T
THINK Business

報道とAIを融合する経営者の推薦図書『楽観主義者の未来予測』

post_thumb

取材・文:仲里 淳

人口爆発、エネルギー、経済格差、環境破壊など私たち人類の進む先には多くの課題が立ちふさがっている。解決するのが一見困難なそれらの問題も、テクノロジーの発展によって解決されうるとするのが、書籍『楽観主義者の未来予測』(ピーター・H・ディアマンディス、スティーヴン・コトラー著、熊谷玲美訳、早川書房)の主張だ。本書の推薦者である株式会社JX通信社 代表取締役の米重克洋氏に、本書を薦める理由を聞いた。

米重克洋

米重克洋
株式会社JX通信社 代表取締役 / 報道研究者


1988年、山口県生まれ。高校在学中だった2004年から4年間、航空専門ニュースサイトを運営し、ピーク時には月間30万PVを記録。こうした経験から、オンラインニュースメディアのマネタイズの課題に関心を持つ。ニュースコンテンツをメディア同士で取引する「仮想通信社」事業を構想し、大学在学中の2008年に㈱JX通信社を設立。AIを活用した自社のニュースアプリ「FASTALERT」は在京キー局すべてに採用されるなど、今もっとも注目を集めるAI関連事業の経営者の1人。

 

未来予測がテクノロジー主導のビジネスに知見を与える

『楽観主義者の未来予測 テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする(原題:ABUNDANCE)』には、さまざまな分野の社会問題とそれを解決するテクノロジーの考察や事例が数多く収められている。
原書の発刊は2012年なので、現在のAIブームが本格的に到来する以前に書かれたものである。そのためAIに関する具体的な記述は、シンギュラリティを扱った第6章で自動運転車の例が示されている程度だ。
しかし、本書にはテクノロジーがもたらすイノベーションやブレークスルーを見通すためのヒントが詰まっていると米重氏は語る。

米重さんの写真

JX通信社 代表取締役の米重克洋氏

「本書の内容はまさにタイトル通りで、テクノロジーがいかに人々の生活を向上させていくかを、楽観的な視点でシミュレーションしています。技術的な展望や当社が取り組んでいる事業をどう進歩させていくべきか、そのヒントが得られたという意味で貴重な一冊になりました」(米重氏)

 

有限な資源の入手可能量をテクノロジーが拡張していく

未来予測のためには、テクノロジーがどのように世界を豊かにしたかを理解する必要がある。そこで、本書では資源の有限性に着目している。

例えば、アルミニウムは地球の地殻中では酸素とケイ素に次いで存在量の多い元素だ。しかし、その生成の難しさからアルミニウムは非常に希少であり、時には金よりも貴重な物質だったという。
この状況を一変させたのが、電気分解法というテクノロジーだ。アルミニウムが含まれる鉱物に電圧をかけ、効率的な生成を可能にした電気分解法により、アルミニウムの生産量は飛躍的に増大した。テクノロジーが入手可能な資源量を拡張したのである。

同じことは「時間」についてもいえる。時間も有限な存在であり、その使い方が生活の質を大きく左右するが、人類は技術革新とともに「必要最低限の作業」に費やされる時間を節約することで、相対的に時間を増やしてきた。

本書では今後もテクノロジーは発展していくはずであり、未来に対して悲観的になり過ぎる必要はないと説かれている。

有限な資源の入手可能量をテクノロジーが拡張していく

 

SNS上の報道価値の高い話題をAIが自動で選別するサービス

テクノロジーが有限資源の問題を解決するという構図は、JX通信社が取り組む報道の機械化・自動化にも通じると米重氏は説明する。

「当社で開発・提供している『FASTALERT』は、一般ユーザーがSNSに投稿した情報から、AIが報道価値の高いニュースを選別して、主に報道機関などに届けるというサービスです。個人にとってのニュースや事件の情報自体は、以前から日常的に存在していたものの、それらを配信したり入手したりするための手段がありませんでした。しかし、SNSやスマートフォンが登場・普及し、さらにAIの力を組み合わせたことで、このようなサービスを実現できました」(米重氏)

