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Smarter Business

デジタル化する世界に求められる組織・人材の変化

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継続的なテクノロジーの進歩がビジネス環境を根底から破壊しようとしている。テクノロジーにより、ビジネスのあり方そのものが変化し、さまざまな業種・業界のバリュー・チェーンにも変化が起きている。このような変化は、「組織モデル」や「人材」に求められるものにも大きな影響を与えている。 経営者が策定した中長期的な計画に基づき、定められた役職、固定的な組織によって事業が行われ、計画目標が達成されるという時代ではなくなってきている。

加藤 あゆみ
日本アイ・ビー・エム株式会社 事業戦略コンサルティング・グループ シニア・マネージング・コンサルタント


新卒にてIBMビジネスコンサルティングサービスに入社(統合を経て、日本IBM)。戦略コンサルタントとして製造業や保険業界を中心に、グローバル化戦略、M&A戦略立案・M&A実行支援、経営改革・組織改革案件をリード。

 
今から10年から20年後には、ヒトが行っている業務の約半分はAI化・RPA化されると言われている。定型業務がAI化されていく中、一部、ホワイトカラーも職を失うだろう。一方で、非定形業務は、より多様で複雑度を増していく。そのような中、経営者は、高い専門能力やマネジメント能力をもつ「ゴールドカラー」と呼ばれる層をいかに自組織に獲得するかを考える必要がある。

また、仕事の成果は「アウトプット」(製品・サービス)で計られるのではなく、「アウトカム」(得られる経験・価値)で計られるようになる。結果として、これまでの経営管理の考え方も適用しづらくなっていく。更に、2020年以降、日本では労働人口の減少ペースが加速し、日本の経済成長も鈍化していくことが想定される中、経営者たちは生き残るために何らかの対策を講じなければならないと考えている。このような劇的な変化のなか、組織・人材にはどのような変化が求められるのだろうか。

 

プロジェクト都度、最適な専門的なコア・スキルやソフト・スキルを持った人材を組織化

ここ数年、多くの企業が職能資格制度を改め、職務等級制度や管理職を対象とした役割等級制度への変更を図ってきた。その背景には、「しごと」が定型的に定義できなくなったことによって、「しごと」の遂行に必要な専門的なコア・スキルやソフト・スキル、必要な人数の計画が困難になってきたという状況がある。

多種多様な非定型プロジェクトでは、その都度、最適なスキル・経験をもったヒトによってチームを編成し組織化するしかない。例えば、米国のアプライド・エナジー・サービス社(以下、AES。電力会社、世界15カ国に事業を展開しており、従業員数は4万人)は、会社全体を統括するメンテナンス部門、購買部門、人事部や内部監査部門は存在せず、1チームあたり15~20人のチームにより自主経営で運営していた。

AESでは、「80/20ルール」が定められており、就業時間の80%の時間を自分の主な業務にあて、20%の時間を会社の中の他のタスクフォースのために使うことが推奨されていた(注1)。例えば、予算案が承認されるとそれを検証するタスクフォースが組まれ、社内のあらゆる部門からスタッフが加わって、それぞれの専門性の観点から再検討する。これらのタスクフォースは、給与決定や内部監査にまで及んでいる。

また、多種多様で複雑なプロジェクトに対応する人材を常に確保するためには、それ相応の投資が必要になる。Toronto Financial Services Alliance(TFSA)は、官民協働で、Center of Excellence in Financial Services Education(金融サービス教育 CoE)を設立し、金融サービスにおけるキャリアに関するアドバイスや洞察を提供し、同セクターで新たに生じた人材ニーズに対応できるようにしている。
このような、企業を超えた人材育成と協働が今後、進んでいくのではないだろうか。

(注1)「ティール組織 – マネジメントの常識を覆す次世代型の組織の出現」、フレデリック・ラルー 著、英治出版株式会社 参照

 

指示・命令するマネジメントから自主性を重んじ、コーディネートするマネジメントへ

では、共通の価値(アウトカム)の創出を目的とし、最適なスキル・経験をもったヒトによって創られたチームでは、どのようなマネジメントが求められるのだろうか? プロジェクト都度、組成されるチームでは、多くの場合、各領域のプロフェッショナルたちが集まることになる。その様な組織では、従来型の指示をだし、報告を求め、コントロールするマネジメントではなく、チームの能力やメンバー関係を醸成し、調和させ、自主性を重んじるマネジメントが求められるようになる。

変化に富んだ顧客の要望に迅速に対応するための開発方法論であるアジャイル開発で求められる奉仕型リーダシップ(Servant Leadership)も同様の役割であろう。

このようにビジネス環境とテクノロジーの変化から、組織モデル・人材のあり方も大きく変わろうとしている。働き方のみを変えるに留まらず、デジタル化する世界における組織・人材のあり方を再考し、組織モデル、マネジメントスタイル、人事制度まで含めて変革していくことが求められているのではないだろうか。

photo:Getty Images