AIによるグローバルな職場変革で、データ・リテラシー・スキルの需要は高まります。実際には、組織の79%が今後12カ月を展望して、自社の意思決定ではデータの重要性が高まると述べています。¹しかし、データ・リテラシーとはいったい何なのでしょう。
Gartner®社の定義では、データ・リテラシーとは、データソースと構造、適用される分析手法と技法の理解、ユースケースの適用と得られる価値を説明する能力など、コンテキストに合わせてデータを読み書きし、伝達する能力のことです。²
こうしたスキルが重要な理由AI搭載のデータ主導意思決定で組織を率いていくために、データ・リテラシーはデータサイエンティストだけでなく、誰もが必要な能力です。就職したてでも、経営幹部でも、データを理解し、解釈し、それを用いてコミュニケーションする能力は、すべての従業員にとって重要なスキルです。
日常業務におけるデータの価値を理解するための教育をチームが利用できる環境では、データから容易にインサイトを得て適用できるので、データ統合ワークフローを切望するようになります。時間が経つと、推奨案の基礎となるデータを理解しているために、AIに意思決定を委ねることを積極的に認める可能性があります。
データ・リテラシーを正しく身に付ける方法
1. 全社的なデータ・アクセスの民主化
データ主導組織になるための最初の手順は、データサイエンス教育プログラムだと多くの人が考えていますが、実はデータをアクセスしやすくすることなのです。コールセンター・システムについて考えてみましょう。ほとんどの場合にはデータはアプリケーション内に閉じ込められていて、組織の他の部署では利用できません。しかし顧客の同意を得て共有すれば、データアナリストが訓練や教育、全体の効率やコミュニケーションの強化に役立てられるかもしれません。
「ときには、さまざまな種類のインサイトがもたらす価値を、特に大規模に、個々の機能領域やドメインを越えて評価できるようにする必要があります」と、IBMの最高分析責任者、Tim Humphreyは述べています。データ・ファブリックなどの中央リポジトリーを構築することで、組織のすべての人がデータを容易に保存、アクセスできるため、データ・アクセスが簡素化され、データ分析、AIなどのテクノロジーに開放されて、ワークフローが合理化されます。
データ・アクセスの民主化を実現するために、IBMのGCDOは、管理対象データの一元的なソースを提供し、ユーザーがデータをロード、変換、分析できる統合データ・プラットフォームを実装しました。このプラットフォームの稼働以降、GCDOの業績は急速に向上しました。18カ月ほどで、部門はデータとAIベースの変革活動から13億ドルの利益と10 倍のROIを生み出しました。
IBM GCDOはデータとAIベースの変革イニシアチブで10倍のROIを生み出しました。
異なるデータ資産にわたるデータへの高速で単純なアクセスを可能にするアーキテクチャーを実装します。
既存データのクリーニング、データ・プライバシー、セキュリティー、コンプライアンス対策の維持に注意して、データが意味のあるものになるようにデータセットを結合します。
ソース間、エコシステム間、サイロ間でデータを統合する際に、関連するデータ・アクセス権限、ライセンス、共有権限を評価することで、インサイトが機能レベルにとらわれることなく、企業全体に拡張できるようになります。
2. 明確で透明性のある方法で情報を体系化します
データ・アクセスを管理するプラットフォームを確立したら、パイプラインの中をデータがどう動いているのかを意思決定権者に理解してもらうことが重要です。つまり、データの価値、発生源、品質を明確に伝え、あらゆるレベルの専門知識に敬意を払います。これが技術系、非技術系の両方のユーザーに力を与え、AIイニシアチブを信頼してもらえる最速の方法です(要するに、技術恐怖症は現実のものなのです)。データが透明で説明可能な方法で体系化されていれば、AI適用前後のデータを人々は容易に理解できます。
すべての人にデータサイエンティストの知識が必要なわけではありませんが、データ、その行数、プロセスの一部ではなく、データがプロセスの最初から最後までどう流れているかについては、誰もが理解している必要があります。理解のためには、重要な質問がいくつか必要です。
チームは、データを検索し、アクセスできるはずのデータすべてにアクセスし、そのデータを業務アプリケーションに利用できる必要があります。
メタデータを利用して、複数の業務をまたぐデータに関する定義と用語を標準化します。
データ・リテラシーが事業目的に貢献している程度を示すKPIを見つけます。有用なインサイトを明らかにし、データ利用を追跡して、イニシアチブを少しずつ試して、最適化します。
チームがデータ系列を追跡、理解して、組織内で一貫性を保っていることを確認するのに役立ちます。
3. データ市民が責任を持ってデータを利用、分析し、AIでデータを行動に変えるトレーニングの実施
データ・リテラシー教育は、組織がデータを読み、解読し、使用して(特にモデルから入手した場合)、より良い意思決定を行うのに役立ちます。しかし、チームはデータを競合差別化に活用できるようにもなります。教育を受け、データを業績に結び付けるには、チームは手持ちのデータ・ツールと、目標達成のために使用する方法を十分に理解する必要があります。最終的には、人が理解しやすいデータにして、データとAIを人間らしく仕立てる専門家が必要です。データ・リテラシー・プログラムの成功とは、チームがデータを説得力のある、視覚的なストーリーに変換し、人々の心を掴み、データを実現可能な知識と具体的な業績に変えることです。
Johnson & Johnson社は、AIを含む高度な新興テクノロジーを最大限に活用する方法を教育して、従業員を支援しています。「IBMとのパートナーシップにより、匿名化された外部データと社内データセットのスキルデータを結合する、テクノロジー機能向けのAI駆動型スキル推論モデルを作成しました」と、Johnson & Johnson社の最高情報責任者であるJim Swanson氏は述べています。