JX通信社が「FASTALERT」をリリースしたのは2016年9月。それからわずか半年後には在京のすべてのテレビ局が導入を決定したという。現在では全国のテレビ局の8割以上に利用されるなど、高い評価を受けているこのサービスは、ほんの5〜6年前には実現不可能だった。

「FASTALERT」の画面スクショ

リスク情報・ニュース速報検知サービス「FASTALERT」の画面

サービスの実現を可能にしたのは、複数の環境変化やテクノロジーの発展だ。

この10年間で急速に普及が進んだスマートフォンや、2011年の東日本大震災をきっかけに有用性が認知されたソーシャルメディア。さらに、インターネット上の膨大なデータの分析を可能にするディープラーニング技術の発展と、それを後押しするハードウエアの性能向上。これらがタイミング良く起こり組み合わされたことで、サービスが実現した。

「以前は入手することが不可能だったものが、テクノロジーによって入手可能になる。このことは、まさに私がFASTALERTの開発を通して体験してきたことでもあったので、書籍の内容がすごく腑に落ちました。私自身は経営者ということもあり、完全な楽観主義者とはいえません。それでも、テクノロジーの発達と組み合わせが世の中を便利にしてきたことは事実です。それを念頭に置きながら、自分の考え方や行動を変えていけるかが重要ではないでしょうか」(米重氏)

 

未来は現状の変化を認識することで予測できる

米重氏は、本書から得た知見や心得として、テクノロジーの指数関数的な変化や成長に気づくことの重要性、さらにそれらが単一のテクノロジーだけでなく複数の組み合わせによって起こるとする点を挙げる。

「新しいテクノロジーが初めて紹介されると、それに過度な期待を抱くが、そのテクノロジーがハイプ(訳注:大げさな宣伝や評判)に沿わない場合には、一時的に失望する。しかしここが重要な部分だ。指数関数的に成長するテクノロジーには、ハイプのあとで変革を起こす強大な力があることを、私たちはつねに見落としている」

出典:『楽観主義者の未来予測』上巻 第3章 P70(ピーター・H・ディアマンディス、スティーヴン・コトラー 著/熊谷玲美 訳/早川書房/2014年刊)

「この文章は、人間は(脳の特性から)指数関数的な変化を予測しにくいけれど、新しいテクノロジーがもたらす効果への評価を誤らないようにということです。AIは数十年前からハイプがあり、広く実用化されているのが今日ということを考えると、この部分は示唆的です」(米重氏)

「世界全体の生活水準を向上させるために、指数関数的に成長するテクノロジーを戦略的に取り入れようとするなら、どの分野が指数関数的に加速しているかを知るだけでは十分でなく、互いに重なる部分があって、連携の可能性がある分野はどこかということも知っておかなければならない」

出典:『楽観主義者の未来予測』上巻 第5章 P104(ピーター・H・ディアマンディス、スティーヴン・コトラー 著/熊谷玲美 訳/早川書房/2014年刊)

「シンギュラリティがS字カーブの連続、指数関数的な加速の組み合わせで生まれるということが1つのセンテンスで表現されています。加速する複数のテクノロジーを組み合わせて爆発的な進化をもたらすという考え方は、身近なオープンソースのコミュニティなどでも活かされていることで、私自身も意識しています」(米重氏)

ここ数年のAIに対する期待は、過剰ともバブルとも言われるほど高い。しかし、本書を読んだ後で注意深く振り返ってみると、決して机上の空論ではないことがわかる。過去から続く研究・開発の蓄積と、一気に発展したテクノロジーや環境変化が合わさった結果として、AIを取り巻く今の状況があると理解できるはずだ。

推薦図書の書影

JX通信社米重代表の推薦書籍「楽観主義者の未来予測 テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする」上下巻(写真提供:早川書房)

photo:Getty Images