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突然、競合として現れるデジタル企業からの脅威に備えよ

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※このコンテンツは2015年11月に日本経済新聞 電子版の広告特集「グローバル経営層スタディ、世界をリードする経営者たちの声」に掲載した内容の抜粋で、取材対象者の役職はインタビューを行った時点のものです。
 

米国発のウーバー、エアビーアンドビーといった新興企業はデジタル・テクノロジーを活用したビジネスモデルであっという間にそれまでの業界ルールを変えてしまった。一方、グーグルやアマゾンのようなデジタル世界の巨人は急速に多角化を進めている。こうしたデジタル企業による既存業界の創造的破壊にどう対処するかは、日本の経営者にとっても重大なテーマになっている。ブロックチェーン、IoT、コグニティブ・コンピューティングなどの、破壊的テクノロジーによるイノベーションにどう取り組むべきか、日本IBMの戦略コンサルティングをリードする池田和明氏にその要点を聞いた。

 

見えないところから突然、競合として現れるデジタル企業

日本アイ・ビー・エム 執行役員 戦略コンサルティングリーダー 池田 和明 氏

       日本アイ・ビー・エム 執行役員 戦略コンサルティングリーダー 池田 和明 氏

── 「IBMグローバル経営層スタディ」の2015年版が公表されました。今回のテーマは何でしょうか。

日本アイ・ビー・エム 池田和明氏(以下、池田氏):
「IBMグローバル経営層スタディ」は2年に1度、世界的な企業の経営者にインタビュー調査を実施しその結果をまとめるもので、2015年版は「Redefining Boundaries 境界線の再定義 ──テクノロジーで切り拓く新たな地平──」と題し、15年11月4日に発表しました。今回は世界70カ国以上の5,247人(日本では576人)の経営者の方々にインタビューを実施しました。

── テクノロジーによって競合関係が大きく変わっていくということについて、詳しく教えてください。

池田氏:
2015年版のレポートは下記コメントの引用から始まっています。
 
「破壊的テクノロジーが、事業のファンダメンタルを変える可能性がある。
 それがオープンな形で普及すれば予測できない影響がでる。」
             ── ソニー 平井一夫 社長兼CEO

 
破壊的テクノロジーは英語でdisruptive technology。破壊的というとネガティブな意味にとられがちですが、経営戦略の文脈ではdisruptive innovationとして、イノベーションと一体として語られるもので、「創造的かつ破壊的」という意味合いです。破壊的テクノロジーがオープンな形で普及すると予測できない影響を受けると、ソニーの平井一夫氏が話されています。

例えば、ウーバー(Uber)は車両などの運送設備を持たずに、デジタル・テクノロジーを活用したサービスで、運輸業界を変革しつつあります。米国では最近、「ウーバライズ(uberize)」という動詞が登場し、“新興のデジタル企業が既存の業界を大きく変える”という意味で使われるほど、この事象への関心が広がっています。このように、既存の業界ルールを覆すビジネスモデルを展開するウーバーやエアビーアンドビー(Airbnb)も、最近までは小さいスタートアップ企業であり、広く認知されていたわけではありませんでした。しかしそのような企業が突然、自社の足にかみ付いてくるのです。さらに、グーグルやアマゾンのようなデジタル世界の巨大企業が様々な産業分野に進出し、プラットフォームを築こうとしています。気がつくと、自社の業界に入ってきて強い影響力を持っているのです。

テクノロジーは様々な業界の垣根を取り払いつつあります。将来の競合は今まで知っていた業界内の企業ではなく、突然現れるまったく異なるビジネスモデルで参入してくる企業です。それによって競争の境界線が曖昧になりつつあると、多くの経営者が認識しています。既存の大手企業にとっては、テクノロジーを使っていかに自分の業界や自分の会社を再定義していくかが大きなテーマになっています。

 

既存の大手企業とデジタル企業がせめぎ合い、境界線があいまいに

── 未知の競合が突然現れるということを、経営者はそこまで明確に意識しているのでしょうか。

池田氏:
今回調査の結果は明確にこの傾向を裏付けています。今後、3~5年の時間軸で考えたとき、業界内または他業界のどちらからの競合の台頭を意識するか、という質問で2015年と13年との差を明らかにしています。

今後3-5年後の展望

エアビーアンドビーは当初バックパッカーのような層をターゲットとしていたのですが、現在では高級ホテルが競合と認識しています。経営者は、まったく知らないうちに新しいアプローチで自社のビジネス領域に参入してくるデジタル企業があることを実感しており、そうした脅威にいかにして備えるのかを考えています。

そして、「今後3~5年で最も自社に影響をおよぼすトレンドは何か」と質問したところ、すべてのCxOにとって「業界の統合・融合」がトップにきていることからもよくわかります。

今後3-5年後で最も自社に影響をおよぼすトレンドは?

