データ統合が、強力な社会的セーフティー・ネットの構築にどのように役立つのか
ソノマ郡、IBMと提携しホームレスの人口を9%削減
ソノマ郡の外観

冬の夜間は、ソノマ郡は驚くほど冷え込むことがあります。風が吹き上がり、Patriciaが遠くに近隣の明かりがちらついているのを見たとき、これらの家々は1,000マイルも離れたところにあるように思えました。それは、Patriciaが毛布を自分に巻きつけ、息子に別の毛布をかぶせて、現在の家である古い車の深い寒さではなく、囲炉裏の暖かさを感じることができたらと、もう一度願った時でした。

自然の美しさ、ワイナリー、豊かさで広く知られるソノマ郡で、車やキャンピングカー、テント、その他の即席シェルターで暮らす何百人もの家を持たない人々の中に、Patriciaと彼女の息子はいました。かたやソノマ郡も、カリフォルニア州の他の多くのコミュニティーと同様にホームレス問題に苦しんでいました。一時期は、人口1人あたりのホームレス率が全米で3番目に高かったこともありました。

ホームレスの原因は複雑で、手頃な価格の住宅がないこと、貧困、メンタルヘルス、薬物乱用など、さまざまな課題があげられます。しかし、ソノマ郡のホームレス問題は、さらなる要因によって複雑化していました。「私たちは、次々と襲いかかる自然災害に遭遇しました。私たちは5度の大火に苛まれ、その後、洪水、干ばつ、パンデミックに見舞われました」と、ソノマ郡第4地区の地区監督者であるJames Gore氏は語ります。「そしてその裏では、ホームレス問題の深刻化があります」

長年にわたり、ソノマ郡はホームレス対策に多大な資源を投入してきました。「しかし、人々はホームレス状態に陥り続け、必要な長期的支援を受けられず、私たちが期待したような成果は得られませんでした」と、ソノマ郡保健サービス局の局長であるTina Rivera氏は述べています。「Patriciaや彼女の息子のような人たちのために、私たちは再考し、再設計し、より良い解決策、より良いサービス提供を考え出す必要がありました」

 

 

ホームレス数の減少

 

2018年から2020年までに、ソノマ郡のホームレス人口を9%削減

高い住宅斡旋率

 

ホームレスへの住宅斡旋率は、国の斡旋率の4倍以上となる35%を達成

IBMは、既製のソリューションをライセンス取得済みのソリューションと統合し、クラウドを活用したプラットフォームですべてを連動させました。私たちは4カ月間で91,000人の人々を登録し、4つキー・システムにリンクさせました。それは驚くべきスピードでした。 Carolyn Staats Director of Innovation Sonoma County Central IT
嵐を避けるシェルターを探す

あまりにも多くの人々が社会的セーフティネットの隙間に陥っていることを認識した地方政府当局は、ソノマ郡セーフティネット共同体を立ち上げました。郡はまた、保健サービス、福祉サービス、児童支援サービス、保護観察、地方検事、公選弁護人、保安官事務所、ソノマ郡開発委員会などのセーフティネット部局のメンバーで構成される統合多分野チーム(IMDT)を結成しました。これらの組織は連携し、困っている人々に総合的なサービスを提供しました。

「ホームレスの人々にサービスを提供する際の課題のひとつは、サービスの調整です」とRivera氏は語ります。「私たちのチームは家のない人たちとつながるために素晴らしい仕事をしていますが、現場では一度だけの接触になるとは限りません。特に慢性的なホームレスの人々には、何度も何度も足を運び、サービスを提供するという姿勢が必要となります」

他の多くの地方政府と同様、ソノマ郡もサイロ化した組織構造を持っていたため、情報の共有や部門間のサービス調整が妨げられていました。「私たちは、1つの部門で一度にサービスを提供する窓口がありましたが、実際には持続可能なソリューションを維持していませんでした」と、ソノマ郡セントラルITイノベーション担当ディレクターのCarolyn Staats氏は言います。「ホームレスの割合が高い状態が続いているため、何か手を打つ必要がありました」

カリフォルニア州の別の大きな郡が、IBMのソリューションを使ってセーフティネット・サービスを改善したことを知り、ソノマ郡のマネージャーもIBMに相談を開始しました。「連携するためには、ケースワーカーにとって非常に使いやすい形式で、これらすべてのシステムからデータを取り出す方法が必要です」とStaats氏は語ります。「そこで、IBMの出番となりました」

