映像体験の
探究者。

テクノロジーと創造力でビジネス変革を推進するクリエイターの時代へ。

伊達 厚 氏

キヤノン株式会社

イメージソリューション事業本部
SV事業推進センター所長

いまイメージソリューション事業に注力されている背景をお聞かせください。

キヤノンでは、2010年代に入り、これまで培ってきた技術を結集し、新たなソリューション・ビジネスを展開しようという方針が打ち出されました。また、2019年にラグビーワールドカップ、2020年には、結果的にコロナ禍の影響で1年延期されて開催されることになった東京オリンピックなど、国際的なスポーツイベントが日本で立て続けに実施されることが決まり、それらのイベントの盛り上がりや需要などをビジネスチャンスと捉え、いままで培ってきた映像技術を活かした新しいサービスを提供することを目指した、新しい映像技術の開発に取り組みました。

ボリュメトリックビデオシステムとは、どのような技術なのですか?

それはひとことで言って、世の中の誰も見たことがない映像を創り出すことができるテクノロジーです。複数のカメラを使ってそこにある空間のすべてをキャプチャーし、デジタル・データに変換します。変換されたデジタル・データは、いろいろな使い道があります。たとえば、その使い道のひとつが、私たちが自由視点映像とよんでいるもので、実際にはカメラがない場所から、あたかもそこにあるカメラで撮影したような映像を作り出すことができます。これによって、いままではカメラを配置することができなかったような場所から、そのスポーツを見ることができるようになります。

たとえば、サッカーでもラグビーでもいいのですが、そのゲームが行われているグランドの中では、選手が走っていたり、ボールが飛んできたりするので、当然カメラマンが立ち入ることはできません。そういう場所から、いままで見たことのなかったような視点でスポーツを見ることができます。現在はスポーツ以外の分野、例えばテレビ番組や映画のワンシーン、テレビコマーシャルなど、エンターテインメントの分野での活用も進んでいます。

その技術開発には、どのような困難が伴いましたか?

たとえばスポーツをターゲットにしているのであれば、外周1キロにもなるようなスタジアムというとても広い空間に100台以上のカメラを設置します。その膨大な数のカメラで、同一の被写体を撮影してデジタル化するわけですが、それらすべてのカメラのシャッターを切るタイミングが重要になります。それは非常に高い精度で同期させなければなりません。

こうした取り組みに、IBMはどのように貢献しているのでしょうか?

主に3つの分野でサポートしていただいています。1つめとして、キヤノンは、いままでカメラやコピー機、プリンターなどの製品を販売するというビジネスをしてきましたが、それに加えてお客さまにソリューションを提供するという事業を大きくしていきたいという背景があります。そこで、IBMが実現されているソリューション・ビジネスのノウハウやテクニックを学ばせていただいているということがあります。

2つめは、やはりテクノロジーのサポート、高性能なコンピューター技術です。キヤノンではコンピューティング・パワーとしてIBM Power System AC922、そして、膨大なデータを保存・処理するためにIBMのストレージであるESS(IBM Elastic Storage System)を活用しています。これらのコンピューティング・パワーがボリュメトリックビデオシステムの高精細なレンダリングの実施やリアルタイムでの映像生成に貢献しています。

そして3つめに、IBMが持っている半導体のプロセスやAIに代表される最先端テクノロジーです。将来的には、こうした技術を私たちのシステムの中に取り込んでいきたいと考えています。

キヤノンとIBMによる共創によって実現したシステムだと思うのですが、コラボレーションの重要性についてお聞かせください。

新しいものを生み出すという観点ではとても重要だと思います。問題に取り組むパートナーがお互いを理解し合わないと、新しいテクノロジーを生み出すことはできません。たとえば、解決すべき問題に対して、同じような重要性、同じような責任感を持つことが必要で、そういう共通認識はコラボレーションによって醸成されるのだと思います。

困難に立ち向かうとき、クリエイティブな思考は役立っていますか?

イノベーションとか、クリエイションにおいては、常識に捉われないというか、私はよく「立っている大地がすべてじゃないと思え」と言っています。ある課題を解決しなくてはいけないとき、いままで世の中で考えられていたものや、自分の周りにいる技術者が考えていることがすべてではなく、そういうものを取り払ってまっさらな何もない状態からもう一度、その課題を解決するためのテクノロジーを考えるということを心がけています。

インスピレーションを受けている人はいますか?

クリエイティブな思考という観点で言えば、長年に渡って新しいものを創り出してきたスティーブ・ジョブズにインスピレーションを受けているかもしれません。

それはどのように影響を与えていますか?

ボリュメトリックビデオの開発においても、初期の段階ではいろいろな課題解決のひとつひとつが独立した取り組みに見えていましたが、それらのひとつひとつを確実に解決していくことによって、すべての技術が線で繋がりシステムとして完成することになりました。個々の難しい課題を解決し、繋ぎ合わせていくことによって、新しいものが生まれるということを実感しました。

映像体験は、今後どのように発展していくとお考えでしょうか?

いま私たちが取り組んでいるのは、視覚映像としてその空間にあるものをキャプチャーしてデジタル化し、それを再び映像として再現するというものです。それがボリュメトリックビデオシステムですが、これはスタートに過ぎません。

これから未来に向かってこの技術が進化していくとしたら、現在の映像だけではなく、いまはまだ捉えることができない物理現象をデジタル・データとして変換し、コンピューティング・パワーを活用して自由に扱うことができるようにするという方向があると考えています。

例えば、熱量と表現されますが、コンサート会場ですごく盛り上がっているオーディエンスがいるとして、その盛り上がっている会場の空気感みたいなものまで伝わるといいと思いませんか。そういう物理現象までデジタル化することによって、より臨場感のある体験を創り出すことが可能になると思います。

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