人の活動状況や血圧・脈拍などを感知し分析して、健康増進に向けたアドバイスをするという製品・サービスが登場しています。これはエレクトロニクス業界、IT業界、そしてヘルスケア業界を融合させています。同様に、産業機械に取り付けられたセンサーが、自身の動作状況や・周辺環境を感知し、それを分析して機械を最適に制御するという製品・サービスは、機械業界、IT業界、保守サービス業界を融合させています。

── デジタル企業の参入を脅威と考えているのは、どういう立場の方々なのでしょうか。

池田氏:
経営層全般にテクノロジーに対する意識が大きく変化しています。「自社に最も影響を及ぼす外部要因」について、経営者に2004年から同じ質問をしています。その結果、CEOの回答をみると2012年に「テクノロジー」がトップになり、その後も継続しています。

今後3-5年後で自社に大きな影響を及ぼす外部要因

2013年までは、CxO全体でみると、「テクノロジー」はトップではなかったのですが、今回初めてトップになりました。

今後3-5年後で自社に大きな影響を及ぼす外部要因

もはやすべての経営層に、テクノロジーが及ぼす影響は大きく、かつ避けがたいものであるという認識が共有されているといえます。

また、テクノロジーによって実現したい目的について聞いています。テクノロジーを顧客接点の強化に活用したいという要望が81%と多く、加えて個々の顧客(個客)へのアプローチの強化に関心を寄せています。経営層は個客をより良く理解し、個客に合わせたアプローチをとるために積極的にテクノロジーを使っていきたいと考えています。

今後3-5年後の展望

 

新たな戦い方を学び、イノベーションを起こす

── デジタル企業と戦うためにはイノベーションが必要で、多くの企業にとって重要な課題になっていると思います。世界の経営者はどのように考えているのでしょうか。

池田氏:
2015年になって顕著になったのは、外部を活用したイノベーションを模索している経営者が増えたことです。

今後3-5年後の展望

そして、「ビジネスパートナーのネットワークを拡大する」という質問にイエスと答えた経営者は全体で70%、注目されるのは日本の経営者で81%にも上ったことです。

「ビジネスパートナーのネットワークを拡大する」と答えた割合

これだけの経営層がイノベーションを起こすために外部の力を活用したいと考え、ビジネスパートナーのネットワークを広げていこうとしています。

しかし問題点があります。それが「意思決定のスピードの遅さ」です。デジタル企業の意思決定が速いのはよくいわれることです。既存の大手企業においても、意思決定権限の分散化や現場への委譲が強く意識されてきています。

リクルートホールディングスのCHROである池内省五氏が「もっと現場に権限を委譲し、スピードを高めたい」と発言しています。リクルートは権限委譲が進んでいる企業として有名ですが、それでもまだスピードが足りないという認識を持っているのです。

今後3-5年後の展望

 

「さきがけ企業」から示唆を得る

池田氏:
ここで、「さきがけ企業」と「マーケットフォロワー」の2つのグループの比較分析をしてみます。

1つ目のさきがけ企業とは業界でリーディング・イノベーターと認知されている企業であり、かつ過去3年間の売上成長性と収益性の両方が業界平均を上回っている企業群です。全体の5%が相当しています。もう一方は業界でマーケットフォロワーと認知されている企業です。

この2つのタイプの企業を比較することで、さきがけ企業の特性の解明に取り組みました。

さきがけ企業:イノベーションをリードし優れた財務実績を誇る企業群

── 「さきがけ企業」と「マーケットフォロワー」を分けて比較した場合、デジタル企業の参入と業界の再定義への対応に、大きな違いが見られるのでしょうか。

池田氏:
他業界からの参入に関する意識、新事業への取り組み、意思決定権限の分散化の3項目のすべてについて、「さきがけ企業」がより積極的に取り組んでいることがわかります。

今後3-5年後の展望

── 経営者がテクノロジーの重要性をはっきりと意識していることがわかりましたが、具体的にはどのような分野のテクノロジーに関心が高いのでしょうか。

池田氏:
クラウド、モバイル、モノのインターネット(IoT)と3つが上げられており、これらは当然の結果と言えます。

注目されるのは、その次にコグニティブ・コンピューティング、先進的製造技術(3Dプリンティングなど)、新エネルギー・ソリューションが続いていることです。

今後3-5年で重要となるテクノロジー

さきがけ企業の特長は、クラウド、モバイル、IoTはもちろんのこと、今後3~5年で重要となるテクノロジーとして、コグニティブ・コンピューティング、先進的製造技術、新エネルギーにより関心を持ち、既に取り組んでいることです。

特に注目されるのは、さきがけ企業の50%近くがコグニティブ・コンピューティングに強い関心を持っていることです。私たちが日頃お客さまと接している中でも、特にCEOからの関心がとても高まっています。

今後3-5年で重要となるテクノロジー

 

