メインストリーム・ソリッド・ステート・ドライブ

エンタープライズ・ソリッド・ステート・ドライブ (SSD) とメインストリーム SSD (以前は読み取り集中型 SSD と呼ばれていました) との違いについて説明します。

従来、エンタープライズ SSD は、耐久性の高いマルチレベル・セル (MLC) フラッシュ上に構築され、最大 10 回の 1 日当たりのドライブ書き込み (DWPD) を処理することができます。これらの SSD を、本書ではエンタープライズ SSD と呼びます (以前は eMLC と呼ばれていました)。現在、ソフトウェアの進化と業界の要求により、書き込み操作の頻度が低いアプリケーションでは、書き込み耐久性が比較的低い SSD が使用できるようになりました。IBM® では、いくつかの 4K メインストリーム SSD (フィーチャー・コード (FC) ES8Y、ES8Z、ES96、ES97、ESE7、ESE8、ES83、ES84、ES92、ES93、ESE1、ESE2 など) を提供しています。

メインストリーム SSD とエンタープライズ SSD の違い

メインストリーム SSD の方が使用コストはかかりませんが、耐久性とランダム書き込みのパフォーマンスも下がります。

メインストリーム・ドライブの耐久性の低下

メインストリーム・ドライブで使用される NAND フラッシュは、書き込みがより集中するワークロードを対象とする SSD で使用される NAND フラッシュより耐久性が低い傾向があります。そのため、メインストリーム・ドライブへの書き込み操作の数には限度が設定されています (通常、1 日当たりのドライブ書き込み (DWPD) は、メインストリーム・ドライブの 1 DWPD に対して、エンタープライズ・ドライブは 10 DWPD です)。

1 日当たりのドライブ書き込み が 1 の場合、ドライブの容量全体への書き込みが 24 時間で行われるということです。例えば、387 GB ドライブの場合の 1 DWPD は、24 時間で 387 GB のデータがドライブに書き込まれます。1 日にさらに多くのデータを書き込むことができますが、DWPD は、ドライブの寿命が計算される際の基になる平均使用率です。多くのアプリケーションでは約 1 DWPD しか必要ないため、これらは業界で最もよく使用されるドライブであり、したがってメインストリーム・アプリケーションに使用されます。エンタープライズ・ドライブを必要とするのは、高い耐久性または最高のランダム書き込みパフォーマンスを必要とするアプリケーションのみです。

メインストリーム・ドライブのオーバープロビジョンの低下

SSD には、ドライブの定格ユーザー容量を上回る NAND フラッシュ容量があります。 この超過分の容量は、オーバープロビジョンと呼ばれ、ドライブの操作時に SSD コントローラーが使用します。さらに多くのオーバープロビジョンが使用可能であると、コントローラーは、フラッシュの寿命をより効果的に延長します。NAND フラッシュは、個々に、ページと呼ばれる小さい単位で読み取ったり書き込んだりすることができますが、そのページを再書き込みするには、ページをまず消去してから、プログラム化する必要があります。

NAND フラッシュのアーキテクチャーにより、消去操作はブロック・レベルで実行され、ページ・レベルでは実行されません。各ブロックに、数百ページから数千ページが含まれます。したがって、1 つのブロックを消去するには、最初に、有効なデータをすべて別のブロックに転送してから、目的のブロックを消去してください。すると、SSD コントローラーは、大部分に消去可能なデータを持つページのあるブロックを検索します。SSD コントローラーは、次に、以前に消去されたブロックに対して保持する必要があるデータのページを移動して結合し、それにより、これらの新規ブロックが消去できるように解放されます。

消去できるようにブロックを解放するためにデータを移動する、このプロセスはガーベッジ・コレクションと呼ばれます。 SSD のオーバープロビジョンを増やすと、コントローラーはガーベッジ・コレクションでの効率がさらに高くなり、追加の読み取り操作およびプログラム操作を最小限にします。

これらのすべてのバックグラウンド操作で、ドライブに書き込まれるデータよりフラッシュに書き込まれるデータの方が多くなります。フラッシュに書き込まれるデータをドライブに書き込まれるデータで除した率を書き込み増幅 と言います。他の条件がすべて同じであれば、ドライブのオーバープロビジョンが低いほど、書き込み増幅は大きくなります。

