Qiskit Functions Catalogに新たに2つのファンクションが追加されました!これらは、研究者が量子コンピューティングを自分のアプリケーション・ワークフローにシームレスに統合するのに役立つ、強力なアプリケーション・ファンクション群への新しい仲間です。
2025年6月頭にIBM Quantum Partner Forum 2025がイギリスのロンドンで行われ、世界中からIBM Quantumのパートナー企業・団体の皆様が集まりました。毎年恒例のこのイベントでは、IBMのリーダーや研究者から、最新の量子ハードウェアや量子アルゴリズムに加えて、量子スタックを最大限に活用することを簡単にする強力な新しいソフトウェア・ツールなどについてご紹介しました。
本ブログでは、今年のPartner Forumプログラムでの発表に含まれました、Qiskit Functions Catalogにデビューする二つの新しいアプリケーション・ファンクションをご紹介します。フランスの量子スタートアップColibriTDによるQUICK-PDEファンクションと、スペインのスタートアップGlobal Data Quantum によるQuantum Portfolio Optimizerです。Qiskitのアプリケーション・ファンクションは、新しい量子ユースケースの研究開発において実用規模の量子コンピューターの能力をフル活用できるように設計されていますが、これら二つのファンクションが加わったことによってさらに多様なユースケース探求が加速します。
アプリケーション・ファンクションは、既存の統合された量子パイプライン(量子コンピューターを利用するための前処理から、量子コンピューターの実行と、後処理までを含めた一連のプログラム手順)を利用可能にするので、量子パイプラインをユーザーが自分で構築する手間を省きます。プレミアムプラン、専用サービス、または最近導入されたフレックス・プランを通してIBM量子コンピューターにアクセスするユーザーは、Qiskit Functions Catalogのホームページから無料トライアルをリクエストして、これらの強力なワークフローをご自身でご検討いただけます。
以下では、これら二つの新しいアプリケーション・ファンクションと、過去1年間にQiskit Functions Catalogに追加された他のいくつかのファンクションの概要をご紹介します。その前に、アプリケーション・ファンクションとはどのようなものか、そしてそれらが実用規模の量子コンピューティングの力をどのように利用しやすくするかについて、理解を深めるために少し時間を割いてみましょう。
Qiskitアプリケーション・ファンクションは、抽象化によって量子ワークフローの複雑さを緩和して、量子アルゴリズムの発見とアプリケーションのプロトタイピングを加速するサービスです。これは、一般的な古典ワークフローで使用するのと同じ古典データ入力 (学習データ、分子定義グラフなど) を受け取り、その応用領域で典型的に用いられている形式で古典データ出力を返すので、量子手法を既存のアプリケーション・ワークフローに統合することが容易になります。
一方でこのファンクションは内部的に、一般的な量子ワークフローで必要なすべての細部の面倒を見ます。すなわち、古典入力データを量子回路にマップし、特定の量子ハードウェア向けに回路を最適化した後に、その量子ハードウェアで実行し、得られた結果を後処理して、最後は利用しやすい形式に変換して出力します。
つまり、企業の開発者、データ・サイエンティスト、および貴重なドメイン専門知識を持つその他のユーザーの皆様は、アプリケーション・ファンクションを使用すれば、パーソナル・コンピューター上で実行されるCPLEX、Gurobi、PySCFなどの古典ソルバーでは解決が困難な問題を探求することができるということです。
古典手法の場合には、そのような規模で問題解決するのにハイ・パフォーマンス・コンピューティング(HPC)・リソースが必要です。これから量子優位性の追求がますます進んでいくと、もっと多くの研究者がアプリケーション・ファンクションを使用して、最も強力なHPCシステムでも困難または解決不可能な問題に取り組むようになると私たちは考えています。
Qiskit Functions Catalogに最近加わった二つの新しいアプリケーション・ファンクションは次の通りです。
ColibriTDによるQUICK-PDEは、材料変形や数値流体力学の問題で用いられるある種の微分方程式を解くことができます。例えば、ある研究チームは、小型モジュール炉と呼ばれる原子炉で熱をより効率的に伝達するために開発された新しい反応性流体のダイナミクスを研究するために、すでにQUICK-PDEファンクションの使用を開始しています。
Global Quantum DataのQuantum Portfolio Optimizerは、金融工学の研究者がポートフォリオ最適化戦略をバック・テストすることを可能にします。100量子ビット以上を活用して実行されるこのファンクションは、指定された期間におけるポートフォリオのシャープレシオとリターンを計算します。このファンクションを使い始めたユーザーは、投資戦略の過去のパフォーマンスを評価して、類似条件下で異なるポートフォリオを比較できるようにする、このオプティマイザーを試しています。
