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THINK Watson

【後編】AI の役割を理解する──ビジネスの現場で AI はどのように活躍しているのか

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取材・文:青山 祐輔

~この記事は「データサイエンティスト協会 勉強会2016 第4回」の取材に基いています。掲載されている情報は2016年12月21日時点のものです〜

 

 

IBM Watsonは人を助ける拡張知能

日本IBMでWatsonに長く関わってきた樋口氏からは、最新のWatsonの事例が紹介された。

Watsonの名前自体はすでに多くの人にビジネス向けのAIとしてよく知られているだろう。Watsonという人名のような名称や、俳優の渡辺謙と共演したCMのせいもあって、Watsonはいわゆる「強いAI」と言われる「汎用人工知能」だと思っている人も少なくない。汎用人工知能とは、端的に言えば人間のように受け答えでき、高度な課題解決を実現する「人間のような知性」を実現する人工知能のことだ。

しかし、実際のWatsonは、汎用人工知能ではない。Watsonとは、IBMが持つさまざまなAI関連技術全体に付けられたブランドで、その技術の中心にあるのが自然言語処理だ。IBMでは30年以上にわたって自然言語処理を研究してきており、その拠点は日本にもある。つまりWatsonは、日本IBMの自然言語処理技術の流れをくむものなのだ。

また、IBMではWatsonを「コグニティブ・コンピューティング」と称しており、人工知能やAIとは表現していない。その理由のひとつは、Watsonはあくまでも「人間を助ける技術」であり、知性を持った汎用人工知能を目指すものではないからだと言う。そうした理由もあって、IBMのジニー・ロメッティ会長、社長兼CEOは最近、Watsonを「Artificial Intelligence」ではなく「Augmented Intelligence」(拡張知性)を省略した「AI」だと語っている。

では、Watsonはどのようにして人を助けるのか。企業が持つ情報のほとんどは、いわゆる非構造化データだ。きちんと設計されデータベースに収納されるような、売り上げやPOSデータ、顧客データといった構造化データは一部。大半の情報は、従業員による日報や提案資料、企画資料、コールセンターに集まる顧客の声といったもの。こうしたデータは自然言語の塊だが、ここにこそ貴重な情報が眠っていると樋口氏は語る。

例えば自動車会社なら、クルマのブレーキの調子が悪い、ダッシュボードが使いづらいといった声が寄せられることがある。企業ではこうした顧客の声を分析し、商品の開発や改良に活かしているが、膨大な数の「声」からすべての要素を拾い上げることは難しい。また、担当者の思い込みなどによって、「声」が違って解釈されてしまうこともある。Watsonを使うことで、膨大な量のデータから「声」を適切に拾い上げることが可能になる。

 

対話型コマースで活躍するWatson

2016年2月にWatsonの日本語版が発表されてから1年近くが経ち、日本におけるWatsonの事例も50以上にもなっているという。さまざまな事例があるなかで、Watsonならではといえるのが、株式会社空色が提供するチャット接客システム「OK SKY」だ。

これはeコマースにおいてチャットによる接客を実現するもので、AIがチャットでお客との対話のなかからニーズをくみ取り、商品を進めるこことができる。従来のeコマースは、キーワードで検索をして自分で好みの商品を探し出していくため、自分が欲しいものがはっきりしている場合は良いが、そうでない場合には途方に暮れてしまう。

しかし対話型コマースならば「女子会に着ていくスカートが欲しい」といったお客の課題からスタートして、対話のなかからTPOや色の好みなどを絞り込んでいくことができる。これまでならリアル店舗で人間の店員が行っていた接客技術をAIによって実現するのだ。

こうした対話を実現する上での障害が、日本語における曖昧さや表現の揺らぎだという。それを解決するには、Watsonが持つ自然言語処理技術だけでなく、企業が持っているデータの活用が必要となる。例えばコールセンターなら顧客とのやりとりなどの情報の蓄積がある。それらを分析して、客との対応のシナリオを作成し、それに応じて必要な単語の辞書を作成していく。

「マフラーと言っても、アパレルだと首に巻くものだけど、自動車のエンジンのマフラーもある。コンテキストや人によって単語の意味が変わってくるのが自然言語の難しさ。残念ながらAIによる日本語の意味理解はまだまだ難しい」

「IBMには自然言語処理を30年研究してきた強みがある。アマゾンやマイクロソフトもサービスを始めているが、正直まだ厳しい」

空色の場合は、これまでに人間がチャットで対応する対話型コマースを提供しており、そのおよそ500万件ものデータがあり、それを元に対応シナリオを作り上げているという。

さらにWatsonは、自然言語処理以外にもさまざまな技術を持っている。音声認識技術では、TV中継の映像からアナウンサーによる実況を認識し、そこからどんなプレーだったのかを把握することができる。それによって例えば「錦織選手のボレーのシーン」だけを探し出すといったことがすでに可能だ。

また、実験段階だが2時間の映画から、自動的に1分のトレーラーを作ることにも取り組んでいる。映像や音声の変化からシーンを認識し、どんなシーンなのかを把握してクライマックスだけを抽出するという仕組み。まだまだ不完全だが、すでにテレビ局からは問い合わせが来ているという。

AI技術そのものもさまざまな企業が取り組んでおり、企業ごとにAIも特色を持ったものとなっている。そして、数値に強い日立の「H」、自然言語に強いIBMのWatsonは、ともにさまざまなデータを学習することによって、より成長し、新たな活躍の場面が広がって行く。今後、AIに取り組む新たな企業、新たな業界が出てくることで、AIもまた進化して行くだろう。だからこそ、AIの事例がまだないという業界ほど、いち早くAIに取り組めば大きなアドバンテージが得られるはずだ。

参考リンク:

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