しかし、2017年10月、ソノマ郡を襲ったタブス山火事によって、新たな課題が浮上しました。36,000エーカーが焼失し、数千棟の建物が破壊され、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)が設置した避難所に数百人が避難することとなりました。火災の2週間後、FEMAの避難所が閉鎖され始めたとき、多くの人々はまだ行き場がなく、ホームレス問題はさらに悪化しました。

この期間中、ソノマ郡監督委員会は、連携ケアへのアクセスと自立支援ソノマ郡(ACCESSソノマ)と呼ばれる新しいプログラムを開始しました。その目的は、コミュニティーで最も弱い立場にある市民が必要な援助を受け、自立できるようにすることでした。しかし、この目標を達成するために、ACCESSソノマはIMDTの展開を加速させ、チームメンバーにインパクトを与えるツールとテクノロジーを提供する必要がありました。

「問題は資源の不足ではありません。資源は豊富にあります」とGore氏は言います。「問題は連携と、私たちのチームがIBMとともにACCESSソノマを使って、コミュニティーの問題を外科的に解決する能力でした。それは私たちに多大な力を与えてくれました」

サイロを解消して対応を加速

ACCESSソノマIMDTメンバーの経験と知識を活用するため、ソノマ郡とIBM Consulting™は、集中的なIBM® Garageプランニング・ワークショップを実施しました。「ケースワーカーやプログラム・マネジャーにデザイン思考をやってもらいましたが、それは本当に素晴らしいものでした」とStaats氏は語ります。「皆さんはさまざまなシナリオと、そのプロセスにおけるペルソナを検討しました。全員がテーブルにつき、さまざまな視点からクライアントについて話し合うことができたのは大きな収穫でした。IBMはそれを非常に重要な時期に実現しました」

ワークショップが終了して間もなく、ソノマ郡は全組織に利益をもたらすACCESSソノマ計画の策定に迅速に動き出しました。IBMは、ビジネス・プロセスを変革し、サイロを解消し、部門間でデータを共有し、代行業者とクライアント間のサポートを調整するための統合テクノロジー・ソリューションの設計を任されました。

タブス火災の余波を受け、ホームレス問題への取り組みが急務となる中、一刻を争う事態となりました。IBMは2018年春、ACCESSソノマプラットフォームの構成を開始しました。「IBMはこのオープン・アーキテクチャーをリフト・アンド・シフト(移行&最適化)できるように設計したため、4カ月で91,000人の人々を登録し、4つのキー・システム間でリンクさせることができました」とStaats氏は語ります。「それは驚くべきスピードでした」

他の多くの地方政府と同様、ソノマ郡もすでに複数のベンダーから既存のソフトウェア・ソリューションのライセンスを取得していました。「私たちは、他のテクノロジー・ソリューションと重複することなく、これらの投資のメリットを享受したいと考えていました」とStaats氏は言います。「IBMは私たちの要望に耳を傾け、適切なアーキテクチャーのプラットフォームを構築してくれました」

IBMは、オンプレミスとIBM® Cloud上にデプロイされたコンポーネントで、カスタマイズしたハイブリッドクラウド・ソリューションを開発しました。このシステムは、サード・パーティーのクラウド・プラットフォーム上の既存のワークフロー・マネジメント・ソリューションも管理していました。IBM Health and Human Services Connect360は、データ統合ハブとして動作し、IBM® InfoSphere Master Data Management(MDM)ソフトウェアと連携して、サイロ化したソース・システムからデータをまとめてマスター・クライアント・インデックスを生成します。MDMは、リアルタイムで更新可能なクライアントごとの単一で統合されたレコードを作成し、ユーザーに各クライアントの360度の全体像を提供します。

IBM CloudでサポートされるIBM® Watson Care Managerは、IMDTのユーザーに各クライアントに関する集計データを表示するためのウィンドウを提供し、統合されたケース管理を可能にします。このツールはまた、クライアントごとのアクション・プランを作成するために、ケース・ノートから洞察を浮かび上がらせます。

ACCESSソノマのソリューションとデータ・ストレージは、オンプレミスのサーバーからMicrosoft Azureのクラウド環境に移行され、Red Hat® Open Source®(ibm.com外部へのリンク)ソフトウェアによるマネージド・サービスとサポートが提供されます。