2024年の最初のローンチ以降にQiskit Functions Catalogに加わったアプリケーション・ファンクションは、他にもあります。
Kipu QuantumのIskay Quantum Optimizerは、さまざまな組み合わせ最適化問題に取り組めるように設計されていますが、目的関数がバイナリ変数を持つ多項式である高次のバイナリ最適化タスクにおいて特に優れた性能を発揮します。研究者は、Iskayオプティマイザーがポートフォリオ最適化などの金融ユースケースで一般的な古典最適化ソルバーよりも優れていることを発見しました。たとえば、あるケースでは、一般的な古典最適化ソルバーにマッピングすると1,000変数以上を必要とする問題に対して、わずか156個の変数を使用します。
Qunova ComputingによるHI-VQE Chemistryは、計算化学者が 32〜44量子ビットでモデル化された 16〜22軌道を含む近似分子基底状態量子化学の問題に取り組むことを可能にします。これに対し、同じ問題を解決するための一般的な古典ツールであるPySCF、MOLPRO、Q-Chem、ORCAなどを用いた場合、通常、デスクトップコンピューターで処理できる問題の規模は36量子ビット相当までに限られ、それ以上の問題にはHPCリソースが必要になります。
Multiverse ComputingによるSingularity Machine Learningファンクションは、アンサンブル学習と複雑なモデル最適化が効果を発揮するような分類問題を扱います。今日では、AdaBoost、ランダム・フォレスト、またはスタッキング・アンサンブル手法などの古典手法が同様の問題への対処に利用されていますが、HPCリソースがなければ、これらの手法はボトルネックになりがちです。IBM QPUを活用することで、ユーザーは、ローカルマシンで利用可能なメモリと計算能力を超えて、QAOAベースの量子最適化を使用して大規模なアンサンブルを学習し、アンサンブル構成のグローバル最適化を実行できます。
Qiskitファンクションは、寄せられたフィードバックを反映して常に改善されています。リリース以来、ファンクションを開発しているサードパーティーは性能向上と新機能追加や、ワークロードの実行・デバッグ・分析を容易にする多くのアップグレードを実装してきました。
今回は新ファンクションの追加に加えて、新たな改善点がもたらされています。実験が期待どおりに実行されなかった場合に、自分でトラブルシューティングを行うのに役立つ明確なエラー・メッセージ、ワークロードをリアルタイムで把握するための詳細なステータス更新、パフォーマンスの分析に役立つリソース・サマリーの三点です。
新しい QUICK-PDEファンクションと Quantum Portfolioファンクションには、これら三つの改善点すべてがすでに組み込まれています。さらに、今後数週間のうちにこれらの情報は、より多くの既存ファンクションで利用できるようになります。
Qiskitファンクションを試してみませんか?ファンクション・プロバイダーであるサードパーティーはそれぞれ、Qiskitファンクションが研究の加速にどのように役立つかを自分で確認したいと考えている、プレミアム・プラン、専用サービス、およびフレックス・プランのユーザー向けに無料トライアルを提供しています。これらのサービスのユーザーの皆様は、ぜひ今すぐQiskit Functions Catalogにアクセスし、ファンクションを選んでクリックして、無料トライアルをリクエストしてみてください。
また、量子ワークフローの設計経験が豊富な方は、自分独自のファンクションをどうやったら構築できるのか疑問に思われるかもしれません。プレミアム・プラン、専用サービス、またはフレックス・プランのユーザーで、Qiskitファンクションに変換したい量子ワークフローをお持ちの場合には、ファンクションのテンプレートからとりかかることができます。これはエッセンスが詰まったベスト・プラクティスを示したスターター・キットであり、Qiskit Serverlessでデプロイ可能になっています。
ぜひ多くの方に、成長を続けるエコシステムに参加して、ファンクションを使う側としても、ファンクションを作る側としても、量子優位性と真に有用な量子コンピューティングの推進にご協力いただけると幸いです。
この記事は英語版IBM Researchブログ「New application functions help applied researchers tap the power of quantum」(2025年6月5日公開、Joachim Schäfer, Jenay Patel, Valerie Chiang, Sanket Panda, Suhare Nur, Robert Davis著)を翻訳し一部更新したものです。