新たなビジネスモデルを展開する

池田氏:
そして、ほとんどと言ってよい80%の経営者が現在、新しいビジネスモデルを試行中、または試行することを検討していると答えています。

新しいビジネスモデルの内容についても調査しています。オープン(エコシステム)、プラットフォームという2つに注力されています。オープンは他社とアライアンスやパートナーシップを組んで新たなモデルを構築することであり、プラットフォームとは多数のユーザーと多数のサービス提供者が集い、情報交換、取引を行う「場」をつくり、その場を取り仕切るモデルです。

試行中または試行を検討しているビジネスモデル

この2つのモデルについて、試行ではなく、すでに本格的に「適用」していると回答された割合に注目すると、ここでもさきがけ企業とマーケットフォロワーには違いが見られます。さきがけ企業は2つのモデルを既に実行している割合がかなり高いということがわかりました。

現在すでに適応しているビジネスモデル

さらにさきがけ企業は、「新製品・サービス、新ビジネスモデルを他社より早く展開」することに対して非常に積極的であり、その差は2倍にもなっています。

新製品・サービス、新ビジジネスモデルを他社より早く展開

 

新たな競合に勝利するために

── IBM グローバル経営層スタディ 2015年版で明らかになったことについて、IBMとしてはどのような提言をしているのでしょうか。

池田氏:
3つのポイントがあります。

1つ目は顧客価値の視点で事業機会をとらえパートナーシップを活用して従来の業界の境界線を越えていくことです。

今は、顧客価値を実現するために従来の業界の定義を超えて、様々な企業が集まってくる時代です。前述の例でいえば、個人の健康増進や産業機械の最適制御という顧客価値の実現のために、製造、IT、保守メンテナンスという業界の融合が進んでいます。デジタル企業はその流れをつくり、かつその機会を捉えようとしてくる。そのなかで、自社だけが過去の業界の定義にこだわっていては戦いになりません。業界はもはや、過去の自社の来歴を示すに過ぎないのです。勝負すべき新たな領域が見つかったら打って出るべきです。特に顧客接点のサービスや、ユーザーとサービサーがあつまるプラットフォームのスペースを空けたままにしておくのは危険です。自社もしくは自社のアライアンスパートナーを組んで、それらを取りにいくべきだと考えます。

2つ目は事業創出、立ち上げ、実行のすべての局面でスピードを追求すること、そして失敗をおそれず試行錯誤を繰り返すことです。

既存の大企業はデジタル企業のような意思決定と実行のスピードを身につける必要があります。エコシステム全体の事業展開のスピードは、それが最も遅い企業によって決まってしまいます。すると、スピードの遅い企業は敬遠されてしまいます。また、最初から完璧なものを求めるのではなく、小さな試行をたくさん繰り返し、検討できる仕組みを作るべきです。そして、有望な事業機会を見出したら、リスクや既存事業とのカニバリゼーションなどを考えてたじろいでいるのではなく、一気に経営資源を投入して大きな事業に育て上げることが重要だと考えます。

3つ目は経営資源の適合です。

新たなテクノロジーを理解しビジネスモデルを創出する能力、それを素早く実行し試行錯誤しながら育て上げていく能力、そうした能力を早急に身につける必要があります。米国では既存の製造業や小売業の企業がシリコンバレーに拠点を置き、エンジニアを雇ってITサービスの創出に取り組む動きが顕在化しています。またシリコンバレー流の事業創出手法であるリーンスタートアップに取り組んでいます。こうしたやり方は理論的に理解しただけでは、なかなか身につかないものです。スポーツの技術に関する本を読んでも、すぐに上手くなるわけではありませんが、それと同じようなものです。そうした能力を自社に取り込むために、スタートアップ企業とのアライアンスが今まで以上に重要になってくると考えます。金融の世界では「ハッカソン」と呼ばれるスタートアップ企業のコンテストを通じて、既存企業との出会いイベントが活発に行われるようになりました。こうした取り組みは他業界にも広がっていくでしょう。

── 日本IBMは今後、どのような展開を考えているのでしょうか。

池田氏:
IBMのコンサルティングチームは、新たな競合に打ち勝とうとする企業の皆様をご支援しています。そのために、われわれはお客さまの経営課題を把握しそれを解決するコンサルティング、そして最先端テクノロジーを活用したビジネスモデルやビジネスプロセスを提唱し実現することの2つの視点を持ち、その相乗効果をもたらす体制を構築しています。

金融分野ではブロックチェーン、製造分野では金属を素材とした3Dプリンティング、そして材料・素材分野では材料ゲノムなどの破壊的テクノロジーが相次いで登場しています。またコグニティブ・コンピューティングは人間と自然言語で応対し、人手では処理できないほどの膨大で多種多様なデータの意味を理解し、そこから示唆を出すことができる革新的な技術であり、業種業態を問わずに活用されていくでしょう。いずれのテクノロジーも世の中を大きく変えるインパクトを持つものです。

日本IBMはテクノロジーが大きな影響を与える環境のなかで、お客さまが新しい時代への適応を実現し、勝ち残っていくサポートをしたいと考えています。

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