ACCESSソノマの最初のデプロイメント以来、IBMは5段階の追加のユースケースとシステム機能を提供してきました。これらには、新しいクライアント・コホート、データ・ソース、レポート、分析、および追加のAPI連携が含まれます。

ACCESSソノマは、それぞれの業者のシステムを横断してデータを統合し、現場の職員にクライアントのニーズをリアルタイムで全体的に把握できるようにしています。「技術者でなくても、とても使いやすいです。ダッシュボードであれ、個々のクライアント情報であれ、探している情報を素早く得ることができます」とStaats氏は述べています。「このソリューションは上手くいっていて、破綻することはありません」

 

 

私たちは、物事を変えるのは常に人間の手だと考えており、テクノロジーが役立つとは考えていませんでした。しかし、人間の手とテクノロジーを結びつけ、私たちがどのようにすれば針を動かすことができるかが分かり始めたことは素晴らしいことでした。 Tina Rivera Director Sonoma County Department of Health Services
費用と時間を節約しながら、より多くの人々を支援

IBMとともにACCESSソノマを立ち上げた後、ソノマ郡では、パンデミック、自然災害、経済格差、生活費の高騰、依存症、再犯、未治療のメンタルヘルス問題によって引き起こされたホームレス状態から、より多くの人々が脱するのを目の当たりにするようになりました。同時に、ソノマ郡はより効率的に資源を投入し、より多くの人々を助けることができるようになりました。

2019年には山火事で野営地が焼け、セバストポール近郊のハイキングコースにホームレスが集まりました。Joe Rodota Trailは、ソノマ郡史上最大かつ最も目立つホームレスの野営地となりました。ACCESSソノマによって、郡は危機的状況に即座に対処することができましたが、これはその有効性の大規模で目に見える検証でした。家を失った多くの人々が、健康と福祉を改善し、地域社会への復帰を促進するためのサービスを利用できるようになりました。

2018年から2019年にかけて、ソノマ郡のホームレス人口数は2%減少、2019年から2020年にかけてはさらに7%減り、2年間で合計9%減少しました。ソノマ郡はまた、家のないクライアントに対する住宅斡旋率35%を達成しました。これは全米平均の4倍以上です。「恒久的な支援住宅や過渡的な住宅を数多く開設してきました」とGore氏は言います。「そして、これを支えているのが、IBMとともに取り組んできたACCESSソノマのプログラムです」

ソノマ郡のホームレスの多くは精神疾患と診断されており、その一部は非暴力犯罪を犯した後に服役しています。通常、このような人たちは、再犯の可能性を低くする目的で、メンタルヘルスケアを受けるために早期に刑務所から釈放されます。

メンタルヘルスのグループにおける再犯率の全国平均は76%であり、ソノマ郡もACCESSソノマに登録する前は同様の結果でした。「メンタルヘルスのグループでは、再犯率が13%まで低下しました」とStaats氏は語ります。「ACCESSソノマでは、精神科への転院を85%で成功させています。これは私たちがクライアントに提供している包括的なサービスにあります」

もうひとつの繰り返し発生する問題は、ホームレスの人々が地元の病院の救急外来(ED)で緊急性のない症状の治療を求める時です。この方法は、郡政府にとって高いコストがかかります。地域の診療所やその他のサービスを通じて、より適切で全体的な治療をホームレス患者に提供するため、地元の病院は彼らをACCESSソノマに登録しました。その結果、ホームレス患者の入院が減少し、EDは32%のコスト削減を記録しました。

2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックがソノマ郡を襲った後、ACCESSソノマのテクノロジー・プラットフォームの柔軟性が改めて試されました。同郡では、職員が感染しているかどうか、あるいは医療を受けるべきかどうかを判断するために、新型コロナウイルス感染症の症状チェック・アプリケーションを早急に必要としていました。「IBMは、別の州ですでに公衆衛生プラットフォームが稼動していることを教えてくれました」とStaatsは言います。「私たちはすぐに共同作業を開始し、1カ月後にはApple Storeで最初のアプリを利用できるようになりました」

 

問題は資源の不足ではありません。資源は豊富にあります。問題は連携と、私たちのチームがIBMとともにACCESSソノマを使って、コミュニティーの問題を外科的に解決する能力でした。それは私たちに多大な力を与えてくれました。 James Gore District Supervisor 4th District, Sonoma County
前進と明るい未来のためのコラボレーション