「当社のIT部門が使用しているツールが持っている従業員スキル関連データを取得し、モデルに供給することができました。それによってAIは、当社が強調したい各スキルに対する全員の成熟度を判断し、個人の長所と短所を包括的に把握できました」とSwanson氏。
Johnson & Johnson社のように、組織は、上位の利害関係者レベルの関連性のきわめて高いビジネス・ストラテジーから始めて、利害関係者のドメイン全体にマッピングすることで、データ・リテラシーを構築できます。
「データの取り組みが『失敗』だとか、期待した成果が得られなかったと利害関係者が不満を言うのは多くの場合、経営陣のストラテジーが明確に定義されておらず、利害関係者のデータ・リテラシーがドメインやチーム全体で調整されていないことが原因です」と、IBMコンサルティングのパートナー兼タレントデータ担当グローバルヘッドであるJennifer Kirkwoodは述べています。
組織のあらゆるレベルの専門家が、戦略的なビジネス目標に最適なデータの可視化とストーリーテリングの手法を使用できるようにし、この教育を効果的コミュニケーションのカリキュラムに根付かせます。
教育プログラムには、さまざまな役割の実ニーズを反映し、データが利害関係者の日常的な価値に結びついていることを確認します。
技術認定やP-TECHプログラムの資格を持つ人材を採用して、スキル・ギャップを埋めます。メトリクスとKPIを定義したダッシュボードを利用して、組織がデータ主導型になるための進化を追跡します。
4. 共感を持って主導し、データ・チャンピオンを育成します
データ主導型の意思決定とデータ・リテラシー文化の構築の中心になるのは好奇心です。データ・リテラシーの高い従業員やリーダーは、常に「なぜ」を問いかけ、額面通りには受け取りません。この態度は、AIがもたらす推奨事項が組織のニーズに的確に応え続けることを保証するために重要になります。
みなさんの仕事は、聞き上手になり、チーム独自の役割に基づいて、どのデータ・リテラシー・スキルで成果を得られるのかを理解し、教育計画を立てることです。
こうしたデータ主導の提唱者たちは、例えば売掛金担当やサプライチェーン担当で志が同じグループを見つけ、データやAIの機能で先に進みたいときに、許可や資金提供を求めることなく進められる点で、IBM内では完全な権限を与えられています。組織全体でデータがどのように機能し、AIがどこに当てはまるかを従業員が理解できれば、データに関する管理責任を果たす文化を構築していることになります。最終的には組織全体にデータ・チャンピオンのネットワークが構築され、データ・リテラシーは好循環の学習サイクルの一部となります。
ユースケース優先の手法で、組織横断リーダーにとってのデータ・リテラシーの価値を強化し、上位の利害関係者の賛同を得ます。
あらゆるレベルでオープンな会話を奨励することで、多様な視点を取り入れて、より良い結果を生み出します。データが組織にもたらす価値を明確にし続けます。
データを額面通りに受け取らない、疑問を提起するデータ・インサイトでチームに挑戦するなど、理想的な行動をモデル化します。組織内外でのネットワーク構築を奨励し、仕事のあらゆる側面で多様な視点が表現されるようにします。
データとAIが組織運営のあらゆる側面で中核となる中、データ・リテラシーはデータ主導の文化を構築する基盤となります。自組織内でのデータ・リーダーとして、データを基盤とした共通言語を浸透させることで、変化を促進し、大きな業務目標を支援します。その努力は困難かもしれませんが、こうした野心的なアイデアは埋めなければならないギャップを埋められるので、投資に値します。貴社の将来は実のところ、これ次第なのです。
今は立ち止まってはいけません。業務目的に基づいて、適切なデータ・リテラシー・スキル開発促進を継続して、経営陣や従業員全体の仲間として自分の立場を確立してください。「データ・リテラシーをしっかり会得するには、この考え方を現場、上層部、中間層にわからせるだけでなく、あらゆる役割よりも優先させなければなりません。」とHumphreyは語っています。言い換えると、データ・リテラシーは組織のあらゆるレベルで何度も繰り返される行程なのです。
何よりも、あなたがお手本になっていることを忘れないでください。データ・リーダーとして、あなたの事例が場の雰囲気を形成することで、チームは安心してデータについて話せますし、より良い成果に向かって推進できるのです。みなさんの支持とデータ・リテラシー・フレームワークがあることで、データ・インサイトを行動に変えられます。そして今後数年にわたってデータ・チャンピオンとデータ主導の意志決定という文化の基盤を築けます。
¹ Voice of the Enterprise: Data & Analytics, Data-Driven Practices, 451 Research, 2022
² How to Create a Balanced Data and Analytics Organizational Model, Gartner, 10 May 2022. GARTNERはGartner, Inc.または関連会社の米国およびその他の国における登録商標およびサービスマークで、許可を得て使用しています。All rights reserved.
³ 2023 Chief Data Officer Study: Turning data into value, IBM Institute for Business Value, 2023
⁴ Voice of the Enterprise: Data & Analytics, Data-Driven Practices, 451 Research, 2022
⁵ Voice of the Enterprise: Data & Analytics, Data Management and Analytics, 451 Research, 2021