メインストリーム・ドライブのコスト低下

メインストリーム・ドライブの GB 当たりのコストは、一般に、エンタープライズ・ドライブの GB 当たりのコストより低くなります。コストが低いのは、オーバープロビジョンの量が少なく、ドライブ内のほとんどすべてのフラッシュ・メモリーをデータの保管に使用できるためです。

メインストリーム・ドライブの書き込み操作パフォーマンスの低下

メインストリーム・ドライブは、読み取りパフォーマンスという点ではエンタープライズ・ドライブと同じです。ただし、メインストリーム・ドライブの方がオーバープロビジョンが低いため、ランダム書き込みパフォーマンスは低くなります。これは、ガーベッジ・コレクションおよび関連した書き込み増幅に必要なバックグラウンド操作の数が多くなるためです。したがって、オーバープロビジョンが低くなると、パフォーマンスと耐久性の両方が低下します。読み取りパフォーマンスには影響はありません。

ディスク・アレイ内でのメインストリーム・ドライブとエンタープライズ・ドライブの混在は不可

耐久性の違いは、ディスク・アレイを形成する際に、メインストリーム・ドライブをエンタープライズ・ドライブと混在させてはならないことを意味します。PCIe SAS アダプターは、ドライブ全体にデータをストライプし、それに伴い、各ドライブに同じ量のデータを送信するためです。IBM PCIe SAS アダプターでは、RAID アレイの作成時に、メインストリーム・ドライブとエンタープライズ・ドライブを混在させることはできません。

メインストリーム・ドライブの寿命の終わりのモニタリング

メインストリーム・ドライブは耐久性に限度があるため、その寿命の終わりの症状をモニターする必要があります。内部的には、ドライブの寿命が終わりに近づくと、事前障害分析 (PFA) トリップが生成され、オペレーティング・システム・メッセージがログに記録されます。このトリップが生成されると、ドライブは、引き続き稼働しますが、可能な限り速やかに取り替える必要があります。 寿命の終わりの PFA トリップ・コードは、熱伝導障害の PFA トリップ・コードと同じです。したがって、電源ゲージ・コマンドが提供するオペレーティング・システム・サポートを使用して、障害の根本的原因を判別することができます。

メインストリーム SSD の保証および保守情報

メインストリーム・ドライブは、書き込み集中型ワークロードには適していません。かなり大きい一般的なランダム・ワークロードを想定すると、1.9 TB のメインストリーム・ドライブへの書き込み操作が約 3394 TB になる時点で、ドライブはその最大予測書き込み能力に達します。書き込み操作がドライブの最大書き込み容量を超えた場合、書き込み操作は完了するのに時間が長くかかるようになります。事前障害分析 (PFA) メッセージが、ドライブを取り替えることが望ましいことを示します。

この PFA メッセージを無視して、ドライブに対して書き込み操作要求を送信した場合、ドライブは書き込みコマンドを受け入れることができず、しばらくの間、読み取りコマンドのみを受け入れます。書き込み操作が失敗すると、より重大なエラー・メッセージが表示され、ドライブを取り替える必要があることが示されます。

ワークロードの性質は、最大書き込み操作容量に影響します。例えば、ランダム中心書き込み操作の代わりに、高い割合の順次中心書き込み操作が使用された場合、最大書き込み操作容量が増大します。ドライブの残余書き込み寿命の割合を定期的に確認する必要があり、必要であれば、ワークロードを調整するか、またはドライブを再割り当てしてください。すべてのドライブが同じアレイ内にある場合でも、各メインストリーム・ドライブの残余寿命を個別に確認してください。

IBM メインストリーム SSD デバイスの障害は、標準保証の対象となっており、書き込みサイクルの最大数に達していないメインストリーム SSD デバイスのみ保守期間中の対象となります。この限界に達したメインストリーム SSD デバイスは、仕様に応じて作動できなくなる可能性があり、交換が必要になります。この交換費用は、標準保証や保守期間中の対象にはなりません。

電源ゲージ・コマンドの使用

電源ゲージ・コマンドは、ドライブ内の寿命の量を判別するのに使用できるオペレーティング・システム・コマンドです。ドライブによって PFA トリップが報告されたら、電源ゲージ・コマンドを使用して、メインストリーム・ドライブ上の残余寿命を判別することができます。その後で、ドライブが寿命の終わりに達したかどうか、あるいは別の理由で PFA トリップが発生したかどうかを判別できます。

電源ゲージ・コマンドを使用する手順については、ご使用のオペレーティング・システム用のオプションを選択してください。