち早くWatsonを導入し、AI革命を積極的に展開するソフトバンク、JR東日本、三井住友銀行のリーダーたちが、Watson活用がもたらしたインパクトを語った。この記事では企業関係者が詰めかけて盛況だったゼネラル・セッションのレポートの後編をお届けしよう。(前編はこちら

 

鉄道の革命「Mobility As A Service」を支えるWatson

東日本旅客鉄道株式会社 取締役副会長 小縣 方樹 氏

 
JR東日本の小縣方樹(おがた・まさき)副会長は、毎日1710万人の利用者を抱えるJR東日本が見据えるデジタル革命について講演した。鉄道事業に起きている革命を「Mobility As A Service」と説明する小縣氏は、自動運転やカーシェアリングのトレンドを例にあげ、鉄道業界も起業家思考、お客様思考を持ちイノベーションを起こす姿勢を見せなければならないと語る。そして、JR東日本ではAIやIoTを現場に導入し、サービスの向上さらには移動時間の短縮を目指す変革を社内で推進しているという。

小縣氏いわく、電子マネーの電車やコンビニでの利用に代表されるように、JR東日本ではインフラとしてのモビリティー・サービスの提供やインテリジェントな次世代新幹線の開発など、デジタル化の流れが急速に進んでいる。この流れを推進するのがWatsonだ。JR東日本のコールセンターでは、オペレーターのサポートにWatsonを活用しており、問い合わせに対してリアルタイムで最適な情報を提供するなどして、応答率の向上と対応時間の短縮が進んだという。

 

WatsonとBluemixが経営からセキュリティーまでの課題を解消――三井住友銀行

株式会社三井住友銀行 取締役専務執行役員 谷崎 勝教 氏

 
三井住友銀行の谷崎勝教専務は、AIとクラウドによっていかに経営戦略を変革するかについて講演。マイナス金利の導入や国際金融規制の強化など法規制、テクノロジーの急速な進展と情報量の増加で複雑化する未来予測などの要因から、厳しい収益環境に直面している金融業界の重要な経営課題は成長戦略とコスト削減だと語る。顧客のニーズに対応しながらどう成長し、無駄な業務を削減してコストをコントロールするかという問題にWatsonを活用したのだ。

2017年2月にコールセンター全席でWatsonを導入した三井住友銀行。1件あたりの取引照会のコストを削減できただけでなく、コールセンターに新規採用者が定着しないという悩みに対しても、Watsonが適切な答えをオペレーターに提案してくれることで離職率が約50%も改善するなど、具体的な成果が出た。

特に欧米からの与信業務や個人向けの事務手続き業務の照会で高い効果が得られた。時差による対応の遅れが課題だったが、Watsonによって自動で回答を得られるようになったことで、行員の生産性向上や迅速な顧客対応に寄与したという。

さらに、三井住友銀行では近年多発するサイバー犯罪の検知システムにWatson for Cyber Securityを活用している。Watsonに世界中のセキュリティー情報に関するデータを学習させ、不審なアクセスを監視するシステムを構築、脅威や攻撃の手口をセキュリティー技術者に判断材料を提案するなどして、関連性が高い最新情報を基に的確な対処法を洗い出せるようになったという。

加えて、三井住友銀行はWatsonに加えてBluemix Infrastructureも活用し、デリバティブの複雑な信用リスクを計測するシミュレーションシステムを構築した。1日に数百万規模の膨大な計算を行うデリバティブ取引においては、大量のサーバー処理や、将来のデータ計算におけるリソース不足が課題だ。Bluemix Infrastructureのクラウド上に同行の専有環境を構築し、計算量に応じてサーバー数を増減させる構成によって、システムにかかるTCO(Total Cost of Ownership, 総所有コスト)をオンプレミス環境比で約30%削減できた。

 

究極のゴールは「AI脳」を提供すること

IBMコーポレーション シニア・バイス・プレジデント ハイブリッド・クラウド 兼 IBMリサーチ ディレクター アーヴィン・クリシュナ (Arvind Krishna)

 
来日したIBMのアーヴィン・クリシュナ シニア・バイス・プレジデント(ハイブリッドクラウド 兼 IBMリサーチディレクター)は経営者が「AIでどんな意思決定を下すべきか」と話す。そのために、IBMがWatsonで目指す究極のゴールは、ビジネス向けに「AI脳」を提供することだいう。

過去の産業革命やICT革命における成功を例に「データとクラウドで構築したAIは、今後50~70年間経済成長をもたらす産業の中心となり、そしてこの波に一早く乗った企業は、勝ち組となり続けるだろう」と、これからのAIビジネス時代を予測した。AIにはデータが必要であり、データを蓄積するためにはクラウドが求められる。そのためIBMのクラウドサービスはデータ中心に構築しており、AI時代に最適化しているわけだ。

ヘルスケアでの例として、ヨーロッパでのある調査結果が挙げられた。50%以上の患者が処方された薬を飲むことを止めたにもかかわらず、医者の診察では飲んだと答えていたという。その結果、投薬量が増え続けたり違う薬を処方されるという。

このような状況をWatsonはどう改善するのか。医療向けに最適化したWatsonは、患者の医療データや診断記録、さらには医療関連の記事や文献を学習。同時に、パーソナル化した治療プログラムを患者ごとに医師が提案できるよう判断材料を提供することができる。クリシュナ氏は、AIが決して医師の役割を置き換える存在ではなく「拡張させる」役割を担うと強調した。

最後にクリシュナ氏は、インターネットの誕生以降最も根本的に新しい技術として「ブロックチェーン」を挙げた。その理由は、インターネットが情報の流通を変革し民主化したように、ブロックチェーンは取引のあり方を変革するからだという。

クリシュナ氏は、物流業界はブロックチェーンを活用することで、世界中で3000億ドル以上の効率化を実現できるという。その市場は4兆ドル規模というから、ブロックチェーンの導入で約10%も効率性にインパクトを与える計算だ。

ある海運企業では、書類手続きにかかるコストは、貨物の移動コストの約10%を占める大きな負担となっているという。これらの企業がブロックチェーンを使うことで、余計なコストを大幅に減らすことが可能なのだ。――AIビジネス時代を代表する、革新的な技術にどう向き合い経営判断するべきか、その可能性を示して、講演を締めくくった。

 

IBM Watson Summit 2017 開催概要

  • 名 称:IBM Watson Summit 2017
  • 日 時:2017年4月27日(木)・28日(金)
  • 会 場:グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール(東京 品川)
  • 主 催:日本アイ・ビー・エム株式会社
  • 参加費:50,000円(税込)

2017年11月1日、BluemixはIBM Cloudにブランドを変更しました。詳細はこちら