「テクノロジーとイノベーションを活用することで、ホームレス問題に対する進捗状況を把握することができます」とGore氏は語ります。「私たちの投資は、それが機能していることを示すことができる場所に向かっているのだから、未来はより明るいです。それが持続的な進歩を達成する方法です」

ソノマ郡の他の政府機関も、ACCESSソノマを自分たちにも有効なモデルだと考えています。「地元警察は、他の地域団体と協力することを検討しています」とStaats氏は述べています。「たとえば、精神疾患から行動を起こしているような場合は、逮捕されるよりも地域の医療機関に相談したほうがよいでしょう」

ソノマ郡はまた、学んだことをカリフォルニア州や全米の他の地方政府と共有したいと考えています。「私たちが作り上げたものは、他の郡にも使っていただきたい」とStaats氏は語ります。「カリフォルニア州のオレンジ郡が私たちのソリューションを稼働させており、全米で3番目に大きな郡であるテキサス州のハリス郡がこのソリューションを稼働させる予定です」

ACCESSソノマは、その画期的な取り組みで全国的な評価を受けています。2019年から2020年にかけて、この取り組みはFinancial Times紙のインテリジェント・ビジネス賞と全米郡協会功労賞を受賞しました。

ホームレスに苦しんでいる個人や家族の生活に変化をもたらすことは、常にソノマ郡のソーシャル・サービス専門家たちの目標であり、今ではIBMとともに設計に携わった効果的なツールを手にしています。「私たちは、物事を変えるのは常に人間の手だと考えており、テクノロジーが役立つとは考えていませんでした」とRivera氏は語ります。「しかし、人間の手とテクノロジーを結びつけ、私たちがどのようにすれば針を動かすことができるかが分かり始めたことは素晴らしいことでした」

息子を車に乗せて1年以上不安定な生活を送っていたPatriciaは、ACCESSソノマの活動の対象となりました。「ケア・チームは彼女をさまざまなセーフティネット・サービスに登録させ、彼女が苦しんでいたときには励ましました。彼女はセラピー・セッションに定期的に通うようになり、息子は学校に無事に通うようになりました」とRivera氏は言います。「彼女は安定した住居を手に入れ、現在では、人生で初めて自立への道を歩んでいます」

 

ソノマ郡ロゴ
ソノマ郡について

ワイン産業と自然の美しさで世界的に有名なソノマ郡(ibm.com外部へのリンク)は、サンフランシスコの北に位置し、面積は1,575平方マイル、人口は約50万人です。ソノマ郡政府は50の部局と機関を運営しており、郡庁所在地サンタローザに本部を置いています。同郡の職員数は4,800人を超え、年間支出は22億7,000万米ドルです。

次のステップ
学生たちがIBM Cloud上のRed Hat OpenShiftでアートを披露 ロンドン芸術大学 IBM Cloud for Educationで難題に挑む メリーランド大学バルティモア・カウンティ校 IBM Garageで航空管制の未来を共創 Luftfartsverket
脚注

© Copyright IBM Corporation 2022. 日本アイ・ビー・エム株式会社 〒103-8510 東京都中央区日本橋箱崎町19-21

2022年7月、米国で制作。

IBM、IBMロゴ、ibm.com、IBM Cloud、IBM Consulting、IBM Garage、IBM Watson、およびInfoSphereは、世界の多くの国で法的に登録されているInternational Business Machines Corporationの商標です。その他の製品名およびサービス名は、IBMまたは他社の商標である可能性があります。IBMの商標の最新リストは、Webサイトwww.ibm.com/jp-ja/legal/copytradeで入手できます。

Red Hat®、JBoss®、OpenShift®、Fedora®、Hibernate®、Ansible®、CloudForms®、RHCA®、RHCE®、RHCSA®、Ceph®、およびGluster®は、米国およびその他の国におけるRed Hat社またはその関連会社の商標または登録商標です。

Microsoft®およびMicrosoft Azure®は、Microsoft Corporationの商標または登録商標です。

本書は最初の発行日時点における最新情報を記載しており、IBMにより予告なしに変更される場合があります。IBMが事業を展開しているすべての国で、すべての製品が利用できるわけではありません。

記載されている性能データとお客様事例は、例として示す目的でのみ提供されています。実際の結果は特定の構成や稼働条件によって異なります。本書の情報は「現状のまま」で提供されるものとし、明示または暗示を問わず、商品性、特定目的への適合性、および非侵害の保証または条件を含むいかなる保証もしないものとします。IBM製品は、IBM所定の契約書の条項に基づき保証されます。